四章-①






 翌朝。

 俺はいつものように早い時間に起こされ、一日を迎える。

 若干寝ぼけた意識で、いつも同じ時間に起こしてくれるメイドに感心し、身支度を済ませていく。

 しかし、そこで昨夜の出来事を思い出し、急激に気分が悪くなる。


 「うわぁ…………マジか……」


 行動する気力すら奪われてしまい、俺はメイドに朝食の際にまた起こすように伝え、もう一度眠りにつく。

 ただ、その際に早く良くなるよう《スキル創造》で《治癒》を生み出し、それを発動させる。

 すると、体が軽くなり、脳内で繰り返し映る情事も消え去っていく。

 俺はその効果に癒されながらも、ある種危険なスキルであることを理解し、意識を手放した。





 朝の時と同様に、メイドに起こしてもらい、俺は目覚める。

 寝る前に行った《治癒》が効いているのか、情事のことを思い出してもそこまでダメージがない。

 そのことに安堵しつつ、思ったよりもダメージが大きかったことが予想外で驚いた。

 ただ、そんなダメージを軽減させるほどのかなりヤバいスキルを作ってしまったのか、という思いも生まれ、脳内では次々に話題が変わっていく。

 一連のことを考え尽くすと、お腹が空いていることに気づく。

 そのため、俺はうがいを済ませると、用意してある朝食をありがたく受け取り、食事を始めた。

 食事を済ませると気分も更に良くなり、体を動かそうと思い俺は廊下へ出て歩き始める。

 すると、少し歩いたところで。


 「よう。話があるんだが付き合ってくれないか」


 と、前田陸が壁にもたれ掛かりながら話しかけてくる。

 俺は昨日のことでも聞かれるのだろうかと思いつつも、知らないフリをして対応する。


 「殴らないよな?」

 「ああ」


 あえて前回起きたことを尋ね、警戒していることをアピールする。

 前田はそれに冷静に答えたが、冷静過ぎる返事だったため、その時点で今回も殴ることが理解できた。

 俺は、またかと内心で思いつつ、こちらを見る前田に初めの問いに答える。


 「ならいいさ」


 そう俺が伝えると、前田は背中を向けて。


 「ついて来てくれ」


 と、一言告げて歩き出した。

 前回と同じような行動にやれやれと思いながら、大人しくついて行く。

 俺は前回通ったことのある道を眺めながら、今後の前田たちの行動を予想し始める。


 (前田の俺に対する嫌がらせは昨日ので達成されているはず。なら、次は何だ? 《勇者》を取るとしたら第二王女に招集されてもおかしくない。前田一人ってのがわからない。殴るとしても何に対してだ? 昨日の答え合わせでもするわけないよな。いや、前田ならやるかもしれない。俺が絶望しているのか知って優越感を味わいたいはずだ。ただ、もし《勇者》のことなら――――)


 結論に至る瞬間、前を歩く前田が止まる。

 目的地に着いたようだが、案の定王宮の裏。

 俺の予想通り前田は――――。


 「うっ…………」

 「はあぁ…………お前はもう要らないんだ」





 またしても前田に殴られた。

 予想通りだったが、前田も成長しているためか前より速くなっており、シンプルに不意打ちを喰らってしまった。

 力も増しているためか、痛みもかなり残っている。

 ただ、気になるところがあった。

 前田の言葉だ。

 俺は前田の放った一言の真意を探るため、演技を続ける。


 「って…………約束が違うぞ?」

 「ああ。だがそんな約束も守らなくて良くなった」

 「なに?」


 前田の言葉を聞き返すように返事をする。

 すると、前田はテンションが上がっているのか、言葉が荒くなっていく。


 「時期にわかるさ。ただ、その前にやっておかないと治まりそうになかったんだよ」

 「何言ってんだよ」

 「ああ、そうか。そうだよな。わかる訳ないか」


 前田は俺が何も知らないと思っているため、口角を上げて余裕の表情を作って話し始める。


 「オレがお前を殴っていたのは理由があんだよ。まあ単純な理由だ。お前が気に入らないからだ」

 「何だよそれ」


 そこで知らないという体を装い、前田が続けて話せるように促す。


 「オレは何でも持ってるお前が気に入らなかった。《勇者》というスキルも……女も…………オレに無いものを持ってるお前が気に入らなかったッ!」


 前田は、この世界に来てから思っていたことを吐き始める。

 口調はかなり強く、以前覗いたステータスに書いてあったように、言葉には劣等感と嫉妬が含まれていた。

 ただそれと同時に、俺に対しての敵意や憎しみに似たものも感じた。


 「だから奪った。昨日聞いただろ? 女の喘ぐ声をよぉ」

 「ああ、聞いたぞ。って、あ〜そういうことか。奪ったって」

 「あ?」


 俺の返答で前田のニヤつく顔が崩れる。

 理解が早く、それでいて冷静に返したことが前田にとっては理解できなかったのだろう。

 俺にとって幼馴染はただの知人。

 誰と行為をやろうが、二人に対して特別な感情は何もない。

 そのため、俺は淡々と理解していることを告げる。


 「美羽と千佳の穴のことだろ?」

 「っ…………!?」


 前田は俺の冷静な態度と言葉に、一瞬目を見開き驚いた顔をする。

 しかし、次の瞬間には真剣な面持ちに戻し。


 「何故そこまで冷静だ?」


 と、尋ねてくる。

 俺は頃合いだと感じたため、その問いに答えることなく、《取捨選択》を用いて《勇者》を前田に渡す。


 「お勇者が欲しいんだろ?」

 「は?」

 「ステータス見てみろ。《勇者》があるだろ?」


 前田に確認させるためにステータスを開かせ、俺は王宮の裏から離れ始める。


 「ははっ……はははっ…………遂に手に入れたっ……これで、これで…………」


 俺は喜びを露わにする前田の声を背中越しに聞きながら、だんだんと距離を空けていく。


 「やっと捨てれたな。それじゃあ…………」





 「待て」


 後ろから俺を止めようとする前田の声が聞こえてくる。

 理由を聞きたいのだろうか。それとも逃さないつもりなのだろうか。

 俺は考えられる二つの可能性を思案しながら足を止める。


 「なんだ」

 「予定より早くなっちまったがしょうがねぇ」


 前田のその言葉が聞こえると共に、後ろから前田の魔力が消える。

 俺はその瞬間に処刑が始まったと考え、警戒心を最大限に高める。

 すると、右から突然魔力が知覚でき。


 「逃さねぇよ」


 と、前田が言い放ちながら拳を振るってきた。

 俺はそれを見て、少し力を出すことを決める。


 「おらッ! っ…………!?」


 俺が素早く避けると、前田は感触がなかったためか、移動した俺を見て目を見開く。


 「お前、力を隠してたのか」

 「当たり前だ。お前たちの計画も知っている」

 「なにっ…………!?」


 前田は落ち着きを取り戻したかに見えたが、俺が計画を知っていることを伝えると、驚きを露わにする。

 その瞬間、一瞬の隙ができ、俺はそこを利用して逃走を再開する。


 「くそっ、待て!」


 前田はその瞬間に距離を引き剥がされ、最後の抵抗か炎の球を放ってきた。

 しかし、その炎は遅く、簡単に避けることに成功する。

 その後、前田が追いかけてくることもなく、俺はそのまま王宮の城壁を越え、王宮を囲む街へと逃げ込み、街を囲う外壁を目指した。

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