第84話 花嫁の吸血2
「ん……とまったな。大丈夫か? いつもより多めに吸ってしまったが」
ライラ様に血を飲まれる心地よさに陶酔していると、ぐりっと舌を押し付けられて改めて与えられた肉体的快楽に体が震えて私の手がゆるんだところで、ライラ様はキスをやめた。
唇が離れるのと同時に私も目をあけると、至近距離にライラ様が見える。その美しさに見とれる私に、ライラ様は笑ってもう一度軽くキスをした。あ、唇にかかってた唾をとってくれたんだ。とわかってちょっと恥ずかしくなる。
「んん。も、もっと吸ってくれても、全然、大丈夫でしたよ? 花嫁になったんですから、大丈夫なんじゃないですか?」
ちょっとだけくらくらするけど、血を吸われたからなのか、気持ちよすぎたからなのか自分でもわからない。そんな私に、ライラ様は優しく頭を撫でてくれる。
「ふっ。そう無理をするな。今日はいつもと同じにして、できるなら少しずつ増やしていくつもりだ」
「そ、そうですか……あの、美味しかった、ですか?」
いつもなら血を吸われてそのままお休みなので、吸われた後にどう反応すればいいのかわからなくてそう聞いてみた。いや、美味しいと言ってくれているし、こういうこと聞くのはちょっと無粋かな。えっと、えー、でも、なんだろ。ちょっと恥ずかしいな。
なんだかまっすぐライラ様の目を合わせるのが恥ずかしくなって、自分で聞いておいて目をそらしてしまった。
「くくく。ああ、美味かったぞ。時間をかけて飲むのも悪くない」
「私の状態によって味って変わるんでしたっけ?」
「ああ。そうだ。どの状態も美味いが、今日はいままでになく、新鮮でよかったぞ」
「そ、そうですか。喜んでもらえて、嬉しいです。えへへ」
よかったぞ、と言ってもらうと、ちょっとまって、なんかより恥ずかしくなってきた。血の味だってわかってるけど。
も、もう終わったんだしお膝から降りたほうがいいんじゃないかな? ずっと抱きしめられたままだし。もう寝る時間だし。
「ああ、次は、そうだな。お前をもっと可愛がって、気をやっている時の血を飲むのも悪くないな」
「っ!? え、えっと……次回ですか? それは……」
ふふっと息を漏らす様に笑ったライラ様は私の耳元でふっとささやくようにそう言った。一瞬、気をやる? って思ったけど、もっと可愛がってと言う文脈から、多分、今回よりもっと私のことを気持ちよくしてってことだから、その、キスだけじゃないえっちなことしながら血を吸うってことだよね?
だとしたら、あの、えっと、次は一か月後っていうことで、いや、あの、ちょっと遠くない?
でも私ばっかりしてもらってたし、ライラ様に強制するのは違うような、いや、全然私もライラ様が許してくれるならご奉仕したいけど、でもそれ私から言ったらよけいにえっちなことしか考えてないみたいに思われる気も。えー、でも、あんな気持ちいいことを私の体に教えて、とどめにこんなにえっちな吸血しておいて、一か月後はちょっとお預けがすぎるんじゃ。
「くっ、くくくくく。可愛い顔をして、何を考えている?」
「えっ、う、うー……」
言葉に迷って口をもにょもにょさせていると、ライラ様は笑って私の顎を掴んで強引に顔をあげさせ、目を合わせて尋ねてきた。その何もかも見透かすような瞳に、私は熱くなる体を縮こまらせながらも答えようとするけど言葉が出ない。
だって、こんなのどういう風に言っても恥ずかしい。全部ライラ様のせいだって言いたいくらいだけど、いや、まあ、そう言う関係の恋人になりたいって言いだしたのは私であってむしろライラ様は答えてくれただけだし。でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「ふふ。そう泣きそうな顔をするな。少しいじわるが過ぎたか?」
「う、そ、そんなこと、ないですけど」
ライラ様は黙り込むめんどくさい私の目元にキスをしてそう慰めてくれるけど、泣きそうな顔なんて自覚がなかった私は違う意味で恥ずかしくなってしまう。
言いたいことがあるくせに言葉にしないで、その癖顔にだして察してもらおうとか、ちょっと、かまってちゃんすぎる。うう、はずかしい。なのに心の中では泣いてはないって思ってるのも、情けない。恋人になったんだし、気持ちも欲も全部受け入れてもらってるんだから、こんなにためらう必要はない。
そう思うのに、それでも恥ずかしい。いやでも、ライラ様は私が無理になれるより初心な反応が可愛いって言ってくれるわけだし。
「ははは、本当にお前は、可愛いな。何をしても私に可愛がられる才能があるんじゃないか?」
「うーっ、ら、ライラ様、私の何でも可愛いって言いすぎです。そんなに甘やかされると、私、調子にのっちゃいますよ……?」
心の中で言い訳をしてしまう自分に自己嫌悪してしまいそうなのに、現実のライラ様はそれよりもっと甘い言葉を投げかけてくれるものだから、ついそんな逆切れのような、甘えるような図々しい言葉がでてしまった。
でもほんとに、今は付き合いたてだからそうやって何でもいいって言ってくれるかもしれないけど、そのうち飽きたら私の態度もうざいって思うかもなんだから。
「くっ、くははは! はははは! ちょ、調子にのっちゃうのか、そうかそうか、あははは」
「わっ。ら、ライラ様ぁ」
なのにライラ様ときたら、何故か一瞬きょとんとしてから大爆笑してしまった。そして笑いながら私の頭をぐりぐり撫でてくる。
えぇ? そんな面白いこと言った?
