第39話 誕生日2

 お誕生日メニューとして、冷えたトマトとチーズのサラダ、じっくり煮込まれたコンソメスープ、カボチャの形を残したパンプキングラタン、とろとろに煮込まれた角煮と、どれも見て美味しい食べて美味しい料理が披露された。どれもマドル先輩が腕をふるってくれた絶品料理で、なおかつ材料が星型だったりハートだったりしているのもポイント高い。美味しい。

 そしてもちろん料理が美味しいのは当たり前として、なんと! 今日は隣にいるライラ様もマドル先輩も一緒にご飯を食べてくれているのだ! いつもよりさらに美味しさ倍増だ!


「美味しいですね! マドル先輩!」


 ライラ様が食べてくれるのも嬉しいけど、マドル先輩が食事をする姿は初めて見るので、なんだかとってもテンションがあがってしまう。

 にこにこしながらついついマドル先輩を見てしまう。


「はい。我ながらいい出来です」

「えへへへ。こうやって三人で食べるの嬉しいです。またしましょうね!」

「そうですね。また次の機会にでも」


 次の機会、と言うことは、あんまりまだ気乗りしてない感じっぽいなぁ。まあ、無理強いはしないけどね。


 そしてすべての料理を食べ終わり、食後、とうとう、ケーキの時間がやってきた。


 お誕生日のお料理と言えば何がありますか? とマドル先輩に事前聴取された私は、基本的に今世の基準で作れるだろうもので答えつつも、どうしても我慢できなくて1つだけ、前世の食べ物を答えてしまっていた。

 それは、ケーキだ。それもパウンドケーキとかじゃなくて、生クリームたっぷりのケーキ。だって、仕方なかった。誕生日は生クリームたっぷりのホールケーキで蝋燭を吹き消す。その記憶は私の前世の中でも幸せな記憶としてどっしり残っているのだから。

 しかも夏って木苺があるでしょ? つい先日初めてでてきて、苺だー!ってテンションあげた記憶あるなかでさ、誕生日に食べるものなんか、ケーキしかないじゃん? ついつい口からでてしまうのは仕方ないと思う。


「では、エスト様お待ちかねのこちら、ケーキです。じゃーん」

「ふわあぁぁぁっ! すっ、すごいです! 完璧です!」


 目の前に置かれたドーム状の銀色の蓋が、じゃーん、と声だけならやる気のなさそうな掛け声であけられた。そして目の前には真っ白な土台に、白いクリームに囲まれた真っ赤な小さい木苺たちが原型を残したジャムがたっぷり乗っているめちゃくちゃ美味しそうなホールケーキが現れたのだ。

 これで興奮しないわけがない。もちろん説明して生クリームをつくるのは一緒にしたし、こんな感じ? と確認はされたけど、実際にケーキにするのは当日の内緒と言われてしまった。ケーキの土台とかジャムは普通にマドル先輩だけで作れるからね。まさかこの世界でこんなに見事なケーキを見られるなんて。


「私にかかればこの程度、造作もないことでございます」

「おおおおっ」


 得意げに言いながらマドル先輩がすっとケーキをカットする。一切ごとにナイフを拭いて綺麗にしてからカットするので、私のお皿に置かれたケーキは真ん中にもジャムがしっかりはいっているのが綺麗に見える。可愛い。私が言ったとおりにしてくれてる。最高。


「なんだ、この食べ物は。変わってるな」

「これはケーキですよ、生クリームたっぷりのショートケー、あ、違うか。え、なんだろう。えっと、名前は……」


 イチゴで生クリームのやつはショートケーキって私の国では言ったけど、あれ国によって違ったような。カットされているっていうのは単にピース? 生クリームのケーキをさす単語ってあったっけ? デコレーションケーキ? でもそれって飾ってるって意味だよね。生クリームが飾ってる、みたいなことか。じゃああってるか。


「名前は、生クリームを使った木苺のデコレーションケーキです!」

「説明的な名前だな」

「食べ物って結構そう言う感じ多いですし。ほら、なんとかとなんとかの炒め物とか」

「そうなのか。ふむ。まあ、見た目はいいな。綺麗だ」


 おお! ライラ様が、積極的に食べ物を褒めている! これは好印象! 私はぱっとマドル先輩をみやる。嬉しそうにじっとライラ様を見ている。何か言いたげに少しだけ口を開けていて、感動に打ち震えているようにも見える。


「ライラ様、ぜひ、一口食べてみてください」

「そうだな」


 食事もいつもよりは食べてくれていたライラ様は、私が促すと抵抗なくフォークを手に取った。そして一口分を切り分けて、丁寧に口に運んだ。


「ふむ。なるほど。うまいな」

「! マドル先輩!」

「エスト様!」


 ライラ様の素直な賛辞に、私は勢いよくマドル先輩を振り向いて両手をあげ、ぱーんと手を合わせて感動を分かち合った。ライラ様が喜んでくれた! 最初からずっと楽しかった誕生日パーティだけど、これでもはや成功は揺るがない。大大大成功と言っても過言ではないでしょう!


