夜が消えた日
柴田 恭太朗
夜がなければ夜は明けない。永遠に
その日、宇宙空間に浮かぶ円筒形のコロニーから夜が消えた。
コロニーの内部照明を常時点灯したままにするだけで、夜を完全に排除できるから簡単なことである。目的はコロニーの生産力向上。夜をなくし、二十四時間労働を行うことで生産性を倍にすることが目的だった。
もちろん宇宙空間といえども、人間にとって睡眠は必要不可欠。そこでコロニーの政府は一日を二等分するとともに、人口も二等分し、仕事、勉学、余暇、睡眠などなど一切を二交代制とすることとした。
コロニー政府議会。
壇上の首相は、議場を埋め尽くした300人の議員の顔を見渡した。厳選された英知の集合である。首相は誇らしい気分になる。
「さて、二等分したグループの名称ですが、どう呼称するのがよろしいか。知恵を絞って提案していただきたい」
「一班、二班」「Aチーム、Bチーム」
えりすぐりの議員たちが次々と挙手し、自分の案を述べてゆく。
「序列や優劣を感じさせる名称は不適切と思わないかね? いずれのグループも平等なイメージにしたい」
首相の発言に議場はざわついた。もっともだと感心する声があがる。
「ウサギさんチーム、トラさんチームはいかがでしょう?」
「動物ね、いいアイデアだけど捕食・被捕食関係にあるのは良くないかな」
「ウサギさん、亀さん」
「互いに襲わないから良さそうだけど、それってさ、もうイソップ寓話的に勝負ついてますから」
「ナキウサギ、エゾナキウサギ」
「それ区別つく? いったん忘れて。ウサギ忘れて」
「水と油」
「あ、対立しそうなのもダメですね。コロニーを二分して抗争が起きるとマズい」
「山と海」
「バカンス感満載っすな。一応仕事もするチーム分けなので」
「森と湖」
「それいいかも? 自然シリーズね。SDGsに配慮している感じもあるし。候補としてメモってください」
その後三日をかけて、300人の議員は次々とアイデアを出した。しかし、いずれも決定力にかける案ばかりである。仮候補の山だけが積みあがっていく。
メモの山を前に首相がぼやいた。
「こんな状態では、夜が明けるぞ」
「首相、もう夜は存在しないので明けることもありません」、副首相が訂正する。
「この会議の終了予定は?」
「夜がないので閉会時間もクソもありません。永遠に続くのです」
首相の緊急動議により即座に夜が復活することが決まった。三日続いた会議に議員らも自らの生命の危機を感じたからである。
そのコロニーから「夜が消えた日」が消えた。
夜が消えた日 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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