一章
一
「
「待って」
俺が昇降口を出ると、後ろから二人の幼馴染の声が届く。
いつもなら待っているはずの俺が居なくて慌てているのだろう。
「ははっ、そんなに慌てなくてもいいだろ」
「しょうがないじゃない。いつも居る場所に居ないんだもん」
「綾人はたまに理解できないことをする」
「悪かったよ」
彼女たちが不満を漏らすも、すぐに謝り険悪にならないよう努める。
すると二人はすぐに俺のドッキリだと勘違いして、何事もなかったように定位置に着く。
右に
両手に華状態で、学校の人間の目を釘付けにしながら素知らぬ顔で歩き出す。
二人は学校のアイドル的存在で、男女共に人気がある。
美羽は、黒髪で長髪。髪は束ねることなくそのまま流し、前髪も眉毛の位置で切り揃えられている。一見大人しそうに見えるが天真爛漫。人に対しても分け隔てなく接っし、困ってることがあれば率先して手伝う。
みんなメロメロだ。
一方で千佳は、黒髪でボブ。スラっとしたスタイルで、過去にモデルのスカウトもきたほど。だいたい読書をしており、そのイメージ通り頭も良くクラスメイトに勉強を教えるほどで、親身に教える姿勢が好印象。
みんなメロメロだ。
てなわけで、二人はモテモテ。告白を毎日の如く受けている。
しかし、二人は必ずそれを断る。
理由は単純。
俺のことが好きなのだ。
どこにでも居そうな普通の学生の俺が、好きなのだ。
自分で言っていておかしいと思うが紛れもない事実。
見ていればわかるものだ。
「ねえ! 久しぶりに公園に行ってみない?」
「あー、あそこな」
「いいと思う」
唐突にどうしたと思うが、それは言わずに適当に相槌を打つ。
ただ、美羽の提案に千佳が乗り、昔遊んだ公園に向かうことになる。
正直そんなことをしては俺に危険が及ぶ。だが、多数決的にもここで拒否するのは空気が悪くなるため仕方ない。
二人もわかっているが抑えられなかったのだろう。
罰を受けるのは俺だけでいい。
「あんまり変わってないね」
「昔よくあれで遊んだ」
「そうだな」
公園に辿り着くと、美羽は懐かしむように言葉を溢し、千佳は思い出したのかボソリと呟く。
俺はいつものように適当に相槌を打ち、二人が公園に入って行くのを後ろから眺め、向かいの出入り口に向かって歩く。
遊具をチラチラと見て何となくの記憶を確かめ、向かいに到着すると二人の方へ視線を向ける。
二人は思い出に夢中だ。
「あれってあったっけ?」
「あったよ。綾人が補助してくれた」
「あー! そうだったね!」
思い出の共有を行う二人の声が響く。
ただ、俺は補助した記憶がない。
しかし、二人の記憶にあるのなら俺は補助をしたのだろう。
あの頃は忙しくて嫌なことしか記憶にない。
あまり思い出したくない記憶だ。
「懐かしかったね」
「うん。また来たい」
二人が俺のいる元へ近づいてくる。
それを見て俺は顔を上げ、二人を待つため公園と道の境に立ち到着を待つ。
ふと目をやると道には金髪の男がおり、近づいてくる美羽と千佳と同じ距離ほど離れていた。
速度も同じくらいで向かって来る。
俺はぶつかっても面倒だと思い、公園に再び入り事故を防ぐことにした。
しかし、二人と合流しようとしたところで俺の体が光だす。
「綾人!?」
「なに、それ」
「っ……!? 近づくな!」
慌てる二人にキツく言い放つ。
今までそんな態度を受けたことない二人は一瞬動きを止めてしまう。
しかし、何を考えたのか俺に抱きついてくる。
「何してる!? 離れろ!」
「嫌だ!」
「わたしも!」
どんどん光る強さが増していくのに対し、二人は必死にしがみつき、俺はどうしようもなくなる。
――――ひとりで行けたかもしれないのに。
二人は必死に抱きついてるせいか、俺を押していることに気づかずそのまま押し倒してしまう。
