第109話 衣服

 きゅーちゃんたちを太陽が高くなるまで船遊びで歓待し、私たちは戻って昼食を食べた。それからマドル先輩の提案で、きゅーちゃんたちをお風呂にいれることになった。きゅーちゃんたちはお風呂文化がないのかドロドロってわけじゃないけど、どうしても土で汚れているからね。


「きゅ?」

「あったかいお湯だよ。気持ちいいよー」

「きゅ……きゅう、きゅーうー」


 まとめてお風呂場につれていき、小さい桶にお湯を入れてすすめて様子を見てみると、最初は驚いたけどすぐに自分から入ってくれたので大丈夫みたいだ。

 指先を入れて確認してから、自分から中にはいってくれた。そして体をこすっている。水にはいって綺麗にする習慣はあるみたいだ。


「きゅーちゃん、こっちの石鹸をつかうともっと綺麗になるんですよー。お背中お流しさせてもらってもいいですかー?」

「きゅ?」

「いきますねー」

「きゅー」


 石鹸を泡立たせた布を近づけても首を傾げるだけで嫌がらなかったので、そっと持ち上げて桶からだし、あったかくなったきゅーちゃんの体を泡で洗っていく。

 きゅーちゃんが嫌がらない程度にくまなく綺麗に洗った。と言うとまるで私が全部したみたいだけど、途中から疲れたのでマドル先輩に交代した。だってなかなか汚れがおちないので。あときゅーちゃん以外はマドル先輩が担当した。どうやらマドル先輩はブラウニーたちをいたくお気に召したようだ。

 喜んでお風呂場に集結して洗ってくれた。


 お風呂からあがったら、お次はブラウニーたちのファッションショーだ。昨日からすでに制作をはじめていたマドル先輩は朝ブラウニーたちが来てくれたのを見て、お揃いの服を着せたいと思ったようで頑張ってつくっていたらしい。

 幸い個体によるサイズ差もあんまりなく、小さいのでマドル先輩七人がかりでかかれば一人に対して複数作り上げることすら容易だったらしい。


「きゅーちゃん、似合ってるよ。可愛い」

「きゅう! きゅー……きゅ?」


 明るい淡い黄色のワンピースに着替えたきゅーちゃんは私の誉め言葉に嬉しそうにぴょんぴょん飛んで一回転してから、はっとしたように周りを見回してから首を傾げた。


「ん? どしたの? 他のみんなならあっちで順番に着替えているからね」

「きゅ、きゅーきゅう?」

「あ、リボン?」

「きゅ!」


 それぞれの服をいれた籠があちこちに置かれていてきゅーちゃんの視界では仲間たちが見えないからかな? と思って指さしながら教えたけど違った。きゅーちゃんが身振り手振りで教えてくれたところによると、どうやら昨日私があげてからずっと身に着けていたリボンの行方が気になっているらしい。

 お風呂に入る時に脱がして、そのまま洗ったんだった。でもあれは間に合わせと言うか、きゅーちゃんに渡せて無理なく持っていられるもので思いついたのがあれだけだった。ちゃんと専用の服がある今となっては、リボンを体にまきつけても邪魔だし。

 と思って重要視してなかった、最後に渡してお家にもって帰ってもらおう位のノリだったけど、どうやら気に入ってくれていたらしい。


「マドル先輩、昨日きゅーちゃんにあげたリボンどこいったか知りません?」

「まだ濡れていますので、アイロンをかけてからすぐにお持ちしますね」

「ありがとうございます。きゅーちゃん、すぐに持ってきてくれるからね」

「きゅう!」


 うーん、なんていうか、ノリなのかもしれないけど、きゅーちゃん側にはすっかり会話が通じている気しかしない。逆にこっちがジェスチャーで理解してる状況だ。もうこれ疑問を入れる余地なく、私より頭いいな。


 ワンピースの次に着物風、ボディスーツ風と着替え遊びをしているとすぐにマドル先輩がリボンを持ってきてくれた。とはいえ、太めのリボンなので服を着ていると使いどころが難しい。


「うーん、どうしよう。きゅーちゃんが装飾品として使うにはちょっと長すぎるんだよね。太いから体に巻くと服を隠しちゃうし」

「きゅう、きゅー」

「うっ、可愛いっ」


 どうしようか、と考えているときゅーちゃんはリボンの端をつかんでぎゅっと抱きしめた。可愛すぎる。そんな気に入ってくれてるの? 可愛さにリボンを取り落としてしまった。きゅーちゃんは体に巻いて喜んでいる。


「そうですね。もう少し短くベルトのように加工すれば、服の上から巻いても違和感のない恰好になるでしょうか。それか、そのものを服にするか、アクセサリーのように身に着けるものにするか、いくつか考えられます」

