素材集めと討伐依頼とバッティング
「…ぁふ」
少女が店を訪れてくれた翌日。俺は店の2階である自分の部屋で目を覚ました。
時刻は午前6時。今から出かければ夜行性の魔物はもう寝ているだろう。
「…いくか」
意識を覚醒させるとともに、俺は《
この魔法は複数人の服をしまうことができ、冒険者のパーティなどでも重宝されるが、高難度の空間魔法に分類されるので使える者は少ない。
なかなか高額だった火炎・氷結耐性を持つワイバーンの革製のコートを着て、俺は家を出た。
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街を出て1時間ほど移動したところにある森林。ここで採取できる油分の多いオルイコの実が武器の潤滑油に必要なのだ。
普通に売ってなくもないが、ちょっとお高いうえに品質もバラバラなのでこうして自分で取りに行っているのである。
「うーん、昼までに100個は集めておきたいところ」
実がなるオイルコの木は環境の変化に弱く、湿度が高いとすぐに枯れてしまうので森の中にはあまり自生しない。
そのくせ水を吸い込んだ実はさらさらとした油を抽出することができるのでとてつもなく面倒なのだ。
「オーク、5体目かな?」
俺は刀で本日5体目の魔物をぶった斬る。
オークはレベルの低いやつなら力があるだけのノロマなのでこちらの敏捷力で先手を取って行動不能にしてやればいい。
「…やけに多いな」
採集を開始してから3時間ほど。今日は運が悪くまだ目標の個数の実を集められていない。その代わり魔物からのドロップ品がとても集まってしまう。いま両断したので10体目のオーク。いつもなら数匹と出くわすくらいなのに、何かあったのだろうか。
「…《
探知魔法で周辺1㎞をサーチしてみると、俺の進行方向に20ほどの小さな魔力反応。これは多分オークだろう。
そしてその後ろに、迷宮のフロアボス並みの大きさの魔力反応が1つ。それと戦っているのか、4つほど中くらいの魔力反応があった。
通常、この森はレベルの低いオークやゴブリンのみしか生息していないので、しんじんの冒険者がよく通うのだが……なんにせよこのままだと街にも被害が出そうだ。
「おっと」
確認するや否や、オークが奥から飛び出してきた。オークだけにねっ!
「そんなギャグ言ってる場合じゃないな…」
おそらく彼らも大きな魔力反応から逃げるためにこちらに来ているのだろう。ただ、このまま進むと人間の住む村まで到着し、襲撃が行われる可能性がある。
「まあ、討伐しとくか」
憂いは絶っておこう。ただ、奥にいる奴の方に早く向かった方がいいと思うので、時間はかけられない。
俺は刀を一度鞘に納め、腰を低くして20体のオークを見据える。
「『気斬』!」
片手剣というか武器スキルのほとんどで取得できる、自分の魔力を武器に流し込む『魔力強化』から、流し込んだ魔力を攻撃に合わせて射出する下位スキル『気斬』。
通常は射程距離5mほどだが、俺の
一撃で決めるために相手に対してほとんど右を向いた状態で腰を捻り抜刀した。
すると目論み通り幅5mほどの飛ぶ斬撃が生まれ、20体のオークは一瞬にして切り捨てられた。
「さて、向かうとしよう。」
一体、この新人向けの森に何が起きているのか。
俺は刀を納刀して駆け出した。
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なぜこうなってしまったのか
「むー!」
「リ、リゼさん。落ち着いてください」
パーティーのメンバーの一人になだめられながら私はレイピアを構える。
目の前には緊急クエストで討伐の依頼を受けたオークの最上位種、オークロードが立ちふさがっていた。
(なんで!? 昨日のクエストは面倒なやつだけど徹夜で終わらせてユノの武器屋に行けると思ったのにぃぃい!!)