倒れ行く中、金髪の男が視界に入る。
男は俺たちに気づき一瞬固まったと思うと、現状を理解したのか大きくジャンプして近づいてきた。
――――お前もそうか。
心の中で言葉を溢す。
その瞬間、四人を激しい光が包む。
はぁ…………どうするかな。
二
意識が覚醒し、目を開ける。
近くにある自分の腕を見た後、奥には煌びやかな柱があり、ここが公園でないことを知らせる。
見える景色からうつ伏せの状態にあることを認識し、再び目を瞑りさっきから聞こえる声に意識を集中させる。
「――――――――のか」
「いえ、三人で呼び出しましたが、どうやら近くに居た一人が巻き込まれたようです」
「それはまた面倒な。強力なスキル保持者が一人事故で増えるとなると」
「ブルド。仕方のないことよ。有効に使えば良い。それに、人手は多いに越したことはない」
「流石であります。王よ」
始めの方はよくわからなかったが、会話から察するにあまり重要ではないようだ。
今必要な情報は、ここが異世界であること。強力なスキルを得ていること。召喚した理由、だ。
あとは。
――――ステータス。
心の中で唱えると、暗い視界の中にゲームのステータス画面が表示される。
(ビンゴだ。小説で読んだことある展開と思ったら、やはり)
ステータス表示を見て、完全に別世界に来たことを認識する。
その後、表示させた手前、ステータスをざっと見ていく。
表示されたのは名前。性別。種族。スキル。スキルの詳細ぐらいで、よくあるレベルなどは表示されなかった。
ただ、やはり異世界は自分の情報を可視化することができるようだ。忘れた過去のことも詳細に見ることができた。
スキルは《取捨選択》、《真実の瞳》、《勇者》と三つあった。
ざっと詳細を読んだところ、《取捨選択》は誰かのスキルを取ったり、自分のスキルを捨てることができるらしい。
《真実の瞳》は情報を得ることができる。
《勇者》に関しては、ただの証のようで発動しても光るだけらしい。召喚時に光ったのは間違いなくこのスキルのせいだろう。いつか捨てる。
スキルの詳細を覚えた俺は、いい加減起きた方がいいと思い、もう一度目を開き体に力を込める。
「おお、起きたようだ」
「お主、聞こえておるか」
立ち上がるとそこには話し声通り三人おり、一人は簡素なローブに身を包み、残り二人は王と側近といった感じで煌びやかな衣装に身を包んでいた。
話をしたのは王と側近らしい。
「ええ、聞こえてます。ただ、ここがどこだか」
「うむ。それに関しては説明する。だが、他の三人を起こしてからだ」
「そうですか」
王冠をしてることから王と認識しつつ会話をする。
近くにいる側近は眉を
俺は王の言う通り三人を起こすことにする。
「美羽、千佳。起きろ」
そう呼びかけ何度か二人の体を揺さぶると、二人はゆっくりと目を開きこちらを見上げる。
「とりあえず落ち着いていい。騒ぐことだけしないでくれ」
その言葉に二人はコクッと頷くことで返事をして立ち上がる。
二人は目の前にいた見知らぬ三人に慌ててお辞儀をする。
人種特有のものだろう。
ただ、その三人は微動だにせず二人を観察しているだけだった。
それを横目に見つつ、俺は巻き込まれたであろう金髪の男の体に触れようとする。
すると、急に目を見開き。
「うわっ! こ、ここ、どこ!?」
と、あからさまな驚きようを見せる。
俺はそれに呆れながらも軽く説明する。
「俺たちもわからない。でも、あの三人が教えてくれるらしい」
「そ、そうか。お前たちは日本人か?」
「ああ、そうだ。とりあえず話を聞こう」
「お、おう」
二人して何やってるんだという気持ちを抑えつつ、向かいにいる三人に向き直り説明を求める。
「説明、お願いできますか」
