2 四章-③
九
ここに来るのはいつも緊張する。
産まれてずっと日陰で過ごして来たが、ここはかなり闇深い。
アレスプレイス。
商国の経済王四人が国を動かすために集まる場所。
オレはそこに報告に来ていた。
「来たか……」
「速く報告したまえ」
「まあまあリラックスさせましょうや」
「時間は有限だ。速いに越したことはない」
目の前にいるのは商国を動かす経済王たち。
オレは冒険者に混じって情報を集めていた暗部の一人。
格の違いを見せつけられているようだ。
ただ、報告せねば解放されないため、オレは未開拓領域に同行して得た情報を伝える。
「なるほどな…………して、その賊は捕えたのか?」
「いえ、現在も作戦中です」
「まぁ、アイツらが戻ってくるから大丈夫の筈だ」
「ああ! あの子たちか。それなら心配ないな」
「冒険者に頼らず暗部を使ったほうが速いんじゃないか?」
四人の言葉を聞いた後、一人の王に手を振って出て行くように告げられる。
オレはそれに従いその部屋を出る。
そして、外から聞こえる騒ぎに惹かれ、窓から見える外の喧騒を眺めた。
十
あれからかなりの距離を走った。
そのせいで仲間の二人もヘトヘト。
もう商国の冒険者が追いかけてくることはないだろうが、安心はまだ出来ない。
他国のスパイたちが来るかもしれない。
「早めに報告済ませとかねーか?」
「賛成〜」
ヘトヘトだった筈の二人は先に仕事を終わらせることを選ぶ。
案外タフで頼りになる。
オレはそれに頷き答えると、周囲を警戒しながら報告用の魔水晶を取り出す。
「報告します」
「…………」
「商国の未開拓領域は――――」
形式的な情報の報告を三人が答えて済ませる。
ただ、その中でオレはあの一人の男のことを伝える。
「一つ別の件で報告します。どこの国にも属さない一人の男がいました。その男は要注意人物であります。帰還次第人相を送ります」
「…………」
そこで水晶での通信が切れる。
念のため報告しておいた方がいいと思ったが、しなくても良かったかもしれない。
「何であんなこと言ったんだ?」
「そうよ。アイツがウチに来るなんて分からないじゃない」
「そうだな。でも、あの時は何故か言っておいた方がいいと思ったんだよ」
「変だな」
「うん。変なの」
仲間に辛辣なことを言われるが気にしない。
三人で生きて帰れるだけでいい。
十一
「それで、報告は?」
オレたちは魔国の奴らのおかげで助かり、国へ帰って来ていた。
ある座標にだけ瞬間的に移動できる極秘の魔法を使ってオレたちは帰還した。
そして現在、リーダーであるオレは国の運営会議に呼び出され報告することになっていた。
「はい、商国の未開拓領域の開拓成功というのは事実でした」
「「おぉ…………」」
「しかし、この情報は我々の他に公国、魔国、出自不明の単独の男が知っています」
「「なんと…………」」
貴族たちの一致した反応を見て、話が振られるのを待つ。
貴族たちは始めの反応は一緒だが、その後は近くの人たちと様々な憶測を共有し出す。
そのせいで会議が長引くが改めることはない。
さっさとオレは休みたいんだがな。
「一つ気になったのだが、貴殿の力があればその賊どもを討伐できたのではないか?」
一人の貴族が皆を黙らせ発言する。
それに他の貴族たちも乗っかりオレの発言に注目する。
「私もそう思っていました。しかし、魔国と単独の者の強さは私を超えておりました。乱戦だったことも考えると情報を持ち帰るので手一杯でありました。私の不甲斐なさは痛感しております」
「そうであるか。まぁ、情報を得ると得ないとでは全く違うからな。軍の増強を進めるのがまず一つの策ですかな」
「そうですな」
「ええ」
貴族たちはオレと発言した貴族の話を聞いて政策を出して話し合いを加速させる。
ただ、途中で退出を命じられたオレはそれに従い部屋を出る。徐々に建物から離れ、続きを聞くことはなかった。
十二
森を抜けて進み続け、商国との国境に差し掛かる。
誰にもバレることなく帰還できることに一種の誇りを感じつつ、オレは警戒レベルを下げる。
