第107話 お客さんを歓迎しよう


「え? きゅ、きゅーちゃん?」

「きゅ、きゅーきゅう!」


 翌朝、多少夜更かししても元気に起きれるようになっているので、みんな一緒に朝食をとろうと挨拶を交わしながら席についた時、イブが何か音がすると言いだした。

 そこで全員で見に行き、そっとマドル先輩が玄関扉を開けたところ、なんとそこにきゅーちゃんがいた。マドル先輩の後ろにくっつくようにしていた私は、思わず前に飛び出て声をかけた。


 きゅーちゃんは私を見て両手をあげて大きめの声をだした。


「おー、いっぱい」

「こんなにいると、なんだかこえぇなぁ」

「ん? こわい? ネル、私が守る」

「あ、ありがとうなぁ」


 どうやらきゅーちゃん、昨日の今日で尋ねてきてくれたらしい。昨日上げた緑のリボンを身に着けたきゅーちゃんは、その後ろに六人のお仲間を引き連れていた。

 ネルさんはイブの背後に回ってちょっと離れてしまった。イブは最初きゅーちゃんに興味深々って感じだったけど、どうやら今はネルさんを守るのが優先らしい。

 まあ全員で話しかけても話が進まないだろうから、なんか勢いでだけど私が代表してお話する流れになっているので、このまま話してみよう。ライラ様も私の後ろで腕を組んで何か考えているのか黙ったままだし。


「きゅー、きゅうきゅ! きゅーきゅ」

「きゅう、きゅーう」


 きゅーちゃんが元気に言って、後ろの一人がでてきて低めの声で何かを言った。動きがちょっとゆっくりめなのでお年寄りで声が低い可能性もあるけど、きゅーちゃんが女の子で紹介されたのが男の子な可能性もある。

 昨日ライラ様が考察していた感じでは私が思っていた以上に賢くてだいぶ言葉を理解してくれようとしてたっぽいので、これからもガンガン話しかけていけばいいかな? 申し訳ないけど、私がきゅーちゃんの言語を理解するのは絶対無理なので。


「わざわざ挨拶に来てくれてありがとうございます。きゅーちゃんから聞いたかもしれませんけど、私はエストです」

「きゅ、きゅうきゅう」

「きゅー」

「きゅー」


 しゃがんで挨拶をしてそっと手をだすと、その子はそっと私の手に自分の手をのせてお返事してくれた。それを見ていた他のきゅーちゃんたち、じゃわかりにくいな。

 えっと、そうそう。ブラウニーって種族名で呼ぶことにしたんだった(勝手に)。ブラウニーたちはいっせいに盛り上がっている。新しいお隣さんに興奮しているのかな?


「えーっと、どうしましょう。せっかくなので朝ごはんを一緒に、と行きたいですけど、さすがに人数が多いですかね?」

「いえ、問題ありません。すぐにご用意いたします」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、きゅーちゃん、君たちブラウニーみんな、朝ごはんに招待しますね。さ、どうぞどうぞ」


 マドル先輩を振り向いて確認して、ライラ様からも無言で頷いてもらい二人からのOKが出たので、私はきゅーちゃんたちを家の中に招いた。


 ネルさんがこわいと言ったのは、どうやら踏んじゃいそうでこわい、と思っているようで足元に気を付けながらイブにぴったりくっつくようにして歩きだした。


「ブラウニーさんたち、ネルさんの足元には急に近寄ったりしないように、近くに行くときは声をかけたりしてお互い気を付けてあげてね」

「きゅー!」


 一応そう声をかけたところ、なにやら元気な返事が返ってきて、ブラウニーたちは綺麗に列を作ってお家に入ってきた。これなら見た目も目を引くし、間違って踏んじゃうことはないだろう。

 ネルさんもちらっと振り向いてちょっと安心したみたいに肩の力を抜いたのが見えた。よかったよかった。


 そのまま食卓に向かう。昨日は屋外だったし、きゅーちゃん一人なので普通に机に置いたけど、さすがに全員を机にのせるのは抵抗がある。とはいえ床に座ってと言うのもね。と迷っていたら、マドル先輩がさっと一区画に大きな布を持ってきて絨毯のようにひいてくれた。

 毛足の長い絨毯だと体が小さいブラウニーたちは逆に落ち着かないだろうから、見た目には綺麗な布が段差にもならないしちょうどいいのかな? さっと示すとブラウニーたちはちょっとだけ戸惑ったようにしながら上にのっていった。


「ではご用意いたしますね。食器のサイズが合わないので、大きくなってしまいますがご容赦ください」


 そう言ってマドル先輩はてきぱきと大皿にのせた果物、パン、ウインナーやサラダを用意した。大きさ的に個別に用意するの難しいし、何を食べるかわかってないからか、とりあえず昨日も食べてた果物がたくさんに、それぞれ種類ごとに小分けにしてお皿にのせている。あと飲み物として水をコップにいれて何個も用意している。すぐにできる最善をすぐにしちゃうマドル先輩、さすがだ。

 ブラウニーたちは前に置かれた食べ物たちに歓声をあげたけど、全部置かれてもすぐに食べずにじっと私たちを見ている。


「エスト、声をかけてやれ」

「え、あ、はい。いいですけど、ライラ様が仕切らなくていいんですか?」

「何を気にしている。お前が客人と決めたんだから、お前の客だろう」

「そう、ですね。わかりました。じゃあ」


 ここは家主のライラ様が仕切るのでは? と思ったのだけど、そう言われると私が招いたんだから責任あるか。よし、これから私がブラウニー大使だ。


 ブラウニーたちに、いただきます、してから食べていいんだよ。とジェスチャーを交えてから声をかけ、私たちの分もマドル先輩が用意してくれたので、わかりやすいようにみんなでいただきます。として促した。