「よかろう。だが、まずは謝罪する。いきなり連れて来てすまなかった」
その瞬間、側近が何かを言おうとする。が、王の手によってそれは遮られ、考えられる無駄なやり取りを見ずに済んだ。
「ここはお主たちがいた世界とは違う世界。知っている土地は何もない。ここまでは良いか?」
「ええ、なんとか」
「娘たちは?」
「問題ないです」
「はい」
「お主は?」
「理解した」
「うむ。では、お主らを呼んだ理由を話そう」
そこから王は召喚したとされるローブの人間に魔法を使わせる。
俺以外の三人は目を輝かせて眺めていた。
いくつかの魔法を見せ、俺たちに魔法の存在を認めさせると、王が召喚した理由を話し出した。
「お主らを呼んだ、召喚したのは我が国の外に蔓延る魔物を狩ってほしいからだ。どうか救ってくれぬか」
短い言葉であるが、王にとってはこれが精一杯の頼みなのがわかる。かなり譲歩してだと思うが。
しかし、魔王の討伐ではなく魔物狩りという点。側近ではなく王が説明する点。これには違和感を感じる。
もしかしなくても、奴ら――――。
「わかりました」
「はい。力になります」
「やるしかないな」
俺が違和感を感じ疑いを持った瞬間、三人は何も聞くことなく王の願いを承諾した。
俺はそれに落胆する。が、表情には出さず、この場は承諾することにし、空気を悪くしないようにする。
「ええ、任せてください」
三
あの後、王は感謝し激励を送ってきた。
それで話は終わり、召喚した人間が案内人になると、それぞれに一室大きな部屋があると言われ、そこに案内された。
それに対し、俺以外の三人は喜んで部屋に入っていった。
俺は案内が最後になり、召喚者と二人になる。
そこで、俺は一つ質問することにした。
「一つ聞くが、あなたはこの国に仕える人間か?」
「…………」
しかし、召喚者は一言も発することなく目的の部屋まで向かった。
俺は地雷を踏んだのかと思ったが、忘れることにしてそのまま着いて行くことにした。
それから数分歩き、部屋の前に到着すると、召喚者が口を開いた。
「早く部屋に入れ。さっきの質問に答えてやる」
「ああ」
部屋に入ると、そこは大きな一室。ではなく、木造の小部屋だった。
それに少なからず驚いていると、後ろから声がかかる。
「私はこの国の人間ではない」
「ん? ああ、そうか。案内助かった」
俺は答えを聞くとすぐに話を切り上げ、早く出て行くような雰囲気を出して召喚者の退出を促す。
しかし。
「私からも質問する」
と、召喚者は出て行くどころか質問すると言い出した。
そのため、俺は一瞬で警戒心を高め、召喚者に顔を向ける。
「お前は何故勇者でないのに勇者のような素振りをする」
「勇者じゃない?」
俺は何を言っているのかわからず聞き返してしまう。
しかし、召喚者は真面目に聞いてくる。
「そうだ。お前は勇者ではないだろ? ステータスに勇者スキルはなかろう?」
何を言っているのだろう。
勇者スキルは俺が持っている。それなのに勇者ではないときた。
そこで俺は考えられる可能性を思い浮かべ、それを確かめるために聞き返す。
「逆に聞くが、あなたが俺を勇者でないと判断した理由は何だ?」
「そうだな。ハッキリ言うが、髪色だ」
「なるほど」
召喚者の答えを聞いて、俺はあることに気づく。
それは、他人のステータスを見ることができないということ。
しかし、それは《真実の瞳》のようなスキルがあれば可能。
ただ、あの場にはそのようなスキルを持った者が居なかったため、勇者を特定せずそのまま部屋に案内させたということだ。
今回の件は、召喚者が昔呼んだ勇者に関する特徴を勝手に当てはめた結果なのかもしれない。
俺は警戒するレベルが下がったとわかると、緊張を解いた。
「何がわかったのだ」
「聞きたいか?」
