2 一章-③






 興味に惹かれるまま、綾人は宿を出て催しが行われている場所にやってきた。


 「何やってんだろ…………?」


 綾人は人混みを掻き分け、ステージに向かって進んで行く。

 すると、あっという間に催しのステージの目の前に到達する。

 ステージ上には、二人の戦士。

 その光景を見て、綾人は武闘会であることに気づく。


 「へぇ…………どんな奴がやってんだろ……」

 「おう。兄ちゃん興味があんのか?」


 突然横にやってきたオヤジに綾人は話しかけられる。

 何も前兆が無く、音も無音に近い状態で横に来られたため、綾人は一瞬警戒して様子を見る。

 ただ、そのオヤジはそれ以後普通の人と変わらない動きを始め、それを見た綾人は警戒を少し解いて尋ねられた問いに答えた。


 「まあ、少し。どんな強い奴が居るのか。それだけだ」

 「そうかい。っていうことは、兄ちゃん。別の国から来た人かい?」

 「そうだ。ついさっき入国した」

 「へぇ〜、旅かなんかかい?」

 「…………まあ、そんなところだ」


 オヤジはグイグイと綾人に質問して距離を詰めようとする。

 しかし、綾人はまだ警戒を完全に解いていないため、それなりの対応をする。

 ただ、オヤジは止まらない。


 「いいねぇ、旅。オレもどっか行きてぇよ。そうだ。旅してるってこたぁ、兄ちゃん冒険者か?」

 「いや、一般人だ」

 「ほえぇ〜、よくそれで生きていけるなぁ…………冒険者になってればどの国でも金には困らねーぜ?」

 「ははっ、もう生きていける分は稼いでいる。気分で偶に労働出来れば問題ない」

 「もったいねーなー、強そうなのに」

 「そうでもない」


 オヤジの質問に綾人は律儀に答える。

 ただ、視線は武闘会に注がれ、オヤジに興味が向くことはなかった。





 綾人の興味が向いていないことに気づいたオヤジは、武闘会の解説、実況を始める。


 「この武闘会ってのは、そもそも商国ができる前から行われていたんだ」

 「そうなのか」

 「ああ。ただ、見ての通り都市開発が進むにつれて、こういった昔の催しも無くなっていったのさ」

 「大変だなぁ」

 「ああ、大変だった。でもな、伝統というのは、いつになっても良いものさ。だから、こうして未開拓領域の開拓成功を祝って、ついでに催しもやっちゃえ、ってな」


 オヤジは少し熱を持たせて熱く語り出す。

 それに対し綾人は、ただただ相槌を打つロボットと化していた。


 「ステージには、出場者以外にあと一人いるだろ? あの爺さんは、この地に昔からいた民族の子孫なんだ。今もこうやって先祖の行いをやれて喜んでいたんだ」

 「ああ、それは嬉しいな」

 「わかってくれるか! お前ってやつは…………」


 目頭を熱くし、指で押さえながらオヤジは綾人の肩に手を置き揺らす。

 中々に熱いオヤジの語りを聞きながら、綾人は武闘会が終わるまで付き合った。



十一



 武闘会が終わり、綾人は宿に帰ろうとする。

 だが、そこでオヤジに止められる。


 「兄ちゃん。この街で行った方がいい場所教えてやるよ」

 「…………そう、だな。良い機会だ。よろしく頼む」


 綾人は少しの間考え、教えてもらう事を選ぶ。

 すると、それを受けてオヤジは早速指差して観光名所を教え始める。


 「まずは、あれだ。あのでっかい塔が見えるだろ。あそこからの景色は最高なんだぜ。ただ、それだけじゃないんだ。下にある飯処もかなり美味い。行って損は無いぜ」

 「なるほどな。他は?」

 「うし。じゃあ次は、あそこだ。あそこは歴史館でちっと地味だが、この街、国のことを全て知れる場所だ」

 「ふーん。で、イチオシは?」


 勿体ぶった感じを受け取り、綾人はオヤジにオススメの場所を尋ねる。

 すると、オヤジは、


 「やっぱりバレるか。まぁいい、教えてやるよ」


 と言って正直に教えることを告げる。

 何となく察しのついていた綾人は、ある方向を見ながらオヤジが指差すのを待った。

 すると、オヤジは案の定綾人の視線の先を指で差す。


 「今一番熱いのは、やっぱりあそこだ。この国の中枢を担う四人の経済王たちの談合場所。アレスプレイス」


 気になるワードをオヤジが発し、綾人はそこが気になり始め、その他のことはどうでも良くなる。

 ただ、それは表に出さず、オヤジの話が終わるのを待ち、終わると宿へと帰還した。



十二



 宿に戻ると、専属スタッフのように初めからお世話しているスタッフが綾人を丁寧に出迎える。

 サービスとして過剰に思えたが、それを言えばハイクラスにした自分が悪いため、そこは何も言わずにもう一度部屋に案内してもらう。


 「何度もすまない。また何かあったら呼ぶよ」


 綾人は少し砕けた話し方でスタッフに伝える。

 しかし、そのスタッフは、


 「外を歩いてお疲れのようですし、マッサージでもどうですか?」


 と綾人へ尋ねる。

 その瞬間、綾人は内心驚く。


 (俺が疲れてるって何故わかった? それに歩いて足が疲労していることも何故わかる? もしかして…………《鑑定》持ちか?)


 マニュアル通りに対応したスタッフに、綾人は疑いの目を向けていく。

 しかし、じっと見つめてしまい、スタッフはどんどん顔を赤らめ、視線を切ってしまう。

 そこで、綾人はスタッフの問いかけを思い出し、それに答える。


 「マッサージだったね。よろしく頼むよ」

 「か、かしこまりました。それでは準備をしてきますので、それまでお寛ぎください」


 スタッフはそう言い残し、その部屋を後にする。

 綾人は、言われるまでもなくスタッフが部屋から離れるとマントを脱ぎ、ボタンやベルトを外して寛ぎ始める。

 それから目を瞑り、綾人はすぐに意識を手放す。

 ただ、スタッフが来たことにより、綾人はすぐに目を覚まし、指示に従う。

 言われるがままに動き、綾人はマッサージを受ける。

 まずは、うつ伏せで背後のマッサージ。次は仰向けで前のマッサージ。

 綾人は、その気持ちよさに半覚醒の状態になり、ふわふわとした気分で過ごしていく。


 「終わりました。お客様、起きてください」


 綾人の耳元で優しい声が響く。

 優しく、それでいて大きさが配慮されたその声に、綾人は意識を覚醒させていく。


 「ありがとう…………とても気持ち良かった」

 「い、いえ。では、失礼します」


 綾人は、スタッフの目を見てしっかり礼を言う。

 ただ、少しはだけた服にスタッフは目のやり場に困り、そそくさと部屋を出て行く。

 それに気づくことなく、綾人はそのまま眠りにつく。

 翌日。

 綾人は未開拓領域が気になり、そこへ向かうためにギルドを訪れた。

 目的は、地図。

 王国を破壊した綾人は、今や指名手配犯。

 そんな人物がギルドに登録することはできない。

 ただ、そこで売られている物は、一般人でも買えるため、綾人はそれに紛れて地図を購入する。


 「よし。これで行けるな」

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