ちょうどクエストから帰ってきたときにギルドリーダーから緊急クエストの話を聞き、その場ですぐに動けるのは私たちしかいないということで駆り出されたのだ。
「ぐっ、こいつ、強…」
内心でこの不運を嘆きつつここまで至った経緯を振り返っていると、同じパーティーの剣士ハンスがオークロードの持つ
「ティーゼ! ハンスに《
「はい! 1分で終わらせます!」
「その間は私とホルンで引きつける!」
「分かりました!」
前衛として最もヘイトを引き付けやすい私と、敏捷力極振りの短剣使いホルンで時間を稼ぐ。
こういう時、彼となら10秒もヘイトを稼ぐ必要なんてなかった。
『いたっ! ごめんユノ!』
『大丈夫! 《
『治った!』
『よし、合わせるよ!』
そもそも、全系統の中で最も難易度の高い治癒魔法を1秒以下で高速発動させることができる人材を求めるのが贅沢と言えば贅沢なのだが、彼がいてくれたおかげで圧倒的に戦闘がやりやすかった。
「はぁああっ!!」
オークロードが振り下ろしてきたメイスを連続突きで軌道を逸らして回避する。
「大丈夫ですかリゼさん!」
「うん! そっちに集中して! 踏みつけ来るよ!」
「へっ、ぎゃああああ!!!」
「…っ、もう!」
私に気を取られた短剣使いはあっという間に踏みつぶされる。
「ティーゼ! ホルンの治癒もお願い!」
「えぇ、もう魔力が…」
確か彼女の魔力量は500程度、私と同じくらいだが、この戦闘が開始してからかれこれ10回は魔法を発動しているのでもうガス欠か。
「リゼさん! 撤退しよう! このままじゃ俺たちも死んじまう!」
治療中のハンスが体を起こしてそう叫ぶが、それと同時に私も反射的に叫んだ。
「何言ってんの!? このまま私たちが撤退したら確実に街に被害が出るよ!」
「撤退すべきです! 他の隊からの応援を呼ばないと!」
「くっ…」
オークの横振りを回避しながら私は必死に頭を回して考える。
スピードもレベルも、こちらが上回っている。なのに決着がつかないのはオークロードのHPと守備力が高いからだ。
さらにオークの固有スキル《
一撃の火力よりスピードで連続してダメージを与える私の攻撃では、回避に転じた隙に回復されてしまう。
「火力、火力さえあれば…」
「リゼさん!」
「え…っ!」
考え事をしていたためオークロードが放った攻撃に気づくのが遅れた。レイピアを盾に何とか防御をするが、体力を削られ吹き飛ばされた。
「くッ!」
オークロードのヘイトは私のまま。仕方ない、ここは引きつけて街から遠ざけるしか…
そう考えたとき、後ろの森からガサガサと何かが走ってくる音が聞こえた。
音はどんどん近づき、私の横から漆黒の影が飛び出し――
「え、リゼ?」
「っ、ユ、ユノ?」
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森の中を駆け抜け、魔力反応のあった地点に行くと、大きな魔力反応はオークロード。そしてそれを相手にしていたのはなんと学院時代の友達であるリゼだった。
「ユノ、なんでこんなところに…」
「そっちは、あれと戦ってたのか?」
「う、うん」
オークロードは突然現れた闖入者に警戒し動いていない。
「怪我は?」
「さっき一発もらっちゃった」
「すぐ治すよ。《快癒》」
治癒魔法を発動してリゼの傷を治す。
「ありがとう。やっぱりユノがいると違うね」
「ああ、それで、アイツどうするの?」
アイツとはもちろん眼前のオークロードの事だ。
「さっきは火力不足で手が出せなかったけど、ユノが来てくれたんなら話は別。ここで斃す」
「分かった……そのレイピアまだ使ってるんだな」
彼女が右手に持ったレイピアは学院時代に俺が打った物だ。学院内のダンジョンの深層に潜って手に入れたレア素材をふんだんに使用した一品だが、今でも使っているとは思わなかった。
「うん。私にとって大切なものだから」
「積もる話もあるけれど、まずは目の前の危機を乗り越えようか」
「うん、分かった」
一瞬の目配せだけで俺達は反撃を開始した。
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