2 二章-②
五
大体の地図を書き記した俺は、徹底的に探索するため興味が湧いたポイントを目指し歩き始める。
惹かれたのは五ヶ所。
その内三つは、確実に何かあるだろうと思わせるほどの雰囲気を持っていた。
俺はそれを感じ取り、先に二つ消化することを考え、目的地までかなりの速度で近づいて行く。
「よし…………ここら辺か」
地図を見て大体の目的地に到着すると、何かあるのではないかと疑いながら周辺の探索を始める。
怪しげな祠が幾つか存在し、元々この土地には人が住んでいたと思わせるほどの生活感が残っていた。
俺はそれを感じると、地図には暮らし跡と記し、他に何かないか探っていった。
だが、見つかるのは、そこで暮らしていたであろう人間の絵や朽ちた家具たち。それらを眺め、この付近に何もないことがわかると、もう一つの場所に向かって歩き出す。
数分後、目的地に到着する。
そこは、先程同様暮らし跡。
ただ、住居の造りが違い、さっきの場所とは別の民族である可能性がある。
別々の民族なのか、同じ民族が移動して文明を発展させたのか。俺はそんなことを考えながら同じように探索していった。
六
二箇所の探索をしてその場に満足すると、俺は本命の三箇所に向かうことを決める。
「さてと、どこから行くかな…………」
地図を広げ、距離やルート計算、それに気分を含めて次に向かう場所を決めていく。
まず向かうと決めた地点は、竹が伸びる池。俺はそれをそのまま
「何があるかなぁ…………」
子どものように胸をときめかせ、面白い未来を想像して顔を緩ませる。そのぐらいワクワクしていた。
今回はゆっくりと進み、道中から楽しむことを忘れない。
始めの景色は、しっかりとした木がまばらに生えて存在感を感じさせていた。しかし、進むに連れてその木々は少なくなっていき、背の高い細い草が伸びる群生地に突入する。
「これ刈ったら気持ちいいかなぁ…………?」
頭の中で草を刈るイメージをして、実行するか思い悩む。先に急ぐという考えが頭を過ぎるが、誘惑には勝てず、俺は魔法を使い草を刈る。
「ウインド」
人差し指と中指だけを立て、横に振ると同時に魔法を唱えて放つ。
すると、指の動きに合わせて
目の前には、緑のベッドと呼んでもいいほどの整えられた一画が姿を見せる。ただ、草の香りが酷く、すぐに鼻を摘んでダッシュで群生地を駆け抜けた。
切られて隙間に落ちた草が舞う。
そのせいで臭いは一層強くなり、俺は初速以上の速さを出して、前方の木々が生えている境まで行くと決め、草を振り切る。
「まだちょっと臭うが仕方ない。先を急ごう」
再び木々が生い茂る場所を走り、俺は目的地へと急いだ。
七
木が密集した地帯を走り、目的地の竹池を目指していると、木が段々少なくなってきていることに気づく。
(もうすぐか…………)
木々が生える間隔が長くなる。
視界には竹が見え始め、それはだんだんと増えていく。ある地点を越えると、それは密集して生えており景色を一変させた。
俺はそれからしばらく走り続け、とうとう目的の竹池に到着する。
「やはり雰囲気が違うな。何かしらはあるはずだ」
期待を膨らませ、早速周囲を探索し始める。
しかし、いくら探しても何も出てくることはなく、地面に落ちた枯葉の音だけが鳴り続けた。
「雰囲気だけなのか? 時間を無駄にしたな」
俺はそこで立ち去ることを決める。
しかし、次の瞬間。
「グウェ」
と聞いたことない声が複数聞こえ始める。
カエルのようなその声に耳を傾けると、僅かに水の音も聞こえ、まだ探していない場所を思い出す。
「池の中は探さないよな…………」
商国の探索者たちもそこまでしていないだろうと考え、竹池に近づいていく。
だんだんと開けていく視界に、ブヨブヨとしたカエルのような魔物が見えてくる。
その、カエルのような魔物の口端には竹筒が生えており、カエルだけどカエルじゃない。そんな不思議な生物がそこには存在した。
それに、身体も大きく人間とさほど変わらない。そんな不気味な生物に、俺はすぐに魔法を放った。
「ファイア」
放たれた炎の球は、池周辺に出現したカエル。竹ガエル五匹に吸い込まれていく。
