Ep.4 ランプの部屋 前編

 「とりあえず、これで明かりについては心配なさそうね」


 部屋に入ったローワンは、壁にかけられていたランプを手に取った。


 それはローワンが普段使っている油のランプとは異なり、珍しい魔石のランプだった。

 魔石の入ったランプは、中の油を使い果たすと消えてしまう油のものとは異なり、半永久的に光を灯すことができる。

 詳しくは知らないが、王都にある錬金術研究所が発明したランプで、数十年ほど継続して光続けることができるらしい。


 両親が亡くなって以来、おそらくこの部屋に入った者はいないだろう。それでも、魔石のランプはずっとこの部屋を灯し続けてくれていたようだ。


 ローワンはぐるりと全体を見回した。部屋にはいくつかのランプが壁にかかっていて、部屋全体の様子をしっかりと確認することができた。


 天井に届くほどの本棚が二つ壁伝いに直角に並べられ、その横には小さな机と椅子が一つずつ置いてある。

 そして本棚と反対側の壁には、大きな絵が飾ってあった。


 「綺麗な絵。どこかの湖かな」


 そこには夜の湖を描いた絵があった。

 両親が6歳で亡くなって以来、バークレイ伯爵家の敷地から出たことのないローワンには、それがバークレイ領にある実際の景色なのか、そうではないのかは全くわからない。


 湖畔からの景色が描かれており、湖に反射した月がゆらゆらと揺れる一瞬を捉えていた。

 過去に一度はこの部屋に立ち寄っているはずなのに、ローワンにとっては初めて見る絵のように思えた。

 


 絵から視線を外し、再び部屋の中を見渡したローワンは、テーブルの上に小さな箱が置かれていることに気づいた。


 「なんだろうこれ。かなり古そうな箱だけど、、」


 手のひらにすっぽりと収まるサイズの小さな木でできた箱は、表面には丁寧に赤い柔らかな布が貼られ、丸みを帯びた端の部分はくすんだ金色で縁取られていた。

 時間経過により色あせてしまっているが、元々はかなり綺麗な箱だったはずだ。


 宝石やアクセサリーが入りそうな見た目の箱に、ローワンの心は高鳴る。


 「まさかこんなところに、宝石なんてそんな高いもの置かないよね」


 期待しすぎないように声を出し、自分を落ち着けながら、ローワンは箱をぎゅっと握り上下に開くよう力を込めた。


 が、


 「開かない、、、鍵がかかっているのかな」


 くるくると箱の上下左右を見回し、鍵穴のようなものを探してみる。

 蝶番のようなものや、箱が開きそうな隙間などは特に見当たらない。


 ランプに近づけてよく見ると、縁に何か模様のようなものが彫られているようだ。

 

 「これも魔法陣のようなものなのかな。魔力を込めると開くとか、、?」


 この部屋を開けた時と同じように、模様をそっと指でなぞってみる。

 6歳以降ろくな教育を受けていないローワンには、魔力の込め方はおろか、自分に魔力があるのかどうかすらよくわからない。


 「ダメね、お母様がいれば教えてもらえるのに」


 ローワンの母親は優秀な魔術師だった。

 特に魔法陣や、それに使う古代文字の研究に力を入れていた。

 地下室にはそんな母親が過去に使用していた古代文字や魔術の研究に使うための道具がが残されているのだと思う。きっと、これもその一つなのだろう。


 耳の辺りで箱を振ってみるが、特に音は聞こえない。

 中に何も入ってないのか、もしくは台座で固定されているのか。


 何かで強く叩けば、この箱も壊れるかもしれないというパワー系の思考が頭をよぎった時、本棚の方からわずかな音が聞こえてきた。


 

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