第111話 新しい配下2
「あ、自然に来ちゃいましたけど、私はどこにいればいいんでしょうか」
私はライラ様に抱っこされたまま謁見の間にはいったのだけど、よく考えたら前回私はよろしくお願いしますと言う側だったけど、今回は何役? どこにいれば? あんまり動き回れないし、せっかくいい恰好させてもらったんだし、ライラ様が座る椅子の横とかに立ってたらいいのかな?
マドル先輩が立ってるのと逆側に控えていれば、ライラ様の副官、みたいに見れたりしちゃったりして?
「あ? そんなもの、こうに決まっているだろう?」
「え、え?」
ライラ様は私の問いかけに不思議そうにして、普通に私を抱っこしたまま奥の席に座った。え? だ、抱っこしたままってこと? いやいやいや! それはさすがに恥ずかしい!
「で、でもそれだと、もしかしたらライラ様じゃなくて私がここのトップだと思われるかもしれませんよ!?」
「ふむ……別に構わんだろ」
「え!?」
か、構わんわけなくない? と驚く私に、ライラ様は真顔で言ってから、ふっと笑った。
「そもそもあいつらはお前の客からはじまったんだ。お前の部下になってもいいだろう」
「そ、そう言われると、そうかもですけど」
確かにその理屈で言われるとそうかもしれない。それによく考えたらライラ様はあんまりきゅーちゃんたちに関わってないのに、いきなり主になって保護者として責任が発生しますとなると、なんで? となるのはわかる。
挨拶したらライラ様の直属の部下になるってのもおかしいもんね。私の部下、と言われたら大げさが過ぎるけど、私が招いたんだから、私が責任取る立場にいるべきというのは確かにもっともだ。
「うむ。それにこうしていれば、お前が私のものだと言うことがブラウニーたちにも通じるだろうからな」
納得しかけていた私に、ライラ様は顔をよせて鼻先にキスをしてからそう言ってきた。さっきもだけど、なんだか今日いつもよりぐいぐいきてないですか? ドキドキするんですけど?
「ら、ライラ様ったら、もー。そんなこと言われたら、やだって言えないじゃないですか」
「言わせないために言ってるからな」
「もー。えへへ」
全く、ライラ様ったら。それが本音だったなんて。こんな立派な謁見の間でお膝に抱っこされたまま真面目なご挨拶を受けるなんてさすがに恥ずかしすぎるし、でも責任があるから前に立ったほうがいいのかなー? と言う考えになりかけていたけど、そんな風に言われたら、じゃあこのままでするしかないかーってなるよね。
と言うわけで、ライラ様のお膝の上でブラウニーたちの挨拶を受けることになった。
〇
準備が粛々と進められ、室内にもマドル先輩がはいってきてライラ様の後ろに控え、外のマドル先輩とタイミングを合わせたりして、その時が近づいてくる。
それに伴い、私はだんだん緊張してきた。この席から見下ろすこの光景、私たちからしたら遊び半分の場所だけど、ブラウニーからしたら初めての場所だ。形だけとはいえ仲間になる儀式として、わざわざ待たされ準備してるなんて、ものすごく本気で緊張と不安にさいなまれているんじゃないか。そう思うとこっちも相応の態度で挑まないとって思えてくる。
周りをみる。広くて大きな部屋。天井が嘘みたいに高くて、天井付近にたくさんの窓があるから光が入ってきてかなり明るい。天井にも飾りがある。前からそうだったんだろうか。前より立派になっている気がする。
両開きの扉は中からみるとこんな感じなのか。中から見ても手抜きなく、綺麗な細工がされている。
もう昔みたいに感じるあのお屋敷の記憶があってもびっくりしたんだ。きっとブラウニーたちはものすごくびっくりするだろう。
だから私も、頑張らないと!
「失礼いたします。ブラウニー様が入室されます」
横抱っこからちゃんとブラウニーたちにまっすぐ向き合うよう座りなおして気合をいれて待っていると、マドル先輩の声がかかった。そして返事を待たずに扉がゆっくりと開いていく。両開きの扉が綺麗に開くのを中から見ると、こんな感じなんだ。そう思いながら見守ると、開いて見えた光景に私はびくっと体をゆらしてしまった。
ずらっとブラウニーたちの大群だ。さっきより人数が増えているような気がする。それがものすごく規則正しく隊列をくんで足音までそろえて入ってくる。
小さいと言ってもぎょっとするほどの圧がある。それと同時に、ブラウニーたちの本気度が伝わってきて、私は身構えていたつもりでも足りなくてびっくりしてしまったのだ。
「……!」
お腹にあるライラ様の手がぎゅっと私の体をしっかり固定するように力を入れなおされた。体を動かしてしまったからだろう。だけどそのおかげで私ははっと正気に戻る。
そうだ。のまれていてどうする。ブラウニーたちはもっと緊張してるんだ。頑張らないと! 私はライラ様の手に自分の手を重ねて気を引き締めなおす。
「きゅ!」
ブラウニーたちがみんな中にはいってきて、私たちから少し離れた先まできた、先頭の緑のリボンをつけたきゅーちゃんが音頭をとるように声をあげ、ブラウニー全員が整列した状態で綺麗に足をとめた。
「……」
そしてじっと頭をさげて動かない。あ、これこっちが何か言わないといけないやつか。と思ってライラ様を振り向いた。ライラ様はどこか楽しそうに私を見て黙ったまま、私のお腹の上の手を動かして私の指先をぎゅっと握った。
さっき、私がライラ様の膝にのったままで勘違いされても仕方ない、みたいな話はしたけど、え? これ挨拶そのものが私の仕事ってこと?
