2 一章-②






 商国の散策を続ける綾人は、遂に中心地に足を踏み入れる。

 郊外とは、見るだけで違いがはっきりとわかる。

 それほどに、建物も雰囲気も変化する。

 特に、高層の建物が存在し、こちらの世界に無いと思っていたものが姿を見せたため、綾人は元の世界と同じような景色に頭を混乱させる。


 「異世界…………だよな。やっぱり人間は、どの世界でもこういう文明になるのか…………?」


 流石に車は走っていないが、それ以外が殆ど地球と変わらず、綾人はボーッと立ち止まって眺めてしまう。

 少し違うことがあるとすれば、道に屋台が広がっていることぐらいだ。

 街中にあることがあり得なかった不釣り合いなそれは、綾人を魅了する。

 匂いに釣られ、綾人は食べ歩きをすることを決める。


 「うわっ…………美味そうだなぁ…………おじさん、それ一つ」

 「あいよ。出来立てだ、注意しろよ」

 「どうも」


 綾人は店主から熱々の物を受け取り、その屋台から離れて食べ始める。

 見た目は完全にアイスクリーム。

 だが、それは丸い形を形成しており、一切溶けない。

 そんな不思議な食べ物を綾人は見たことがないため、衝動に負けて買ってしまった。

 しかし、食べ始めると綾人は止まらず完食した。

 よくわからないが、美味いというだけで食べ切ってしまった。

 綾人はそれからも出店されている屋台を巡り、充実した時間を過ごす。





 綾人は食べ歩きながら散策を続ける。

 すると、いろんな店を見て興味が湧き、開店してる所を見て回り始める。

 はじめは武器屋。

 人生初めて訪れるそこに、綾人はテンションを少し上げる。

 店内には、剣に盾と一般的な物から、弓や槍などこの世界ではニッチなものまで売られていた。

 ただ、一際目を引くのは、黒い銃。

 綾人は、それを見て世界がどうなっているのか不思議に思い始める。

 剣と盾しかない王国を見て、次は発展した文明。それも、地球と遜色ないむしろ先に進んでいる文明を見て、綾人は更に頭を混乱させていく。


 (どうなってんだよ…………あ! 確かネルが言ってたよな。召喚は前も行われたって。しかも金髪って言ってたな。もしかしたら、日本人ではない経済や科学。その他にも学問に精通する人物が召喚されてたんじゃ…………)


 ある可能性を考え、綾人は世界がおかしいことに合点がいく。

 しかし、そうなると他の疑問が浮かぶ。

 何故商国だけがこんなに発展しているのか。ということだ。

 綾人は、王国と商国しか見ていないが、二つを比べてかなりの違いに疑問を持つ。

 ただ、いくら考えたってすぐに答えが出ることでもない。

 そう考えると、綾人は純粋に観光を楽しみ始める。

 武器屋を出ると、次は防具屋。そして雑貨屋。といったように、様々な店舗を訪ねて行った。





 店巡りを続ける綾人は、あることを思い出す。


 「宿を取らねば…………」


 楽しんでいる最中に現実に引き戻され、綾人は渋々宿を探し始める。

 新しく見つけた屋台に立ち寄り、商品を買っては店主にオススメの宿を聞いて回る。

 綾人はそれを続け、より多くの意見が出た宿。「癒し水」という名前の宿に泊まることを決める。


 「すみません。宿を取りたいのですが」


 綾人は扉を抜けると、すぐに受付のスタッフに声をかける。


 「はい。ありがとうございます。幾つかのランクがございますが、どちらにされますか?」

 「それじゃあ、このランクで」


 綾人は、スタッフに見せられている表のハイランクを指差しお願いする。

 すると、スタッフは急に綾人を疑い出す。


 「えぇっと…………こちらは、ハイランクになっております。代金の支払いができる証明は、できますか?」


 丁寧ではあるが、綾人はそれに少しイラッとしてしまい、


 「これなら充分か?」


 と銀貨の詰まった巾着を広げて見せる。

 ただ、その行動はスタッフを黙らせるには充分すぎた。


 「し、失礼しました!! ど、どうぞ、こちらです!」


 スタッフは急に緊張しだし、ぎこちない動きで綾人を案内し始める。


 (どうやら、評判の良い宿でも銀貨は滅多に見ないらしいな。噂が広がらなければいいが…………)


