武器職人で魔導士で剣士なんだけど、誰か助けてくれない?

梢 葉月

俺が作った自慢の武器、すぐ壊されるんだけどどうすりゃいい?

王立学院次席卒業者、ユノ・アスフェルト

「次席、ユノ・アスフェルト」


「はい」


 王都中心部、国王が住む荘厳な宮殿にて、俺の名前が呼ばれた。


 緋色の絨毯を踏みしめながら、一歩一歩前に踏み出す。


 階段を上がり、玉座に座る現国王と対面。


「次席、ユノ・アスフェルト。そなたは――」


 国王が何を話しているか、そのことについてはほとんど覚えていない。だって興味ねーし。


 国を治めているオッサンの声よりも心惹かれていたのは、玉座の周囲からひしひしと伝わる魔力の波動。


 かつての大戦の折、5人の武器職人が造り上げた神器たちだ。


 3年前、学院の入学式のためここに並んだ時から決めていた。


 ――“いつか、この神器に並ぶような武器を造ってみせる”――


「――よって、ここにそなたの卒業を認める。これからもその類稀な才能を存分に発揮したまえ」


「はっ」


 9割9分聞き流した話を胸に、俺は未来へ一歩踏み出した……






「……はずだったんだけどなぁ」


 あれから1年。街の端で小さな武器屋を営み始めたはいいものの、客からの評判は悪

 く1週間連続で閑古鳥が鳴いていた。


「この前卸した剣とか、自信あったんだけどな」


 幸い学院時代の伝手で数ある騎士団の一つから定期的に武器を卸させてもらってもらっているのだが、すぐ壊れるとのことでこの前クレームが届いた。


「…俺、武器職人向いてないのかな」


 この5年間、必死で鍛冶スキルを磨いてきた。しかしその傍らで戦闘系のスキルにもポイントを割り振っていたから、技術が足りていないのかもしれない。


 カウンターの上で突っ伏しながら、今後の人生について予想してみた。


「まずそろそろ騎士団との定期購入がなくなって収入はゼロ。それどころか武器の品質が低すぎるせいで訴えられて人生バッドエンド…!」


 人生19年……こんなところで終わるとは…


「もういっそ店を捨てて冒険者として生きようか」


 それもありだなと思いつつ、俺は武器の置かれた棚を掃除しはじめる。

 もし万が一お客が来た時、少しでも雰囲気をよくしたいからだ。


 そんなふうに暇をつぶす言い訳を並べていると、ドアに憑りつけた鈴がチリンとなった。


「えっ?」


 今は平日の昼間だ。冒険者の人たちはクエストを受けに出ているだろうし、騎士団は訓練中。他に訪れるような人が…?


