第112話 成人年齢
「それにしてもブラウニーたち、ほんとにめちゃくちゃ多いですよね」
ブラウニーたちが仲間になって一週間がたった。あの挨拶の日もめちゃくちゃ多いと思ったんだけど、日々を一緒に過ごすようになってどこにでもいるし本当に多いなぁと実感する。
ブラウニーたちは毎日きて、主にマドル先輩のお仕事のお手伝いをしてくれている。私の部下、と覚悟してたのに全然、マドル先輩が直属の上司になってしまっている。まあ、冷静に考えてあの人数は責任大きすぎるので助かるけど。
「だなぁ。歩く場所を分けたって言っても、わで、ふまねぇかほんとに心配だなぁ」
「大丈夫。イブが見る、から、安心」
「ブラウニーたち、姿は小さいですけど声は結構大きいので、もし踏まれそうなら大きい声を出しますし、滅多なことないですよ」
「だといいけどよぉ」
ブラウニーたちが全員押しかけてくることはないので、本当に初回が挨拶って感じだったんだろう。館内を歩くときはブラウニーたちは端を歩いて、ネルさんを見かけたら声をあげてくれることになったのでうっかり踏んじゃうことはないと思う。
と言うか、踏んでもそうそう潰しちゃわないと思うんだけどなぁ。普通に間違って踏んじゃったってなって慌てて足をどけるみたいなのあるけど、意外と踏んだものって壊れてないから、気づかずに最後まで踏むことってないと思うし。とはいえネルさんの体格だとどうかわからないから、あんまり安易な慰めは言わないでおこう。
まあ、二人の部屋の方にも近づかないし、そもそも家の中では基本マドル先輩と一緒に行動してるから滅多なことはないはずだ。ブラウニーたちの存在になれてもらうしかない。
「そうですね。全部で六部族にわかれて生活しているようで、それぞれ最低でも百以上いるようです」
「そ、そんなにいるんですか」
「はい。主に地下で生活しているとはいえ、これだけの人数に気が付かなかったのは失態でした。主様に仕える身として、ふがいないです。大変申し訳ございません」
「いやー、人数が多いとは言っても一人一人が小さくてあの部屋に入りきるくらいの体積なんですから、気づかなくても仕方ないですよ。ね? ライラ様?」
「まあそうだな。敵意のない存在は感知しにくいし、どうせこちらを向こうから避けていたんだろう。謝る必要はない」
笑顔以外はまだ感情がでにくいマドル先輩だけど、不満そうにちょっとだけ眉を寄せて必要以上に気にしているようなのでそう言ってフォローする。ライラ様も気にしてない様子で軽く頷いてくれた。
「……はい。どうやら彼らは集落の頭上の地上の様子をある程度音で察知しているようで、私の存在を感知して音が聞こえないほど地下に逃げていたようなのです。とはいえ、屈辱ですが」
「へー、そんなに深く掘ってるんですね」
ライラ様が言ってもどうしても気になるのか、不満顔のまま、と言うかより不満そうだ。もしかしてフォローじゃなくもっと頑張れって叱咤激励されたかったのかな?
でもそこはマドル先輩の中でなんとかしてもらうしかないので、ここは軽くスルーすることにする。それよりもっと気になるのがブラウニーたちの生活だ。
この島に来てからお久しぶりのポケットサイズのマドル先輩がブラウニーたちとの交流に大活躍している。ブラウニーたちの村にも訪問して生活を共にし、生活や文化を理解し、意思疎通もかなりスムーズにできるようになったらしい。マドル先輩のチート性が遺憾なく発揮されている。なのでブラウニーたちのことをマドル先輩経由で教えてもらうことができるのだ。
と言うことで、まだブラウニーたちが来ていない朝食後のまったりタイムの内に思いついたので質問することにする。
「マドル先輩、ブラウニーたちって服を着ることにはどんな感じに思ってるんですかね? もらったから頑張って身に着けてるだけで、実は実生活上いらないと思ってたりしないですかね?」
「いえ、彼らはオシャレと言う概念を理解していますし、今までなかった布類にかなり興味を持っています。派手な色はうちの敷地内でしか着ないようにしていますが、今服を着ている族長ときゅーちゃん様は羨望の目を向けられています」
「喜んでくれているならよかっ、ん? 族長? え? あの六人族長だったんですか?」
「そうです。あの日は配下になるかどうか決めるための下見のようなものだったようです」
「お、おお。そうなんですね」
お年寄りなのかも、と考えてはいたけど、きゅーちゃんの家族的なものかと思ってた。まさかの族長。偉い人だったのか。いや、まあ、今はね、そんなの関係ないですからね。本題はそこじゃない。
聞きたかったのは服がいいプレゼントだったのかどうかだけど、思った以上に喜んで大事にしてくれているらしい。
「あの、もうすぐ私たちの誕生日会じゃないですか。それでブラウニーたちの誕生日を個別で祝うのは無理なので、まとめて一緒にお祝いするのはどうかなーと思いついたんですよ。なんていうか、仲良くなった記念と言うか、そう、ライラ様王国建国記念日みたいな感じです」
「なるほど、素晴らしいですね」
「勝手に建国するな」
ライラ様は気に入らなかったみたいで半目でローテンションに注意されたけど、マドル先輩が賛成してくれたので百人力だ。なにせマドル先輩が無理と言えば個別にプレゼントの用意なんて絶対無理なので。
「さすがに今から全員分の服は難しいですけど、羽織るだけのマントとかならサイズもないですし、もちろん私も協力しますしいけないですかね」
「いい案ですね。そう言うことなら私にお任せください」
サイズも小さいので縫う部分も少ないし、カットにかかる時間も普通の服に比べたら短いだろうから、いけないかな? 全然私には計算できないけど。と言うことで本職のマドル先輩に聞いてみたのだけど、普通に了承してもらえた。
さすがマドル先輩! 頼りになるー!