「ああ、聞かせてくれるのなら」
「まぁいいけど、聞いたら連絡手段だけ置いてこの国を出ろ」
「なに?」
召喚者は俺の言葉に眉を顰める。
しかし、俺はこのチャンスを逃さないために続ける。
「ならアンタとの連絡手段を教えるだけでいい」
「…………いいだろう」
渋々といった感じで、召喚者は俺の要求に承諾した。
「よし。まず、アンタの考えを訂正しよう。俺が勇者だ」
「なに?!」
「いいから聞け。俺は勇者だが、それを譲渡することができる」
「なっ……」
「俺はアンタが勇者と思った男を本当に勇者にし、この国を出る。王が嘘言ってんのはわかっている」
「そ、そこまで」
召喚者は嘘が発覚していることに驚き、信じられないという顔をする。
なかなか面白い表情であったが、俺は続ける。
「連絡手段を聞いたのは国を出る時に少し手を貸してほしいからだ。できるか?」
「あ、ああ、できる。が、本当にお前の言う通りになるのか?」
「なるさ」
「…………」
そこで俺は断言する。
召喚者はそんな俺の姿を見て黙る。
しかし、それからすぐに沈黙を破り、早口で説明を始める。
「細かい話は省くが、連絡手段は『交信』という魔法だ。ただ、それを行うには私の魔力を知らなければならない。しかし、今魔法を使うと面倒になるかもしれない。だから……」
そう言うと、召喚者はローブからナイフを取り出し自分の髪を数本切ると、一枚の紙を包みにしてそれを渡して来た。
「髪にも魔力が宿る。ということか」
「理解が早くて助かる。それでは」
「ああ」
召喚者は、俺の返事を聞く間もなく扉を開けて部屋を出て行った。
俺は扉が閉まると同時にベッドに寝転ぶ。
「ん? なんで俺だけ木造の小部屋?」
四
「整理しよう」
俺は自分だけ木造の小部屋であることが何故なのか考え始めた。
「ステータスを見ることができないことはわかっている。召喚者の話からも王と側近も知らないはずだ。ということは…………勇者か巻き込まれた者か……………………召喚者のせいじゃねぇか!」
答えに辿り着き思わず怒鳴る。
しかし、見た目で判断はよくわからない。ほんとに。
ただ、起きてしまったことは仕方ない。というより、この状況は俺にとってはプラスに働くかもしれない。
三人とは別方向の、それも角部屋。
近くに居れば美羽と千佳は遠慮なく部屋に入って来ていたかもしれない。
それがないというのはかなりプラスだ。
何も疑わずに王の言葉に返事をした三人、いや、二人か。美羽と千佳。アイツらはこれから俺が生きて行く上で邪魔でしかない。
勿論あと一人の男も邪魔だが、奴は違う方向で邪魔になるかもしれない。
となると、情報がいる。
まずは明日、美羽と千佳ともう一人の男のステータスを覗こう。
その他にも、出会った人や通り過ぎる人、王宮で見かけた人間は覗かせてもらおう。
俺の目的を悟られぬように行動することも忘れない。
この世界についてもある程度知っておきたい。
図書館はあるだろうか。
いや、王国の、それも王宮だ。
貴重な本や書物を蔵書しているに違いない。
召喚されて短い時間だが、人の服装や職業、建物の造りから、小説にもよく出て来ていた中世のような雰囲気を感じる。
世界が違うため確実なことではないが、王国はそこまで発展していないはずだ。
ただ、予測でしかないためそこら辺も調べておこう。
寝転びながらこれから行うことを整理し、明日からの行動を決める。
それが終わると、ある程度安心できたのか眠気が襲ってくる。
少し抗おうと試みるも、案外疲れていたためか、俺はすぐに瞼を閉じて眠りについた。
「それにしても、金髪ばっかだなぁ…………」
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