第74話 お誕生日会当日

 イブの参入と言う予想外の出来事はありつつも、時間は平等にすぎていく。そう、ついにお誕生日会がやってきたのだ! 正直朝からちょっと意識してしまいそうになるけど、でも今はそう言うのは置いといて! 今は全力で誕生日を祝うぞ!

 と言うわけで朝からご馳走の準備をするマドル先輩のお手伝いをして、準備ができたらマドル先輩プレゼンツのドレスを着る予定だ。イブとネルさんにも着てもらう。二人の誕生日はまたお祝いするからねと言っているので今日のところは存分に二人からもお祝いしてもらうつもりだ。


「エスト、おはヨぉ」

「おはよう、イブ」


 イブは一応言葉は覚えるつもりもあるみたいで、挨拶はできるようになった。マドル先輩の教育によりライラ様のことだけは様付けしているけど、さすがにそれ以外は難しいので、イブには基本的にわかりやすい単純な言葉を教えている。

 イブはしばらくネルさんの部屋に泊まらせたことですっかりそこが定位置と思ったようで、ネルさんにものすごく懐いていて、新しい家をつくったのに今ではそちらは物置になってしまっている。

 マドル先輩はちょっと残念そうだけど、午前中はネルさんが基本寝ているので午前はマドル先輩がお世話して好きな格好をさせたりそれなりに楽しんでいるみたいだ。


「イブ、顔、洗って。着替えて、おとなしくしててね」

「うーん? うん!」


 ジェスチャー込みで言うとイブは元気に頷いて洗面所にむかった。マドル先輩がその後ろをついていく。イブには誕生日のことは伝わってないだろうけど、なんだかんだ毎日楽しそうなので大丈夫だろう。

 ネルさんにも声をかけて、マドル先輩と一緒に準備をしていく。正直私がいなくても問題ないのだけど、せっかくなので協力したいよね。


 ダイニングの飾りつけもして、いつもと違っていかにもパーティな感じにしていく。ライラ様が好きなワインも用意して、と。もちろんそれ以外のメンバーの為のノンアルコール飲料も欠かせない。


「エスト、おはよう。今日も元気だな」

「ライラ様、おはようございます! えへへ。何と言っても今日は誕生日会ですからね」


 あれこれこまごましたことも用意したりしていると、すぐに時間が経ってしまう。ライラ様が起きてきた。そうなるとそろそろタイムリミットだ。料理も出来上がっているし、着替えて待ってくれている二人を迎えに行かないと。


「二人ともお待たせしました」

「おー、エスト、可愛いカッコして、似合ってるなぁ」

「######」

「二人も似合ってますよ。素敵です」

「へへ、照れるなぁ」


 二人はベンチに座って指遊びをしていた。二人とも動き回る遊びが好きだけど、さすがに今日は二人ともドレスなのでさすがにじっとしていたみたいだ。

 ネルさんは大人の女性っぽいスタイルのわかるロングスカートの肩だしドレスで、イブはふりっふりの可愛い女児ドレスだ。可愛い。

 イブは何を言っているかわからないけど、自分の服を触ってニコッと笑っているので可愛い、じゃなくて気に入ってくれているみたいだ。頭をなでてから服を指さして微笑んで見せると頷かれた。うんうん。


「じゃ、お二人とも、あ、せっかくだし今日は玄関から行きましょうか」

「えっ、いやいや、わでが玄関に回って他の人に見られたら困るだろぉ? いいからさぁ」

「大丈夫だと思いますけど、わかりました」


 外から見えにくいよう玄関側に木を植えて目隠ししたりしたので、予定外の来客があっても少なくともこちらが認識するより先に見つかることはないと思うのだけど、ネルさんは身を縮ませるように遠慮したので諦める。

 イブも最初はびっくりしていたけど今では普通に仲良くしてるんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。とは思うんだけど、でもネルさんはそれで故郷を追い出されてるんだし、あんまり言えないよね。


 と言うことでいつも通り裏から入ってもらう。リビングに招くと、いつもはないテーブルクロスなどきちんと一人ずつセッティングされたテーブルに、窓や壁や天井にも全体的に短いフリルカーテンのような飾りをつけ、それによって暗くなった室内を照らす間接照明を用意。いつもと一味違った雰囲気をつくりだしている。


「おぉ、すげーなぁ。お上品で、なんだかひっかけて壊さないか心配になるなぁ」

「大丈夫ですよ、ひっかけても別に。それっぽくしただけですので。と言うか、すみません。ネルさんを招くなら天井はやめておいたほうがよかったですね」


 ネルさんは基本外でお食事をするとは言え、雨の日などは室内に招いているし、ネルさんも慣れてその時は普通にしゃがんで入ってきて過ごしているのであんまり気にしてなかったけど、ネルさんにしたら窮屈なのにさらに制限してしまった。ついつい、テンションがあがって余ってるからと天井にまで飾るべきではなかった。


「ああ、いやぁ、大丈夫だぁ。こういう、ちゃんとした場が初めてだから緊張するだけで、その、嬉しいよぉ。自分ではしねぇけど、おしゃれなのもわくわくするしよぉ。それに、誕生日によんでくれるなんて、すげー、友達って感じがするよなぁ、へへへ」

「ならよかったです。ネルさんのお誕生日の時は外でしましょうね」


 普段も頭ぶつけたことないし、そこまで大丈夫なのかな? まあ喜んではくれているから大丈夫と言うことで。本人のお誕生日会はネルさんに合わせれば失礼ってことはないだろう。私の言葉にネルさんは照れたように頭をかく。


「お、おお。べ、別に無理にそんな、気つかってくれなくても、大丈夫だぞぉ? わでの誕生日なんて……」

「えー、お祝いしたいですよ。ネルさんが生まれた日なんですから。誕生日がわかるまではイブも一緒にお祝いしましょうね」

「ん、へへへ。イブ、嬉しーよなぁ?」

「? しーヨなぁ!」


 無理とかではない。誕生日は祝うべきだし、祝う側も楽しいものだ。と招待した私としては主張したい。イブはわかってないみたいだけどごまかすようにネルさんに頭撫でられて笑顔だからヨシ!


