第113話 ブラウニーたちのいる日常1

 ブラウニーたちの分もご飯を作ったりすることにより予定より早くに買い出しに行くことになった。

 元々最寄りの港町を調査済みだったらしく、マドル先輩の近いうちに買い出しに行く必要があると言う報告に「じゃあ今日行くか」とライラ様の鶴の一声で決定した。

 イブは最初普通について来ようとしたけど、ネルさんが遠慮したことで辞退した。住んでない場所なんだし、ネルさんが行くのもありだと思うんだけど。まあ、この島でのびのび住むことになれたらそのうち行く気にもなるだろう。


 と言うことで本日は私、ライラ様、マドル先輩、そしてきゅーちゃんで出発した。


「きゅー」

「きゅーちゃん様、私と一緒にお買い物に行きませんか?」

「きゅ? きゅー!」


 きゅーちゃんは私の肩にのって船旅を楽しんでいたけど、三十分ほどの高速移動で遠くに見える一般航路の外まで行き、それから三十分ほどかけて入港したところでマドル先輩に連れていかれた。


「ライラ様、運転お疲れさまでした。このまま船でゆっくりしますか?」

「いや、船の移動にもなれたからな。この短時間で疲れるほどではない。出るぞ」

「あ、そうなんですね。はい。じゃあ、デートですね」

「うむ」


 満足そうに頷かれてしまった。島に来てから二人きりになる機会は減っているし、ライラ様も楽しみにしてくれていたのかな。可愛い。


「気をつけろ」

「はい、ありがとうございます」


 手をつないで船からでる。ライラ様が船と桟橋をまたぐように立って私の手をつかんでエスコートするようにしておろしてくれた。過保護な抱っこもいいけど、こういう普通のエスコートもいいね。なんだかこれだけでときめいてしまう。

 あー、ライラ様やっぱり素敵すぎる。何気ない行動全部にきゅんきゅんしてしまう。港におりると、道行く人からチラ見されてしまう。ライラ様の美貌故に仕方ないことだ。目立ちたがり屋なつもりはないけど、正直優越感を感じてしまう。

 こんなに素敵な人が私の恋人なんて、どう考えても不思議だ。まあ偶然でも勘違いでも分不相応でも、この立場を手放す気はないけど。


「えへへ。最近お部屋以外で二人っきりってないから、嬉しいです」

「そうだな。ネルが昼間に狩りをするから、なんとなく私も昼にするようになって夜に外出していないから、余計にそうだな。たまにはまた、二人で散策する日を設けるか」

「ピクニックみたいな感じですね。いいですね」

「うむ。その時はまた食べさせてやろう」

「えっ、そ、それはその……おやつを選ばないと、ですね。えへへぇ」


 意味ありげにそう言われて私もすぐに散策を思い出してしまい、照れてしまう。ライラ様、あれ気に入ってたのか。私も全然、嫌じゃないけど?


「実際に降りたのは私も初めてだ。行きたい店はあるか?」

「んー、時間はあるしぶらっとぐるっと回りましょう。ライラ様と一緒なら、別に何もなくてもいいですから」

「ふっ、そうだな」


 ご機嫌な私とご機嫌なライラ様で、初見の港町をデートすることになった。この街は大陸ではなく大きな島なので、以前住んでいた街とは結構違う。前も他国の雰囲気を持っていたけど、それ以上に雑多な雰囲気だ。住民らしき人たちの人種がさらにバラバラだ。

 多分元々ここに住んでいた人がいなくて全員が移住してきたのだろう。港近くは大きく頑丈ながら飾り気のない家が多く、山の方の高い位置に離れてみる家は大きく立派で屋根に遠目からでもわかる飾りがされていて、とてもカラフルだ。


「これ美味しいですね」

「うむ。悪くない」


 停泊した船で寝起きするからか、持ち帰り料理を扱う店が多く、中央の広場はたくさんの屋台が並んでいてお祭りみたいな賑わいがあった。

 その中から何気なく選らんだ保存食にもなると言う固いナッツパンは固いけど噛む食感が楽しくて、じんわり甘くておいしい。みんなにお土産として買っておく。


「あ、これよくないですか? 毛先まで柔らかいです」

「ふむ。悪くない。買っておくか」

「わーい」


 色んな国から船が来るのだけど、その船はここが目的地ではないとはいえ、この島での物品のやりとりも盛んに行っている。やり取りをすることで自分の船が行かない国の品まで手に入るのだから損のない話だ。中にはこの島を目的にする短距離輸送船もいるらしい。

 とはいえ船が直接店を出すことは禁止されている。あくまでこの島の店で売買しなければならない。航路の為の補給島が元なので、島を維持できるようそう言うルールになっているらしい。

 この島は補給の為だったのもあり、海が荒れて孤立した時の為に第一次産業が盛んらしい。うちの島でもそうなので当たり前だけど、大規模に産業が成り立っていてたくさん食材が買えるし、それでいて毛皮などの加工品や木工品の需要はある。うーん、なんとも都合がよくてちょうどいい街だ。


 ライラ様とあちこち見て回って、本当にライラ様とマドル先輩が選んだあの島の立地の絶妙さに感心してしまう。

 今もいい感じのブラシがあったので買ってもらった。これできゅーちゃんの毛並みのケアをしてあげよう。


「エスト、こっちを向け」

「え、うっ?」


 雑貨屋さんに入って、うわー、色々あるなぁ。ぱっと見て使用目的がわからないものが結構ある。とぼんやりしていると、ライラ様に呼ばれた。すぐ隣で腕を組んでいた状態から振り向いたところ、ぐいっと顔を掴むようにして両頬を押さえらえた。

 口がタコになって驚いていると、ライラ様はふっと笑ってくんでいる私の腕をといて私の唇に指をはわせた。一瞬ドキッとしたけど、ぬるりとした何かを塗られたみたいだ。手を離されたので反射的に舌先でふれると、なんだか油っぽくて美味しくない。匂いはいい匂いだ。


「むぅ、なんですか?」

「はは、舐めるんじゃない。紅だ」

「あー、口紅ですか」

「うむ」


 笑ったライラ様の手には小さい小瓶があって、ライラ様の傍にある棚には化粧品が飾られていた。普通に開封して使ってるの自由すぎない?


