第44話 お祭り 一年の区切り

 水遊びを気に入ってくれたライラ様は夏の間何度も付き合ってくれた。夏野菜もとっても美味しくて、ライラ様は普段、野菜は特に好きではないみたいで全然食べないけど、なんとかお願いして食べてもらうと前よりは悪くないと言ってくれた。

 それから少し涼しくなったら夜に天体観測をした。流れ星がふってきて、お願い事をしたりした。ランニングも以前よりずっと長く息が続くようになって、体力がついてきた。涼しいとより気持ちがいい。

 秋になると、色々と美味しいものがでてくる。栗をもとめて裏の森をライラ様と散策して、結局キノコだけ採取したけどほとんど毒キノコだったこともあった。

 そんな風に、楽しい日々はあっという間に過ぎて、またお祭りの日が近づいてきた。


「えー、マドル先輩は行かないんですか?」

「そうですね。人が多いところはあまり興味がないので」

「えー……じゃあ、ここでお祭りをやりましょうか!」

「はい?」


 珍しく驚くマドル先輩が見れた。それほど度肝を抜けたとは、私もなかなかやるね! と言う自画自賛は置いておいて、お祭りだ。確かにあのたくさんの人がいる故の独特の雰囲気はつくれないかもだけど、でもマドル先輩ズと言う強力な仲間たちがいるのだ。お祭りごっこくらい楽勝では?


「お祭りっていつからでしたっけ」

「赤の満月の日ですから、二週間後ですね」

「あんまり期日はないですね」


 二週間でどこまでできるか……。屋台は形は無理でも、料理を用意して、あと何と言っても踊りだ。何か中心になるもの……やっぱここはキャンプファイヤーとか? 音楽があればそれっぽくなると思うんだけど。


「あの、エスト様? いくら私が10人いると言っても、さすがに個人でお祭りは無理ではないですか?」


 むむむ、と腕を組んで考え込む私に、マドル先輩はどこか気遣わしそうにそう声をかけてくる。マドル先輩が心配するのもわかる。そりゃあ、どうあがいても街のお祭りと同規模は無理。ノウハウもなく時間もないんだから。でもなんとかなるでしょ!


「まあできるところまでしてみましょうよ。きっと楽しいですよ」

「そうですか。わかりました。ではしましょう」

「さっすがマドル先輩! 話が早い!」


 すぐのってくれるマドル先輩好き!


 と言うわけでどんなことができるかわからないので、あれこれとお祭りらしいことを提案してできることから実現していった。音楽は楽器をこれから用意するとなると間に合わないし、食べ物も一年前のことだしあまり記憶がはっきりしない。と言うわけで前世の記憶とミックスした私たちだけの楽しいお祭りを作ることにした。


 てなわけでマドル先輩と連日用意をして、せっかくなのでライラ様には驚いてほしいので内緒と言うことにした。

 ライラ様は最初は何か言いたげだったけど、お願いお願いと拝み倒したら頷いてくれたので、二週間ほどご飯の時以外部屋にこもってくれることになった。頼んでなかったけどご飯の時は出てきてくれるの優しい。好き。


 そんなこんなで言い出してから二週間後、本日、ついにお祭りの時を迎えた。


「ライラ様のおなーりー」

「……、ほう」


 ドコドコドコドコ……低い太鼓の音が響く中、ライラ様はお祭り会場である庭先に入場した。玄関ドアから出てきたライラ様は少し呆れた顔をしていたものの、会場全体を目にして、感心したような顔になった。


「見れる程度には体裁を整えたようだな」

「はい! では順に説明していきますね!」


 こっちこっちー、とライラ様の手を握ってエスコートをする。まずは中央のキャンプファイヤー! と言うにはちょっと小さいけど。さすがに家に火が付いたら危ないので、台の上に砂をひいてそこで焚火をしている。一メートルくらいの大きさの台で火はそれ以下だけど、高さもあって反対側がすぐ見えない程度に雰囲気を出してくれている。

 その周りには屋台に見立てて、複数の台を設置している。車輪もなく屋根もなく、ただ設置しただけだけど、並んでいるとそれっぽく見えるものだ。


「この焚火台? は結構頑張ったんですよー。あんまり大きいと危ないですし、だからって地面に小さい焚火があっても迫力ないですし」

「そうだな。何らかの儀式をしているような、それらしさはある」

「でしょう!? えへへ、次お店ですね。なんと、全店無料です! えへへー、こっちが飲み物です!」


 そして順番に屋台を回っていく。まずは飲み物を選んでもらう。屋台のマドル先輩はいつものメイド服ではなく普通の服を着てくれているので、より雰囲気がそれっぽい。


「はい、いらっしゃーせー。そこの美人なお姉さん。いいものそろってますよー?」

「……口調はいつもどおりでいいんじゃないか?」

「そうですか? 雰囲気づくりにいいかと思ったのですが。ライラ様がそうおっしゃるなら」


 ノリノリのマドル先輩にライラ様は一瞬目を見開いてから、ゆっくりとそう優しく言った。そんないつにない丁寧な対応のライラ様に、マドル先輩は小首をかしげながらも頷いた。私が強要したわけじゃないけど、私がお手本で言った口調なので静かにしておこう。


「では何にされますか? いつもより上質なワインをご用意しております」

「それにしろ」

「かしこまりました。お題はライラ様の笑顔で結構ですよ」

「……そうか」

「私はリンゴジュースでお願いします! にこっ」

「はい、いただきました」


 マドル先輩に言葉にライラ様はちょっとだけウケたっぽく笑ったけど、微妙な笑いだったので私は効果音もつけて笑顔を払っておいた。ついでに頭を撫でてもらえた。

 飲み物をもらい、次の屋台に。たって食べやすい串もの。シンプルに焼いたお肉が美味しい。次は粉もの。卵と生地をやいて棒に巻き付けてソースをつけたやつ。前世のとは全然味違うけど、これはこれでうまし。最後にデザートとしてリンゴ飴。食べやすいようカットされてはいるけど、味はまさしくリンゴ飴。美味しい! これでお祭り感完璧!


