王立学院首席卒業者、リゼ・テレストラシオン
リゼ・テレストラシオン、私は学生時代、天才と呼ばれていた。
生まれ持った身体能力、それに驕ることなくたゆまぬ努力を続けた結果、戦闘能力で私の右に出る者はいなかった。
ただ一人を除いて。
学院に入学してから1か月後、クラスメイトとの模擬戦で一番最後に当たった子だった。
使用武器は私がレイピアで彼は片手剣カテゴリの中でもあまり使われない刀。
(今の戦績は39戦39勝…最後だから気を抜かずに相手しないと)
そう思って彼に切っ先を向ける。
「…お願いします」
「うん、よろしく」
軽く挨拶して、一歩踏み込む――
「シッ!」
「えっ、――セイッ!」
一歩踏み込んだ瞬間、もうすでに踏み込んだ相手が目の前にいた。慌ててレイピアを振るい迎撃する。
(私のステータスについていけるほどのステータスも相手が持っているってこと?)
私の配分は敏捷性重視の高速戦闘スタイル。相手に反応する隙を与えず、ひたすら連撃で押し込んでいく。
(…でもっ!)
この相手にはそれが通用しない。レイピア下位スキル最速の4連撃『フォージョイント』、両肩と両膝の関節を狙った攻撃も、最小限のステップで躱された。
「速いなぁ…」
「どっちが、よっ!」
横薙ぎを放って、一度距離を取る。
(どうにかして立て直さないと…)
現在は攻撃を続けさせられている相手ペース、ここからどうにか主導権を――
そう思って仕掛けようと構えたが、彼が鞘に刀を収めた瞬間に私の全身を悪寒が貫いた。
(な、何これ、これ以上動いたら、死――)
「『閃刃』」
刀スキルの名前が聞こえた瞬間、私の目には鞘から覗く白い刀身が光るのが見えた。
「っ!」
半ば勘で防御態勢を取る、右下から左上にかけての逆袈裟斬りの防御に成功する。
「ハッ!」
「きゃあ!」
しかし彼の刀が体勢を崩した私のレイピアを弾き飛ばした。
「勝負あり!」
指導官から制止の声が上がり、そこで終了となった。
「ありがとうございました」
「…ありがとうございました」
礼をして息を吐く。ここまで完璧に負けたのは久しぶりだ。
刀を鞘に納める彼に称賛の一言でも言ってあげようと近寄ると、
「ねえ、その武器君にあってないんじゃない? 変えたら?」
黒い髪に青い瞳。自分の正反対の容姿の相手にそう言われた。
「は…?」
「いやさ、なんかしっくりきてない印象だったから。」
この世界で、相手の使っている武器をけなしたりするのは、あまり褒められた行為ではない。なぜなら、その武器のスキルレベルを上げるために多大な努力を必要とするからだ。もちろん私も怒った。
「なんでよ! 今まで私が積み重ねてきた物を捨てろって言うの?!」
今までの長い年月をかけて細剣スキルを上げてきた。それを否定されるなんて…
「そう言うわけじゃない。でも、自分にあった武器を使わないと」
「君が私に何と言おうと、私の武器はこのレイピアなの」
「でも自分にぴったりの武器を使わないと、ダンジョンで死ぬかもしれない」
分かっている。最近からだんだんと細剣の感覚がずれ始めたこと。
彼が私のことを思って言っているのも分かっている。
「だったら君が私にあう武器を見つけてよ!」
でも、私が今までに積み重ねてきたものを捨てるのは嫌だった。そう思って彼に思いをぶつけたが、返ってきたのは落ち着いた返事だった。
「分かった。それじゃ双剣とかどうだろう。敏捷力バフが付くし、今のステータスとの相性もいい」
そのころから、彼…ユノ・アスフェルトとの交流が始まった。
=============
「ねえ、あの武器、ちょっと気に入らないかも」
寮の談話室でリゼが声をかけると、ユノは読んでいた本を閉じて顔を上げた。
「え、双剣がダメ? 敏捷性重視ならちょうどいいと思ったんだけど」
「なんかしっくりこないっていうか」
「うーん。でもなぁ。片手剣じゃ筋力の高い相手に弾かれるし…」
そう言って悩むユノ。