「なるほど? きゅーちゃん、どうする? よかったらそれを腰に巻く、こういうやつにして、服の一部にもできるけど、そのままじゃないと駄目?」


 ベルトの実物を見せたりして説明すると、きゅーちゃんはむむむと腕を組んで悩みだした。短い腕をくんでるの可愛い。


「実際に作ると、こういう感じですね」

「えっ、はやっ」


 可愛いからずっと見ていられる。と思ってると横から同じサイズのリボンを使って作った実物が差し出された。マドル先輩の仕事が早すぎる。


 はー、ベルトも重くないよう金属部分は最低限になっていて、リボンを重ねて縫っていて耐久性もそこそこありそうだ。

 アクセサリーは、ちょうちょ結びにしたリボンを固めて、服にとめられるようになっている。きゅーちゃんには大きめだろうけど背中につければ、最初に体に巻いていたのと似たような感じになるだろう。

 リボンを使った服はさすがにまだ考え中らしい。私も、体に巻いているセクシープレゼントしかまだ想像できないからしかたないね。


「きゅー……きゅう!」

「お、アクセサリーがいいみたいですね」

「かしこまりました。しばらくお待ちください」


 きゅーちゃんは吟味するようにそれぞれ手にとって確認してから、リボンのほうを掲げてアピールした。蝶々結びが気に入ってたのかな? 可愛いよね。


「きゅーちゃん、全部一気に家に持って帰れそう?」

「きゅ!」

「大丈夫なんだ。結構力持ちなんだね。あ、ていうか、きゅーちゃんの家ってどこなの?」

「きゅー……きゅ!」

「なるほど、あっちなんだね」


 やっぱり詳しい会話は難しいな。いや、これ私の質問が悪いよね。イエスかノーで答えられる問いかけなら、きゅーちゃんの返答でもわかるはずだ。うーん。どう聞こう。と言うか改まると何を聞けばいいんだろう。


「きゅーちゃん、今日のご飯おいしかった?」

「きゅ!」

「またいつでも遊びにきてね」

「きゅー!」


 うーん、可愛い。なごむ。私はちらっと横にいるライラ様を振り返る。ライラ様は特に何も言わずに、昼食後に私とマドル先輩についてきてそのままじっときゅーちゃんを見ている。

 表情が優しいので警戒してとかではないみたいだし、興味があるけど私が可愛がるから話しかけにくいのかな? でもライラ様がそんな遠慮するかな?


「ライラ様、ライラ様からきゅーちゃんに聞いてみたいことはありますか?」


 疑問に思いつつもそう話題をふると、ライラ様は意外そうに首をかしげた。


「ん? 別にないが」

「そうなんですか? じっときゅーちゃんを見てるので、可愛がりたいのかと。場所変わりましょうか?」

「そういうことか。いい。気を遣うな。確かにきゅーを可愛いと思っているが、別に私が触れ合いたいわけではない」


 なるほどな、と言う顔で頷いたライラ様だけど、軽く否定されてしまった。人の感性はそれぞれなので、きゅーちゃんという可愛い小動物姿を可愛いと思わないとしてもそう言う人もいるだろう。でも可愛いと思うなら、どうせならもっと近くで見て、話をしたり触れ合いたいよね?


「えー、そんな遠慮しなくてもいいですよ? ね? きゅーちゃん」

「きゅ?」

「遠慮ではない。可愛いきゅーと遊んでいるお前がより可愛いから見ているだけだ」

「ぐっ……」


 油断していたところにとんでもない剛速球がとんできてしまった。可愛いきゅーちゃんといると私がいつもより可愛いから、黙ってじーっと見てたってこと? なにそれ、そう言うことしちゃうライラ様が可愛すぎるでしょ。そして私のこと好きすぎ。私も好き。

 でも、でも、だから、恥ずかしいって! きゅーちゃんでもこんな真っ赤になってたら言葉が通じなくても察しちゃうかもじゃん!


「ライラ様、そういうこと人前で言われると恥ずかしいですってぇ」

「だから黙っていたのに、お前が聞いてきたんだろうが。そもそも、私にとってお前より可愛いものなどあるはずないだろう。きゅーを撫でるよりお前を撫でているほうが楽しいに決まっている」

「うっ。や、やめてください、撫でてほしくなっちゃうじゃないですか」

「くっ、くくく。なんだ、おねだりだったのか?」

「うー、違うのに」


 きゅーちゃんの前でそういうことされると、お客さんだと思って張り切ってお世話していいカッコしてたつもりだった分恥ずかしすぎるよぉ。と思って本気でやめてって言ったのに、ライラ様ときたらぐっと一気に近寄ってきて私を抱きしめてわしわし撫でてきた。

 心地いいから拒否できない! きゅーちゃん、めっちゃ見てる。不思議そうにされてるのが逆に恥ずかしいよぅ。


 この後、アクセサリー制作マドル先輩が戻ってくるまで撫でられた。

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