「……、ブラウニーさんたち、今日はみなさん大勢で挨拶にきてくださってありがとうございます。顔をあげてください」
一瞬迷ったけど、私も何か言わせられるかなとは思って覚悟決めていたし、あんまり待たせても可哀そうだ。私は前を向いてライラ様の手を握り返しながらそう声をかけた。
自分でも緊張してるのがわかる声だったけど、きゅーちゃんたちは静かにすっと顔をあげた。
「きゅー、きゅう!!」
きゅーちゃんは一歩前に出て、大きな声でそう言った。何も、何もわからないよ! 難易度が高い!! いや、落ち着け私。お互い、これが仲間になるための儀式ってことは把握しているんだから、きゅーちゃんのセリフは仲間にしてください一択。いや、でも顔をあげての次だから、改めて、お初にお目にかかります! の可能性も?
「はい、ありがとうございます。きゅーちゃんたちに出会えて私たちもとっても嬉しいです。これからこの島で一緒に暮らしていくわけですから、助け合っていけたらいいですよね。大変なことも辛いことも、一緒に頑張って、一緒に楽しく暮らしてくれますか?」
これが、灰色の脳細胞が出した答えだ! そう! どっちでもまあまあいける答え! はじめまして、でも「会えて嬉しい」でお返事してこっちから仲間に誘ってる文脈になる。それでいて仲間にしてください、でも仲間に誘ってくれてありがとうからの「助け合うのいいよね。一方的にじゃなくて一緒にこの島で頑張ってくれますか?」で意味が通じる! 完璧だ!
「きゅううう!」
私が心の中で自画自賛しながらもそう言い切ると、きゅーちゃんはそう大きい声で答えてくれた。よし! ここでのきゅーちゃんの返事ははいしかありえないので、これで決まりだ! 今からブラウニーたちも一緒に島で暮らす仲間だよ!
「はい! じゃあ、みんな、これからもよろしくおねがいします!」
「きゅー! きゅう! きゅう! きゅう!」
「きゅー!」
「きゅー!」
挨拶がうまくすんだことにほっとして肩の力を抜きながらそうしめると、きゅーちゃんがまた大きな声をだし、興奮したように連続して声をあげた。するとそれに呼応するようにブラウニーたちも声をあげた。
一斉にそろってあげられるその声はまるでうねりのように部屋中に響いて、ちょっとびっくりしたけど、これはあれだね、万歳三唱みたいなことだね!
「ばんざーい! ばんざーい!」
「きゅー! きゅー!」
きゅーちゃんに付き合って私も万歳をすると、きゅーちゃんは一緒に手をあげて喜んでくれた。万歳が喜びの表現って通じるものなんだね。言語はパッションだよね。
他のブラウニーたちも続々と万歳に付き合ってくれる。波のような万歳が見ていて気持ちいい。
と落ち着いた気持ちでブラウニーたちを見ているとその背後、開けたままの扉の向こうからイブを体の前に抱っこして隠れるようにしたネルさんが見える。気にはなっていたようだ。二人を安心させてあげなきゃね。
「はい、最後に、ばんざーーーーい!」
「きゅーーーー!」
わかりやすくながーい万歳をして手をたたいてしめる。これでちょっとはきゅーちゃんたちも落ち着いただろう。にしても、コールアンドレスポンスってこんな感じなのかな? 気分がよくなってしまう。
「はい、よくできましたー。じゃあね、改めて自己紹介をしていきますね。ネルさーん! イブも一緒に入ってきてくださーい!」
「えっ、わ、わではいいってぇ」
叩いた手で軽く拍手してからそう声をかけるとネルさんは遠慮がちに扉に隠れてしまったけど、じゃあいっか、とはならない。踏みそうで危ない、恐い。と遠慮してたらその方が危ないでしょ。こういうのは右側走行みたいにルール決めれば大丈夫だから。
「お互い知って注意しないと余計危ないじゃないですか。はいみんな、後ろから大きい人が通るけど、私の家族だし危なくないから、走ったりしないでね。急に動いたら危ないからそのまま待っててねー」
「きゅ!」
「ほらほら、ブラウニーたちはお利口に待ってますから」
「ん! ネル! 行く!」
「う、わ、分かったぁ」
ブラウニーたちは一声かけるとネルさんを振り向いたけど驚くこともなくそのまま待ってくれている。お利口だ。ネルさんのことも事前にブラウニー内で聞いてたのかな?
それから私も含めて全員紹介し、最後にもちろんライラ様の紹介もした。きゅーちゃんたちはそのたびにきゅー! と盛り上がってくれたので司会している私はどんどん楽しくなってしまった。
大勢の前でしゃべるの、結構気分がいいかも。と、最初まで緊張していたのが嘘のように調子に乗ってしまう私だった。
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