第120話 結婚式2
「それではイブさんのご入場です。みなさん拍手でお迎えください」
マドル先輩のハンドベルで雰囲気が高まる中、ブラウニーたちに挨拶をして場を盛り上げていると、マドル先輩からイブが扉の前に着たと合図があったので、そう言って扉に手を向けた。
扉が開くのと同時にブラウニーたちが振り返り、ちちちち、と爪先をぶつける拍手が鳴る。その中をマドル先輩にエスコートされたイブが入ってくる。
なお、マドル先輩たちは全員黒子として黒いタキシードを着ている。エスコート役をしても違和感はないしいい感じだ。
「……」
イブは堂々とブラウニーたちに片手をふりながら入ってくる。ニコニコしていて、緊張していたネルさんと対極だ。可愛い。
今日はライラ様の玉座をどけて私の前、中央にちょうど手が置けるくらいの高さの台を置いている。多分前世だと聖書とか置いてたような教卓っぽい台。
ここに向けてまっすぐに扉から赤い絨毯がひかれている。そしてその通路の両サイドにブラウニーたちがいるようにちょっとした高さの台がある。床だとせっかくの花嫁姿が見えにくいし、床に絨毯だけだと会場の雰囲気がちょっと下がるかと思って。地味に結構な時間を取られた台だ。
でもそのおかげで真ん中は通路感もあるし、台の上にも別の絨毯を引いていて見栄えもいい。ちなみにライラ様は私のちょっと斜め後ろに控えてくれていて、とっても偉くなった気分のような、授業参観されているような気分だ。
そんな真ん中の花道を通り私の前までイブが来た。そうしている間にネルさんも一回閉めた扉の前まで来たみたいだ。
私の前まで来てお辞儀してからブラウニーに向かってお辞儀して一歩ずれて待機状態になったイブに目で合図して、こくんと頷かれたので次だ。
「それでは次に、ネルさんのご入場です。みなさん拍手でお迎えください」
ドアが開き、同じように拍手がされる。その拍手が思ったより大きい音だったのか。ネルさんはちょっとびくっとしてから、イブを見てほっとしたように笑って、マドル先輩にエスコートされて入ってくる。
身長差があるけど、言っても肘に触れてるくらいなので違和感はない。ネルさんはブラウニーたちを見て気恥ずかしそうにしながらしずしずと通路を通り、私の前まで来た。
同じようにお辞儀をしてから一歩ずれ、二人は顔を見合わせてから私に向いた。
いよいよ、結婚式の本番だ。ブラウニーたちも空気を読んでお辞儀辺りでちゃんと拍手をやめてくれているので助かる。
マドル先輩のBGMもとまったので口を開く。
「それでは婚姻の誓いに移らせていただきます。イブさん、あなたはネルさんを、苦しい時も、元気な時も、嬉しい時も、悲しい時も、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「ネルさん、あなたはイブさんを、苦しい時も、元気な時も、嬉しい時も、悲しい時も、死が二人を分かつまで、愛す ることを誓いますか?」
「はい、誓います」
この誓いの言葉は私が思いつく限りの誓いの言葉から、みんなでいい感じのを選んだ。あんまり固い言葉は形式ばりすぎるかなってことで、病める時とかはやめた。
でも死ぬまではちょっとストレートすぎるので、二人を分かつまでにした。これカッコいいよね。
私の読み上げも、二人の同意も完璧だった。初めての結婚式とは思えない完璧さだ。
最後に誓いのキスだ。結婚指輪は貴金属は海水つかると錆びるし、成長してサイズ変わるかもだし、二人が指輪はあんまり。と言う反応だったので諦めた。
「では、誓いのキスをしてください」
普段人前でキスは、などと言う私だけど、もちろん誓いのキスは別です。ネルさんはちょっと恥ずかしがったけど、えー、みんなやってますよー。イブもやりたいよね? ネルさんとの関係をみんなの前で見せつけたいよね? と言ってOKしてもらった。
「……」
「……」
私の言葉に、二人はゆっくりと向かい合った。身長差がとてもある。どうしよう。これは予想外だった。ま、まあしゃがんで対応してくれるよね?
