二章-①






 「あー、腹減った」


 俺は空腹に耐えきれず目を覚ましてしまう。

 もう少し眠っていたかったと思うが、窓から見える日の昇り具合を見て丁度良い時間だと感じ起き上がる。

 部屋につけられている個室のトイレで用を足し、洗面台で身支度を済ませて部屋を出る。


 「普通客人扱いするよなぁ。夕食の時間には呼びに来るだろうし、朝も起こしに来るはず。どうなってんだ? 遠いから来ないとかないよな?」


 部屋を出て、昨日召喚者と向かって来た方向へ歩きながら愚痴をこぼす。

 召喚したならある程度は誠意を見せるところだが、一日にしてこの扱いは何かがあったとしか考えられない。


 「召喚者が俺を売ったか?」


 昨日のことから召喚者が何かしたと考える。

 しかし、危険になりそうなことをあの召喚者がするとは限らない。

 だとすれば、ただ忘れられていたという線はないだろうか。

 王宮に使用人が居るといえどかなり広い。俺の場所がわからなかったのかもしれない。

 それに、勇者は三人と聞いており、一人追加で来たことが広まってないのかもしれない。


 「ま、どれにしても酷いがな」


 脳内で考えられるだけの理由を思い浮かべ、そのどれもを一言で両断する。

 それからは"廊下長っ"と言ったり"同じ景色でつまらん"と言ったり、道に迷いながら歩き続けた。

 ただ、それは同郷の三人が現れて終わりを迎える。


 「朝ご飯美味しかったね」

 「うん、夕食ほどではなかったけど豪華だった」

 「オレはおかわりしちまったぜ」


 どうでもいいことを話す三人の声が聞こえ、俺はすぐに足を止めて引き返そうとする。

 しかし、白い廊下に全身黒の異物があれば誰でも気がつく。


 「あ! 綾人!」

 「綾人っ!」

 「…………」


 初めに気づいたのは美羽。それに釣られて千佳が声を上げて近づいてくる。

 金髪の男はその場から動かず俺を睨む。

 自分の女だと錯覚して嫉妬でもしたのだろうか。

 まぁそんなのはどうでもいい。

 問題はその男の後ろに控える騎士たちだ。

 眉を顰めこちらを見ている。

 恐らく俺の存在を知らない。もしくは巻き込まれた者として情報がいってるのかもしれない。


 (美羽と千佳が居なければ終わっていたか。いや、スキルでどうにかできたか)


 俺は騎士たちのステータスを《真実の瞳》で覗き見し、総合的に見て対処できたのではと感じる。


 「綾人っ、どこに行ってたの? 昨日は夜ご飯に来ないし」

 「そうです。ここの料理は豪華です。それを食べないのはもったいないです」


 二人とも少し興奮気味で詰め寄ってくる。

 俺はそれに対して咄嗟に言い訳をつくり答える。


 「ははっ、昨日はすぐに寝ちゃってな。そんなに豪華だったのなら起きてた方が良かったな」


 元の世界の時と変わらない口調でそれらしいことを二人に告げる。


 「もうー、心配したんだからね。ほんとに」

 「わ、わたしもしましたよっ」


 美羽は心配したと表情からもわかるが、千佳は心配していなかったな。

 まあ千佳の場合は俺を信用しているから何も考えなかったのかもしれない。


 「ああ、それはすまなかった。ところで、どこに向かっていたんだ?」


 俺はとりあえず謝罪し、それとなく目的を尋ねる。

 すると、二人は思い出したように口を揃えて答える。


 「「魔法!!!」」


 間近で大きな声が響き俺は目を瞑ってしまう。


 「ご、ごめんっ!」

 「ごめんなさい」

 「いいよ。それで、魔法がどうしたんだい?」


 不快な気持ちを抑え、いつものように対応すると共に、二人が言い放った魔法について尋ねる。


 「えっとね、昨日見た魔法を教えてくれるの」

 「そうなの。魔物討伐に必須の能力らしい」

 「へぇ〜、面白そうだね」


 二人は早速未知のものに触れることを喜んでいるのだろう。

 そんなもので一喜一憂されては困る。

 やはりこの二人は邪魔になる。

 俺は改めて美羽と千佳が今後邪魔になることを認識する。


 「あ、今から訓練するんだった。千佳、綾人。行こ」

 「はい。綾人もほら」

 「あ、ああ」


 さっきの解答を間違えたのか、面倒なことに付き合わされることになった。

 学び方は人それぞれ。自分のスピードで行うことが一番良いと俺は思っている。

 本を頼りに習得するつもりだったが、強制的に教えられてしまうのは気分が乗らない。


 (というか飯を食わせろ)


