サットヴァの受難

 8月に入り、バブルの外では標高1,500メートルでも、昼間の最高気温が40度を超えるようになった。しかし、バブル内では5月と変わらず快適な20度台が維持されている。

 31人の監視が続けられる中、ハイバネーション・フィジシャンのジュリア・スワルコフとハイバネーション所属のエンジニア、リリー・シュレージが動いた。

 ハイバネーション所属のリズクは、ハイバネーションのブロックAIサラスバティに同じ所属のメンバーがどこで仕事をしているかをいつでも尋ねられる。

 データに改ざんの可能性があることから、リズクは、監視対象の31人のうちハイバネーションに所属する5人が、サラスバティが把握している居場所に実際にいるかを監視していた。

 これまでは、リズクが跡をつけると、予定どおりの場所に行くだけで監視は徒労に終わっていた。

 しかし、この日は違った。ジュリア・スワルコフはエンセファロンの地下21階ハイバネーション・バンク9番に行くはずだった。しかし、リズクがスワルコフの跡をつけると、実際には地下21階ではなく25階でモバイル・チューブを出たことが分かった。

 同じ地下25階に行って鉢合わせになることは避けねばならない。リズクは、この日はそれ以上接近することは諦めた。

 翌日、地下21階ハイバネーション・バンク9番に行くはずのスワルコフは、再び地下25階に行った。

 そこでリズクはそのさらに翌日、スワルコフが地下21階ハイバネーション・バンク9番を訪れる予定時刻に、先回りしてハイバネーション・バンクが並ぶホールで隠れて待つことにした。

 ハイバネーション・バンクに閉じ込めているサットヴァの体調に異変が生じたか、遺伝子や幹細胞の採取などの処置を行っていると踏んだのだ。

 スワルコフは、リズクの予想どおり、ネットワークの31人の1人であるエンジニアのリリー・シュレージと一緒にハイバネーション・ホールに入ってきた。

 そして、12番のハイバネーション・バンクの前で立ち止まり、3次元ディスプレイからハイバネーション・バンクのシェルを開けた。中から長期休眠用の培養槽が現れた。

 15メートル近く離れたリズクからでも、照明に照らされた培養槽の中にいるサットヴァの真っ白な肌を確認できた。

 スワルコフは、頭上から照射される青い光の球体に手を入れ、培養槽内のサットヴァに触れているようだった。

 5分ほど経つと、スワルコフは青い光から手を出し、培養槽の下部のポケットを開けて小さなコンテナを取り出した。どうやら何かを採取したようだ。

 取り出した何かをエンジニアのシュレージに手渡すと、ハイバネーション・バンクのシェルを閉じ、3次元ディスプレイを消去してホールを出ていった。

 しばらく時間を置いて、リズクは隠れていた場所から通路へと出た。ハイバネーション・バンクが何列も並ぶ巨大なハイバネーション・ホールを見回し、目にした現実が本当に現実なのか確信を持てなくなりそうになっていた。

「ここに、いったい何人のサットヴァが囚われているのか?」


 サットヴァ研究推進派の本格的な捜査が始まって3ヶ月が過ぎようとしていた。ジュビ、ジャマール、ネイトの3人は、捜査対象者が遠征用エア・ビークルも機材もまったく使用する気配がないことに痺れを切らしていた。

 ソフィアは、2388年、最終的にサットヴァの遺伝子や幹細胞を用いた治療法に関する情報の開示を制限した。サットヴァ研究推進派はそれ以来ずっと、ソフィアに気づかれずに研究を続けてきたと思われる。簡単にしっぽを出すわけがない。

 もやもやした気持ちのままバブル内での31人の動きを監視しているだけでは、サットヴァ捕獲の実態を掴むのは難しい。

 そこで、ジュビたちはラーラと連絡を取り、クシャーンティで密猟者の目撃情報や被害の実態を調べてもらうことにした。そうした情報を元に、密猟が行われた場所を訪れてみることにしたのだ。

