2 二章-①






 「へぇ…………あそこが領域へ入れる場所か……」


 街の、それも外壁より高い建物に登り、俺は未開拓領域への出入口を観察していた。

 外壁の外に広がる森の一部分には、木で作られた柵が囲むように設けられている。

 それを発見すると、俺は購入した地図を開いて確認する。

 地図には、場所がざっくりとしか描かれておらず、それも接近禁止という文字が書かれているだけ。

 俺はそれを見て確実に監視の目があると考え、その場所がどこにあるのか確認していたのだ。


 (開拓が成功しているのに、近づかせたくないというのはおかしいだろ)


 俺は、柵の間にある幾つかの関所を眺めながら考えを巡らせ、結論を出すと同時に建物から降りる。

 その後、通行人が気づかない程の速さで移動し、監視の目が届かない、関所ではない場所から未開拓領域へ侵入した。


 「案外楽なもんだな」


 簡単に作られた柵を越え、侵入する際の手応えの無さに肩透かしをくらう。未開拓領域にもだ。

 森のように木々が生い茂り、天然の壁のような感覚を覚える。

 何かを守っている。

 そんな疑問を思い浮かばせるが、躊躇いなく俺は足を踏み出し木々の合間を縫って行く。

 上からだとかなり緑があり、開けた場所なんて見当たらなかった。

 しかし、木々を抜けた先には、少し開けた土地が広がっていた。

 建物から見た時とは情報が違い、若干頭を混乱させる。


 「上からだと木で見えていなかったはずだが…………これは、どういうことだ…………?」


 不思議な現象を目の当たりにし、俺は思わず言葉を溢す。

 ただ、先の方に木々の密集地帯があり、その奥に薄らと開けた場所が見えると、俺は手荷物からまっさらな紙を出して現在地を記入し始める。


 「もしかしたら、迷路のようになっているのかもそれない」


 思ったことをそのまま口にしながら、領域の地図を作り道のようになっている木々の間を進み始める。





 「せっかくだし、《探知》は使わないでおくか」


 森を進み始め、この先も楽しむために俺は簡単な方法を選択肢から省く。

 周りは緑が生い茂り、自由に伸びる木や蔦が行く道の随所に現れる。普通なら鬱陶しいと思うだろう。

 だが、俺にとってはそういったことも初体験。手で掻き分けるという行為すら楽しい。

 枝の先に実る水色の不思議な果実。木の根本に生える毒々しいキノコ。それらに群がる小さな虫に、それを捕らえるためにゆっくりと動く生物。

 そのどれもが刺激的。


 「何だよここ…………」


 不思議がいっぱいの土地。

 新たな何かを発見する度に《真実の瞳》を使用し、既知に変えて知識を増やしていく。

 しかし、そんなところでも飽きというものはやってくる。

 始めは興奮して様々なものに興味を示していたが、徐々に行動を無意識に簡略化していき、いつもと対して変わらない状態に戻る。

 何かを見て近寄りスキルを発動。情報を知り納得、感嘆。という行為から、何かを見つけスキルを発動。情報を得て記憶機能を使い、近寄らずに歩き続ける。という行為へと変わった。

 そして、とうとう《探知》スキルを使用する。





 「へぇ…………一回で探知できる範囲以上に大きいんだな」


 俺は《探知》を使い未開拓領域を全て網羅しようと考えた。

 だが、予想より範囲が広いことを知り、驚きと落胆の感情が同時に顔を出す。

 商国の未開拓領域は、国土の半分以上を占めており、王国の中心地である王都より広い。

 ただ、これには商売の話が絡んでくる。

 王国は、昔も王都と他の数個の都市で機能しており、領土をそこまで欲する国ではなかった。

 そのため、商国はそこに目をつけ莫大な金銭を王族に支払い、一部の未開拓領域を買った。

 商国の未開拓領域が大きいのもそういう理由だ。

 地続きで二カ国の未開拓領域が接触しているため、そこにはしっかりとした契約が交わされた。

 王国側は、そこに入って誰も帰ってこなかった事実を理解し危険なモノを回避できるということ。

 商国側は、未知の宝を探し利益を得ることができるとふんだ。

 それぞれの思惑が合致し、二カ国共契約に合意した。

 詐欺の王国に利益の商国。

 この出来事は、世界でそう話されていた。

 詐欺の理由は、誰も帰って来なかったことを言わなかったため。

 俺はそんな歴史を思い出しながら、領域の情報を少し歩いては記憶し、地図に書き起こしていく。


 「まだまだかかりそうだなぁ…………」





 少し動いては《探知》を使用し、その情報を《真実の瞳》で記憶する。

 俺はその流れを繰り返し行なっていった。

 ただ、物凄い速度で。

 足を一歩踏み出した瞬間には、既に情報を記憶して地図に書き記し、また次へ。

 それを繰り返すこと二時間。

 そこでようやく俺は足を止める。


 「王国側近くはいずれやるか」


 商国側から始めていたが、あまりの大きさに王国側を断念。俺は自分に言い聞かせて納得させる。

 ただ、別の案も発想する。


 「商国の探索を終わらせたら王国へ戻るのもアリか」


 一度行った国は行かなくてもいいと考えていたが、未開拓領域のことを知ったため、戻って探索するのも良い気がしてくる。

 冒険ができれば何でもいい。そんな感じだ。

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