第96話 お家探検2

 一階の左側はまず最初に大きなリビングダイニングがあって、その奥が大きな台所だった。階段にぱっと見隠れてるけど通路があり、奥にお風呂やトイレ、倉庫があるらしい。

 その説明を聞きながら私たちは大きなテーブルについておやつタイムをとっていた。


 テーブルがネルさんに合わせてかなり大きくて私とイブ用の椅子はのぼれるよう梯子がちょっとだけどついてるくらいだ。

 今は普通に私もイブもそれぞれ抱っこして座らせてもらったのだけど。なんか私、もしかしてちょっと振る舞いが幼かったかもしれない。イブのふり見てちょっと直そうと思いました。今日が特別なだけで、明日からはちゃんと一人で椅子に座ろ。


「うーん、変わらないマドル先輩クオリティ。美味しいです」

「おいしい!」

「うん。しばらくは食えねぇと思ってたから、ほんとに、うめぇなぁ」


 おやつはすでに先んじて住んでいたマドル先輩が用意してくれていたクッキーで、さくさくだ。私たちと同時に到着していたら、できていても出来立てすぎただろう。ちゃんと熱がとれてるからこそのサクサク。美味しい。

 ライラ様は特にコメントなく一つ口にいれたあとはお茶を飲んでいる。最初から分かっていた人らしい落ち着いた態度だ。大人っぽくて素敵。


 それからぐるっと館内を軽く一周した。奥のトイレとお風呂の位置を確認し、左側に移動。手前にネルさんとイブの部屋があった。二人の部屋はしようと思えば仕切って部屋にわけられるようにもなっていて、ネルさんの体格もあるので広めだ。


「こ、こんな広い部屋もらっていいのかぁ?」

「これから物を増やすことになりますから。さすがにそこまで用意するには時間が足りず」

「ベッドがあれば充分だぁ。わでが自分でつくればいいしなぁ。むしろ、楽しみを残しておいてくれて、ありがとなぁ」


 めちゃくちゃ広いけど、あるのはベッドだけだ。前の家でもそうで、ネルさんの洋服は増えていたけどほぼマドル先輩が管理していたから、洋服箪笥もなかったので運ぼうにも物がないから仕方ない。

 それから二階にあがる。二階の左側、手前部分がネルさんとイブの部屋よりさらに大きな部屋だった。どうやら衣裳部屋らしい。


「いや、いくらなんでも広すぎません?」

「そうでしょうか。いずれはこの部屋でも足りなくなり可能性も考慮しているのですが」


 ものすごい量が収納できる部屋で、これから家に残してきたものを回収していってもかなり余る。でもこれからこれを埋めてはみでるくらいくらい作っていくつもりらしい。野望がすごい。

 その部屋は作業部屋も兼任しているそうで、端に大きめの机もあった。そして奥に扉があり小さな部屋とつながっていた。どうやらそこはマドル先輩の部屋らしい。小さいけど、一応休憩用のベッドを置いている予備の部屋、と本人が言っているのでいいのだろう。


 その部屋から出て、廊下を通り、その奥。私とライラ様の部屋があった。広さはそこそこだ。二人の部屋と作業部屋が広すぎたのでちょっと狭く感じたけど、冷静に考えて普通に広い。ここもベッドしかないし、ぽつんと寂しいまである。まだまだこれからだろう。


「あ、この部屋、天窓がありますね!」

「うむ。毎日ではなくてもいいが、たまには空が見えるほうがいいだろう?」

「はい。いいですよね」


 部屋の5分の1くらいに空が見えるスペースがあった。そこにベッドを移動させれば空を見ながら寝られそうだ。閉めるようの蓋もついているのが見えるけど、私では到底操作できそうにない高さだ。天井に関してはどこもかしこも高すぎる。

 右の二階はいくつか大きめの部屋に分けられているけど、今のところ使用用途はない空室だ。いずれは図書室とかを予定しているらしい。このあたり前の館を参考につくったんだろうな。


 そして二階のエントランスから見て反対側から三階に行ける階段があり小さめの屋上があった。屋上の半分はポンプ式で井戸から直接水をくみ上げて貯められる貯水庫があった。

 飲用してもいいようにあえて貯水庫は小さめにして一日に数回くみ上げる計算になっているらしい。マドル先輩という人手があるからできることだ。重さ対策的にもこれが効率いいらしい。

 屋上の残りは雨の日でも干せる洗濯物干しみたいになっている。さすがに目の前にこれ以上ないプライベートビーチがあるので室内運動場はない。


「一応案内いたしましたが、危ないのであまりここには来ない方がよろしいかと」

「そうだな。そこそこ風もある。お前が大きなシーツでも持ってあおられたら飛んでいく可能性もある」

「いやないですけど。わかりました」


 イブでもないのに、一応成人女性としてそこそこ身長ある私がなんで空を飛んでしまうと思うのか。ないですけど。まあ柵も低めだし、基本的に予備だから私も来ないと思う。


 最後に家の裏を見せてもらった。きちんと整備されていて、そこには畑もあった。その奥には近くまで獣が来ないように柵もつくられている。館から少し離れたところに外用の井戸もあるし、表から見えなくてリゾート地の風景を維持しつつも生活ができる、完璧な仕事すぎる。