 ラーラがくれた通信ボックスでラーラを呼び出すと、すぐにラーラの3次元イメージが現れた。

 ジュビは、2ヶ月半ぶりに見るラーラの姿に心が踊った。青白いほどに白いラーラの肌は透き通るように美しかった。エメラルドグリーンの目の中のディープグリーンの瞳はジュビの心の底までも見透かすようだった。

「分かりました。クシャーンティの人々に聞いてみましょう」

ラーラは、ジュビからサットヴァがクロノスで囚われていること、密猟者の実態調査の話を聞いてとても悲しい顔をした。でも快く協力することを約束してくれた。そして、躊躇ためらいながら言った。

「1つお願いがあります。助けていただいて、治療もしていただいて本当に感謝しています。だからお願いをするのは気が引けるのですが。でもどうしても知りたくて」

 ラーラの沈痛な面持ちにジュビの心も傷んだ。

「どうしたの? できることがあったらなんでもするから言ってみて。遠慮しないで。人間がサットヴァの人々にしていることは絶対に許されないことだ。自分と同じ人間があなたたちにこんなことをしているなんて、どうやって償ったらいいのか。だから、せめてラーラのためにできることがあればなんでもしたいんだ」

 ラーラは、しばらく何も言わず不思議そうにジュビを見つめていた。そしてゆっくりと口を開いた。

「ジュビ、ありがとう。私が生まれたとき、バブル人はすでにサットヴァ人を獲物として密猟していました。だから、私にとってはずっと、人間は危険で遭遇してはならない存在でした。エア・ビークルの中で目が覚めて最初にあなたたちの顔を見たとき、捕まった、殺されるって思いました」

 ジュビの中で、密猟者と同じ人間であるという罪悪感、なんとかしなければならないという責任感、そして種の違いを超えてラーラが心を開いてくれたという幸福感が渦巻いた。そんなジュビのせわしい心をよそに、ラーラは続けた。

「前にも言いましたが、妹、双子の妹のリディが密猟者に捕まったからです。実は、お願いというのはリディのことです。もう生きてはいないと思いますが、心のどこかで諦め切れずにいます。そしてもし生きているのならば、なんとかして助けたいのです。リディを助けてくださいとは言いません。でも、もし、もしも可能ならリディが生きているかどうか調べて欲しいのです」

 ジュビの脳裏には培養槽で揺らめくラーラとそっくりなリディの姿が浮かんだ。そして痛いほどの怒りと悲しみを感じた。

「ラーラ、探してみるよ。どこまでできるか分からないけど、やってみる。ファミリーのみんなやジャマールたちにも手伝ってもらえるように頼むよ。そして、リディが見つかったら脱出させる。絶対に」

 3次元イメージのラーラの右手がジュビの左の頬にそっと触れた。ジュビはラーラの手を頬に感じ、体が温もりに包まれるのを感じた。同時に、再びサットヴァの技術力に驚かされた。

 ジュビの驚きの表情に気づいたラーラが微笑みながら言った。

「視覚、聴覚のほかに触覚や味覚、嗅覚も伝えられるんです。いつもは視覚と聴覚だけを使ってますが、親しい者同士はすべての感覚を使うんですよ」

 ジュビは何も言わないで3次元イメージのラーラを抱きしめた。花の香りだろうか、とてもいい香りがした。2人は長い間、抱擁を交わした。

 2人の知っている世界が大きく変わろうとしている、そんな時代のうねりがもたらす不安を打ち消したかった。これからどんな未来が人間とサットヴァ人、そしてクロノスとクシャーンティに待っているのか、今の2人にはただ巨大な空隙が見えるだけだった。


 ジュビがラーラと話した3日後、ラーラから連絡が来た。ラーラの報告は、2393年までさかのぼる約50年間にわたるクシャーンティ周辺の人間によるサットヴァ密猟の被害を網羅していた。

 密猟は2390年代から行われていたが、2421年まではその頻度は非常に散発的で年1回あるかないかであった。それが2422年から急激に増加し、今月、2424年8月の中旬までの2年半ちょっとの間には1ヶ月から2ヶ月に1回の頻度で密猟被害が出ていた。