「あ、あのー、わで、不器用だけど、でも、そのー……わでも、ブラウニーたちのこと、嫌ってるわけじゃねぇから、よかったらわでも、やらせてくんねぇかぁ?」
「ん! みんなでやる」
「ふむ。そうですね。では全員からのプレゼントにしましょうか。主様、よろしいでしょうか?」
「ああ、いいんじゃないか」
「やった! じゃあ決まりですね」
おずおずと手をあげたネルさんの提案は素晴らしいもので、とんとん拍子に話がきまった。ネルさんは苦手意識あるみたいだからどうかなって思ったけど、積極的に歓迎してくれるみたいで嬉しい! よかったー。
あの流れでブラウニーたちを迎え入れない選択肢はないけど、だからってネルさんが肩身の狭い思いをするのは違うからね。
「わで、頑張るなぁ」
「イブも、頑張る」
「私も頑張ります! あと、料理は何がいいですかねぇ」
「ん! ご馳走! お肉! ケーキ!」
ブラウニーたちが来るまで私たちはお誕生日会にどうやってブラウニーたちを歓迎するかを話し合った。
特に話し合ってはいなかったけど、なんとなくサプライズにする流れになってブラウニーたちがきたのでブラウニーに関する話題を終えた。
「ところでエスト様、エスト様は今年で十八歳のお誕生日なのですから、何か欲しいもの、何か、リクエストはありませんか? 節目となる特別な年齢なのですよね?」
「ん? そうですね。十八歳と言えば大人の仲間入りなところありますし」
「あ? 待て。二十歳で成人だと言っていただろうが」
今日は特に何をする予定はなかったけど、そろそろ席を立とうかな、と思ったところでマドル先輩がそう続けた。覚えてないけどマドル先輩には前世でのことをちょこちょこ聞かれるのでそういうことも話したのだろう。肯定するとライラ様から何故か文句を言われた。
「そうですけど、十八歳から親の許可がなくても仕事をしたり売買をしたりできるようになるので。言われてみればなんで成人が二十歳なのか、あ、お酒は二十歳になってからですね。結婚は十六からできたりしますし、言われてみれば年齢設定バラバラなので不思議ですね」
「んん? ……そうか。ややこしいな」
「まあそう言う文化なので。こういうの国によって違いますしね。ネルさんのところは何歳から成人とかありました?」
「ん? あー、わでのところでは、十五から成人だったはずだぁ。それまでは見習いで、十五から一人前で結婚もできたと思うぞぉ」
「この辺だとそう言うの多いですよね」
この中で一番私と感覚が近そうで答えてくれそうなネルさんに話をふると何かを考えるように顎に手をあてながら答えてくれた。私のいたこの世界での地元でもそんな感じだった気がする。もしかして平均寿命とか関係するのかな? 前世の国は長寿の国だったし。
まあ、いいか。とりあえずマドル先輩の質問に答えよう。
「まあそう言う感じなので、十八だから何かってことはないですね。お祝いするのはやっぱり二十歳のほうなので。お気遣いくださりありがとうございます。二十歳の時にお願いします」
「かしこまりました。では再来年には特別なリクエストをお待ちしております」
「はーい」
マドル先輩の口ぶり的に、どうやらリクエストが欲しいみたいだな。とりあえず今年のが終わってから、成人式の着物とかについて話してみよう。
「あ、ネルさんは今年で成人ってことですもんね。まだ先ですから、なんでもリクエストしてくださいね。私にもマドル先輩にも」
「えっ。ああ、そうかぁ。わで、今年で成人するんだなぁ」
「ええ? あはは、ネルさんたら、今自分で言ってたじゃないですかぁ」
「へへへ。んだなぁ。ありがとうなぁ。考えておくさぁ」
私の言葉にネルさんははっとして何故かびっくりしてから照れたように笑った。
ネルさんは見た目がすっかり大人なので普段忘れがちだけどまだ未成年だ。でもネルさん本人は普通に自分の年齢覚えてるのに、何故かびっくりしてる。
ネルさんは自分のことに無頓着なところあるからなぁ。ちゃんとお祝いしなくちゃ! 今のうちに気が付いてよかった。ネルさんのところの成人祝いの儀式ももちろんやりたいけど、遠慮するかもだし、他にもいろいろ考えてみよう。
あとでネルさん以外の人にも相談しておこう。
そう予定をたてながら、この日はブラウニーたちと畑の世話のお手伝いをした。
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