 「行くよ」

 「騎士さんに着いていけばいいみたい」

 「ああ」





 美羽と千佳に連れられ、王宮に隣接される騎士の訓練場に到着した。

 しかし、到着して訓練を始めるという時に面倒なことが起きた。


 「なんで綾人は別なの?」

 「四人でやればいいと思う」

 「しかしですね、我々はそうしろと言われておりまして、それに逆らうことは国に逆らうことと同義なのです。ですので、聞き入れてもらわなければどうしようも」


 いざ訓練を始めるとなった途端、俺は爪弾きを喰らい一人の新米騎士をつけられ、他三人には騎士団長というあからさまな差別が行われたのだ。

 美羽と千佳はそれを許すことができず、団長に詰め寄っているという状況だ。

 正直俺はそれでいい。

 やってるフリしてさっさと飯を食いに行きたい。

 というわけで。


 「美羽、千佳。騎士団長さんも逆らえないんだ。俺は別にいいから早く訓練を始めるといい」


 と、二人に対して告げる。


 「でも……」

 「そんな……」


 二人は受け入れ難いのか、反論を口にしようとする。

 しかし、それは騎士団長に阻止される。


 「さあさあ、彼も言っておられるので訓練を始めましょう…………少し離れた場所で訓練してくれ」

 「了解した」


 騎士団長は自分が教えることを見せないためか、俺に離れるように耳元で呟いた。

 俺はそれに軽く了承して、直立している新米騎士を連れて人気のない場所に向かった。

 途中から案内は新米騎士に任せ、俺は魔法について考えを巡らせる。


 (まずは魔力を感じることだと思うが、昨日の召喚と召喚者の髪に宿る魔力を微かにではあるが感じていた。あの感覚を自分に向ければ問題ないか)