 密猟者は、遭遇するサットヴァ全員を捕獲するわけではなかった。傷つけたり殺したりすることのある一方で、捕獲して連れ去さることもあった。連れ去る者の性別や年令はまちまちで、規則性は見られない。

 この3年、一度に連れ去られる人数は1人から3人だった。2393年からこれまでに連れ去られたサットヴァ人の数は61人で、うち30人が2422年以降に集中していた。死者数はこの50年で902人、負傷者は167人に上った。

 ジュビは、なぜ人間を凌ぐほどの科学技術力がありながらサットヴァがこれほどの犠牲を許し、応戦や報復に至らないのか不思議で仕方なかった。

 ラーラの答えはジュビに衝撃を与えた。

「ジュビ、それは戦いには終わりがないからです。私たちサットヴァは、終わりのない戦いを始めないと決めました。クシャーンティには、今地球上に存在するどのような武器による攻撃をもかわすことのできる防衛システムがあります。でも同じテクノロジーが、クロノスやほかのバブルを攻撃する目的で使われることはありません。万が一、現在の防衛システムが不十分であるなら、私たちは逃げるだけです。避難する準備も整っています」

 戦えば、自分を守り、敵を倒して生き残り、元の平穏な生活を取り戻すことができるのに戦わないことを選ぶ。それはジュビの理解の範囲を超えていた。ラーラは、ジュビの動揺を見逃さず、優しく語りかけるように続けた。

「もし私たちが戦うことを選び、勝ったとしましょう。私たちは常に警戒し、負かした相手の動向を伺い、もっと強い敵に備えるでしょう。勝っても、戦うことで手放した心の平安は二度と取り戻せません。一度戦うことを選んだら、戦い続けなければならないのです。大きな戦いがなくとも、恐れと不安が私たちを多くの小さな戦いに引きずり込むのです。私たちが勝たなければならない相手は自分たちの不安と恐怖です」

 ジュビは、クシャーンティでアールシュが教えてくれたサットヴァの死生観を思い出していた。サットヴァにとっては、ただ生き永らえることは人類にとってほど重要ではない。サットヴァ研究推進派は、人間がほかの生物とは違う優越した存在だと主張する。

 しかし、地球上の生物の歴史の中で、初めて真の意味でほかのすべての生物を超越したのはサットヴァなのではないかと思った。

 ラーラの報告には、密猟グループについての被害者の証言も含まれていた。密猟グループには2つのタイプがあった。

 よく整備された最新鋭のエア・ビークルや音波銃、それに医療機器と思われるデバイスを持つ1つ目のタイプ。

 このタイプのグループのメンバーは、新しいアクション・スーツを着ていて、あからさまに攻撃してくることはない。負傷したり事故に遭ったりして弱っているサットヴァを見つけて連れ去り、殺すことも稀だった。

 もう一つのタイプのグループは、エア・ビークル、機材、アクション・スーツのすべてが古びていて、修理の痕が目立つ場合もある。ただし、1つ目のタイプの密猟者と同じ医療デバイスは持っている。

 メンバーは、非常に好戦的で、急に遠くから近づいてきて音波銃で襲ってくる。そしてデバイスを使って、襲ったサットヴァを連れ去る者と殺す者とに選別する。

 そして密猟の場所は、いずれのタイプのグループの場合も、クシャーンティとクロノスを結ぶ直線の中間地点からミラブ湖の南西に至るエリアに集中していた。

 ミラブ湖周辺は、サットヴァとの摩擦を恐れたソフィアが長期にわたり人間が立ち入ることを禁じていたエリアだった。密猟者たちが、それを利用したことは想像に難くない。

 最後に、ラーラは妹のリディが連れ去られたときのことを話した。

「2422年4月5日、2年前のことです。蓄熱の専門家であったリディは、朝7時頃、同僚で恋人のアイロ・ハーマンとミラブ湖の南にあるボーキサイトの鉱山に成分分析のために出かけました。暖かくなってきたからと、ロッサ、ナハが私を迎えに来たときに乗ってきた高速艇のことですが、それではなく、マレに乗って2泊3日の予定で出かけました。帰宅予定の3日目になっても2人は戻りませんでした。2人の通信ボックスも反応しませんでした。ナハと私、それから多くの協力者たちが探しに行きました。マレも2人の装備も、どこにも何も見つけることはできませんでした」

