第69話 吸血鬼の花嫁2
ライラ様の説明によると、吸血鬼の血を飲ませ謎パワーでほにゃららすることでその人間はそこから肉体の変化がなくなり、普通よりずっと丈夫になり人間の寿命と言う枠組みから外れてしまうらしい。
「と言うことは、いわゆる不老不死になるってことですか?」
「そんなわけがあるか。不死など、化け物だろうが。老化はしなくなるがな。吸血鬼は全盛期がながく、力がなくなると急激に老いて死ぬ。私が死ねば、お前は私の力がなくなりお前も死ぬ。だが私が死ぬ瞬間まではお前はそのままで、私が老いていてもその世話ができるようになっている。わかったか?」
「なるほど……なんとなくわかりました!」
眷属みたいな感じなのかな? ライラ様と契約してずーっとお仕えする代わりに普通の人間よりずっと長生きで丈夫になるけど、ご主人様が死んだら死ぬ。そんな感じっぽいよね。まあそもそも眷属って漫画とかでしか知らないけど。
「そうなれば、エスト様はずっと小さいままなのですね。なるほど。それなら問題ありませんね。すぐにそのようにされるのですか?」
「そうだな」
「あっ、ライラ様。せっかくなので誕生日会の日にしませんか? 記念日になりますし、ちゃんと改まった方が、あ、待ってください。それって痛いですか?」
「ん? ……くくく。お前は本当に、図太いくせに小心だな」
今すぐにでもなります! と言ったものの、せっかくだしこんな勢いじゃなくてもうちょっと改まってやったほうが思い出になるかも。と思って提案しながら不安になったので尋ねると、ライラ様に笑われてしまった。
う、確かに、一番最初に血を吸われるのも痛いか聞いてたけど。でも、大事なことだよね? 痛いなら痛いで心の準備が必要だからね! すっごい痛いとかなら寝る前にベッドの上で処置してもらうとか、物理的にも必要だからね。
「そうか。まあそう身構えなくてもいい。なにせ、花嫁になるのは、気持ちいいらしいぞ?」
「ひぇ……そ、そうなんですか……」
にやにやしたライラ様から頭を撫でてた手で頬にふれられ、耳元で囁くように言われて変な声がでてしまった。
いやでも、だって、え、これもしかして本当に変な意味で言ってるのでは?
「それじゃあ、えっと、大丈夫ですね? じゃあ、お誕生日の日に……は、恥ずかしいので夜にお願いします」
「そうか、お前が言うならそうするか」
「改まる、と言うならそれ相応の格好も必要になるのではないのでしょうか? 普段二人とも正装をしてくださいませんから、いい機会なので私が用意した服を着るのはどうでしょうか」
「とってもいい案ですのでそうするべきかと思います」
「賛成しかないと思いますがどうでしょうか」
とりあえず日付を決めたところ、待ってましたとばかりにマドル先輩が追加の提案をしてくれた。
なるほど、それも一理あるなぁ。一生に一度のことだしちゃんとした格好がいいかもね。と思いながら聞いていたけど、マドル先輩はあたかも複数人が賛同しているかのように挙手しながら押してきた。
マドル先輩的には普段フォーマルあんまり着ないから着せたいのか。複数人でつなげて喋るのはいつものことだけど、別人風にしてくるの初めて聞いた。
「別にいいが、お前、押しが強くなったな」
「私もいいと思います! 是非お願いします!」
ライラ様も呆れつつも反対ではないのか頷いたので、私もうんうんと頷いて挙手しながら賛成した。
〇
そうして話も決まって夜も更けてきたので、お風呂に入って今夜は寝ることになった。だけど先にお風呂をもらってベッドにはいってライラ様を待っている段階で、あることに気づいてしまった。
もしかしてこれ、恋人同士の同衾になるのでは? と。
いやもちろんそんなすぐに何ってことはないに決まってるし、昨日まで当たり前だったことで何を言ってるんだって話なんですけど。
「待たせたな」
「ひゃっ、ひゃいっ」
「? 寝るぞ」
ライラ様はいつも通りの様子で、かちこちになってる私に構わず抱っこして布団に入れてくれた。
ライラ様は私を寝かしつけたあとお仕事で出て行く時も、ちゃんと律儀にお風呂にはいって一度寝間着になってくれる。旅の途中でめちゃくちゃ焼き肉の匂いがするって言った時からそうしてくれてるんだよね。別に悪い意味じゃなかったけど、匂い気にしてるとか可愛い。
だけどそんな経緯もあり、ライラ様も今お風呂あがりなわけで。端的に言ってあったかくていい匂いがする。
どっきどっきといつも以上に緊張してしまう。
「エスト? 心臓がうるさいがどうかしたか?」
「わっ、き、聞こえるんですか?」
たまーにライラ様に心臓の音を聞かせたりしてるけど、今日はそんなことなく普通に私の横で肘をついて見つめてくれている状況なのに聞こえるなんて。どれだけ私がどきどきしてるんだ。いや、ドキドキしすぎてうるさいって自分では思ってるけども。
「そりゃあ、この距離ではな。どうした? 何か不安でもあるのか?」
「ふ、不安と言うか、それは、ドキドキはしちゃいますよ。だって、こ、恋人として一緒に布団にはいってるんですし」
「は?」
「え?」
優しい笑顔でどこか心配するように促され、私は素直に気持ちを吐露する。マセガキとか、そう言う風にたしなめられるかなと予想していた。それはそれでしっかり否定してもらえば、二十歳まで待つつもりだったみたいだし数年ないということなので、残念なような気もするけどそれまでに心の準備をすればいいので一安心と思っていたのに、ライラ様の反応は予想外だった。
私の言葉に心底から思ってもみないことを言われたと言うような、驚いたようなきょとん顔だった。
「……あ、ああ、なるほど。そう言うことか。説明が足りなかったようだな。吸血鬼の花嫁と言うのは、私の花嫁と言う意味ではない。要するに『吸血鬼の花嫁』と言う固有名詞だな」
「……えっ!? ど、ど、どどどどど?」
「つまりだな、吸血鬼にとって力を与えて寿命を延ばした気に入った人間を指した言葉であり、恋人とかそう言う意味はない」
「…………」
うっ、うわあああああああああああああ!! しっ、死にたい!! 恥ずかしすぎる!! 一人で盛り上がって恋人面をしてしまったっ! 考えればわかるよね! さんざん子供扱いされてる私がそう言う目で見られてるわけないって! 毎日寝かしつけられてるペットのくせにさあああ!!
