第40話 誕生日3

「さて、それでは私からお二人への誕生日プレゼントです」


 ケーキを食べ終わってお腹を撫でていると、メイドマドル先輩が素早くテーブルを片づけ、そしてマドル先輩からのプレゼントが登場した。


「わー、なんですか!?」


 大きい。抱えるほどの大きさだ。膝の上に置こうとして机にぶつかってしまうくらいだ。ザ、プレゼントって感じだ。テンションがあがるぅー!

 私にもライラ様にも渡された同じような大きさの箱。中身はなんだろう。期待感がぐんぐん突き出てくる。


「なんでしょう。開けてみてください」

「はーい! 開けます!」


 楽しそうに促されたので開ける。ばーん! と開けた薄い木箱の中にはいっていたのは、なんだかよくわからないものだった。底にガラスがついた桶? それに長細い筒? その下には衣類がある。衣類を手に取ると、見た目より重量があって分厚い。それに形が、これは……これは! 水着!?

 あ! これ! 水遊びセットだ! 先が曲がってる筒は空気を吸うやつだ! 桶はあれだね。水面にちょっといれると水の中が見えるやつ。


「水遊びセットですね! ありがとうございます! 水着とかあるんですね!」

「水遊びをする専用の服、と言うのはこの辺りではありませんでしたので、エスト様のお話を参考につくりました」

「え!? これも手作りですか!?」


 マドル先輩はもうすっかり服飾職人の腕をもっていて、初夏にはライラ様と私にセットで絵になる服をプレゼントしてくれた。吸血鬼の王女様とそのお付き、みたいな感じで。

 メイド服とか使用人服ではないけど、王女様を引き立てるちょっと地味な服で、それでいて特別に首筋が露出しやすくなってるのがちょっと淫靡で、なんだかコスプレちっくではあったけどとっても素敵な服だった。


 それからマドル先輩は普通の普段着もつくってくれるようになり、今着ているシンプルなシャツも全部ぜーんぶマドル先輩の手作りである。

 だけど、水着って個人でつくれるの? びっくり。よく確認すると前世みたいな素材ではなくて、分厚いのは布を重ねて濡れても透けたり張り付いてえっちな感じにならないようにつくってるみたいだ。形はワンピースタイプで、申し訳程度にスカートがついてるやつ。背中のひもで結ぶようで、ちょっと背中がでてる大人な感じだ。


「すごい! さすがマドル先輩! 服飾職人!」

「いえいえ、それほどでもありますが」


 確かに誕生日の話がでるちょい前に夏と言えば海~って流れで水着についても話したけど、まさか用意してくれるなんて。この辺りに海なんてないから全然考えてなかった。しかも手作り。


「水着……? 水遊びをする服か。また、変わったものを」

「夏だし最近暑いじゃないですか。今度川にでも行きましょうよ!」

「まあ、いいが」


 海はないけど、ランニングコースの森には川がある。遊んだことはないけど、人もいないし綺麗だろう、多分。


「やったー! マドル先輩、ありがとうございます! マドル先輩の水着もあるんですか?」

「私自身のはどうとでもなるので、大丈夫です。喜んでいただけて嬉しいです」

「わーい、めっちゃ楽しみです!」


 ライラ様は水着を持ち上げて確認してないからデザインよくわからないけど、私のでこれならきっと大人な感じなんだろうなぁ。そしてマドル先輩も。二人の水着姿絶対カッコよくて綺麗だろうなぁ。楽しみすぎる! それに雪遊びも楽しんでくれたし、川遊びも楽しいだろうなぁ。


「えへへ。いつ行きましょうか」

「そうですね。川の様子を下見してきますので、天気の様子も見て、ライラ様も都合のいい数日以内に。どうでしょうか?」

「ん、そうだな。構わんぞ」

「やったー! ありがとうございます、ライラ様! マドル先輩も、好き!」


 マドル先輩のプレゼントももらえて、お出掛けの予定もできた。もちろんごちそうもとっても美味しくて、マドル先輩も一緒にご飯を食べてくれてなんだかいつもよりすっごく楽しくて、とっても嬉しい誕生日パーティだったなぁ!


「えへへ、今日は二人とも、私の思い付きの誕生日パーティに付き合ってくれてありがとうございました。すっごく楽し」

「待て。お前、何を終わろうとしてる」

「え?」


 楽しい気分のまま、食事も終わったしとりあえずこれで誕生日パーティはおしまい。もらった水着も片付けにいかなきゃ。と思いながら軽い気持ちで話していたらちょっと固い声で割り込まれた。

 首をかしげながらライラ様を見ると、怒ってるほどじゃないけど不満そうだ。ちょっとだけ唇を尖らせてるのが子供っぽくて可愛い。


「お前たち二人はプレゼントをしたと言うのに、この私はまだ何も渡していないんだぞ。なのに何を勝手に終わらそうとしている」

「え!? プレゼントをいただけるんですか!?」


 誕生日パーティを言い出したのは私だけど、だからこそ二人を祝ってついでに私もお祝い気分を、というのが目的で、二人に私を祝ってもらおうと言うわけじゃなかった。

 もちろん祝ってもらえたら嬉しいけど、ライラ様が誕生日パーティに付き合ってくれてるだけで、私のことを特別に思ってくれてるのは伝わってくるし、特別な言葉やプレゼントを期待したわけじゃない。