 そんなことを思いながら、綾人はスタッフの後ろを歩いて行く。

 そして、


 「こちらが、お客様のお部屋になります。何かありましたら、こちらを押していただければスタッフと繋がりますので、お気軽にお使いください。それでは…………」


 と部屋を紹介して、スタッフはツラツラとマニュアル通りに対応してその場を後にする。

 綾人は一人になると、すぐに靴を脱いで寛ぎ始める。

 ハイランクの部屋は、なんと一軒家の広さをほこり、玄関から靴を脱いで入るタイプと、日本人好みのものになっていたのだ。


 「はあぁ…………落ち着くなぁ…………。やはり俺は日本人か」


 綾人は寛ぎながらおかしなことを呟き、ゆっくりとした時間を過ごして行く。





 懐かしい雰囲気を感じつつ、ゆったりとした時間を過ごす綾人は、気分を変えるために風呂に向かう。

 野宿が続く中、綾人は《清潔》で凌いでいたが、やはり風呂に入るという行為が恋しく、不満を募らせていた。

 しかし、それが解消されるとなってか、綾人はテンションを上げて扉を開ける。


 「おぉ…………流石ハイランク…………」


 思わず言葉を溢すほどの豪華な浴室が姿を見せる。

 床は白く光沢のある石を使用し、壁には大きな窓をはめ込み、外の景色を眺めることができるようになっている。

 そんな風呂に入るのが初めてな綾人は、緊張と弛緩を行き来しながら堪能していく。

 しかし、次の瞬間。


 「お湯加減はどうですか?」


 と居るはずのないスタッフが浴室に来て湯加減を尋ねてきた。

 それに綾人は驚き、声を上げそうになるが、


 「何故ここに…………?」


 と外に反応を示すことなくその場を乗り切ろうとする。

 ただ、尋ねられたスタッフがそれに返答し、綾人の思惑とは別の方向に進んで行く。


 「えぇっと…………スタッフがお客様のお体を洗うことがサービスにありまして…………」

 (サービスかぁ…………仕方ないか…………)

 「なるほど…………なら、お願いする」

 「かしこまりました」


 綾人は浸かっていた湯船から上がり、スタッフが待つ洗い場に歩いて行く。

 到着すると、股間を見られないようタオルでしっかりガードして、木製の風呂椅子に腰掛ける。


 「では、洗っていきますね」

 「ああ…………」


 すぐにサービスは始まり、淡々としかししっかりと洗われていく。

 成長して人に洗われた経験のない綾人は、その不思議な感覚に身を任せ、リラックスしていく。


 「流しますね」

 「あぁ…………」


 お湯をかけられ、泡を落としていく。

 それが終わると、スタッフはすぐに浴室を出て行こうとする。

 そのため、綾人は、


 「ありがとう…………」


 と微笑み礼を言う。

 リラックスし、ゆったりとした綾人の動きは色気を纏い、異性のスタッフを刺激する。

 すると、その破壊力に衝撃を受けたスタッフは、


 「い、いえ。し、仕事、をしたまで、です、ので」


 とかなり動揺して返答した。

 本来なら何かしら思う綾人も、その時はリラックスして多幸感を感じていたため、何も言うことなく再び湯船に浸かり過ごす。

 しばらくして、綾人は風呂から上がり、用意された食事を堪能する。

 ただ、その際に窓から街を眺め、人だかりができている場所を見つける。


 「今日は何か催しでも?」

 「ええ。つい先日、国の未開拓領域が開拓されまして、無事それが成功しましたので。それを祝して行われています」

 「へぇ…………後で行ってみるか」


 綾人は、未開拓領域という言葉に興味をそそられ、それを知るために足を運ぶことを決める。

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