「いやこれ、本当にすごすぎます。いつの間に二人で準備してたんですか?」


 一通り見て回ってすごいすごいと感激してから、ちょっと疲れたのでそれぞれの部屋に解散して休憩することにして、ライラ様と一緒の部屋に戻ってきた。

 マドル先輩は普通についてきてお茶をいれてくれた。一人は基本ついてきてくれるみたいだ。ベッドにごろりと転がってから、改めてすごすぎると言う感想しかない。


「うむ。お前の話を聞いてすぐに探し出したが、さすがに見つけるのは手間だったぞ。障害物がないから直線距離はそれほどでもないが、なにせどこがいいかわからないからな」

「それはそうですよ。むしろ早すぎません? 地理的にはどの辺にあるんですかね? 海図だと」

「図には載ってないが、このあたりだな」


 ライラ様はベッドに座った状態でマドル先輩に手を出し、以心伝心で受け取った海図をベッドに広げた。肘をついて上体を起こしてそれを覗き込むと、ライラ様はその外をちょんちょんとつついてそう説明してくれた。

 うーん、そもそもこの海図って、結構縮尺とか位置関係適当らしいんだよね。GPSとかないし当たり前かもだけど、だからいまいちぴんとこないけど、あのたった数時間でかなり遠くに来てしまったらしい。


「ライラ様、そんなに早く移動もできたんですね」

「うむ。まとめて船に入っていたから、気を使う必要もなかったし、逆にあまり時間をかけてもし見られてもまずいからな」

「あ、そうですよね。本当にありがとうございます」


 前は抱っこだったから、影響がないように遠慮してくれていてあのスピードだったってことか。なるほど。船の中にいれられたのはそう言うことかぁ。よく見えなかったし振動はなかったからわからなかったけど、外に出てたら飛ばされるくらい早かったのか。新幹線くらいでてたのかな。

 そして確かに飛んでる船をみられたらまずいよね。他の船全然見なかったし大丈夫っしょって全然考えてなかった。さすがライラ様、気遣いの人。と感心しつつ、ちょっと申し訳ない。結局何から何までおんぶに抱っこ。引っ越しの言い出しっぺだったのに。


「あの、私から言い出したのに、全部任せきりにしちゃってすみません」

「構わん。私がそうしたかっただけだ」


 真面目に謝ると、ライラ様はふっと笑って私の頭を軽く撫でる。


「過酷な旅も、いつ見つかるかわからない不安も、お前には必要ないものだ。お前を困らせていいのは、私だけだ」

「ら、ライラ様、好き! もー、そう言うとこ大好きです!」

「ふふふ。うむ、うむ」


 そして続けられた愛にあふれた言葉に嬉しくなって飛び上がりたくなったけど、頭を撫でて抑えられているので、私はライラ様の手に頭を押し付けるようにぐいぐい移動し、ライラ様の腰にだきついて喜びを表現した。


 食料もしっかり搬入済で、生肉や魚をとれば今までと変わらない食生活で一か月くらいは何もせずに食べられるくらいはすでにあるらしい。そもそもその気になれば日帰りすることもできるので、一回くらいは戻ってもう一回必要品を買い込むことはできるとのこと。

 確かに。その発想はなかった。二度と戻らない不退転の出立、くらいのノリだったけど、別に戻ってもいいのか。もちろん頻繁に行き来してたら怪しいけど、そうかー、そう言う考えもあったのか。なるほど。


「じゃあすぐに働かなくても大丈夫なんですね」

「そうですね。と言うか別にエスト様は働く必要は元々ありませんが」

「それはともかく、それじゃあ、明日からこの島の探検をしなきゃですね!」


 旅気分だったけど、もうお家が決まったんだし、これからの生活の為に色々なことがはじまるぞ! まだ何をすればいいか何もわからないけど! と思ったけど、急いですることはとくにないらしい。

 街と違って働きに出る先もないしね。いずれはまた船を出して取引が必要にはなるし、売り物になるものを用意することにはなる。でもそれもそんなに急ぐことはないってことだ。

 マドル先輩にかかると急ぐも何もずっと働かなくていいことになってしまうので置いといて、とりあえず! この島を探検してここでの生活になじまないとね!


「まあ、そうだな。私もマドルに任せきりで、自分の目で全容を確認したわけではないからな。しばらくはお前の好きな探検、だな」

「はい!」


 こうして、私たちの新しい生活が始まった。


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