 そう思って振り返ると、ドアの手前に可愛らしい青い髪の女の子が立っていた。


 年齢は…15歳くらいだろうか。立ち方からして使用武器は細剣レイピア、いやしかし片手剣ワンハンドを使っても振り回されないくらいの筋力はあると思われる。


「…あ、あの」


 おっとしまった。つい夢中になって分析してしまったな。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


 俺が挨拶をすると少女は少し戸惑いながらこう答えた。


「お、王立学院に入学するんですけど、ぶ、武器を見繕っていただきたくて」


 =============


「えーっと、じゃあステータス用紙は持ってる?」


 俺は少女にあった武器を探すため、彼女のステータスが書かれた用紙を要求する。


「は、はい。これです」


 少し怯えながら少女が紙を渡してきた。


「えーっと、片手剣カテゴリがLv.25、細剣がLv.15、ステータスはAGI敏捷性重視、うん、普通の細剣使いの割り振りだね」


 ただ、カテゴリレベルをLv.20以上にしているのはすごいと思う。幼少期から戦闘経験を積んでいたのだろう。


「えーっと、そのくらいのSTR筋力値で使いやすいレイピアは…こんなのとかどうかな」


 一振りのレイピアを少女に握らせてみる。


「あ、結構軽いです。じゃあこれで…」


「あ、いや、ちょっと待って。これが軽かったら…これかな」


 少女の感想を聞いたところで俺はもう一つレイピアを握らせる。


「これ、さっきのとあんまり変わらない気がするんですけど」


「ナックルガードに重量分散の付与魔法エンチャントを付与してある。それがなかったらさっきの1.5倍の重さかな」


「そうなんですか! へええ。エンチャントができる職人さんって少ないって聞いてたんですけど、すごいですね!」


 久しぶりに称賛の声を聞き、嬉しくなってしまう。


「その剣、刀身にミスリルを使ってるから物理攻撃耐性持ちにも効くよ」


「ええっ!? ミスリルですか? そんなの使ってる剣なんて高くて買えない…」


 驚愕し、しょぼくれる少女に、笑いながら値札を指す。


「え、こ、ここにある武器全部銀貨1枚!?」


「生憎と評判が悪くてね。値下げせざるを得ないんだ。これなら買える?」


「は、はい!」


 少女から銀貨1枚をもらい、俺は剣を保護用の布で包む。


「よかったな。やっと買い手が見つかって」


 それもなかなかの剣士だ。剣も使ってもらえて本望だろう。


「はい。メンテナンスとかがあったらまた来てね」


「はいっ」


 久しぶりのお客様はたいそう満足げな表情で店を出ていった。


「…王立学院かぁ」


 優秀な騎士、研究者を育成することを目的として設立されたその学校は、いまや国中の子供たちの憧れになっている。俺も合格するためにひたすら魔法書を読み漁ったっけなぁ。


 確か入学式は毎年4月1日に行われるはず。もうそんな時期か。


「同期の皆は元気なのかな」


 みんなそれぞれの道を歩んでいるはずだ。たしか首席で卒業したアイツは冒険者ギルドで名を挙げていると聞いた。


「さて、明日は休みにして、武器素材の調達にでも行くか」


 =============


「ふんふふーん」


 ユノの店から出てきた少女は、剣の入った包みを抱えながら意気揚々と街を歩いてい

 た。


「おう、嬢ちゃん。何やら上機嫌じゃねぇか」


「はい! 学院で使う剣を買ったんです!」


 顔馴染みの店主に声をかけられ、少女は嬉しそうにそう言った。


「そうか、嬢ちゃんもそんな歳か。頑張れよ?」


「はいっ、私もお父さんみたいな立派な冒険者になります!」


「そうかそうか。そういえばこの街のトップギルドのエースも女の人だったな」


「アーセナルのリゼ・テレストラシオンさんですよね! 学院を卒業して1年で最強

 クランのエースなんて、すごすぎます!」


「ん? 呼んだ?」


 少女が勢い込んで店主と話していると、後ろから鈴を転がしたような声が響いた。


「えっ、えええっ!?」


 少女が振り返ると、そこには真っ白な髪を靡かせたまだあどけなさの残る女性が。


「じ、嬢ちゃん、この人が、もしかして…?」


「う、うん。ギルドのエースのリゼさんだよ」


「う、美しい…」


 琥珀色の瞳に店主はハートを撃ち抜かれたようだ。


「やれやれ、これだから男ってもんは……アンタ! 見惚れてないでさっさと店の仕事しな!」


 奥さんがぼーっとしている店主を引っ張って店の中に引っ込んだ。

「あれ、お取込み中だったかな?」

「い、いえ! そんなことないです!」


「あはは、聞いてたよ。学院に入学するんだってね」

「は、はい!」


 まさか話の初めから終わりまで聞かれていたとは思わず、顔を赤らめる。


「学院の授業は結構きついけど、それ以上に学院での生活は楽しいからね」


「あ、ありがとうございます! あの、特にキツイのってありますか?」


「やっぱり課題かなー。魔法理論の先生が長期休暇の時ものすごい量の課題を出してくるから気を付けて。私も友達に手伝ってもらわなかったら夏季休暇がなくなってた」


「そうだったんですね…!」


 雲の上の人物であるリゼが宿題に追われていたと知り、少女は思わず頬を緩ませた。


「その包み…」


「あ、はい! さっき武器屋で買ってきたんです!」


「へえ、見せてもらってもいい?」


「どうぞ!」


 断れるわけもなく、少女は包みの中の細剣を渡す。リゼはそれを受け取ると、滑らかに抜刀した。


「…いい剣だね。高かったんじゃない?」


「いえ、銀貨1枚で売ってくれました」


「銀貨一枚で…!?」


 リゼが驚愕するのも無理はない。このレベルの剣は熟練の職人でもひと月に1本打てるかという一品。金貨10枚で売るものだ。


 途端にリゼの目つきが鋭くなる。


「それ、どこの武器屋で買ったの?」


「あっちの、町の端の方に」


 少女が指差した方をじっと見つめた後、剣を少女に返した。


「ありがとう。大切にしなよ」


「はい!」


 少女はまた剣を抱えながら走り去っていった。


「……もしかして君なのかな」


 もう少し走り出すタイミングが遅ければ、頬を染めた彼女の顔を見れたかもしれない。

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