しかし、そのせいで一人の人間に見つかってしまう。
「よう、案外遅かったな」
いきなり声がして体をビクッと震わせてしまう。
ただ、自分でない可能性を考えすぐに返事をすることはなく、恐る恐る声のした方向へ顔を向けた。
すると、そこにはあり得ない人物が待っており、オレを見据えていた。
「陛下っ、何故こちらに?!」
「静かにしろっ、今は名前で呼べ」
「そ、そうだな。カイ」
そこには帝国の皇帝が地面に腰掛けていた。
皇帝…………カイとは小さい頃からの仲で、よく二人でいろんな問題を起こしては怒られたりしていた。
久々に会った親友に過去の思い出が蘇り、そこには主従関係ではなく友人の空気感が漂い始める。
「しかし、大丈夫なのか? どうせ何も言わずに出て来たんだろ?」
「んなことは、どうでもいいんだよ。早く聞かせてくれよ。未開拓領域のことをよ」
「はぁぁ…………分かったよ」
カイの目的を理解してオレはその報告をしていく。
始めは至って普通の報告だったが、領域で起きた乱戦を伝えるとカイは目の色を変えて詳しく伝えるように催促して来た。
そのため、オレは事細かく説明していき、その中でも強かった一人の男に興味が引くように仕向けていった。
「おいおい、その話は本当か?」
「ああ、本当さ。各国のスパイはその国の中でも強さで言ったら上の方だ。だけど一瞬さ。あの男は本気を出してる感じではなかったけどな」
「本気でもないのか…………なあ、そいつ仲間にできねぇかな?」
「はあ!? お前本気で言ってんのか?」
「本気さ。世界最強の国なんだ。そんな奴が居てもいいだろう?」
カイはそんなことを言って笑う。
それが冗談じゃないのはオレだから分かる。
それを理解しているからこそ、オレはそれに応える。
「分かったよ。国を失う覚悟しとけよ」
「ハハッ、いいじゃん。期待してるよ、リュー」
カイはその言葉を残して消えるようにその場から離れた。
スキルと魔法の組み合わせ。
天賦の才を持って初めて行える業。
オレはその光景を見て少し胸を痛めるが、自分の行うべき行動に移った。
一方その頃、魔国の中心地である魔王城では、ある二人のスパイが魔王に報告をしていた。
「もう一度、お前らの報告を聞く…………」
「だから言ってんだろ。強い奴が居たって」
「それじゃあ、何も分からねーだろ」
「ああん? 事実を言ってるだけじゃねぇか」
「だから、魔王は報告を聞きたいんだよ。詳細を話せと言ってんだよ、詳細を」
その場の空気は完全に冷え切り、当事者の三人以外は次の展開がどうなるか考えブルブルと体を震わせていた。
中には二人を行かせたのが間違いだったと思う者もチラホラ。
ただ、その二人が魔王と幼馴染で、それでいて王に次ぐ力を持っていることから発言されることはなかった。
そんな中、二人の言い合いは続き、魔王は自分を置いて怒鳴り合う二人に怒りが沸々と湧き上がる。
「だったらお前が言えばいいじゃねぇか!」
「お前が任せろと言ったからだろうがっ!!」
「黙れっ」
言い争いをする二人に魔王が怒声を浴びせる。
その言葉には多少の魔力が乗せてあり、二人を含めその場に居た者たちは一瞬で魔王に注目する。
「報告はもういい。また呼んだら聞かせろ」
その言葉に全員が何かあるのではないかとビクビクと震える。
しかし、誰もが想像することは訪れることはなく、魔王は玉座から立ち上がるとスタスタとその空間から立ち去ろうとする。
それには二人の幼馴染も申し訳なさを表情と雰囲気に出して反省の色を見せる。
ただ、魔王はそこまで怒っている訳ではないため、すれ違い様に「後で呼ぶから」と伝えてその場を後にした。
それには二人も顔面を晴らして魔王に続いてその場を後にした。
扉が閉まると、残された者たちはどっと疲れが出て来て膝をつく。
「もう少しちゃんとした奴らを送らねばな…………」
「「賛成…………」」
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