Ep.2 バークレイ伯爵家の地下室
「今日は何をしようかしら」
メイド長の八つ当たり指令を受けたローワンは地下室に来ていた。
メイド長は自分が掃除しろと言った事すら覚えていないと思うが、部屋にいるところを見られては困るので、念の為だ。
それに、地下室はローワンのお気に入りだった。
地下室の掃除も、メイド長は罰のつもりだろうが、ローワンにとっては何の問題もない。
歴史あるバークレイ伯爵家の地下には、敷地の2倍ほどの広さがあると言われている地下空間が広がっている。
どういう目的で作られたのかはわからないが、迷路のような作りになっていて、狭い道や小さな部屋が点在しているかと思えば、突然天井の高いホールのような広い空間が現れたりする。
そして、ほとんどの部屋には鍵がかかっていて、その開け方も様々だ、
伯爵であった父の執務室に鍵が置いてあった部屋もあれば、
客室の本棚の本に挟まれていた番号通りダイヤルを回せば開く部屋、
魔術師だった母が呪文を唱えれば開く部屋、
それに、満月の夜しか空かない部屋もあった。
バークレイ伯爵家ができて数百年経つが、部屋の数はいまだに把握できておらず、それぞれの部屋の役割もよくわかっていない。
今見つかっているだけでも、その役割は様々だ。
天候不良に備えて備蓄食料を置いてある部屋、代々のバークレイ伯爵家の肖像画が飾ってある部屋、
先々代が収集していた不思議な骨董品が詰まった部屋、恋愛小説ばかりが置かれた部屋、何もない部屋、など。
温暖な気候のバークレイ領では、地下室は少し蒸し暑く、空気の巡りが悪いからかじっとりとしている。
そして、入口は一つしかない上に、窓がないため昼間でも薄暗い。
時折、どこからか不気味な音が聞こえてくる事もあり、屋敷の使用人たちは地下室に近づくのを嫌がっていた。
地下室に入ることは新入りの仕事か、罰の一種であり、それでも人の出入りがあるのは入口付近の食糧庫くらいだ。
両親が亡くなって以来、安寧の場所がなくなってしまったローワンにとって、
理不尽なメイド長や使用人、辛い仕事から逃げるためには、地下室はうってつけの場所だった。
今日もローワンは、ランプを片手に地下室の探索を始めていた。
この2年、地下室には何度も来ているが飽きることはない。
探索をして新しく部屋を見つけるのも良いし、部屋に置かれた大量の本を読んでも良い。
毎回、来るたびに少しずつ新しい発見があるのだ。
2年前のある日までは、ローワンもほかの人と同じようにこの地下室が大嫌いだった。
幽霊が出る。子供がすすり泣く声が聞こえる。という使用人の話を信じ、ローワンはいつも最短で用を済ませ、逃げ帰るように地上に戻っていた。
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