2 四章-②
五
いろんな被害を出しながら、俺は未開拓領域へと向かって走り続けていた。
ビルの隙間を縫って進み、スピードを落とすことなく周りの状況を確認する。
「なんか冒険者増えて来たな」
走りながらパッと後ろを見て、どれだけの人数追いかけて来ているか確認する。
最初は一人。そこから次々と俺の存在に気づき、至る所から走ってくるため今では数え切れない。
ただ、その光景は面白かった。
一般人と話していたのに、俺の存在に気づきバッと振り向き視認する。
すると、一般人に断りを入れて鬼の形相で俺に向かってくる。
そして、それが何度も行われているのだ。
おかしくて仕方ない。
「止まれっ!!」
「おっと」
いきなり前から現れた冒険者を避ける。
さっき《変装》を解除して魔力が少し漏れたのが索敵系の人間にバレたのかもしれない。
後ろからしか向かって来なかった冒険者が前や横から、時には上から降って向かってくるようになった。
それに始めは苦戦しながら避け続ける。
ただ、次第に慣れてくるとスキルの《探知》を発動し前を向いたまま避けるようになる。
「案外楽勝か?」
そんな疑問を持ちながら、改めて状況を把握するため周囲の光景を視界に入れて行く。
その中で、住民が居ることが冒険者に不利であることが分かり、そこからはあえて人間のいる方へ寄るように逃走を開始した。
「クソッ…………」
「魔法が撃てやしねぇ」
「周囲の奴らに住民の避難を優先させろ」
「了解」
後ろからボソボソと聞こえる呟きを聴覚を魔力で強化することで拾う。
内容は予想通り住民が居ることによる攻撃の不能。避難誘導。それから、そのうち状況が変化して攻撃を開始されることを知る。
そのため、俺は対策を先に考え冒険者たちの行動を封じて行くことを思い描く。
全方位からの魔法攻撃を想定して、自動反撃バリアの構築を始める。
魔法の構築は案外簡単で、脳内イメージの鮮明さと言葉とのリンク度によって決まる。
この世界の人間にとってはそこまで馴染みが無い考えで、それが難しいとされてあまり研究が進んでいない。
「これも異世界召喚の特典かね」
召喚されて得たスキルを思い出しながら実感の無さを言葉にする。
あまりにも簡単すぎるスキルと魔法に若干の飽きすら感じてくる。
「俺は何がしたいんだ…………」
六
俺はつまらなくなって来た現状に悩みの種が芽生え、逃走中であるにも関わらず自分の内面と対話を始めてしまう。
地球に居た時のように縛られることが無くなり、楽しい時間が続くと思っていた。
だけどそんなことはなくて、少しの刺激と新体験があるだけでのめり込む程でもない。
心には何もなく、ただ生きて何かをする人形のよう。
自由に生きると決めたが、既にその段階でそれは達成されていたも同然だと気づいてしまった。
現状を振り返ると、俺は王国と商国に喧嘩を売った犯罪者だ。
ここから考えるしかもう道は無さそうだが…………。
「くらえっ!! サンダー!」
新たに考えを導き出そうとした瞬間。
俺を追いかけていた冒険者から魔法を放つ声が聞こえて来る。
発動していた《探知》にも魔力反応があり、それが電気信号的に俺に伝えられそれで意識を現在に戻される。
冒険者の放った魔法は雷魔法の初歩。
ただ、他の初歩魔法の中でも一番速度が速く使いやすい。
それに命中すれば若干の痺れが出るため、動きを止めたい彼らにとっては有効な技だ。
しかし、初歩は初歩。
避けることなど造作もない。
だが、俺は自動反撃バリアの性能を試したかったため、あえて避けることはせず自分の体にそれを纏った。
「オートリフレクトカウンター」
魔法を唱えると薄い魔力が全身を覆う。というより、体の表面に魔力が浸み出て何も感じない。汗のような感覚の方が近い。
重みは感じられず疲労感もない。
ただ、性能は抜群だった。
サンダーが体に触れようとした瞬間、魔力が素早く反応して集合し、防御すると共に反射して跳ね返す。
勢いは本来のものより速く威力も増しており、跳ね返されて直撃した冒険者には避ける隙さえ与えられず、赤いミミズ腫れのようなものを全身に負ってその場に倒れた。
それには俺含め周りの冒険者は驚き、無闇に魔法を撃ってくることはなくなった。
しかし、冒険者は俺を捕まえたいがために作戦を変更し、道を塞ぐという手段に出た。
「ここは通さん!」
「これだけいればどうにかなるさ」
「オレが仕留める」
様々な言い分を受け止めながらも足を止めることなくその肉壁に突撃する。
手に持つ仕込み刀で高速の剣撃を浴びせ、四肢欠損は当たり前の負傷者が数十人とその場に転がった。
「あーあ、派手にやったな。兄ちゃん」
七
聞いたことのある声に反応し、俺は思わず足を止めて声のする方へ視線を向ける。
すると、そこには街に来てすぐに話しかけて来たオヤジが居た。
やはり只者ではなかった。
誰もが避けられない《探知》に引っかからないことなど無い。