 思考と体験があったためか、誰も居ない場所に到着すると俺はすぐに魔力を感じることに成功し、小さな属性魔法をも発動させた。

 やはり召喚時と召喚者の髪を受け取った際に軽く魔力に触れていたのが良かったのかもしれない。


 「す、すごい!! 魔力をこうも簡単に習得するなんて」


 一部始終を見ていた新米騎士は興奮気味に言葉にする。

 ただ、俺はそんな新米騎士を見て不安に感じ、口止めにかかる。


 「おい。この成果は報告するなよ」

 「え、何でですか?」

 「聞いてただろ、さっきの話」

 「えっと……」


 騎士団長が俺を爪弾きにした場面を見聞きしており、新米騎士は居心地悪そうに口を閉じる。


 「お前が騎士になった理由なんかどうでもいい。ただ、あれが王国の姿だ。王宮の外に出れば仮面を被り国民を欺いているんだろう」

 「ち、違いますっ!! あ、いや」

 「別にいいさ。お前は信じたいものを信じればいい。ただ、報告はするな。お前、家族は?」

 「え?」


 新米騎士は唐突な問いかけに呆けた顔をする。


 「お前に家族はいるのか?」

 「は、はい。両親は健在です。妻と娘もいます」

 「そうか。それは幸せだな」

 「え、ええ」


 新米騎士は照れた顔をしながら後頭部をさする。

 だが、俺はそこに冷徹な刃を向ける。


 「なら、それを壊されたくなければ黙ってろ」

 「え? それはどういう」

 「そのままの意味さ。場合によっちゃあ引越しの準備もしといた方がいいかもな」

 「ええ?!」


 新米騎士は引越しという言葉に何か引っ掛かるのか大袈裟な程に驚く。

 大袈裟に驚く理由は気になるところだが、俺はそんな新米騎士との会話に飽きたため、食堂の場所を聞き出す。


 「いいからいいから。訓練も終わり。食堂の場所教えてくれない?」

 「唐突ですね…………いいですけど」


 新米騎士はそう言うとスラスラと説明し始めた。

 しかし、王宮の地理を知らない俺は全く理解できず首を横に傾ける。


 「わかりました。案内します」

 「ああ、すまない」


 それから数分歩き、食堂に到着する。


 「ここが食堂です」


 新米騎士は扉を開きながら場所を伝える。

 しかし、次の瞬間。


 「ふ、副、団長…………」

 「おい、どうした。早く進め」


 副団長という言葉を呟きながら新米騎士は固まった。

 俺は新米騎士がそうなる理由を知らないため、進むよう告げる。

 しかし、騎士は次第にぶるぶると体を震わせていき、回れ右をし。


 「すいません。失礼します」


 と、言い残してダッシュで去って行った。


 「副団長がそんなに怖いのか? まあいい」





 俺は逃げた新米騎士の心情を勝手に解釈して扉を抜ける。

 すると、沢山あるテーブルに一人だけ食事をしている人物がいた。

 遠目から見て女性に見えることから副団長で間違いない。

 しかし、こんな広い場所で一人で食事とは寂しいな。

 俺はそんな感想を持ちつつ、どうすれば食事ができるか副団長に聞くことにする。


 「すいません」

 「ん、何かな?」


 声をかけると、副団長は口に料理を運ぶのをやめて返事をした。

 俺は邪魔にならないよう用件をさっさと済ませる。


 「初めてここを利用するんですけど、どうすれば食事ができますか?」

 「なるほど。私が教えよう。着いてくるんだ」

 「え、はい」


 口で教えてもらえれば良かったが、副団長は席を立つとスタスタと歩き始めた。

 俺はとりあえず着いていくことにし、数メートル離れて後ろを歩いて行く。

 副団長が急に角を曲がる。

 そのため、見失わないように歩く速度を上げ、角を曲がる。

 すると。


 「ここに食事を作ってくれるおばさま方がいらっしゃる。その方たちに聞けば何やら作ってくれる」


 曲がった先でカウンターのようなものがあり、そこに立って副団長は説明してくれた。


 「何やらって、出来るまでわからないんですか?」

 「ああ、材料と気分次第だそうだ」

 「な、なるほど」


 大雑把だと感じるも、俺は食べることができればいいと思い納得することにした。


 「教えていただきありがとうございます」

 「いや、問題ない」


 そこで副団長は一歩後ろに下がり俺に注文するように促した。

 流石副団長と言ったところか。気を利かせてくれる。

 俺はその気遣いに感謝しつつ厨房で喋っているおばさんに話しかけた。


 「すいません。何か作って欲しいんですが」

 「あいよ! 三分で出来っから待ってな」

 「え、ええ。待ってます」


 俺はおばさんの威勢のいい言葉と時間の短さに驚きつつ返事をする。

 後ろを振り返り壁にでももたれかかろうと考えていると、副団長が入れ替わり。


 「おばさま。私にも頼む」


 と、食事を注文した。


 「あら? 足りなかったかい?」

 「はい、あと少し」

 「そうかい。ならそこの坊主と待ってな」

 「はい」


 さっきテーブルで食べていたはずだが、足りなかったようだ。

 テーブルには四種三皿ずつ置いてあった。

 それでも足りないということはかなりの大食いなのだろう。

 しかしまあ、どこに入るのやら。

 俺は副団長のスタイルを観察しながらそんな感想を抱く。

 すると、それに気づいた副団長が口を開く。


 「私の体に何かあるか?」

 「いえ、どこに入るのかと思いまして」

 「ふふっ、ちゃんと胃袋さ。ただ、人より消化が速いということが違うだけだ」

 「なるほど……」


 元の世界にも華奢な大食いをする人は居たため、実在するのかと思いながら納得する。

 その後料理ができ、定食的な物をおばさんたちから受け取ると席に向かった。

 正直、ここで一瞬戸惑ったが、かなり話してしまったため副団長の正面に座ることにした。


 「気を遣わせてしまったかい?」

 「いえ、もう少しお話でもしようと思いまして」

 「ふふっ、そうか。なら、食べながらですまないが君の話を聞かせてくれ」

 「ええ」


 副団長は俺の言い訳をも見透かしているかのような反応をし、話すように促してきた。

 そのため、自己紹介から始め、今に至る経緯を話していった。


 「そうか。君が別の世界から召喚された人間か」

 「ええ。ですが予定では三人だったらしく、巻き込まれた一人は同様に勇者と呼ばれますが、他三人とは扱いが違うんです」

 「ふむ。その巻き込まれた一人が君というわけだね」


 一人でいることから副団長は俺を巻き込まれた一人だと判断する。

 ただ、それは間違いであり訂正すべきこと。

 しかし、俺はそこを訂正することはなく、違和感を残す。


 「ま、そういう風になってます」

 「ん、言い方がおかしいぞ?」

 「ははっ、そうでしたか? 忘れてください。あ、でも一つ頼みたいことがあるんですが」

 「君がそう言うならそうしよう。それで、頼みとは?」


 副団長は納得する素振りを見せ、頼みの内容を聞く。


 「部屋に食事を運んで欲しいんです」

 「なぜだ? メイドが呼びに来るだろ」

 「あれ? メイドが呼びに来るんですか?」

 「なるほど。君にはメイドも付けていないか」


 俺は素直に伝えるが、返ってきたのは新事実。

 他の三人にはメイドが付いているということ。

 ここまであからさまだと清々しいまである。


 (しかし、何故そこまでするのだろうか。いや、これがこの世界のやり方か)


