二章-③






 翌日。

 俺は何事もなかったようにいつものルーティンを済ませ、朝に読み途中だった歴史を学びに図書館へ向かった。

 図書館へ到着すると、俺は早速歴史書を手に取り続きから読み進める。

 それから数十分と読み続け、最後まで読み終えると次はスキルに関しての本を手に取り読み進めた。

 すると、そこには気になることが書かれていた。


 「鑑定系のスキルは稀な存在なのか」


 召喚時にスキルに気づかれなかったのはこういった理由があったのだと理解する。

 俺は運が良いのかもしれない。

 そんな思いを一瞬抱くが、他にどんなスキルがあるのか興味が湧き、どんどんページをめくっていった。

 その中には、頭の中で想像した形に物質を変形させ固定するというスキルがあった。

 それに惹かれた俺は、取得する方法を《真実の瞳》を発動して探った。

 すると、驚きの真実が浮かび上がり、俺はそれに一人興奮し、人気がないことを確認すると行動に移す。


 「できるだけ正確なイメージと、それに合わせた魔力を…………っ…………!?」


 俺は今使っていた木のテーブルから木刀をイメージし、それに必要な魔力をテーブルに触れて送った。

 すると、静かに一本の木刀が形成されていき、切り離されて手の前に浮き続けていた。


 「これは…………隠さないと……」


 俺は木刀をテーブルに戻すために、グネグネになったテーブルらしきものに触れ、元のイメージをして魔力を送った。

 木刀はその瞬間に、グネグネのテーブルらしきものに触れて、徐々にテーブルに形を変えていった。

 それが終わると、俺はステータスを確認して、スキルが増えていることを確認する。


 「《物質固定化》。それはわかるが、《スキル創造》だと?」


 目的のスキルがステータスに表記され喜ぼうとすると、横に見知らぬスキルが表記されており、そちらに意識が持っていかれる。

 慌てて《真実の瞳》を発動し、詳しい内容を確認していくと、またとてつもない真実を知ることになった。


 それは、歴史に消された魔法とスキルの話。

 スキルが誕生したのは、戦争の真っ只中。

 魔法を主力にした戦争が激しくなっていく中、死に際の兵士が初めて発現させたらしい。

 兵士は死に際に、自分の理想とする戦闘スタイルを思い描き、最後に一撃敵に喰らわせようとした。

 するとその瞬間。

 兵士の思い描いた通りに体が動いていき、周りの敵を一掃して敵兵を追い返したらしい。

 そんな姿に味方の兵士は駆け寄り一緒に喜ぼうとした。

 しかし、その兵士は死に際であったことを理解しており、味方兵に自分の動きを想像しながら魔力を込めるように伝えると命を落としたという。

 それを聞いた味方兵の内、一人が遺言ということで実践すると、命を落とした兵士と同じ動きを始めた。

 周りの兵士はそれを見て驚き、それを自軍に広めることで後の戦争で快勝していったという。

 ただ、その兵士たちの子供にスキルが遺伝してしまう。

 すると、各地で同じ報告が上がり、スキルは遺伝すると広まってしまった。

 それから長い時を経て、スキルは生まれつきのものになり、新たに発現させるという方法は忘れ去られていった。

 しかし、その初めてスキルを発現させた兵士は、後一つ別のスキルを発現させていたらしい。

 そう。

 それが《スキル創造》。

 何千年の時を経て、その現象が俺に起きたということだ。


 「かなりヤバいな、これは」


 真実を知り、自分の行動が何もかも変えてしまうかもしれないことに不安と興奮を抱く。


 「どうする。鑑定系に見られたら終わりだぞ。確かこういう時は…………隠蔽、か。よし」


 俺はステータスを隠すことにし、《スキル創造》で《隠蔽》を創り出すと、ステータスに表記される《スキル創造》と《隠蔽》、《物質固定化》を隠した。


 「はあぁ…………これで何とかなるか」


 何とか問題を解決し、心身ともに疲れた俺は図書館を出る。

 すると。


 「あら? あなたが、四人目の方かしら?」


 第二王女に出くわしてしまった。





 「ええ。そうですけど」


