Ep.5 ローワン16歳の誕生日 中編

 16歳の誕生日を明日に控えた夜。

 ランプの部屋のソファーに腰かけたローワンは、今日はこの部屋の本を読もうと決めていた。

 

 自分の誕生日になる12時まではまだ少し時間がある。

 それでも、2年待ち続けた16歳の誕生日なのだ。片時もこの不思議な部屋と箱から目を離したくない。


  本棚の奥にある魔石時計で時間を確認できるように、時計の前に並べられていた本を机の上に置き、その中から適当な本を手に取った。

 背表紙に何か文字が書いてあるが、古代文字でどうせ理解できないので、いつも見た目で気になったものを選んでいる。

 今日は赤い背表紙に、周辺が金で縁取られた本だ。なんとなく色合いが開かずの箱に似ているような気がする。


 「さて、今日はどんな本かな」


 今日の本にはいくつか挿絵が描かれていた。

 魔法陣のようなものが中心に描かれ、その周りには火、水、風、雷、氷のような挿絵が描かれている。


 火の絵の下に書かれている文字を指でなぞる。

 アーサー王物語からいくつかの古代文字を抽出できるようになっていたローワンは、この文字の意味を知っていた。


 ”炎”だ。


 ということはおそらく、ほかの挿絵の下に書いてある文字も風、雷、氷などに関する言葉なのだろう。

 注意深く形を見ながら、紙に書き写しておく。


 ローワンはこのように、挿絵やわかる文字から少しずつ連想しながら、辞書のようなものを作っていた。

 辞書と照らし合わせながら、ほかにも知っている文字がないかを注意深くページをめくる。


 もはや、こうなると本を読んでいるというより、目を皿のようにしてただ記号を探しているようなものだ。それでも、ローワンはこの時間が好きだった。

 少しでも新しいことを見つけることができれば、好奇心が刺激され希望が生まれてくる。そのおかげで明日を生きていく楽しみができるのだ。

 

 そして1時間ほど本全体を探して見たところ、いくつかの単語を抽出することができた。

 ”魔法”、”力”、”精神”、”生まれる”、”運命”


 そのほかにも、手から何か雷のようなものを出している人間の絵や、床にチョークのようなもので魔法陣を描いている挿絵がある。


 おそらくこの本は魔法について書かれた本なのだろうな、とローワンは思った。

 この本のすべてを読むことができれば、自分も魔法を使うことができるだろうか。


 ローワンは幼いころから、魔法陣を研究する母や、風の魔法でローワンの髪を乾かしてくれる父を見ながら、いつか自分も魔法を使ってみたいと思っていた。

 10歳になったらローワンにも教えてあげるね、と言っていた両親の言葉は、結局果たされることはなかった。


 それでも、今日は面白い本を見つけた。この本を解読すれば、少しは魔法について何かわかるかもしれない。明日からはこの本の解読に時間をかけてみよう。

 そう心に決めたローワンは、本から視線を上げ時計の方を見た。

 

 時刻は夜の11時55分を指していた。

 あと5分でローワンは16歳の誕生日を迎える。


 思ったより時間がたっていたらしい。

 慌てて机の方に向かったローワンは、机の上に積まれた本の山の上に、今まで読んでいた魔法の本を乗せ、隣にあった箱を手に取った。


 今のところは特に変わったところはないようだ。


 箱を持ったローワンは部屋の中心で床に座り、目の前に箱を置いた。

 片時も目を離さないぞ、と心に決め、床に置いた箱を腕組みしながら見つめる。


 ローワンが座った床の隣には、地下室の別の部屋から見つけてきた円柱の銅像が置かれている。

 逆しずくのような形になっており、下の部分が絞られていてとても持ちやすい形状をしている。

 

 ローワンは16歳の誕生日の今日、もしこの箱が開かなければ、もう壊してでも開けよう、と心に決めていた。

 ちょうど握りやすそうな銅像が手に入ったため、もし空かなければすぐにでも叩き割ってみようと考えている。




 11時59分。



 あと1分でローワンは16歳になる。


 

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