「ふむ。このリンゴはいいな」

「ですよね! 薄い飴のぱりっと感と甘さとリンゴの酸っぱさがたまらんですー。えへへ。ごちそうさま。最後は踊りですねー。の前に、BGMを担当してくれている演奏家マドル先輩を紹介しますね!」


 本日のお祭りのメンバーは屋台マドル先輩に4人、念のため火の番に1人、そして残り5人が開始時からずっと音楽をならす音楽隊をしてくれるという、まさにマドル先輩総動員で協力してくれている。協賛マドル先輩、って感じだ。


 楽器はすぐに用意するのが難しいので、ワイン樽をつかって革張りをした太鼓、木の筒をつかった小さい太鼓、金属の箱をたたいてならすなんちゃって太鼓の三種類の太鼓、そして水を入れる量を変えたコップをならべて叩くやつを用意した。

 打楽器の演奏は適当にドコドコ叩いたり適当なリズムをつければいいですよーって軽くお手本でリズムだけは色々みせたけど、マドル先輩は複数人であわせるからかいきなり私よりすごい演奏になってた。太鼓だけでも結構迫力でるよね。

 そしてコップは太鼓以外に何か、音程のあるもの、と言う苦し紛れの思い付きだったんだけど、思いのほかうまくいっている。食器類は同じものが大量にあったので、コップ演奏は二人がしてるんだけども結構高めのいい音がして二人がかりだから音量もでるし、低い太鼓と金属の甲高い音と全然違うのでいい感じになったんだよね。


 これはマドル先輩、音程をどう変えるのか悩んでたけど、ちょっとだけピアノ演奏の経験があったので、思い出しながら何曲かひいた。かえるとか、めりーさんとか片手で引けるのしかなかったのが逆によかったよね。歌詞は最初しかおぼえてないけど、橋が落ちるのをマドル先輩は気に入ってくれて、今はそれが基本の音楽を流してくれている。

 かえるのうたは踊りにくいけど、歌詞おぼえてないから逆によかったかも。それも最初はどの音が思い出せなくて、演奏しながらなんとか思い出したやつなので音を間違ってるかもだけど。誰もわからないから大丈夫でしょ。


 っていう苦労した流れをライラ様に説明し、マドル先輩が一人ずつワンフレーズ弾いてアピールをしていく。ライラ様は全員分を見てから、ふむ、と興味深そうに頷いた。


「ふむ。あり合わせでも形になるものだな。演奏は時折聞こえていたが、てっきり楽器を用意したのだと思っていた。こんなものでよく演奏できるものだ。やるな」

「お褒めいただき恐悦至極にございます。音楽と言うのも、やってみると楽しいものですね」


 そう言ってマドル先輩は微笑んだ。かすかな微笑みだけど、これまた久しぶりの微笑みだ。ちょっとずつマドル先輩の表情が出てくるようになっている感じがする。嬉しい。


「楽しんでいるならいい。エストに無理に付き合う必要はないからな」

「はい。とっても、楽しいです」

「そうか。よかったな」


 うん、嬉しいし、二人とも優しいとってもいい雰囲気なんだけど、なんだか私、ライラ様の中で問題児扱いされてる? そんなことないよね? 確かに二週間前からの楽器作りからの演奏は無茶ぶりだったかもだけど。

 でも場合によっては太鼓だけお願いして、私がコップ担当しようと思ってたし。思った以上にマドル先輩が上手でノリノリだったから任せただけだもん。


 と心の中で言い訳しつつ、いい雰囲気を壊せないのでとりあえず演奏は続いているので踊りだしてみる。

 たーんたたった、たったったー。簡単なリズムだからのりやすい。火の回りに向かい、手を上げたり下げたり、片足になったりボックスを踏んだり腰をふったりしながら火の回りを回っていく。

 元々楽しかったけど、こうして踊っているとさらに気持ちが高揚していく。楽しいなぁ! やっぱりお祭り最高! マドル先輩も楽しんでくれてるし、大成功だね!


「おま……お前たち、踊るのはいいが、ふっ、くくく。その踊りを真面目に踊るな。ははは」


 いつのまにか手の空いたマドル先輩が私の真似をして踊りだしたので、なんだかインストラクターの気分で激しく踊ってとっても楽しかったし、ライラ様も見て楽しんでくれた。


 とっても楽しく踊りつかれたあとは、私は久しぶりにライラ様のお部屋におとまりさせてもらって、本当に一年たったんだなぁって実感した。


 すごく、すごく楽しかった。

 こんな風に毎日楽しく時間が過ぎて、あっという間だった。ライラ様にもマドル先輩にも笑ってもらえたし、もっともっと喜んでもらえるよう、もっと楽しい日々が送れるよう、頑張ろう。そんな抱負を抱きながら、私はライラ様に抱き着いて眠った。

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