おまけ2 原文の日本語訳(訳:笹倉 美月)
リサと夢見る森
リサは西の村で一番元気な女の子。
ある日の昼下がり、リサはママの作ってくれたマドレーヌを食べたあと、お庭のベンチに座って日なたぼっこをしていました。
しばらくすると太陽が雲にかくれ、ひやりとした風がリサの頬をなでました。するとリサの体はふわりと軽くなり、気がつくと、黒くて大きい森の前に立っていました。
「こんにちは、小さなお嬢さん」
どっしりとして、それでいてさやさしそうな声が背後から聞こえました。ふり向くと、そこには物置小屋ほどの大きなクマがのっそりと立っていました。
「お嬢さん、お名前は?」
「リサよ。あなたの名前は」
「私には名前がありません。リサがつけてくれませんか」
リサはしばらく考えて、「フレディというのはどう?」と言いました。
「すてきな名前をありがとう。今から私はフレディです」
フレディはそう言って、丸い目をぱちぱちさせました。
「名前をつけてもらったお礼に森の中を案内しましょう」
フレディは黒くて大きな森に向かってのしのしと歩きだしました。リサは少し怖かったのですが、森の中を見てみたいという気持ちが強くて、フレディのあとについていきました。
森の前で立ち止まったフレディが言いました。
「森の中に入るには、合言葉が必要です。今から私が教える通りに、リサも合言葉を言いましょう」
リサはフレディに教えてもらった合言葉を唱えました。
森全体がざわざわと鳴って、「ようこそ、夢見る森へ」という声が森の奥から聞こえてきました。
「さあ、これで大丈夫。森はリサを歓迎してくれています」
先ほどまでは真っ黒に見えていた森が、今は目にもまぶしい緑色に変わっています。
リサはすっかりうれしくなって、一人でどんどん森の中へと入っていきました。
「おーい、リサ。勝手に先にいってしまってはだめだよ。森には危険な場所もあるんだよ」
リサはフレディの声が聞こえないふりをして、さらに奥へと向かいました。
森の中にある小道を歩いていくと、透きとおった羽をもつ小さな妖精たちが現れて、リサの頭や肩にふわりと舞い下りました。
「あなたはだあれ?」「どこからきたの?」
妖精たちは口々にリサに向かって問いかけます。
「私はリサよ。西の村からきたの」
「ねえリサ、いっしょに遊ぼうよ」「遊ぼうよ」
リサが、「うん、いいよ」と返事をすると、妖精たちは「わーい」と喜んで、リサの頭のまわりをふわふわと飛び回りました。
妖精たちは、リサに花の冠を作ったり、美しい音楽を演奏して聞かせたりして、楽しい時間を過ごさせてくれました。
「もう帰る時間になっちゃった」「じゃあねリサ」「バイバイ」
突然、妖精たちはそう言って、森の奥へと飛び去ってしまいました。あっと思ってまわりを見ると、どっちを向いてもまがりくねった木がうっそうと茂っています。
リサは見知らぬ森の奥で一人ぼっちになってしまいました。
「どうしよう、私一人じゃおうちに帰れないよ」
夕暮れが近づいてきたのでしょうか、少しずつあたりが暗くなってきます。遠くの方からギャーギャーという叫び声が聞こえてきます。
リサは心細くなり、しくしくと泣き出してしまいました。
「ああ、やっと追いついた」
どっしりとして、それでいてさやさしそうな声が背後から聞こえました。ふり向くと、そこには物置小屋ほどの大きなクマがのっそりと立っていました。
「あ、フレディ!」
リサはフレディにかけより、そのふわふわのお腹に飛び込みました。
「おやおや、リサは泣いているのですか」
「だって、このままおうちに帰れなくなったらどうしようかと思ったら、こわくなっちゃったんだもん」
「だから勝手に先にってはだめだと言ったんですよ」
「ごめんなさい」
そう言って、リサはフレディのお腹をぎゅっと抱きしめました。
「もうすぐ日が暮れます。すると森の中にはいろんなお化けが出てきます。リサはそろそろおうちに帰りますか?」
フレディはリサの頭をなでながらそう言いました。
「うん、帰りたい」
「では、森から出るための合言葉を教えましょう」
リサはフレディに教えてもらった合言葉を唱えました。
森全体がざわざわと鳴って、「さようなら、小さなお嬢さん」という声が聞こえてきました。
するとリサの体はふわりと軽くなり、気がつくと、お庭のベンチに座って日なたぼっこをしていました。
家の中から、「リサ、ちょっときてちょうだい」というママの声が聞こえてきました。リサは目をこすりながら、「はーい」と元気な声で返事をしました。
これでお話はおしまい。
消えた少女と童話の絵本 @fkt11
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