「では席についてください。じゃあ行きますよー! ここに! お誕生日会の開催を宣言します!」

「ひゅーひゅー!」


 マドル先輩にお願いしたひやかしもいれてもらい、テンションが上がってきた。三人だと全員が誕生日なのでなぁなぁでもいけるけど、祝う側と祝われる側があるのでちょっとだけ格式張ってみた。

 正直、こういう時は祝う側がしきってくれるとありがたいのだけど、こういう行事が初めてのネルさんと言葉が通じないイブに頼むのは酷だろう。


「ではまずはライラ様! お誕生日おめでとうございます! 生まれてきてくださって嬉しいです! ありがとうございます!」

「主様、おめでとうございます」

「おめでとうなぁ」

「? おえとーなぁ」


 イブもわからないままネルさんの真似をしてくれた。順番にマドル先輩、私にも祝ってもらった。わからないながらにもちゃんと言ってくれるの結構嬉しいな。無理やりだけどイブも可愛いし、祝ってくれる人数はやっぱり多いほど嬉しいものだ。

 そうして言葉で祝いあったらまずは食事だ。冷めてしまうからね。


 食べていいよと言うとよだれを垂らしていたイブは喜んでがっついている。可愛い。ネルさんはイブを見てかなんだかいつもよりお行儀よく食事している。大きなネルさんがちまちま食べるの可愛いね。

 マドル先輩も今日は一人だけドレスマドル先輩がいる。この日ばかりはマドル先輩も普通に食事をとっている。ドレスが似合っているのだけど食べる姿もお上品で様になっている。お綺麗である。

 ちなみにマドル先輩が複数いるけど食べるのは一人、と言うのは二人とも最初は不思議そうにはしていたけど、今ではなんかそういうものとして受け入れてくれている。二人とも懐が深いよね。


 そしてなんといってもライラ様。ドレス姿なんてさんざん見慣れたライラ様だけど、旅装やこちらでのラフな格好に見慣れたからか、正直久しぶりのドレス姿はときめく。綺麗すぎる。ドレスも細かで手の込んだ刺繍が嫌味でない程度に襟から裾までたくさんあって、ドレスだけ飾られていても見惚れてしまうくらいなのに、ライラ様に似合いすぎている。

 リビングに入って着替えた姿見た瞬間口から好きってでそうになったもんね。さすがに二人の前だと恥ずかしいから我慢したけど。


 当然隣の席なのでライラ様の横姿が見えているんだけど、料理がとっても美味しいけどそれに集中できないくらいにライラ様を見てしまう。

 今日はノースリーブで首元までしまっていて、長い手袋をつけているので正面から見るとかっちりした風にすら見える。でも今日は髪をまとめてアップにしているのもあって何というか、大人の色気を感じる! 二の腕の半分くらいから上しか肌が見えてないのが逆にえっちな感じすらする。はー、私がお肉になって食べられたいまであるよね。


「……ふっ。よそ見をして、ついているぞ」

「あわわ、あ、ありがとうございます。えへへ。すみません。つい、ライラ様に見惚れちゃって」


 ちらちら見ているとソースが口元についていたらしい。目があったライラ様はふっと笑ってテーブルナプキンで拭いてくれた。手袋があるから今日は用意されてたのをつかってるんだけど、それが逆に、いい。上流階級ライラ様、いいよね。


「ふ、くくく。そうがっつくな。夜までは我慢してやってるんだからな」

「え? あ……は、はい。すみません」


 一瞬意味が分からなかった。がつがつ食べると言うより食事そっちのけでライラ様見てたのに? と思ったけど、夜まで我慢って、それはその、ライラ様に見とれすぎてそう言う意味でがっついてるって見えたってことだよね。

 うぅ、ち、ちが、違う、純粋に見とれてただけで、ああ、でもえっちぃとは思ってたけど。けどでも実際にそういうことをしたいっていうことじゃなく、芸術的な美しさに見とれてたと言うか、いやー、でもそうかー? そう言う意味で見とれてたかなー?


 そこから真っ赤になってしまって、ライラ様の方が見れなかった。幸いと言うべきか、三人はそれぞれ美味しい美味しいと食事に集中したりマドル先輩はお世話を楽しんでたし、私の挙動不審は誰もみてない、よね?


 メインの食事を終える頃にはなんとか私の挙動不審は収まり、そしてデザートタイムに突入したのだけど、あの、今更だけど、忘れてたけど、デザートタイムは全部あーんで食べさせあうのがうちの伝統でしたね。

 前はそんな気がなかったから、純粋に家族って感じで気にしたなかった。でもあの、他の人がいてなおかつ恋人になるってわかってるのでライラ様とのあーんはめちゃくちゃ恥ずかしかった。


 恥ずかしがってるからライラ様より楽しんでたし。ネルさんは私とライラ様の関係を察してたのかちょっと気まずそうだったのがちょっといたたまれなかった。イブが楽しそうにネルさんとマドル先輩とあーんしてたのが助かった。

 イブ、うちにきてくれてありがとう。ネルさんだけが招待客だったら恥ずかしくて死んじゃうところだったよ。と心の中で感謝しながらお誕生日会は過ぎていった。


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