「ライラ様、化粧に興味ありましたっけ?」

「私はないが、ネルが今年成人だと話していただろう。成人の際には化粧があった方がいいんじゃないか?」

「らっ! ライラ様、天才ですか???」


 ナイスアイディアすぎる! まだネルさんの地元の儀式とか聞いてないけど、それにお化粧をつかう可能性は高いし、大人になったらそう言うのに興味を持つかもしれない。めちゃくちゃいい。成人祝いにぴったりすぎる。


「最高です! すっごくいい考えだと思います! さすがライラ様!」

「ふっ。そう大きな声を出すな。聞こえている」

「えへへ、すみません。つい。ネルさんにはどれが似合いますかね?」

「うむ。わからん。一通り買って行けばいいだろう。ついでにお前がつかってもいいしな」

「そうですね。お肌にあうあわないもありますし」


 まだネルさんのお誕生日までかなり早いけど、当日にお化粧したいかもしれないし、今から準備しても早すぎるってことはないだろう。私はライラ様と化粧品を見繕った。


 それから船に戻ると先にマドル先輩が待っていた。お昼を食べておやつの時間くらいにと約束していたけど、私たちが一足遅かったみたいだ。

 船の前に立ってきゅーちゃんを手にのせてお話している。青い空青い海、船の横、髪をたなびかせ美人メイドさんが手のひらの小動物と微笑みを交わしている。うーん、実に絵になる。と思いながら手を挙げて近寄る。


「マドルせんぱーい、お待たせしましたー。待ちました?」

「いえ……いえ、今来たところです」

「あっ、さすがマドル先輩! そういうとこ好き!」


 マドル先輩は私の前世の話を色々聞きたがってくれて、なんでも真面目に聞いて感心してくれる聞き上手なので私も色んな話をしてきた。ジョークや鉄板ネタなんかもあって、それを覚えていてこうして言ってくれるの嬉しいよね。私の方が教えてことを忘れているくらいなのに。

 共通認識が出来上がっているみたいな、私の前世の記憶を尊重してくれているような気になるし、うーん、うまく表現できないけど、嬉しいよね。


「おい、今好きになるところあったか?」

「隙あらばボケてくれるところです」

「? そうか」


 私の答えにライラ様は不思議そうに目をぱちくりさせたけど、めんどくさくなったのか頷いた。うーん、ライラ様のそう言うとこも好き。


「あれ、と言うか荷物、もう船に乗せてるんですか?」


 マドル先輩は力持ちなので荷車を借りればどんなにたくさんでも船に乗る程度の量は運べるだろう。だけど目立ってしまうので、購入だけして合流してから全員で回収に行く予定だった。だけど船の甲板にすでにあれこれ載っている。


「はい。最初に小麦を購入したお店で人手と荷車を貸していただけまして、そのほかにも数人お声がけいただき、全て運んでいただけました」

「きゅ!」

「はい、きゅーちゃん様にもお菓子をいただきましたね。親切な方が多い街でしたね」

「きゅー」


 ねー、と言う感じに顔を見合わせ、にっこり微笑んでいるマドル先輩。なるほど。読めた。謎はすべて解けた!


 マドル先輩は元々美人だけど基本的に私たち身内以外に笑顔を見せないので近寄りがたい高嶺の花と言う雰囲気だった。私たちが一緒だと余計にメイドとしてお仕事中みたいに思われるところもあって、初対面から私的な声掛けをされることはほぼなかった。

 そこにきてこのきゅーちゃんである。小動物にしか見えないきゅーちゃん相手に、きゅーちゃん様、と言う冗談みたいな呼び名で大真面目に話しかけ、しかも笑顔の大盤振る舞い。

 そう、今日のマドル先輩はこんな美人なのに近寄りがたさとかけ離れた隙のある姿を丸見えにさせていたのだ。お仕事にかこつけて親切にしたら仲良くなれるかもしれないと期待を持っても不思議じゃない。


 その結果、この街のあちこちの店から人手がついてきてしまったのだろう。なのに待っている間お話するでもなく帰している辺り、ほんとにマドル先輩は気づいてもいないのだろう。

 マドル先輩ってほんと魔性の女だよね。


「マドル先輩……罪な女ですね」

「はい?」


 あとメイドっていうのもモテやすいのかも。どんなに綺麗でお上品でもお嬢様ではなく同じ庶民、と思って自分でも可能性があると思わせちゃうんだろうな。

 単純な容姿だとライラ様の方が美人だけど、ライラ様って美しすぎるし話し方も振る舞いもどう見ても一般人じゃないので簡単にちょっかい出したら危ないと思わせるところがある。酔っ払いすら絡んできたことがないし。


「何を馬鹿なことを言っている。もう支度が出来ているなら帰るぞ」

「そうですね。きゅーちゃん、楽しかった?」

「きゅー!」


 マドル先輩は渡さないのでね、心奪われた方には申し訳ないけど、まあいっか! マドル先輩にこき使われて言いように使われるのも、好きならご褒美だよね。

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