 俺は突然のことに驚きつつも、努めて冷静に対応する。

 すると、第二王女は碧眼でこちらを見据え。


 「お暇でしたら、お茶に付き合ってもらえます?」


 と、誘ってきた。

 俺は正直断りたかったが、後ろに控えるメイドに睨まれ。


 「ええ、喜んで」


 と、了承せざるを得なかった。


 「ふふっ、でしたら着いて来てください。こちらです」

 「はい」


 俺は第二王女の言葉に従い着いて行くことになるが、あえてメイドの横に並びながら歩いた。

 すると、メイドが小声で話しかけてくる。


 「何のつもりだ」

 「別に。王女様の隣にいたら後ろを警戒せざるを得ないからな」

 「ふふっ、何もありませんよ」


 そうやって話していると。


 「何を話しているの?」


 と、後ろを振り返り第二王女が話しかけてくる。

 俺はそれに対し、咄嗟に考えたことを伝える。


 「王女様を見ることなんて向こうの世界ではあまりありませんでしたので目に焼き付けようかと」

 「あら? あまりということは、そちらの世界にも王族がいまして?」

 「ええ、居ましたよ。俺の国では皇帝の位を持った象徴が存在していましたから」


 俺はどうにか話を作り、王女と話を進めて行く。

 ただ、その際にメイドが一瞬後ろに消え、俺に何か仕掛けたように感じた。

 恐らく『交信』でも使っていたのだろう。

 それに、王女付きのメイドが召喚者に盗聴用魔道具を付けた疑いがあることは知っている。

 全く焦ることではない。


 「皇族、興味が湧きました。そういった話を聞かせてくださいませ」

 「ええ、知ってる範囲でですが」

 「さあ、座ってください。ゆっくりお話ししましょう」


 移動しながら話していると、王女の目的地に着きお茶会を始める。

 俺はざっくりとした歴史を話し、どうな生活をしていたのか話していった。

 ただ、美羽や千佳、前田に話を聞かなかったのか疑問に思う。

 お茶会は小一時間ほどで終わりお開きになった。


 「今日はありがとうございました」

 「いえ、こちらこそ。それでは」

 「はい」


 俺は第二王女に別れを告げてその場を後にした。



十一



 第二王女とメイドから離れながら今後の動きについて考え始める。

 ただ、メイドに何か付けられたと仮定して生活すると、考えがまとまるまで声に出すことができない。

 いや、何か王女の印象などを呟いた方がいいのかもしれない。

 俺の逃亡計画は知られているが、それを知られていることを俺が知っているとは思っていないはずだ。

 そこさえ口に出さなければ問題ない。


 「ふぅ…………国王に王女、王族と話すのは疲れるな。いや、今回は控えてるメイドが――――」



 その頃、第二王女とメイドはお茶会をした場所から移動せず、綾人の声を盗聴用魔道具で二人で聞いていた。


 ⦅ふぅ…………国王に王女、王族と話すのは疲れるな。いや、今回は控えてるメイドが綺麗過ぎて緊張したか⦆

 「くふふっ。ミア、あなた惚れられたんじゃない?」

 「そうでしょうか」

 「そうよ。絶対そう」


 第二王女は、メイドのミアを聞こえて来た音声そのままに揶揄からかう。

 しかしミアはというと、少し話しただけで綾人が本心を簡単に口に出す人間ではないと考え、流れてくる音声を信じきれずにいた。


 「他に何か言わないかしら」

 「国王様とお話しされたというのは気になりますね」

 「そうね。召喚された時のことは私も知らないから」

 ⦅国王と言えば、あの時の前田の驚き様は面白かったなあぁ……⦆


 二人が話をしているそばから、綾人はその時の話を始める。

 だが、次の瞬間にミアは吹き出してしまう。


 ⦅「うわっ! こ、ここ、どこ!?」こんな感じだったよなあぁ……⦆

 「ぶっ……すみません」

 「わ、笑うんじゃないのよ」

 「で、ですが、今のを廊下で一人でやっていると考えると……」

 「仕方ないでしょ。陸は巻き込まれたんだから。こんなことをやってるこの男の方がおかしいわ」


 第二王女とミアは、前田陸が巻き込まれた方の人間だと綾人と召喚者の会話で知っている。

 しかし、次に流れてくる音声に二人は一瞬固まってしまう。


