歴史と伝統の我らが国立魔法学院(笑)

暑がりのナマケモノ

第1話

国立魔法学院――――――。

その歴史は古く、この国を統一した初代国王陛下が建立したとされています。

国内に居る貴族は当然の義務として、それだけではなく魔法を学びたいという意欲ある者は平民であろうとその門戸を開いている珍しい学び舎です。


在学中は身分制度による上下関係など考慮されず。

例え貴族であろうとも、成績が揮わなければ留年も在り得え。

その逆も然りで、優秀な成績を修める者ならば飛び級も存在します。




今日はそんな魔法学院の卒業生が主催したダンスパーティーが催されています。

ほら、耳をすませば卒業生たちの活気ある声が――――――、



「――――――婚約破棄だッ!!!!!!」








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国立魔法学院にある学院長室。

そこに呼び出された私は、執務机に肘をついて手を組んで口元を隠し、何やら難しい顔をしている学院長と向かい合って立たされていた。


「どうしました?悪い物でも食べましたか?」


重苦しい沈黙に耐えかねて私がそう問いかけると、


「………昨日キミから貰った貝を食べてから腹の調子が悪い」

「だから言ったじゃないですか、よく火を通してから食べて下さいねって」

「………今はそんな事はどうでも宜しい」


学院長の腹の調子を横へ置いてまでする話とは?


「まただ…………またもや我が学院の卒業生主催のダンスパーティーで婚約破棄が行われた」


………あぁ。歴史と伝統の魔法学院に新たな伝統、それもかなり不名誉なものが書き加えられようとしているアレね。


「何故じゃッ!!!?何故我が学院の卒業生ダンスパーティーで毎年毎年婚約破棄が行われるんじゃッ!!!!?」

「そりゃあ我が学院の卒業生ダンスパーティーは、国内最高の婚約破棄スポットらしいですからね」

「何じゃそれはッ!!!?」

「知りません?貴族界隈で有名な『婚約破棄情報誌 絶句See』にもデカデカと掲載されてますよ?表紙にも『今激熱の婚約破棄スポットは此処!!』って書かれてますし」

「結婚情報誌みたいな名前ヤメロォォォォッ!!」


とうとう机に突っ伏して泣き出してしまう学院長。

自分の代でまさかこの学院がそんな不名誉を引っ被る事になるとは夢にも思わなかっただろう。





「――――――そもそも貴族令息や令嬢が婚約破棄しているというのに、何故その貴族たちの家族から出版社に圧が掛かったりせんのじゃ?」

「誰だって他人の不幸はメシウマですからね~」


例え今年情報誌で晒されようと、来年再来年と被害者は増えるのだから、寧ろ自分の代で情報誌を終わらせるなんて事の方が印象に残って恥ずかしいだろう。

企業とかでも不祥事があって自分の会社にも似たような事案があった場合、我先にと公開連鎖が始まるよね?アレと一緒だよ。

人の記憶に強く残るのは結局最初と最後なんだから、早く公開して謝罪して、自分の会社が最後にさえならなければ良いっていう現象――――――何か名前とかついてないの?


まぁそんな理由で寧ろ自分たちの代で終わらせないように圧を掛けてるんだろうね。

平民たちは平民たちで、小説だとか物語の中でしか知らなかった貴族たちのそうしたドロドロとしたものを生で見れてラッキーくらいに思ってるんだろう。


「まぁ良いじゃないですか、そんな不名誉な伝統が出来上がっても受験生の数は減らないんだから」


何せ、貴族はこの学院に通う事がだからだ。

貴族令息・令嬢たちよ。


諦めろ、そして怯えろ、震えろw


「いや。寧ろ毎年増えておる」

「なら良いじゃない」

「良くないわ、バカタレッ!!これを見ろッ!!」


そう言って学院長が手持ちの水晶に映し出したのは――――――。


「隣国の第三王女様だ。来年この学院への入学が決まっている。聞くところによれば何としてでもこの学院に入学したいと両親に直談判し、聞き入れてもらえるまで断食を慣行したらしい」


………何も言えない。

笑顔で手を振るその映像の傍らに控えている側近の手に握られているのは『絶句See』だからだった。


「ヤバいですね。王女様婚約破棄する気満々じゃないですか、あれ?でも御相手が居ないんじゃ婚約破棄のしようもないじゃないですよね?」

「………これも近々発表されるのだが、この国の第五王子との婚約が内定している」


「「……………………」」


「で?私にどうしろと?私に出来るのはこれくらいしかありませんよ?」


そう言いながら私は懐に忍ばせてあった辞表をそっと学院長に差し出す。


「やかましいわッ!!こんな物受け取り拒否じゃッ!!こうしてくれるッ!!」


折角の私の辞表がビリビリに破かれてしまった。


「良いか?其方を呼んだのはこの二人の婚約破棄を何としてでも阻止――――――」

「でもそれって学院長の意見ですよね?」

「最後まで聴け阿呆!!両国の総意じゃッ!!!」

「それ学院の仕事ですか?側近とか、御両親の仕事でしょう?それにもしかするとワンチャン婚約破棄現場が生で見たいだけかもしれませんよ?」


その可能性は本当にゼロじゃない。

ただ限りなくゼロに近いだろうけど、ゼロではない。


この学院に悩みの種は今後も尽きる事は無いだろう。

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歴史と伝統の我らが国立魔法学院(笑) 暑がりのナマケモノ @rigatua

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