 ラーラのエメラルドグリーンの目が悲しい涙できらきらと輝いていた。ジュビは、これほどの代償を払いながらも戦わないことを貫き通すサットヴァたちに畏敬の念をいだかずにはいられなかった。そして涙が乾くまで、3次元イメージのラーラの手をずっと握っていた。


 ラーラからの連絡のあと、ジュビ、ジャマール、ネイトの3人は、ラーラの報告を元に密猟地点マップを作成した。マップには、ラーラの妹が姿を消したと思われるボーキサイトの採掘地にも星印が付いていた。

 密猟グループの2つ目のタイプに注目し、クロノス所有のバブル外遠征用のエア・ビークルや機材以外の装備が使用されている可能性を考えた。3人は、クロノス所有のエア・ビークルや機材が予約されることを待たずに、密猟者を探しにバブル外に出かけることにした。

 8月末のバブルの外は、昼間は灼熱になるが、夜は気温が20度前後まで急激に低下する。そして、サットヴァたちも必要であれば日没後に屋外での活動を行なう。ジュビたちもサットヴァの活動に合わせて、夕方以降に密猟地点を偵察することにした。

 密猟者と遭遇すること、攻撃を受けること、運良く密猟者を確保できることを想定して準備を進めた。音波銃の最大出力を上げ、エア・ビークルに搭載されたレーザー砲のセットアップを済ませた。

 最初に訪れる密猟地点としてジュビたち3人が選んだのは、ラーラの妹、リディが連れ去られたと思われるジョシュア鉱山の第3採掘場だった。密猟マップによれば、第3採掘場はミラブ湖の南約200キロに位置している。第3採掘場の周辺には数多くの密猟地点も存在していた。

 どんな場所なのか土地勘を得るために、日があるうちにジョシュア鉱山を訪れた。付近は、見渡す限り大小の紫の岩がゴロゴロと転がる、乾いて荒れた高原地帯だ。

 岩の間から赤い土が覗いている。植生はほとんど見当たらず荒涼としていた。彼方に、ラルーン山脈の山々の鋭利な頂がピンク色に霞む空を突き刺していた。

 太陽が大きく傾いても、気温はまだ40度を超えていた。大きな岩と岩の間にエア・ビークルを隠し、辺りの様子をうかがった。

 日の名残りが地平線の向こうに完全に消えると、気温は急降下した。1時間が過ぎ、2時間が過ぎても辺りの静寂が破られることはなかった。

 エア・ビークルのすべてのライトをオフにし、ノイズレベルをミニマムに設定した。超低速暗視モードで周辺のほかの密猟地点を回ることにした。ラーラが襲われた最後の密猟から3ヶ月近く経っている。密猟者はいつ現れてもおかしくなかった。

 第3採掘場の東に位置する1つ目の密猟地点を過ぎ、南下して3つ目の密猟地点へと向かう途中だった。

 ジュビたちのエア・ビークルのほぼ真正面、約600メートル先で突然眩しい光が現れた。暗視モードが自動解除され、アクション・スーツのゴーグルに映し出されたのは、別のエア・ビークルだった。

 7つのフロントライトの光の中で、複数の大小のシルエットが不規則に動きながらジュビたちの方に向かって進んでくる。シルエットはすぐに、逃げ惑う黒い布に覆われた5人のサットヴァ人と2頭のマレであることが分かった。