「ははは、はぁ、まったく、ほらどうした、調子にのったことを言ってみろ。今なら機嫌がいいから何でも聞いてやるかもしれんぞ?」
「うぅ。じゃあ言いますけど……その、一か月たたなくても、その……」
頬をつついたり喉をくすぐったりしながら促された。もうこれ恋人へのスキンシップじゃなくなっている気がするけど、そんな風に言われたらもう言わないという選択肢はない。ここまでもったいぶっても笑顔で受け止めて優しく促されて、それでも言えないのはさすがに、勇気がなさすぎる。
と覚悟をきめて口を開いてみたけど、やっぱり恥ずかしい。だって、えっちなことしたいですって、そんな直球で言える?
……でも、ライラ様は私をじっと見ている。楽しそうに、絶対ここまでだけでも言いたいことなんてわかっているだろうに、私の言葉を待ってくれているんだ。なら、恥ずかしくても、体が震えても、応えなきゃ。
「さ、さっきみたいなキスとか……それ以上も、したい、です」
「ふふっ、ははは! はははははっ、す、すまん。馬鹿にしているわけじゃない。拗ねるな。ははは」
最後まで答えてじっとその目をみると、ライラ様は口の端をあげて噴き出す様に笑ってから、ごまかす様に私の背中をなでてきた。めちゃくちゃ恥ずかしいけどちゃんと言ったのに、笑顔はともかく声に出して笑いだすのってさすがにひどくない? 恥ずかしさで今度こそ涙目になってる自覚はあるし、不満顔になるのも仕方ないと思う。
「はは、しかし、本当にお前は、馬鹿だな。そんなことが我儘になると本気で思っているのか? 調子にのって言うことが、私に愛されたいとは、はははは。それとも私の寵愛を得たくてわざと言っているのか? 私の中に今のお前以上に特別な席はないぞ」
「そ、そう言う、け、見解の相違はあるかもしれませんけど。でも、本気で言ったのに、茶化さないでください。私は……ライラ様と、恋人として一緒にいたいんですから。ライラ様に触れたいって思うのは、おかしくないじゃないですか」
ライラ様があそこまで言ってくれたから素直に言ったのに、恥ずかしいのを我慢して伝えたのに、笑ってそんな風に冗談みたいにしてからかうのはひどい。さすがに非難口調になってしまう。そんな私にライラ様は何故かにやにやしている。
「ふふ。そうだな。悪かった悪かった。お前の要求はおかしくない。だが、あんなに恥じらって遠慮して、調子にのってようやく言い出したことがそんな当たり前のことなんだ。可愛すぎるだろうが」
「う。それは、その、だって、常識とか感覚とか色々違いますし、何が当たり前かなんて、言わないとわからなくないですか?」
「ふむ。……そうだな、それはお前の言うとおりだ。さすがに今回はエストが初心で可愛すぎるのは間違いないが、その考え方自体は間違いではないな」
「うぅ」
いや、まあ、確かに、恋人同士なのだからそう言う要求をそこまでためらわなくていい、と言うライラ様の主張もわからなくはないけど。でもライラ様は吸血鬼で、それ以外の人間の常識を知らないわけで、私だってこの世界の人間の常識はわからない。
長年一緒に暮らして、どんなふうに感じるかと思うとか、なんとなく察する時もあるけど、全然違う常識で生きてるなって思う時もある。同じ言葉で恋人って言っても、そう言う頻度とか、そう言うのは人間同士でも何が当たり前とかわからないんだし、って思ったけど、でもだからこそ要求してお互いの常識をすり合わせるのが当たり前だしそこまでためらわなくていい。って言われたらその通りかも? 何が何だかわからなくなってきた。
と言うか息をするように会話の合間で私を可愛がるのやめてください。頭に血がのぼったまま戻ってこないからますます馬鹿になっちゃうよ。
「じゃあ、このままするか?」
「っ!? こ、このままですか!?」
すっと肩を撫でながらとんでもないことを言われてしまう。こ、このまま? え、い、嫌じゃないけど、でもさすがにもう結構遅い時間だし、血を吸われてたところだからちょっと体が重いところがある。このままだときっとすぐに寝てしまう。それはちょっともったいないと言うか。
「ふっ。冗談だ。血が減ってすぐに無理はさせん。だが、お前がいいなら、明日お前を抱こう。どうだ?」
「あ、明日!?」
「嫌か? 体調が不安なら、明日になってから決めてもいいが」
「いっ……嫌じゃない、です」
今日はちょっと、と思いはしたけど明日は明日で急すぎる。とは思ったけど、今度は普通に本気の提案のようで、微笑みながら首をかしげて優しい気遣いをされて、私はとっさにそう答えていた。嫌かどうかはずるいでしょ。嫌だったら初めからこんなこと言い出してない。でも、あ、明日かー! 明日、夜まで平気でいられるかな。
「決まりだな」
「う……は、はい。お、お願いします」
してほしかったのは事実だけど、まさかこんなさくさく決まるとは思ってなかったし、そもそもこういうのって予定きめてやるものなの? とは思うけど、でも、う、嬉しい。そんな早急に決めちゃう程度にはライラ様もその気はあるってことだもんね。恥ずかしけど、嬉しい。
「ふふふ。この間でお前の体力はだいたいわかったからな。明日はじっくり楽しませてやる」
「え、お、お手柔らかにお願いします」
「うむ。任せろ」
この翌日、私は次の朝に起きられないくらい可愛がられるのだった。
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