「あ、机の上にごみ置きっぱなしじゃない」
「あ、ゴメン。片づけようと思ってたんだけど…」
「捨てておくから。貸して」
リゼはそう言ってユノから包み紙を受け取ると、ノールックで部屋の隅のゴミ箱に投げ捨てた。
「え、すご」
「得意なんだよ。ゴミ箱に見ないで投げ入れたりするの」
「へえ…」
知ったところで特に意味のない自慢をすると、ユノが真剣に考えこんだ。
「ねえリゼ、これも捨ててくれない?」
「ん? いいよ」
もう一度リゼが後ろ向きでゴミ箱にごみを投げ捨てる。
「はい」
「…なるほどね」
「なにが?」
一人で納得しているユノにリゼが尋ねる。
「…もしかしたら君にあった武器が分かったかもしれない」
「え?」
彼が言うには、リゼは生まれつき空間認識能力が高いのだという。今まで本人でさえ気づかなかった才能を見つけ出し、ひたすらそれをを伸ばすことにした。
そしてユノに勧められた武器が見事にハマり、次々と大会や試験で優秀な成績を収めたことで王立学院を首席で卒業することができた。
ただ、本人は自分の才能を引き出してくれたユノこそが主席にふさわしいと思っているのだが。
「むー!」
卒業式で国王から証書をもらった後。リゼとユノは学院に続く目抜き通りを歩いていた。
「卒業したのになんでそんな頬を膨らませ不機嫌にしてるんだいリゼさんや」
「なんでユノが次席なのよ。納得いかない!」
「まあ、俺の事嫌ってる先生方もいるしなぁ」
「私なんて座学は平均くらいではっきり言って脳筋だよ!? でもユノは勉強もできて、魔法なんて超一流だし、剣の腕も私と同じくらいだし、料理できるし、かっこいいし……絶対ユノの方が評価高いよ!」
「実績だよ、実績。キミが5つの武闘大会を制している間、俺は魔法理論の論文を1個出すので精いっぱい」
「でも私と一緒に参加して優勝した大会もあったじゃない!」
「ほとんどリゼの手柄って言われて俺がほとんどいなかったことになってるけど」
「あんの学院の狸たちめ…!」
リゼがそう悪態を吐くと、頭に手刀が打ち込まれた。
「あだっ! …何すんの!?」
「とにかく、君は首席なんだ。今更うじうじ言うな。そんなことでくよくよしてんだったら、夢を叶えるなんて夢のまた夢だぞ」
「そ、それはそうかもだけど」
「俺は俺の、君は君の夢がある。過ぎたことを気にしても仕方がない」
「ユノは…武器職人になるんだっけ」
「うん、神器に勝るとも劣らない、最高の武器を造る」
「そっか。残念だな」
「え?」
「私ね、ユノと街一番ギルドでパーティ組みたかったんだ」
「そうだったのか。知らなんだ」
「嘘つき。知ってるでしょ常々誘ってたんだから」
リゼがそうツッコむと、ユノは困ったように笑った。
「そうか、じゃあ君の夢は叶わないなぁ」
「私、諦めないからね。絶対パートナーにするんだから」
「武器職人をパートナーにするつもりで?」
「クエスト先でもすぐに武器修繕してくれるし結構ありだと思う」
「ねーよ。街で武器屋でも開くから、武器のメンテはそこでしてくれ」
やれやれと手を振るユノに、それでもいいかとリゼは頬を緩めた。
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だがしかし、卒業後1年。ユノは連絡の一つも寄越さなければ自分の武器屋の居場所すら教えてくれない。
何かあったのだろうかとぼーっとして怪我をしたこともある。
これは責任を取らせなければ。私に連絡をくれなかったこと、私に怪我をさせたこと、その他諸々私のことで。
「あっちの街の端って言ってたよね」
今すぐにでも向かいたいが今はちょうどクエストに向かう途中だ。明日にでも向かおう。
「また今度ね、ユノ」
そう言って可憐なギルドのルーキーは踵を返していった。
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