第115話 突然の宣言

 この島に来てほんの三か月も経っていないけれど、たくさんの出来事があった。これからも毎日楽しい日々が続いていくんだろうと思える。

 今日はそんな希望の先駆けとなる記念日、私たちの最初のお誕生日会である! ブラウニーたちのお誕生日もお祝いし、これから毎年祝っていく恒例行事なので、実質この島でのライラ様王国の建国記念日みたいなものだろう。いやー、めでたい。


「お誕生日おめでとうございます!」

「うむ。お前もな。おめでとう」

「おめでとうございます。今年は記念すべき年になりましたね」

「二人ともおめでとうなぁ」

「おめでとーございます!」

「きゅー!」

「きゅー!」

「きゅー!」


 久しぶりに大集合したブラウニーたちがいるので、今日のお誕生日会はあの謁見室的大広間だ。ブラウニーたち用に大きな絨毯をひいていて、そこがブラウニースペースになっている。私たち用にも小さいテーブルをのせた絨毯の専用スペースにわけているので、ネルさんも安心だ。

 きゅーちゃんたちは石でお皿を作っていたので、お皿とコップを持ち寄ってもらって、今回は全員にきちんとサーブしている。

 真ん中にあってどでんと目を引く巨大魚の頭は、ネルさんとイブからのプレゼントであるメイン食材となったものの残りだ。加工されて大きさがわからなくなっちゃったので、わかりやすく飾られている。


 そんな見た目にも派手さのある豪華料理の数々に、きゅーちゃんたちも大喜びだ。改めて見てもこの人数は壮観だ。とっても可愛い。

 たくさんのご馳走を食べてから、楽しみにしていたパンケーキだ。ブラウニーたちはとっても喜んでくれた。


「ほれ、あーんしろ」

「う……。はい! あーん」


 ずらっと並んだブラウニーたちに注目されてのあーんはさすがに恥ずかしかったけど、今日はお誕生日だし、みんなにあーんするので今日はありということにした。

 マドル先輩にもあーんをして、ちょっとやけくそでネルさんにもイブにもあーんしあうことにした。我が家のお誕生日はこれがスタンダードです!


「きゅ」

「きゅ」

「きゅん」

「きゅーん」

「きゅーん」

「えっ、可愛すぎる」


 としていたら、なんときゅーちゃんも真似しはじめた。スプーンかフォークかわからないカトラリーをつかって器用に切り分け食べさせあっている。


「わっちゃわちゃしててぇ、かわいいなぁ」

「なー、かわいいなぁ」


 そんな感じで無事に食事を終えた。食事の時はさすがに危ないので私たちとブラウニーは綺麗に席をわけておいたけど、終わったら別だ。一番のメイン! プレゼントの授与だ!

 ブラウニーたちへのプレゼントは最後にして、先にライラ様、マドル先輩、私の分を済ませる。なにせ数が多いので一つ一つの手の込みようは少し下がるし、全員で渡さないと日が暮れるからね。

 これからさらに水遊びが増えるだろうと言うことで、マドル先輩からは新しい水着に、私は手作りのちょっといびつなところもあるけどちゃんと使える釣り道具セット、ライラ様からは可愛らしい木工品をもらった。


「えー、ライラ様も木工してたんですか!? 見てるだけだと思ってました!」

「うむ。お前らがネックレスを作っていただろう。木の素材がそのまま見えると言うのも悪くないだろう」

「はい! ライラ様の手作り嬉しいです!」


 ライラ様がくれたのはネックレスなのだけど、なんと先端の部分の木は木目の色が違う複数の木が組み合わさっていて、ピカピカに磨かれたそれは何とも言えない素朴な木の温かみのある作品だった。

 正直同じ木工と言うことで私の釣り具の出来がちょっと恥ずかしい。ネルさんに手伝ってもらってたのに。でもライラ様はちゃんと喜んでくれて、浅瀬で使うと言ってくれた。えへへ。


 さて、それではついにブラウニーたちへのプレゼントだ。


「ブラウニーたちに、プレゼントがありますよ。さ、みんな並んで並んで。まずはお手本としてきゅーちゃんにプレゼントしますね」

「きゅ? きゅう!」


 お片付けを済ませてから、絨毯の上に並んだきゅーちゃんたちを前にそう声をかけると、きゅーちゃんが元気にお返事して手を挙げて私の前にきてくれる。


「じゃあいくよ。じっとしててね。こうして、と。はい!」

「きゅ? きゅいー!」


 背中から回して首の下でとめ、フードをきちんとたたんで、きゅーちゃんのリボンも見えるように外に着けなおした。

 フード付きマントを身に着けたきゅーちゃんは一瞬、あれ? と言う顔をしてから、ぐるりと体をまわしてまわるマントの裾を見て喜んでくれた。


「きゅ」

「きゅ」


 それをみてざわつくブラウニーたちを振り向いて、たくさんのマントをつめた箱を掲げて宣言する。その間に部屋にちょっと小さいマドル先輩がたくさん入ってきた。いつもの三分の一くらい、イブくらいの身長のマドル先輩がいつもより余計に増量して登場して。