「! ! !」
うつぶせになって枕に顔をおしつけ、口から叫び声が出そうなのをこらえながら私はばんばんとベッドをたたいて感情をごまかす。あああああ、恥ずかしすぎてほんとに無理。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あ、あ、だ、大丈夫です……ちょっと、おいといてください」
ライラ様が気遣ってくれるけど、その優しさが辛い。何とか返事はしたけど、変な汗まで出てきた。全部恥ずかしすぎる。さっきまでと違う意味で心臓がいたい。
「顔を見せてみろ」
「あ、そんな、あ、あ」
顔をおしつけすぎて枕からずれていたのだけど、ライラ様がさっと私の体の下に腕を通して普通に私を持ち上げてしまう。真っ赤な顔が丸見えだ。
ら、ライラ様、気遣いしてくれてると思ったら、鬼かな? なんで私の顔見るの? そしてめちゃくちゃ楽しそうにニヤニヤしてる! そんな顔も美しいけども! 何か企んでる悪役味すらあるのに綺麗すぎて従いたくなる顔してるけども!
「ふっ。そんなに泣くな。悪かった。私の言い方が悪かったな」
「うぅ、いえ、私が思い込んでただけですから……」
冷静に考えてそんなわけないし、確かに『吸血鬼の花嫁』って言い方、不自然すぎたもんね。ライラ様が普段自分のこと吸血鬼、なんていうことないもん。私が自分のこと人間とか言わないのと同じだ。実際普通の人間じゃなくなるって説明も受けてわかってたのに、なんで花嫁は花嫁でそのまま受け取っちゃってたかな。
恥ずかしすぎてにじんでしまった涙をライラ様が指先でやさしくぬぐってくれる。うぅ。こんな風に慰めてくれるから、優しすぎるから、勘違いしちゃうし期待しちゃうんだよぉ。
「お前は私をそう言う風に思ってたんだな。気づかなかった」
「うっ。そ、そうですけども! しょうがないじゃないですか。ライラ様と一緒にいて好きにならない人いませんし、どういう意味でも好きになりますよ。もー、そんなにいじめないでください」
「いじめでは……そうだな。悪かった。確かにさっきお前を吸血鬼の花嫁に誘ったのに、恋人と言う意味はなかった。だが、花嫁になった相手とは恋人がするような性行為もするのは珍しくないからな。別に間違った解釈でもない」
「えっ、そ、そうなんですか?」
「ああ」
プロポーズではなくて、吸血鬼の花嫁と言う存在になれと言うそのままの意味ではあったけど、その存在自体は恋人とそんなに遠くない存在ってこと? あ、でも珍しくない、だからあくまでそれもありってことで、ライラ様自身にそう言う意図がなかったんだよね? だったらやっぱり勘違いじゃん……。
「だから、お前がそう言う関係を求めるなら応えてやる。そういじけるな」
「……あの、でも、そ、そう言うのは好き同士ですることなので。その、無理やり付き合ってもらっても、その、仕方ないので」
ライラ様が優しい笑顔で言うから一瞬喜びそうになってしまった。けど、さっきの言い方的に恋人としての行為として性行為もするから恋人って言ってもいいよ。みたいな感覚なのだろう。エッチなことをすれば恋人と言うわけではない。私が勝手に恋人と思ってそう振舞ってもいいと許してくれるのも十分恩寵だろう。でも、そんなの、逆につらいでしょ。
それならずっと片思いしていたほうがまだマシだ。もうここまで来たらライラ様への恋心をごまかすなんできないし、なかったことにもできない。そしてライラ様と一緒にいる限り、ライラ様以外の人を思うなんて無理だ。私はただ、死ぬまで片思いしているしかない。
……いや、普通にそれも辛いでしょ。だから恋って認めたくなかったし、どれだけときめいたりしても心の中では絶対言葉にしてなかったのにー。うぅ。
「ふむ……エスト、お前は勘違いをしているぞ」
「え?」
ライラ様はそう言って、私の頬全体を揉むようになでた。涙でひんやりしていた頬が熱をもっていく。それからぐっと身を寄せて私とおでこを合わせた。
至近距離でじっと私を見つめる、ライラ様の真っ赤な瞳。吸い込まれそうな美しさ。
恋をする相手にこの距離で目を合わせられるだけでもときめくのに、こんなにも美しさを振りまくようにされて、私は期待せずにはいられない。
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