外部に漏れる魔力を止めて消す以外には…………。
それはかなり至難の業で正直俺ですら完璧では無い。
王宮で初めて魔力を扱ってから、徐々に表皮に留まらせるところから止める方向に変えて来ていたが、未だに習得できていない。かなりの労力が要るからだ。
ただ、目の前のオヤジはそれを常時やっているんだ。
そう思うと、俺は商国に来てから最大の警戒をし、初めて張り詰めた緊張感を味わう。
心臓の鼓動は早まり耳から音が聞こえてくるような、そんな感覚に陥る。
「あの時からヤバいのが来たな、と思ってたんだ。領域で何をした? 兄ちゃん」
「何も。好奇心に従っただけだ」
「そうかい。なら、その杖はどこから取って来たんだ?」
「池の中さ」
「意外に素直だな。やっぱりあそこの奴を取ったのか」
「今頃池は巨大になってるところさ」
「そうだろうな。ま、生態系が戻るかもしれねぇからいいがな」
オヤジは向かってくることはなく、悠長に話をして時間稼ぎをしているように見えた。
恐らく自分一人では確実に勝てないと思ってのことだろう。
俺もそう思う。
魔力を消すという業を会得していても、それが会敵してから必要かと言われると、全く必要ない。
ただ一つ言えるのは、オヤジの魔力操作が一流であるということ。
魔力の消耗戦になれば決着はどうなるか分からない。
「そんなことより向かって来たらどうだ?」
「ヤダよ。オレは強くねーからな」
「嘘をつくな。ギルドの上の人間だろ?」
「まぁ、バレるわな」
オヤジはその一言を呟くと、音を立てることなくオレの目の前に現れた。
魔力操作に自信があるためか武器は所持していない。
単純な格闘術で勝負をしに来た。
「どうだ…………って、ビクともしねぇのかよ」
「当然だ。魔力操作だけでは先には行けない」
「けっ、わかってんよ!」
オヤジの拳を受け止め独り言に返答する。
俺の放った言葉には少しのトゲがあったため、オヤジは一瞬だが眉をピクッと動かして感情を爆発させそうになる。
ただ、オヤジも自分で分かっているためか感情を操り気持ちを抑え、そのまま言葉にして逆の腕を振りかぶって顔面に拳を繰り出して来た。
拳には高密度な魔力が集結し、マトモに受ければかなりのダメージを負う。
恐らく俺が逃げることを期待しているのだろう。
そうすれば、一旦距離を取れて体制を立て直せる。
だが、そんなことをさせる筈もない。
俺は会敵直前に構築していた魔法を唱える。
「オートリフレクトカウンター」
「何だそれはっ」
「自分の拳で逝ってろ」
「なっ…………!?」
オヤジの拳が俺の掌に当たる瞬間に、拳の魔力が高速で向きを変えエネルギーの塊となってオヤジの顔面に跳ね返る。
マトモにそれを受けたオヤジは俺から離れ宙を舞う。
「ギルドマスター!!」
背後からやっと追いついた冒険者たちが目の前の光景を見て叫ぶ。
オヤジはやはり、というか何となくそんな感じがしていたがギルドマスターだったようだ。
恐らくこの街の冒険者で一、二を争う強さなのだろう。
そんな人が無様にやられている場面を見れば、流石に気力を失うだろう。
俺はそう思ってその場を去ろうする。
しかし、冒険者は誰も落ち込むどころか更に気力を増して迫って来た。
「おらぁああああああ!!!」
「くらえぇぇぇッッッ!!!」
それには俺も少し反応が遅れ魔法に当たりかける。
それを見ていたオヤジはニヤッと口端を上げて笑い、
「どうだ? 効いたか兄ちゃん」
と俺に向かって呟いた。
八
どんどんと集まり迫ってくる冒険者に俺は少しずつ押されて行く。
数の暴力だ。
商国の一つの街の冒険者が全員と言ってもいいぐらい集まって来ている。
殆どの奴らは弱いが偶に鋭い攻撃をしてくる奴も居る。それがランダムに飛んでくるため捌くのにかなりの労力を使う。
俺はこのままやり合い続けたら確実に負けると確信し、一発大きな魔法を放ち隙を作って逃げることを考える。
「ファイア・デストルクシオン」
多くの炎の球を全方向に放ち、冒険者たちとの距離を離す。
俺はその瞬間を逃さない。
「逃すなっ!!」
オヤジが叫び冒険者たちを向かわせようとする。
しかし、一瞬の隙があれば良かった俺は近づくことも許さずその場から逃走を開始する。
一歩地面を踏み締めると、周りが少し凹み地面が揺れる。
そこでふらついた前に構える冒険者を、地を蹴り前進する力によって発生する風で吹き飛ばす。
もう誰も止められない。
「マジかよ…………」
「あんなの無理だぜ」
「諦めるな!! アイツらが戻ってくるまで商国から逃すな!!」
後ろからはオヤジの怒声が聞こえてくるがどうでもいい。
さっさと領域に入って行方を分からなくしなければならない。
「自由って案外面倒だな…………いや、まだ絶対的じゃないからか」
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