「グゲェエエエエエエッッッ!!!!!!」
竹ガエルの断末魔が響き、香ばしい匂いがその場に立ちこめる。
二匹はそのまま地面に倒れ、残り三匹は池の中に逃げる。ただ、数分もしないうちに亡骸となって浮かんでくる。
地面に倒れ焦げた二匹には目もくれず、俺は池に浮かぶ三匹の死体を陸に上げて、素材に分けていった。
「よし。あとは池をどう調べるか、だな…………」
素材の切り分けが終わると、池にある水に対してスキルを使用し、魔力で持ち上げる。
「《物質変形》。さて、何があるか…………なんだアレ」
《物質固定化》と、いつの間にか取得していた《変形》を統合させ、新たなスキル《物質変形》を創り出す。
《スキル創造》の付属能力で得た、新たな力を早速用いて池の水を持ち上げる。すると、底の中央に一本の筒が突き刺さっており、俺は何のためにあるのか疑問に思いながらそれを注視した。
しかし、それが気になり、結局水を浮かせたまま穴底に滑り降りると、すぐにその筒を引き抜き《真実の瞳》で情報を探る。
「へぇー、仕込み刀なのか…………丈夫だし杖には丁度いいかもな」
仕込み刀は、竹でできたもので軽くて丈夫。
ただ、俺にとってそこまで必要な物でもなかったため、歩く際の杖として用い変装のアイテムにしようと思う。
呑気に抜き差しして遊び、池の底に居ることを忘れている俺は、足から伝わる振動を感知すると跳んで地上に戻る。
一瞬遅れて筒が刺さっていた穴がひび割れていき、そこから大量の水が噴き出し始める。
「なんだ? やらかしたか?」
俺はその光景を眺めながら、もしかしたら昔に
しかし、目的の探索もこれ以上必要ないと感じて、浮かしていた水を急に離して落とす。
すると、あっという間に溜まっていた水と衝突して大きな音を立てて、水飛沫を上げる。
俺は、それと同時に溢れてくる水を回避するために次の目的地の方角へ走り始め、距離を離していく。
水は勢いが留まることなく増え続け、波となって広がっていく。
「どこまで広がるんだ? 竹が生えていた場所までとかじゃ…………あり得るな」
何処までも追いかけてくる水に焦り、俺はある光景を思い出して見当をつける。
草が生い茂る場所から竹が生え始める場所は段差になって低くなっていた。
堰き止められていた水に、段差になった地形。
それが物語るのは、
「昔の光景が甦る」
ということ。
それと、暮らし跡を結びつけることである答えが浮かび上がる。
「未開拓領域は、一度滅んだ文明跡。てとこか」
その答えに俺は好奇心を刺激させられる。
それから、他の国々にもあると直感し、それをまずは探索して回ろうと決め、テンションを上げて走り続ける。
ただ、次の瞬間。
「グウェ」
と一匹の竹ガエルが土から飛び出る。
一瞬目を奪われるが、その一匹を皮切りに至る所から竹ガエルの鳴き声が響き出す。
「うるせぇ。これ絶対やらかしてるわ」
八
竹ガエルの醜い合唱を聞き終え、次の目的地である巨大花の群生地に辿り着く。
そこは読んで字の如く、巨大な花が所狭しと咲き乱れ、地上は光を殆ど通しておらず鬱屈とした雰囲気を醸し出している場所だ。
到着して早々に立ち去りたい。そう思うほどの嫌な場所。
そんな空気が漂う場所なため、案の定そこに住む生物は一種のみ。
「ストローネズミと呼ぶか」
口に出して命名した通り、細長い口を持つ灰色のネズミが根城にしているだけ。ただ、体は人間より大きく、遠目で見れば象と変わらない。
俺はストローネズミの姿を見て呟くと共に、光を浴びたくなって上にどう行くか周囲を探り始める。
しかし、耳の良いストローネズミは、呟きを聞いた途端に数十匹で俺の周りを囲み始めた。
「マジか…………」
その行動には思わず言葉を溢してしまった。
しかし、ストローネズミは囲むだけで何も危害を加えて来ない。
俺はそれに気づくと、拍子抜けすると共にネズミたちにイライラして、
「ファイアッ!」
と大声で唱え、地面に通常の倍の魔力で魔法を放った。
周りに集まったネズミたちは、突然の光と熱さに混乱し、四方八方に逃げ惑う。
俺は熱風を受けて上に飛び、巨大花の花弁の上に降り立つ。
「あぁ…………光だ」
地上の遥か上空に位置する花の花弁に立ち、目を瞑って空を仰ぐ。