 ⦅だけど、何で召喚される瞬間に飛び込んできたかな。前田の奴。アイツが来なけりゃ今頃美味い飯をいっぱい食えていたはずなのになあぁ……。お、前田⦆


 陸が自ら巻き込まれに来たという情報もそうだが、綾人が差別的対応を受けていることを認識しながら、あんなに穏やかに過ごしていることに二人は肝を冷やす。

 それにプラスして、綾人が陸と接触を始めたことで、第二王女とミアの二人には、少なからず緊張感が漂った。


 ⦅おい、前田。昨日やったことの理由を教えてくれよ⦆

 「なに? 陸は何かしたの?」

 「何も聞いておられないのですか?」

 「ええ、陸からは何も聞いてないわ」


 知らないところで綾人と陸が会っていたことを初めて二人は知る。

 それに困惑しつつも、陸の返事に二人は耳を傾ける。


 ⦅答えることはない。こっちの問題だと言っただろ⦆

 ⦅いやー、いきなり殴られたら気になるだろ?⦆

 「え、殴った?」

 「そう、みたいですね。しかし、あの男はどういう神経をしているのでしょうか」


 第二王女は驚き、ミアは綾人の神経を疑う。


 ⦅はあぁ…………お前が美羽と千佳の気持ちを考えずに言葉を発したところを聞いてしまってな。それだけだ⦆

 ⦅そうか、聞かれていたか。まあ理由が聞けたならそれでいい。じゃ⦆


 綾人が納得して立ち去る。

 しかし、そこで陸から綾人へ声がかかる。


 ⦅二人に謝罪はしたのか?⦆

 ⦅いや、全く。何だ? 二人に気でもあるのか?⦆

 ⦅ダンッ――――⦆


 綾人がそう口にした途端、何かが壁に当たる音が聞こえる。


 「な、殴った?!」

 「恐らく。あの女性二人と何かあるのでしょうか」


 王女とミアは音を頼りに推測していく。


 ⦅いってぇ…………何で殴ん――――⦆

 ⦅お前! ふざけてんのかっ!⦆


 大きな音となり、二人の耳にも陸の怒鳴り声が響く。

 それに二人は驚くも、次の言葉に耳を傾ける。


 ⦅何がだ?⦆

 ⦅くっ…………二人はお前に気があるんだよ!⦆

 「陸ってそういうことわかってたのかしら」

 「人の事に関してはわかるのでしょうね」

 「い、いいのよ。私のことは」


 響いてきた言葉に二人は感想を言い合い、ミアに関しては王女をさっきのお返しとばかりに揶揄う。

 ただ、綾人と陸の会話は続いており、魔道具から言葉が響いてくる。


 ⦅わかってんだろ!⦆

 ⦅ああ⦆

 ⦅っ…………。殴って悪かった…………⦆


 陸の言葉に綾人は一言で返す。

 陸はそれに何も言えず、殴ったことに謝罪しスタスタと足音を遠ざけていった。


 ⦅はあぁ…………殴ることはないだろ⦆


 陸の姿が見えなくなったのか、綾人が言葉を溢す。


 「この男、人の気持ちをわかっていながらよく酷いことができるわね」

 「そうですね。元の世界ではどのようにして過ごしていたのでしょうか」


 一連のやりとりを見て、王女とミアはお互いに感想を述べる。

 しかし、魔道具は変わらず綾人の言葉を拾う。


 ⦅劣等感と嫉妬。そこに元来の性格である純粋さと優しさが顔を出したか。どうなるかねぇ…………⦆


 それを聞いた二人は、それ以後言葉が聞こえなくなると、お互いに意見を言い合った。


 「陸にどこか陰があると思ったけど、あの男の言うことがしっくりくるわね」

 「しかしあの男。全く油断できなくなりましたね。もしかしたらワタシの盗聴も」

 「それはどうかしら? もしそうだとしたら、わかっていながら殴られに行ったものよ?」

 「そう、ですね。ただ、前田様としっかり話す機会を作らなければ」

 「わかっているわ。早速動きましょう」

 「承知しました」


 二人はそこで会話をやめると、計画のために行動を開始した。



 そんな二人をよそに、綾人はというと。

 自室に戻り、紙を使うことで思考の整理をしていた。



 (かなり話したがあの二人はどうしただろう。前田のことに関しては若干驚いたが、上手くやれたんじゃないだろうか。行動を起こすきっかけも与えることができたはずだ。ただ、ことが起きるまで待つしかないのは不安だ)