 認識を改め自分を納得させる。

 一人でそんなことをしていると、副団長は腰のポーチから紙の束を取り出しながら話を再開した。


 「了解した。メイドは私から言っておく。部屋はどこだ」

 「えっと…………ここです」


 俺は開かれた王宮内部の地図に指を差すと同時に、《真実の瞳》による記憶機能を活かしてその地図をコピーする。


 「そうか。ではそこに他の三人と同じ時間に食事を運ばせる」

 「どうもありがとうございます。では、またどこかで」

 「ああ、またな」


 用件を済ませると、俺は席を離れることを伝える。

 副団長はそれに返事をし、食事を済ませているが気を遣い座っていた。

 食器の回収スペースに向かい皿を置くと、そこから入ってきた扉に向かって歩く。

 扉を開ける際に振り返って副団長の方を見ると、彼女もこちらを見ていたため頭を下げ挨拶し扉を抜けて外に出た。


 「しかし、ここではもう俺が完璧に巻き込まれた人間になっているんだな。召喚者の勘違いがここまでくるとは思わないが、まだ様子見だな」


 外に出ると改めて自分の立場を認識し直し、情報が足りないため迂闊に行動しない方向で考えを進める。


 ――――――――――――――――――


 一方で、副団長はというと。


 「ふぅ…………」


 綾人が扉を閉めると溜息をつき、緊張を解いていた。

 理由はいくつか挙げられるが、一番の理由は間違いなく綾人の落ち着きだ。

 彼女は魔力感知に長けており、魔力を眼で見ることができる。

 そのため、彼女は綾人が入ってきた瞬間に魔力を感知し、その静寂さに驚いた。

 普通なら多少の乱れがあり外に漏れるはずの魔力が、一つの乱れも生じさせずピタッと表皮で留まり、体内では濃縮された小さな魔力の球体を存在させていたからだ。

 自分にも騎士団長にも無いその技術に彼女は怖気のようなものも感じていた。


 「身の振り方を考えなければならないか…………」


 綾人の話を聞き、彼が王国に牙を剥く時が来ると考え副団長はボソリと呟いた。





 来た道を引き返し、俺は訓練場に向かっていた。

 勿論訓練をするためではなく、他三人の訓練を覗き見するわけでも無い。

 自室に帰るにはこの道しかないからだ。


 「誰にも会わないといいが」


 そう口にしながら俺は訓練場に顔を出す。


 「誰もいないか。良かった」


 誰もいないことに安堵しつつ、再び自室への帰路に着く。

 誰に会うこともなく自室に到着すると、俺は机に置いてある包みを見てあることを試すことにした。


 「『交信』ってどうやればできるんだ? まあなるようになるか」


 俺は包み紙を開き中の物の魔力を感知する。

 召喚者の髪の毛から微かに漂う魔力を観察し、自分の魔力を召喚者の魔力に変化させていく。

 恐らく『交信』は、魔力を繋ぎ振動させることでお互いの声を脳内に響かせる魔法。

 空気中には、これまた恐らくだが誰のものでもない自然な魔力、自然魔力が漂っているはずだ。

 『交信』はそれを使うことで成立していると考えられる。

 俺はそこで考えることをやめ、増やした召喚者の魔力と自分の魔力を繋ぎ、心の中で念じ始める。


 ⦅聞こえるか。王宮から話しかけている⦆

 ⦅聞こえるか。王宮から話しかけている⦆


 二度繰り返し、半信半疑で返事を待つ。

 すると。


 ⦅驚いた。もう『交信』を取得したか。それで、何の用だ⦆


 脳内に召喚者の声が響き魔法の成功を証明する。

 俺はそれに少なからず興奮し、経緯を召喚者に説明する。


 ⦅用は無い。ただ、『交信』ができるか試しただけだ⦆

 ⦅そうか。ならもう切ってくれ⦆


 その言葉が脳内に響くと同時に、食堂から帰る時の疑問が浮かび上がる。


 ⦅いや、すまん。一つ気になることがある⦆

 ⦅何だ⦆

 ⦅その前に確認だ。盗聴されてないよな?⦆

 ⦅ああ、大丈夫に

 ⦅なった? どういうことだ⦆


 召喚者の一言に少しの不安が生じる。


 ⦅盗聴用魔法具が私のローブ、それも頭頂の裏に感触が無くなる魔法と『透明化』をかけられて付けられていた⦆

 ⦅犯人は?⦆

 ⦅恐らく王族。というよりその手の者⦆


 俺は召喚者からの言葉を聞いて、瞬時に計画の変更を検討する。