 フロントライト全開のエア・ビークルはあっという間にサットヴァ人たちに追いつき、中から3人のアクション・スーツが素早く現れた。

 次の瞬間、走っていたサットヴァ人の1人が倒れた。アクション・スーツが音波銃で撃ったのだ。さらにもう一人サットヴァ人が倒れた。

 アクション・スーツの1人が、最初に倒れたサットヴァ人に駆け寄った3人目のサットヴァ人に近づき、黒い布から露出した銀色の髪を鷲掴みにした。

 ジュビはやっとのことで、自分たちのエア・ビークルのライトをオンにした。アクション・スーツたちもサットヴァ人たちもジュビたちのエア・ビークルの50メートル先まで迫っていた。

 2台のエア・ビークルに挟まれ、サットヴァ人は眩ばかりの光の中で凍りついたように立ち尽くしていた。そして、アクション・スーツの3人も明らかに驚いていた。隙を見て、髪を掴まれていたサットヴァ人が逃げた。

 アクション・スーツたちは、急いでエア・ビークルに戻ろうとした。ジュビは、レーザー砲でアクション・スーツたちのエア・ビークルを狙った。

 しかし、レーザーはエア・ビークルを外れて地面に当たった。アクション・スーツたちはエア・ビークルに乗り込み、高速で南へと消えていった。

 外では、サットヴァ人たちが互いを支えながら逃げようとしていた。ジャマールは、サットヴァ人たちにマイクで話しかけた。

「私たちは密猟者ではありません。ラーラ・ダーナさんの知人です。ラーラさんから密猟者の出没地点を教えてもらい、密猟の実態を調査しています。怪我人がいればぜひ私たちに手当させてください。私たち3人のうち2人は医師です」

 サットヴァ人たちは、動きを止めてエア・ビークルを見上げていた。ラーラの名前を聞いて、少し警戒を解いたようだった。その様子を見て、ジャマールは続けた。

「今から外へ出ていきます。あなたたちを傷つけるようなことは決してしません。でもあなたたちが私たちを拒否しても仕方がないと思っています。もし出ていってもよければ、大きく手を振ってください」

 2人のサットヴァが話し合っている様子だった。そして、その1人が手を振った。ジャマールは、外に出ていくことをサットヴァ人たちに伝え、ネイトと一緒に診断キットや救急キットを背負い、両手を挙げてエア・ビークルを降りた。

 サットヴァ人たちは戸惑いながらもジャマールたちの手当を受けた。倒れた2人は幸いにも命に別状はなく、脚に打撲を負っただけだった。

 5人のリーダーと思われるワイザ・ミージェは率直だった。

「ビークル2台に挟まれたときにはもうだめだと思いました。ラーラの名前を聞かなかったら逃げてましたよ。ラーラがバブルで手当してもらったことは聞いてました。それでもバブル人が助けてくれるなんて、簡単には信じられませんからね。密猟者は、動けなくなったサットヴァの中から1人か2人選んで連れ去るんです」

 ジャマールは、サットヴァ人の間に人間に対する不信感や憎悪が高まってきているのをまざまざと感じた。これこそがジャマールがもっとも恐れていることだった。

「信じてもらえないのは当然です。私たちもやっと密猟の存在に気づき、実態を把握しようと調査し始めたところです。サットヴァの皆さんにひどいことをする人間がいること、私も許せません。必ずなんとかしますから、どうか少し時間を下さい。本当に申しわけない」

 ミージャがいだいている苦々しい思いは簡単には収まらないようだった。

「あなたが悪いんじゃないことは分かってますよ。でもね、言いたくなるんです。ひどい目に遭うと。私の夫も殺されました。人間なんてサットヴァより劣るのにって。そんなこと思うだけで気分が悪くなるのに、思ってしまうんです。だから、どうかなんとかやめさせてください。私たちに平和を返してください」

 手当を終えて、ジャマールとネイトがエア・ビークルに戻ろうとするとき、最後の最後にミージャは一大決心をしたように一度だけ礼を言った。

 その様子を見て、ジャマールは、ミージャが経験した言葉にし難い悲しみ、苦しみ、怒りを垣間見た気がした。そして、必ず密猟者を突き止めて密猟をやめさせることを心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る