第7話 館長の思い出
みなさん、こんにちは。館長の海崎
一応、この水族館始まって以来、初めての生え抜きの館長として少しだけ話題になりました。
空前絶後の抜擢とも言われましたが、これからは私のような館長が増えると思っておりますよ。
でも、どうしてですかね。
私が行うことって、なぜか注目されるんですよ。
「空前絶後のナントカ」って。
そんなに意外でしょうかねぇ。
あ! 一つだけ、空前絶後の取り組みと思ったものがありますね!
「マモルンジャー」は、私もおもしろいと思っているんですよ。
マモルンジャーを始めた当時は、あまり期待されていなかったのですが、始めてしまえば、人気はうなぎ上りでした。
少しずつゴミをちゃんとゴミ箱に捨てるとか、海とプラスチックの問題に関心を持ってもらうとか、そういった事に貢献していると思いますね。
あとは、意外にもうちのスタッフがマモルンジャーを楽しんでいるのがおもしろいですね。
彼ら三人が楽しそうにしているのを見ると、こちらも楽しくなります。
イルカショーやアシカショーなどとのコラボ企画は、実はとても人気です。
子どもからの人気が高いのがとても嬉しく思います。
敵役のブラック・ハートには、俳優を目指されている方々にお願いしております。
あまりバイト代を出すことができないのですが、ブラック・ハート役は子どもだけでなく大人からの人気が高くて、この水族館をきっかけにより大きな舞台へと進まれる方がいらっしゃるようになったので、本当に嬉しく思っております。
この水族館にはまだまだおもしろいお話がたくさんあるのですが、それはまた追々お話しすることにしますね。
それでは、今回は新たにこの水族館の動物たちの仲間入りしたイルカの赤ちゃんに関するお話でもしましょうか。
私は、この間、体験実習に来てくれた二人、佐藤亜久愛さんと鈴木大洋さんに最後の任意課題を出しました。
これは、強制はしておりませんし、提出する場合、名前の記入はいらないと言いましたからね。
なので、彼らが実際に最後の課題に取り組んでくれたかどうかは分かりません。
彼らに任意課題として出したのは、「生まれたイルカの赤ちゃんの名前を考えること」です。
今回は私たちスタッフの中で決めましょうということで、スタッフのみ参加の公募制で決めることにしました。
なので、たとえ一週間しか活動していなくても、体験実習に来てくれた二人は、私にとっては大事なスタッフの一員。
そう思いましたら、彼らにもお願いしたくなってしまったのです。
名前の公募期間は昨日でおしまいにしたので、私はスタッフが一生懸命考えて投稿してくれた名前を確認する作業をし始めました。
「ひなた」と書かれたものがありますね。理由は「館長が『陽光』だから」だそうです。嬉しいですね。ありがとうございます。
こちらは「なみ」。理由は「意外にもこの水族館でその名前を付けられた子がいないから」。たしかに、この水族館にはいませんね。
私は、みなさんが考えてくれた名前一つ一つを丁寧に読んでいきました。
何枚かを読み終わった後に、手に取った紙で私の手が止まりました。
そして、私は思わず、にっこりと笑ってしまいました。
「館長、何を笑っているんですか?」
「あぁ、いえいえ、何でもありません」
「そうですか」
私に聞いてきたスタッフは、その後さらに問い詰めるような事をせずに、目線を机の上にある書面に向けました。
彼が真面目な方でよかったです。
少しだけ話が反れてしまいますが、私が、まだ中堅で、飼育課長だったころの話です。
この水族館で産まれた赤ちゃんの名前の公募をしました。
水族館に訪れる人みんなに応募用紙を配って大々的に募集しました。
この時も、みなさん、素敵な名前を考えてくれましてね。
私も選考に携わっていて、選考する側がどれも素敵だから選べないと悩むくらいでした。
その中で、個人的に良いなって思った応募用紙がありました。
名前よりも理由に惹かれちゃったんですよね。
なんか応援したいなぁって。
この子を応援したら、自分の方も成功するかなぁって。
それで、私はその紙に書かれた名前を選びました。
そして、私は、当時、恋焦がれた方に告白しました。
現在、その方が私の配偶者となりました。
今でも、あの紙の子に背中を押してもらった気がしております。
あの紙には、『すいぞくかんだから』と大きく書いてありました。
でもその文字の下に小さく書いてありました。『すきなこのなまえだから』と。
今、私が持つ紙を見たら、なんとなくそうかなと思ってしまったのです。
ふふっ。いい大人が邪推してはいけませんよね。
私が持つ紙には、産まれてきた赤ちゃんの名前と理由が書いてありました。
その理由として、「水族館だから」と。そして、「アクアの子どもだから」と。
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