 俺はそこで一旦手を止め、夕食まで眠ることにする。

 しかし、寝言で余計なことを話すかもしれないと考え、スキルで盗聴用魔道具を対策することにした。

 《探知》と《解除》、《防音》を新たに創造し、魔道具を無効化させていく。


 「よし、これで喋っても問題ないな。怪しまれるだろうが」


 俺は服に取り付けられた魔道具を《探知》で見つけ、《解除》で取り外すと魔道具に直接防音を発動させて音声を拾わないよう施した。


 「まあ二人のステータスを見た限り俺には敵わないだろうがな」



十二



 綾人はお茶会をしてから一週間を訓練場と図書館を行き来するだけの生活を送っていた。

 ただ、その間に第二王女は前田陸と密会を重ね、《勇者》をどうすれば奪えるか話し合っていた。


 「彼の名前はわかりましたか?」

 「ああ、神田綾人と言うらしい」

 「綾人さんですか」


 まず第二王女は陸に頼んでおいたことを聞く。

 お茶会をしたにも関わらず、王女は綾人の名前を聞いていなかった。

 そのため、陸に頼み美羽と千佳と話をさせて聞き出したのだ。


 「とりあえず話を進めますが、この世界に来て綾人さんへの対応がおかしかったのには気づきましたか?」

 「ああ。オレの世界では確実に問題になっているほどだ」


 王女はここにきて綾人の待遇に触れる。

 それは関わりのない陸にとっても興味のあることで、耳を傾けざるを得ない。


 「そうですか。ですが、これには理由がありました」


 王女はそこであえて間を空ける。

 物音ひとつ聞こえることはなく、部屋には静寂が訪れる。

 陸は若干の居心地の悪さを感じつつも、王女の次の発言に集中する。

 しかし、これは王女のテクニック。

 王女は数秒の後、陸が視線をつけてきたタイミングで口を開く。


 「私があなたと結婚するためです」

 「は?」


 陸はしっかりと耳にしたはずが、唐突なことに聞き返してしまう。

 王女はそんな陸を見て、丁寧に説明し始める。


 「今言ったことは本心です。本来、私は《勇者》というスキルを持っているものと結婚することになっていました。ですが、私はあなたに惚れてしまいました」


 そこからも王女の話は続く。


 「幸いにも《勇者》を持っている人間をすぐに発見することができず、勇者というものをうやむやにすることに成功しました。そして、あらかじめ取り付けておいた召喚者の盗聴用魔道具により、綾人さんが《勇者》を所持し、それをあなたに譲るつもりであることが判明しました」


 陸にとってこれまで不思議に思っていたことが紐解けていき、だんだんと王女の言ったことを理解していく。


 「なので、私は必ずあなたに《勇者》を獲得させようと行動してきました。これまで不思議に思うこともあったと思いますが、これが私たちがしてきたことの全てです」

 「ああ、王女の気持ちは理解できた。王女の言う通りにこれから行動すれば《勇者》が手に入り、オレが勇者であると証明できる。だが――――」


 陸は王女の気持ちを理解しつつ、胸の内にあるもう一つの思いを彼女に伝える。


 「だが、それじゃあオレは満足できない。いや、できなくなった」

 「と、言いますと?」


 王女は陸の気持ちを探るために理由を話すよう促す。


 「美羽と千佳に対してアイツの態度が気に入らない。オレに無いものを持ちながらそれを無下にする。そんな態度が気に入らない」


 それを聞いた王女は、綾人の言っていた言葉を思い出す。


 (⦅劣等感と嫉妬。そこに元来の性格である純粋さと優しさが顔を出したか。どうなるかねぇ…………⦆)


 劣等感と嫉妬という感情と、美羽と千佳を思う優しさが混ざり、狂気じみた雰囲気を王女は感じとる。

 だが、それだけではどう判断すれば良いかわからず、王女は陸にどうしたいのか尋ねる。


 「あなたの気持ちはわかりました。それでは、どう行動されるつもりですか?」


 すると、陸は捻じ曲がった行動計画を語る。


 「そうだな――――」


 それを聞いた王女は、自分の夫になる男性にそんなことはさせたくないという思いと悲しみから、その計画に反対する。


 「それはやめてください。いえ、行う必要がありません」

 「なぜだ? これほどに綾人アイツを絶望させる方法は無い。それに、オレは王女と結婚してもあの二人をほっとくつもりはない」


 王女は素直に語る陸の考えを理解し、効果があるのか思考を巡らせる。


 (本当に綾人さんに効果があるのかしら。陸があの時訴えかけても感情の変化がなかった。でも、仮にも小さい頃からの幼馴染だとすれば、本人も気づかぬ感情が綾人さんにもあるかもしれない)


 王女はそこで決断する。


 「わかりました。効果がある可能性にかけましょう。二人とは打ち解けていてください……………………ですが、正妻は私ですよ!」


 第二王女が最後に忠告し、その日の密会は終わる。

 それからも二人は一日に一回は報告し合い、着々と準備を進めていき一週間で実行に移すまでのところに到達する。

 そして、計画実行日――――。

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