 王族に昨日の会話が聞こえていたらその日のうちに殺すはずだ。

 しかし、俺は殺されていない。

 全く何が目的なのかわからない。

 俺はそこで昨日の発言を振り返ろうとするも、召喚者の言葉によって『交信』に引き戻される。


 ⦅整理したい気持ちはわかるが、私の考えを聞いてくれ⦆

 ⦅ああ⦆

 ⦅まず盗聴用魔法具だが、私が王宮へ来た時には付けられたと見るべきだ。そこから考えるとお前の計画は全て筒抜けということになる⦆

 ⦅そうだな⦆

 ⦅で、まだお前は殺されてない。そうなると、考えられるのはスキル《勇者》だ⦆

 ⦅だろうな⦆


 召喚者の考えは、俺が話を聞きながら考えていたことと一致した。

 しかし、俺はその先に考えられる、仕組んだ人間についてはわからずにいた。


 ⦅しかし、王族の中で誰が《勇者》を欲しがるんだ?⦆

 ⦅そこだ。だが答えは見えている⦆

 ⦅…………⦆

 ⦅第二王女だ⦆


 そこで出てきた言葉は初めて聞く言葉で、俺はうまく反応できずにいた。

 すると、召喚者は第二王女について話し始めた。


 ⦅知らないのも仕方ない。彼女は普段部屋から出て来ない人間という噂だ。ただ、何故か勇者召喚には積極的に関わっていた。昨日、私が王宮を出る際も何故か見送りに来たほどだ⦆

 ⦅根拠は薄いが、もし第二王女が勇者と結ばれることが決まっていたなら考えられなくもない⦆


 一通り話を聞いて考えられる結論を出す。

 ただ、それは可能性が低いもので、否定されるべきもの。

 しかし、それに返ってきた言葉は意表をつくものだった。


 ⦅その通りなんだ⦆

 ⦅は?⦆


 考えが的中したことよりも、理由と行動が乖離し過ぎて聞き返してしまう。


 ⦅本当だ。だが、彼女は金髪の男に好意があるようだ。恐らくだが、お前の計画を聞いてどうにか《勇者》を手に入れたいんじゃないか?⦆

 ⦅なるほど、一目惚れというやつか。まあ、そうとわかれば王女が仕掛けてくるのに引っ掛かれば問題ないか⦆

 ⦅上手くいくといいがな⦆


 召喚者は含みのある言い方をした。

 恐らくスキルを金髪の男に譲渡したら俺が殺されると思っているんだろう。

 国から出してくれるなら何もしないが殺しに来るならこちらもそれに応えなくてはならなくなる。


 ⦅まあアンタは俺のことは深く考えず、王国に捕まらないように生きればいいさ⦆

 ⦅ああ、そのつもりだ⦆

 ⦅それじゃあ、また連絡する⦆

 ⦅健闘を祈る⦆


 そこで『交信』の魔法を終える。

 俺は思わぬ収穫に気分を上げる。

 ただ、いつ行動を起こされるかわからないため、それなりの準備はしなくてはならない。

 まずは――――。


 「失礼します」


 次の行動を決めようとした瞬間、自室の扉が急に開き、いかにもメイドですと言わんばかりの服装をした女性が入ってきた。


 「ど、どうも」

 「夕食をお持ちしました。食べ終えられましたら外にあるカートの上に置いてください。それでは」

 「ありがとう」


 メイドは急に入ってきて用件を伝えるとすぐに出て行ってしまった。

 俺の感謝の言葉は届いたのか疑問になる。

 それぐらいに素早い動きだった。

 恐らく彼女もまた、俺が巻き込まれた人間だと教えられた一人。

 そんな人間に何も言うことはない。

 俺はそんなことを考えつつ、やってきた夕食に手をつける。

 夕食は、パンと薄いスープだった。



 翌日から、メイドが朝起こしに来るようになった。

 ただ、その時間が早すぎる。

 日がまだ昇っていないのだ。

 そのため、俺は図書館に案内してもらうことにした。

 しかし、図書館に入るには王族の許可が必要だとかで、図書館前でかなりの時間を待たされた。

 その後、メイドは戻ってきて結果の報告をし、すぐに何処かへ向かって行った。

 彼女は眠くないのだろうか。

 結果としては、本ぐらいはいいだろうということで、王族から許可を貰うことに成功した。

 その日から、朝一番に図書館で勉強し、それから筋トレやランニング、魔法の訓練などの運動を行い、朝食というルーティンを確立した。


 「いつ仕掛けてくるのか…………」

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