 そもそも誕生日に個人的にプレゼントをするっていうのがこの世界の文化ではないっぽいんだよね。少なくとも村ではなかったし、マドル先輩も私が手紙のプレゼントの内容相談の時に、いつくれるのかって言うから誕生日のプレゼントって説明するまで知らなかったっぽいしね。

 ライラ様にプレゼントのことをいってないのだから、プレゼントの用意があるわけがない、と思っていた。そもそも勝手に合同にしたけど、考えてもみて欲しい。

 お屋敷のご主人様の誕生日に、大好きなご主人様のために使用人がプレゼントしたりお祝いするのはわかる。でも使用人一人一人にご主人様からプレゼントしないでしょ? 人数比が違いすぎるもん。もちろんここでは人数は少ないけど、だからってそんな、そこまで期待はしてなかったのに。


 でももちろんもらえるなら嬉しい!!!


 私は降って湧いた嬉しい期待に目を輝かせながらライラ様を見上げる。


「あ、ああ! 当然だ。まあ、すぐにはないが、お前たちが希望するものを用意させよう。なにがいい、宝石か? それとも遠方の珍しい食い物か? 好きに言ってみろ」


 あ、そう言うことか。なるほど。用意はしてないけど、私たちが渡した以上、ライラ様も応えてくださると。なるほど! えっと、じゃあ、私……欲しいものあるんだけど、マドル先輩どうだろう?


「ありがとうございます! じゃあ、マドル先輩、ちょっとお耳をいいですか?」

「はい? ああ、内緒話ですね」


 振り向いて口の前に手をやってメガホン状態で尋ねると、マドル先輩はすぐに察して耳をそこにあててくれた。

 私はライラ様からもらいたいものがある。マドル先輩が別のがいいなら別のものでいいと思うけど、一応私がほしいものを伝えておかないとね。


「ふむふむ。なるほど。いいと思います。私もそれで」

「あ、いいんですか? マドル先輩が別のがいいなら、別々にお願いしても大丈夫だと思いますけど」

「いいえ。私もそれがいいです」


 内緒話をやめてから、まっすぐに答えてくれたマドル先輩。そっか。やっぱりそうだよね。マドル先輩もライラ様のこと大好きなんだもんね。


「はい。じゃあ、ライラ様、お願いしてもいいですか?」

「ああ、構わんが。変な願いじゃないだろうな」

「違いますよぉ。……その、私のプレゼントが手紙だったじゃないですか。そんな感じでライラ様からも、物じゃなくて、お誕生日のお祝いの言葉が欲しいです」


 お誕生日パーティーと言う概念を二人はまだよくわかってないんだと思う。最初の私の勢いにライラ様もびっくりしてたし。でも、なんだかんだマドル先輩はおめでとうって返してくれたけど、ライラ様はまだだ。

 強制するわけじゃあ、ないけどぉ。でも、やっぱり、物より気持ちって言うか。お返しとは言えプレゼントしてくれるくらいには私とマドル先輩の誕生日を祝ってくれる気持ちがあるなら、その気持ちを言葉でほしいなぁ。なんて。


「言葉? そんなものでいいのか?」

「はいっ。ライラ様はいつも優しいですし、ちょっと乱暴な言葉遣いの時も気持ちを込めてくださってるってわかってますけど。でも、たまにはこう、ライラ様のストレートな言葉が欲しいと言いますか。駄目なら諦めますけど」


 誕生日おめでとう、と言うストレートな言葉がほしい。ライラ様も真っ直ぐ言ってくれるときもあるけど、今回がそうじゃなかったら一年持ち越しになるので、ちょっと図々しいけどそう付け足しておく。


「そうか。……わかった。いいだろう。その程度でいいならかまわん」


 ライラ様は少しばかり気難しそうな真剣な顔をしながらも、そう鷹揚に頷いた。


「…………マドル」


 そして私の顔をじっと見てから、ふいと目をそらしてマドル先輩に目をやった。


「お前からにするか。ちょうど、集まっているようだしな」

「え、わ。い、いつの間に」


 ライラ様の言葉に振り向くと、いつのまにかメイドマドル先輩がワンピースマドル先輩の周りにスタンバっていた。


「主様からのせっかくのプレゼントですから、当然全身全霊で拝受させていただきます」


 驚く私に、何でもないようにマドル先輩はすまし顔でそう言った。それは確かにそう。こんな横並びに座ったいい加減な態度で聞こうとする私が愚かだった。


 私はあわてて椅子を降りて、まずはマドル先輩からなのでライラ様との間に入らないよう、端っこに立っているマドル先輩の後ろ側に隠れるようにして、ライラ様の方を向いた。

 私の動きにマドル先輩はてきぱきと間の椅子をどけ、自分たちもちゃんとライラ様に正面から向き合うようにセッティングしなおした。その様子にライラ様も思うところがあったのか、戸惑いながらも自分の椅子をひいて正面からマドル先輩に向き直った。


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