 今回全員に着させてあげるのにさすがに時間がかかると言うことで、マドル先輩が小さくなって機能を落とした分同時に服をきさせてあげる人数を増やしたのだ。


「はい! 全員分ありますからね。順番につけてあげるので並んでくださーい」

「きゅ!」

「きゅう!」


 きゅーちゃんたちはぴょんとジャンプで喜んでくれる子や、急いで前を陣取ろうとする子など反応は様々だけどみんな喜んでくれているみたいだ。

  私の横にライラ様、そしてたくさんのマドル先輩が並んでいるのをみて、それぞれに列を作ってくれている。


「ネル! 私たちもする!」

「えっ、わ、わではいいからぁ」

「だめ! するの!」


 食事の席から動かなかったネルさんの手を引いて強引にイブがつれてきた。ネルさんはおどおどしながらもイブに逆らえないようで中腰でちょこちょこついて絨毯に近寄ってくる。

 それにブラウニーたちはざわついたけど、戸惑いながらもそこに列をつくった。


「うっ、や、やっぱりこわいなぁ」

「大丈夫、ネル。手、ぎゅっとして!」

「え? こ、こうかぁ?」


 びびっているネルさんだけどイブに手を取られたまま言われ、わけのわからないままイブの手をぎゅっと握った。


「ん! ブラウニー、強い。そのくらい、ぎゅってして大丈夫」

「そ、そうなのかぁ?」

「うん、ほら、ぎゅってして!」

「う、う」


 めちゃくちゃ強引にイブが目の前のブラウニーをすくいとり、ネルさんの手に自分の手ごとのせてぎゅっとさせようとする。ぷるぷる震えるネルさんだけど、イブが反対の手で折ろうとしてもブラウニーが平然としているので覚悟を決めたようにゆっくりとイブの手ごと握った。


「ん、ブラウニー、痛くない?」

「きゅ? きゅきゅう」

「ほら! 大丈夫!」


 イブの確認に捕まれたままでも腕を外に出して振って元気アピールをするブラウニーに、イブはネルさんの体をたたいてネルさんを勇気づける。握られているように見えるけど、動ける程度には自由な状態らしい。

 実際ブラウニーたちって毛皮も厚いから結構な熱いお湯でも平気だし、力も結構強いもんね。私と等身大だったらめちゃくちゃ強いと思う。


「ほ、ほんとだなぁ。……わ、わかった。わで、頑張る!」

「うん! 頑張る!」


 目をぱちぱちさせて驚いたネルさんだったけど、どうやらこれで覚悟を決めたようで、きりっとした顔になってイブと一緒にプレゼント進呈儀式に参加を表明してくれた。

 マドル先輩がいるとはいえ、大いに越したことはないもんね。


「きゅー」

「あ、ごめんね。じゃあいくねー」


 と、それを見ていて私の前に並んでいたブラウニーを待たせてしまった。すでにライラ様もマドル先輩もせっせとお渡ししてくれているので、私も参戦した。









 ぱっと着せるだけなので、慣れれば一人一分もかからないけど、それでも人数が人数なので30分ほどかかってしまった。

 一苦労だ。とはいえ最初のお誕生日プレゼントだからね。これでブラウニーたちも雰囲気をつかんでくれたことだろう。


 みんなでブラウニーの絨毯に座り込んで喜びのきゅーちゃんたちを眺めながら休憩がてらしばし談笑する。ネルさんもすっかりブラウニーたちとの距離感になれて、体にのられてるのも嫌がらず、自分から撫でたりしている。

 よかったよかった。さすがイブだね。ネルさんの一番の仲良しだけあって、ネルさんの扱いが分かってるね。


「さーて、じゃあプレゼントも終わりましたし、そろそろお誕生日会も終わりましょうか」


 三時を過ぎたけど、デザートも食べているのでおやつの時間はスキップだ。ゆっくりたくさん食べたのでまだまだお腹に残っている。お誕生日会はこのくらいに終わって夜は軽く済ませるのが定番だ。


「そうだな」

「それではブラウニー様たちをー」

「ちょっ、ちょっといいかぁ!?」

「えっ、ど、どうかしました?」


 そうだねー。解散解散。と言うゆるい空気になってマドル先輩が人数の多いブラウニーたちを先に帰そうとしたところで、ネルさんが突然挙手をして大きな声を出した。

 びっくりしながら尋ねる。ネルさんの膝にのっていたブラウニーたちもあまりの大声にびっくりして降りている。隣にいたイブだけは驚くこともせず、ぎゅっとぶつかるように隣に座りなおした。

 改まって、二人から何か言うことがあるのかな?


「そ、そのぉ、だなぁ。えっとぉ、いや、そんな、あらたまって言うよーなことでもねぇんだけど。気を使ってもらうことでもねぇしなぁ? でも、言わねぇならそれはそれで改まって気を遣わせそうだし、隠してるみてぇなのも、申し訳ねぇからよぉ……その、なぁ」

「はい。えっと、何でも言いたいことは言ってくださいよ。水臭いじゃないですか。そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですから、教えてください」


 よくわからないけど、何かやりたいことがあるとかだろう。それに人手がいるみたいな? もう私たちは家族みたいなものなんだから、言いにくいとか言わずに、遠慮しないで何でも言って欲しい。


「お、おー。あぁ、ありがとなぁ、エスト。えっと、その、なぁ?」

「ん!」

「え? い、イブ?」


 私の言葉にネルさんは恥ずかしそうに頭を掻き、イブの手を取り握りながらもまだ言葉を濁してイブの顔をちらちら見ている。

 そんなネルさんに焦れたのか、イブが突然つないだ手を持ち上げるようにして立ち上がった。そして全員が驚いてイブに注目する中、堂々と、大きな声で宣言した。


「イブ! ネルと! 結婚する!」


 イブのとんでもない宣言に、ネルさんは真っ赤になって俯くことで肯定した。

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