と黙って見つめていると、ネルさんはそっとしゃがんで手を出した。
「イブ……」
「ん。ネル、好き。ずっと一緒、ね」
その手にそっと触れてイブが優しい声でそう言った。それを聞いて、ネルさんはにっこり笑ってイブを抱っこした。中にワイヤーとかはなくシンプルにフリルで増量しているドレスなのでだいぶかさばると思うのだけど、ネルさんは少しも手間取ることなくいつも通り軽々と抱っこした。
「わでも、好き。ずっと一緒、な」
そうネルの言葉に答え、イブのおしりを片手にのせて自分の体に寄せて、そっと唇を合わせた。
一瞬だけ、ちゅっと唇があわさる音が響いたような気がした。それだけ静か中行われた、神聖なキスだった。
「……へへ」
「へへー」
顔を離して照れをごまかすように豪快ににかっと笑うネルさんに、イブは合わせるように笑った。しみじみと、二人は愛し合ってるんだなと思った。
よかった。二人とも、色んなことがあってここにいる。その詳しい経歴はわからないけど、二人をここに誘ったのは私だ。イブに至ってはほぼ強引に連れてきた形だ。でも二人とも、この島で幸せになってくれる。こんなに嬉しいことはない。
「はい、ここに婚姻の誓いが成立しました。みなさま、盛大な拍手で祝福してください! ふたりとも! おめでとうございます! お幸せに!」
私は二人の空気を壊さないよう一拍おいてから、そう宣言して力の限り拍手した。
同時にマドル先輩からもお祝いのベルが鳴らされる。今私たちにできる精一杯のお祝いの結婚式。街の人達から見たら笑われるくらい、めちゃくちゃなものかもしれない。
だけど、そんなの関係ないくらい、最高の結婚式だ。司会者なので自画自賛になるけど、私はそう確信した。
そうして拍手の中二人が応えるようにみんなを見て抱っこしたままお辞儀をした。それで式を終わりにし、ここからは披露宴だ。正直披露宴が何か私も知らないので、普通に宴会とした。
二人の可愛い姿をみんなが見える状態で食べて踊って祝えばよかろうと言うことで。
謎の教卓を退けて、大きなテーブルを運び込む。いつもならネルさんが率先してくれる力仕事だけど、今日はライラ様が一人で運んでくれた。
そうしてど真ん中にできた特別席にネルさんとイブに座ってもらう。そしていつも以上に豪勢だけど控えめに食事をとってから、二人とも楽しみにしていた巨大ケーキの登場だ。
「きゅー!?」
「きゅきゅー!」
ざわざわとブラウニーたちが騒ぐほどの大きさ。と言うか運ぶために台に乗ってるとはいえ、ネルさんクラスの大きさだ。計画していたとはいえ、実物の迫力は桁違いだ。
「おおー! すごい!」
「すげぇなぁ!」
二人も興奮しながらケーキがやってくるのを待ち構えている。そこに台車ごとケーキがおかれる。
ついにケーキ入刀だ。式終わってるし順番合ってるのかわからないけど、冷蔵庫がないからね。食事の順番にあわせるしかないのだ。
「それじゃあ二人でケーキをカットしちゃってください! そしてそこから一口とって食べさせあうんです!」
「えっ、そ、そんなこと言ってたっけかぁ?」
「今言いました! ぜひお願いします!」
「えぇ」
思いついたので提案してみると、立ち上がってケーキ入刀の用意をしようとしていたネルさんは目を見開いた。
「ネル! やろう!」
「お、おお。……うん、だなぁ。じゃあやるかぁ!」
そして腰が引けたようにしながらイブを見たけど、イブはもちろん最初の一口が食べられるのでやる気満々で頷いた。それにネルさんはちょっときょとんとしてから、まぶしいものを見るように嬉しそうに笑ってからイブを抱っこした。
「ん?」
「お? え、エスト、上になんか、小さい人形みてぇのがのってるぞ!?」
「お気づきになられましたか。そう、お二人の人形です! マドル先輩が頑張って作ってくれました!」
なんと今回、ケーキのてっぺんには二人を真似てつくった砂糖菓子がのっているのだ。いや、サンタさんとかそう言うのもああったと言う話をしたらマドル先輩が乗り気だったので。さすがにウエディングドレス姿は難しかったのでシンプルワンピースだけど特徴をおさえたデフォルメキャラとなっていてとても可愛い。
「そちらお砂糖に野菜や果物で色を付けたもので、ちゃんと食べられるやつです」
「ええっ、そ、そうなのか。人形は可愛いけど、汚れちまうと思ったら、食べれるのかぁ……」
「これ、イブとネルが食べる?」
「もちろん、二人の分ですよ。あとでお皿にとりわけますね」
二人が改めて感心したように目をキラキラさせてから、包丁を手に取り二人で構えた。
「んじゃいくぞー?」
「うん! せーの!」
「の!」
そして二人は目を見合わせて楽しそうに笑いながら、ケーキをカットした。
そして照れながらも食べさせあい、幸せそうな新婚夫婦の最初の共同作業を周りに見せつけてくれた。
それからみんなでケーキをわけあう。上から順番に味が違うので、人形はもちろん、全部から少しずつイブとネルさんの分をとりつつ、もちろんブラウニーたち全員にもいきわたった。
「おー、こうやってまじかで見ると、ほんとに可愛いなぁ」
「うん。すごい」
「お褒めいただき光栄です」
マドル先輩も得意気だ。今日に備えたマドル先輩がいっぱい頑張ってくれて、たくさんの役をこなしてくれた。マドル先輩がいなければここまで完璧な式は不可能だっただろう。さすがマドル先輩。
「人形もケーキも、うめぇ。こんなにいっぱいのケーキが一度に食えるなんて、夢みてぇだなぁ」
「美味しい。幸せ」
「だなぁ」
人形もおいしく楽しく食べてくれた二人は、そのままケーキもすごく喜んでくれた。普段はケーキはデザートだったけど、今日くらいはご飯控えめで好きなだけケーキを食べてもらうと言う趣向だったけど、とっても喜んでもらえたみたいでよかった。
そして私も食べるけど、いや、ほんとに美味しい。ふわっふわで、マドル先輩ケーキの腕前あげすぎでは?
そんな感じで、高さはもちろんそれに合わせて土台も台車いっぱいに大きかったケーキだけど、すっかり小さくなっていき、みんなお腹いっぱいになってひとかけらも残らなかった。
こうして、めちゃくちゃ楽しい結婚式は幕を閉じた。
二人とも、結婚おめでとう! 幸せになってね!
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