6.海辺の村の龍狩り~花嫁の金の網~【昔話風】

 気絶するようにして落ちた昼寝で変な夢を見たので、こうして筆を執っている。

 風呂での寝落ちは失神らしいが、こうして日中突然に落ちるこれは何なのだろう。

 買い物に行きたかったのに行けなかったではないか。端的にあほである。夕食の献立が練り直しだ。


 さて、早速夢の内容に入ろう。



 夢の中の私は、海辺の小さな村落に暮らしていた。

 浜辺ぎりぎりに、昔話で見るような漁師の住まいの木製の小屋の並ぶ、そんな村だった。晴れているときは気持ちのよい海風が吹く。夢の中の私はそう認識していた。

 その村はいくつかの小規模な家族(と言うより一族)がより集まって暮らしている共同体らしい。


 夢の中の私は、そのどれにも属さぬはぐれもの、独り者であった。どうやらふらりと村に流れ着いて、そのまま居着いたソロプレイヤーらしい。


 そのせいだろうか、夢の中の私は村で若干の迫害を受けていた。悪いことはしていないのに、余所者というだけで爪弾きにされていた。ひどい。


 しかし一人だけ、夢の中の私を慕って暇なときには私の後をひよこのように付いて回る少女がいた。

 年の頃は多分、13か14。よく日に焼けた肌と、海水で少し荒れた黒髪の、丸い目をした可愛い子だった。


 私に対して彼女が話していたのは日本語ではなく、多分この世には実在しない言葉だったが、夢の中の私には大体伝わっていた。

 ねえちゃん、と私を呼んで付いて回る彼女に、私に構うとお前もいじめられるよ、と告げたが、彼女はそれでいいと言っていた。


 太陽のような子だなぁと思った。


 ある時(夢の中の情報は物凄いスピードで流れていく。アニメの様に、はたと気づいたら翌日になっていたりするのである)そんな彼女が嫁に行くことになった。


 嫁に行く、といっても同じ村内の別の一族に、という話だった。相手は気のいい快活な青年であった。


 その話を知り、嫁に行くには早いよなぁと現代人の感覚で海を眺めていた私のところへ、村の長がやって来た。これまたよく日に焼けた、眼光鋭いじいさまである。


 曰く。


 リヴァイアサンを狩りに出ろ。


 とのこと。



 …………リヴァイアサン?????



 ここで突然の旧約聖書の怪物である。

 流石夢、脈絡がない。



 しかし夢の中の私は「へいへい」と適当に返事をしていた。どうやらこの海辺の村では、そうした『海獣』を狩ることが生業となっているらしい。

 私は迫害を受ける余所者なので、かなりの大仕事となるリヴァイアサン狩りを一人でやらねばならないようだ。

 結婚、という幸せな行事の前に目障りな余所者を片付けたいのかなぁと思った。


 さぁどうしよう、とリヴァイアサン狩りについて考える私のところへ、花嫁となる少女が駆けてきた。

 彼女は、よく分からん言語で「村長はひどい」だの「行かないで」だの言っていたが、私が行かねばならぬと答えると、泣きそうな顔で手に握っていた金の網を差し出してくる。


 それは花嫁の金の網。


 この村には、花嫁を迎える男は必ず海にいる紅鱗龍を狩りに行くというしきたりがあるのだが(夢の中の私にとっては常識だった)その際に花嫁が花婿に渡す特別な漁業網がこの金の網であった。


 網にしておくには勿体無い美しさに反して、物凄い強度を誇り、力強い紅鱗龍を絡めとって放さないそうだ。


 つまり彼女が差し出すそれは、彼女がこれから花婿に渡すべきもので。


 花嫁の金の網無しに紅鱗龍を狩るのは不可能に等しいとされている。

 夢の中の私は、特別良くしてくれるわけではないがいじめもしてこない快活な花婿のことを知っていたので、彼に死んでほしくないからと固辞した。


 しかし彼女はねえちゃんに死んでほしくないと泣いて聞かない。


 そんな彼女に夢の中の私は「リヴァイアサンはほぼ魚じゃろ、龍とは訳が違う」等と彼女を説得しようとした。


(ちなみに夢の中の世界のリヴァイアサンは、大ぶりな鱗の生え揃った巨大なシャチのようなものだった。対して紅鱗龍はそのままガッツリ龍である)


 彼女はそれでも網を差し出す。

 これは駄目だ、と思った私は彼女を押し退けて走り海へ出た。


 晴れていたはずなのに、いつの間にか海は黒々と荒れていて、これは死ぬな、と思う私を乗せた小舟は大波の狭間を突き進んでいった。


 彼女の泣き声が耳に残っている。



 そこで目が覚めた。

 寒くて目が覚めたようだった。床に倒れていたのであちこち痛い。


 またまたファンタジーで不思議な夢であった。私はリヴァイアサンを狩れたのだろうか。何となく、駄目そうな雰囲気があったがどうだろう。


 今回も何の記憶が作用したのか全く分からない夢だった。


 若干の海洋恐怖症なので、あんな小舟で海に出るなんて有り得ない。更に言えばあんな海っぷちに暮らすのは嫌だ。津波が怖い。


 迫害されていた私を慕ってくれていた優しい彼女は幸せになれただろうか。


 それだけが、少し、気がかりだった。

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