暗い気分が一掃され、スッキリとした気分になった俺は目を開き景色を眺めようとする。
しかし、目の前には白いカマキリがこちらを見つめていた。
それに俺は驚き、ビクッと体を震わせる。
一瞬何も考えられなくなるがすぐに平静を取り戻し、そのカマキリを観察し始める。
(
不思議に思いつつそのカマキリを眺め続ける。
しかし、突然そのカマキリが攻撃を仕掛けてくる。
「うおっ…………速いな!? てか羽根四枚って、どうなってんだ?」
鎌での攻撃を避けると同時に、昆虫で言う胸と腹の部分から生えた羽根があることに気づき、俺はその違和感に頭を悩ませる。
ただ、続けてカマキリの攻撃が俺に向かってくる。
「次は尻から針…………ミックスされてんのか」
攻撃と姿から複数の生物的特徴を持ったカマキリであることを理解する。
混ざっている生物は、花蟷螂と蜂の二種類。
部分部分に特徴が現れ、優雅な見た目をしている。
しかし、敵であることに変わりないため、
「ファイア」
とカマキリに容赦なく魔法を放ち、カマキリはそれに当たり焼け死ぬ。
その光景は酷いものであっただろうが、それを眺めることなく意識を別の方向へ向ける。
それは、巨大花の群生地の中でも最も大きな花。
その圧倒的な存在に目を向け、そこに何があるのか考え、俺は気分を上げていく。
その花は、群生地の中でも頭一つ飛び抜けて大きく、周囲の花への日光を遮るほど。
俺は花弁を伝ってその花の前まで移動する。
「デカいなぁ。アイツら番人みたいじゃないか」
近づいて改めて見た花の大きさに言葉を溢し、花近辺にいるカマキリと、薄らと見える根本に群がるストローネズミを見てその光景を口にする。
花に近寄ろうにも邪魔されることが目に見えてわかり、仕方なく「ウインド」を放ち数を減らす。
「なんか増えて来たな」
蜂の特徴を持っているカマキリが群れで動いているとまでは気づかず、俺は姿を現し始めたカマキリたちに焦り始める。
「多すぎるっ、くそっ…………!」
愚痴を溢し思案した結果、俺は魔力を込め始める。
目的はカマキリを一掃し、巨大花を切り倒すこと。
だんだんと高まる魔力に、カマキリたちは危機を感じて一斉に俺に向かって突撃してくる。
ただ、その時点で既に遅く、俺は魔法を放つ。
「ウインド・コルタール」
放たれたウインドは、通常の比にならないほど大きく、巨大花の太い幹を一太刀で切り倒すことができるほど。
それが超高速で放たれたため、突撃してくるカマキリたちは、両断、一部欠損状態になり、バランスを崩して落ちていく。
目の前まで辿り着いたモノも居たが、近づいた瞬間にウインドをまともに受け、花から落ちてストローネズミの餌になった。
俺はその瞬間を見ようとしてチラッと見たが、すぐに別のことに意識が持っていかれる。
「なんだ? めちゃくちゃ甘い匂いが…………花の茎の部分か?」
突然漂ってきた甘い香りに、俺はすぐに発生源を察知する。
それは、巨大花に蓄えられた蜂蜜の香り。
混成カマキリがその花を巣にしていた証拠でもある。
匂いに釣られ近づき、その蜜を《真実の瞳》で調べる。
「千年蜂蜜…………千年も蓄えられているのか!?」
その蜂蜜の名前と由来を知り、大きな声を出してしまう。
ただ、驚愕した心を置き去りにする、一口舐めたい衝動に狩られ、小指で蜜を
「んっ…………!?」
舌に乗せた瞬間に甘みを感じ、その一瞬何も考えられなくなる。
一瞬意識を飛ばしたのかと錯覚し、驚くと共に身体に
「これは、スゴイな」
散々使った魔力が一瞬で回復したこと。溜まった疲労が一瞬で吹き飛び体が軽く感じること。それらを感じて、俺は蜂蜜を手に入れることを決める。
「この茎ごと貰っていくか」
千年蜂蜜が貯まっていた茎を《物質変形》を用いてビンのような形にし、蓋も作って蜂蜜を得ることに成功した。
その後、周りが薄暗くなって来ていることに気づき、
「ここの探索は終わるか……」
巨大花の群生地から抜け出し、川辺に向かって進みそこで野宿をして一夜を過ごした。
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