 ブラウニーたちは声をそろえてきゅーと言ってからご飯を食べだした。何でも食べられるようだし、同じお皿やコップなのも気にせず大丈夫そうだ。


「マドル先輩、さすがですね。急にこんなに用意できるなんて」

「きゅーちゃん様が来られた確認が取れた時から、念のためご用意してパンを焼き始めていました。エスト様が教えてくださった、発酵しないパンのおかげです」

「そうだったんですね。いつもありがとうございます」


 いくらきゅーちゃんが小さいとはいえ、昨日の果物も結構食べていたし、全部で七人となると色々用意しているのもあって普通にもう一人前以上はある。いつも無茶ぶりして申し訳ない気がするけど、マドル先輩本人がノリノリだし、もし私が誘わなかったら逆に無駄になっていたわけだしこの調子でいいということにしよう。



 何はともあれ、こうして今日は朝からお客さんを迎えての食事となった。きゅーちゃんたちをついついチラ見してしまう。可愛い。


「おい、よそ見をするな。ついているぞ」

「あわ。す、すみません」


 ちらちら見ていると目測を誤り、ほっぺにジャムがついてしまった。ついた瞬間気がついたけど、私が自分で反応するより先に、ライラ様のお小言と共に指がとんできて、ぐっと頬をぬぐわれた。視線で追いかけながら謝ると、ライラ様はぺろりとぬぐったジャムを食べた。


「甘いな」

「ら、ライラ様、お客様が来てますから……」

「お前がよそ見をするからだろう」

「う、はい、すみません。気を付けます」


 にっと笑って言われて、恥ずかしくて顔が赤くなっているのを自覚しながら言うと、ライラ様は私の頬をつついてそう注意してきた。お客様の前でそういうことされると恥ずかしいからやめてほしいけど、でも、そもそも私が子供みたいに恥ずかしいことしたのが事実。反省します。

 私はきゅーちゃんの方を見るのをやめて、真面目に食事した。


「さて、朝ごはんを食べましたね。お腹いっぱいになりましたか?」

「きゅう!」

「美味しかったですか?」

「きゅーきゅう」


 手をあげてぴょこぴょこ跳ねてくれているので、多分とっても喜んでくれているみたいだ。


「よかったです。マドル先輩の料理は世界一ですから、きゅーちゃんの口にも合うと思いました。えっと、それで今日は遊びに来てくれたのかな? それとも用事があるの?」

「きゅー……きゅう」

「うーん?」


 お腹も膨れたことだし、改めて今日の用事を聞いてみたのだけど、どうにも歯切れがわるい。まあ流ちょうにしゃべってくれてもわからないのだけど。

 遊びに来たわけじゃないけど、用事があるわけでもない? うーん。わからない。


「えっと、この後、新しくつくった船にのるんだけど、ブラウニーたちも一緒に確認してくれる?」

「……きゅっ!」


 こっちの言葉はなんとなく通じてる感じはあるから重ねて尋ねた。今日はついにボートが完成したので、これから進水式、と言うと大げさだけど、実際に水に浮かべて乗ってみようという予定だったのだ。

 するとちょっと迷った感じだったけど、きゅーちゃんは片手をあげて力強く返事をしてくれた。多分OKだ。


「じゃあ、えっと」

「エスト様。こちら、ご用意しました」

「あ、ありがとうござ、あ、はい。じゃあお願いします」


 一緒に行くとしてどうやって一緒に行こうか。全員を持つのは大変だし。かといってさっきは室内だし一緒に歩いたけど、この砂浜は結構な距離があるから自分で歩かせるとなると自然に走る形になるんじゃないかな。走ると意外と足がはやいけど、だからってこの体格でこの広さはしんどいだろう。

 と思って迷っているとマドル先輩が籠を持ってきてくれた。これもマドル先輩が作っていた新しいやつだ。助かるーと思って受け取ろうと思ったけど、全然手を離してくれなかった。顔を見るとやや微笑んでいるけど圧を感じて、あ、これマドル先輩が自分でやりたいやつだと察した。


「じゃあ、みなさん、マドル先輩のこの籠にのってついてきてください」

「どうぞ、こちらへ」


 私がブラウニーにそう言うと、マドル先輩は膝をついてうながした。意図は伝わっているようできゅうきゅう小さな声をあげながら乗っていく。


「きゅっ、きゅーう」

「ん? きゅーちゃん、あ、もしかしてきゅーちゃんは私と行きたい感じかな?」

「きゅ!」


 最後にのこった一人だけリボンをつけてるきゅーちゃんが私に近づいて何か言ったのでちょっと調子に乗ってそう言うと、そうだよ! とでも言いそうにジャンプしだした。可愛い。


「そっかそっか、じゃあおいでー」


 一人なら大丈夫だろう。私はきゅーちゃんに手を伸ばす。


「きゅっ」

「え、わ、あ、き、器用だね。落ちない? 大丈夫?」

「きゅい!」


 私の手にのったきゅーちゃんはその勢いのまま腕をかけあがり、私の肩に乗った。長い爪がふれたけど、痛いとかもない。多少重さは感じるけど、今の私なら苦でもない。きゅーちゃんがこれがいいなら、これで行くか。


「よし、じゃあ行くよ!」

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