Ep.5 ローワン16歳の誕生日 前編

 

 地下室に来たローワンは、できるだけ通ったことのない道を選びながらいつもの部屋に来ていた。

 ここは2年前ランプを見つけた部屋なので、ローワンは勝手に「ランプの部屋」と呼んでいる。


 2年前には本棚と机と椅子しかなかった部屋だが、今はそれに加え2人掛けのソファーも置いてある。少し前に別の部屋で見つけ、ローワンがここまで運んできたものだ。


 ローワンはそのソファーに座り、地下室で見つけた様々な本を読むのが日課になっていた。

 

 2年前にこの部屋で見つけた小さな箱は、今でも開けることができていない。



 「明日開かなかったら、そろそろ壊してやるんだから」


 ソファーに腰かけながら、机の上の箱に向かって恨み言のように声をかける。

 この2年あらゆる方法で開けてみようとしたが、どうにもこうにも開かなかったのだ。



 やはり一番鍵になるのはあの日箱に浮かんできた不思議な記号だろう、と思ったローワンは、2年かけてその記号の解読を試みていた。

 

 まず初めに、地下室の一室で見つけた辞書には該当する文字はなかった。

 現代の文字ではないのだろうと考えたローワンは、母親が研究していた古代文字の中に該当する文字がないかを探してみることにしたのだ。

 

 そのためには、この地下室で母親の研究資料を探さなければならない。

 まずはランプの部屋を起点にして、いろいろな扉の調査を始めることにした。


 目の前を通ると突然開く部屋もあるので、その法則性を紙に書き起こす。

 朝、夜、満月、雨の日など。


 南京錠のようなものがある部屋を見つければ、その南京錠の柄をよく観察する。

 広い伯爵家の隅々まで這いつくばって掃除をしているローワンは、時折同じ柄を地上で見つけることがあった。


 ある時は庭の噴水の支柱に、ある時は客室の本棚の裏に、

 柄の後ろの壁の中に鍵が隠されているものもあれば、暗号が書かれているものなど様々だった。


 そして、試行錯誤して探索を続けている間に、地下で図書室のような部屋を見つけることができた。

 この部屋は、扉に薄い文字で暗号のようなものが掘ってあり、その暗号を解読すれば開く仕組みになっていた。

 

 暗号を解くためにまるまる1週間を費やしたローワンは、部屋が空いた時には飛び上がって喜んだものだ。

 

 ようやく開くことができたその部屋には、古代文字で書かれた本が大量に置いてあった。

 基本的にはどの本も理解することができなかったのだが、唯一、ローワンでも理解できそうな本を見つけることができた。


 それは、”アーサー王の冒険”という絵本だ。

 これはローワンが幼いころ、覚えるほどに両親に読み聞かせてもらった本だった。


 

 ”アーサー王の冒険”とは、アーサーという名の金髪青い目の青年が、ある日伝説の剣を見つけ、それを使って魔王を倒すという冒険の物語だ。


 魔王を倒し国を治めたアーサー王は、死ぬ間際に4つの宝を遺した。


 王冠、ピアス、ブレスレッド、ネックレスー。

 これらはアーサー王の装身具(オーナメント)と呼ばれるようになった。


 アーサー王はそれぞれの装身具(オーナメント)を身近な人に分け与えた。


 王冠を、彼の聡明な息子に

 ピアスを、彼の右腕の騎士に

 ネックレスを、彼の親友の商人に

 ブレスレッドを、彼の命を救った主治医に


 そしてアーサー王の亡骸は、きれいな夕日が見れる丘の上に埋められた。




 これは、現在の王家と3大公爵家を題材にしたおとぎ話、というのはローワンでも知っている有名な話だ。


 王冠はブリテン王家に、

 ピアスは騎士団長のロジャース公爵家に、

 ネックレスは大商家のグレイ公爵家に、

 ブレスレッドは宮廷医のヴィラ公爵家に代々伝わっているとされる。


 特にアーサー王が4人に自分のオーナメントを渡すシーンは印象深い。

 古代文字で書かれた本にもこのシーンの挿絵が書いてあったため、ローワンはこれがアーサー王物語であるということを理解することができた。


 記憶を頼りに、各ページに描かれている古代文字を現代語と照らし合わせて読んでみる。

 運のいいことに、読み進めているうちに、箱に現れたものと同じ文字を本の中に見つけることができた。

 やはりあれは古代文字だったらしい。


 数か月ほどかけて、解読を試みたところ、

 おそらく箱に現れたあの記号は、”16”という数字であるということが理解できた。


 しかし、文字の意味は理解できたものの、その内容については理解できない。

 必死の努力にもかかわらず、分かったのは片手落ちの情報だけ。

 

 残念な気持ちになったローワンだったが、あきらめなかった。

 16回振ってみたり、右に回してみたり、左に回してみたり。

 16回開けと唱えてみたり、16日待ってみたり、

 雨の日や満月の日を16日待ってみたが、その箱が開くことはなかった。


 あとは16秒間燃やすか、水につけるか、16回トンカチでたたいてみるかしかないのでは?

 と思いながら、新しい手がかりを探すために地下通路を探索していたある日、


 ふと、ランプの部屋の扉の模様が光っていることに気づいた。


 初めてこの部屋を訪れて以来、この扉の模様が光っていたことはないのだ。


 きっとこの部屋にも法則性があるんだ。

 そう思ったローワンは今日という日について必死に考えを巡らせる。

 満月?月の初めの日?時間?


 そしてローワンは、この日が自分の15歳の誕生日であるということを思い出した。

 

 「そうだった。今日は15歳の誕生日。そして、はじめてランプの部屋を見つけた日も、私の14歳の誕生日だったわ」


 ランプの部屋は、ローワンの誕生日の日に開けることができるのだろうか。

 であれば、もしかしてあの箱に書かれていた16という文字


 「私が16歳になれば、開くかも、、、」


 今のところ最も正しそうな答えを導き出すことができたローワンは、1年後の自分の誕生日が待ちきれなくなった。

 

 

 

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