「おい」

「あだっ」


 私は口しかだしてないけど、でも誕生パーティの提案自体が私のものなので、喜んでもいいよね!? と言うことでぱんぱんと手をたたいて無言で喜びをかみしめると、後ろからチョップされた。

 頭を押さえて振り返ると、ちょっと褒めただけで喜ばれたのが恥ずかしかったのか、ライラ様は照れたような拗ねたような顔をしていた。可愛い。


「私だけに食べさせるな。それともまさか、この私に毒見させたんじゃないだろうな?」

「えへへ。すみません。喜んでもらえたのが嬉しくて。じゃあ私も。ん、うん! 美味しいです!」


 私も一口いただく。甘酸っぱいジャムと甘い生クリーム、それを包み込む柔らかいスポンジケーキ。ケーキだ。ケーキだよこれぇ。パウンドケーキは作ってもらってたけど、軽くて全然違う。パウンドケーキは材料三つとも容量が同じって言うの知ってたから作ってもらえたけど、スポンジケーキはどう違うのか知らないから無茶ぶりだったのに、普通につくれちゃうマドル先輩、ほんとに天才。天才。天才!!!


 これぞ、誕生日ケーキだよ。村でのお祭りも悪くはなかったけど、やっぱり誕生日パーティとは違う。これは個人に対して、おめでとうって言うご馳走なんだ。


「そうですか、よかっ……エスト様?」


 最初にここでお肉を食べた時も泣けたけど、でも今は、違う意味で泣けてしまった。ひたすら単純に美味しいものを食べられた喜びじゃなくて、それ以上だ。私が言い出して、私がお願いしてマドル先輩につくってもらったんだ。だけどそれでも、マドル先輩が誕生日ってわかって、お祝いの気持ちで作ってくれたんだ。私たち三人分で、それは私のこともはいっているんだ。

 嬉しい。幸せ。ここに来られて、毎日楽しくて、優しくしてもらえて、幸せしかなかった。そんな幸せをぎゅっと凝縮して味わったみたいな心地で、ついつい涙がでてしまった。


「エスト? どうした? お前、不味いなら無理をすることはないんだぞ」

「んふ、ふふ、違います。えへへ。すみません。なんだか、幸せだなって思って」


 ライラ様が慌てたように私の背中を撫でて頓珍漢なことを言ったのがおかしくてちょっと笑ってしまった。心配をかけたことを謝って説明すると、反対側からマドル先輩の手が伸びてきて、優しく私の涙をふいてくれた。


「エスト様……そんなに美味しかったのですね。喜んでもらえて嬉しいです」

「はい! とっても美味しいです! あ、マドル先輩まだ食べてないんですね。じゃあ、私が食べさせてあげます!」


 考えてみればマドル先輩は今日が初めての食事だから、あーんで食べさせあったことはない。ライラ様も最初はあーんで食べるのも悪くないって言ってたし、マドル先輩の食事はめったにあることじゃない。

 今日のうちにあーんをしておかないと。と言う謎の使命感も沸き上がり、私の涙をぬぐうために置いたマドル先輩のフォークをとり、私は素早くマドル先輩に

あーんをする。


「はい、あーん!」

「……あー、ん。はい。うむ。……はい。美味しい、ですね」


 マドル先輩は驚いたようにしながら口を開けて応えてくれて、味わいながらにこにこ見守る私にたいしてはにかむように少しうつむき気味に頷いた。

 て、照れてる? マドル先輩、照れることあるんだ!? ライラ様には喜んでしてたのに、マドル先輩、されると照れるんだ!? 可愛すぎかー!?


「……なんだ、マドル。お前、照れてるのか? 珍しいな」


 とマドル先輩の可愛さに悶えていると、反対側からにやにやとライラ様がからかうように声をかけ、手を伸ばして私の肩に腕をのせてマドル先輩の頬をつついた。

 ら、ライラ様!? ちょっと、もしかしてライラ様にはデリカシーがないのでは!? マドル先輩もっと恥ずかしくなってしまうのでは? と思いながらマドル先輩をちらっと見ると、マドル先輩は顔をあげた。いつもの無表情で、ライラ様の手を握っておろさせた。


「ライラ様……、ライラ様にもあーんしてさしあげましょう」

「ん? いや私は」

「エスト様もそうしたいですよね?」

「あ、そうですね。せっかくのケーキ、お誕生日のお祝いなんですから、この一皿は全部あーんで食べましょう」


 私の目の前でぎゅうっと握られたライラ様の指先が見えている。なんの反応もないからライラ様は痛くはないんだろうけど、なんとなく圧を感じて私は一も二もなく賛成した。

 まあ、普通にあーんして食べるのも食べさせられるのも楽しいしね! 一年に一度のお誕生日だからね!


「……しかたないな」


 私も賛成して二人でライラ様に期待の目を向けると、ライラ様は数舜迷ったように視線を泳がせたけど、すぐにそう小さく笑った。


 なんだかんだ言って懐の深いライラ様、好き。ケーキを食べ終わるころには私のお腹がぱんぱんになってしまったけど、最後の一口までとっても美味しかった。


 あと、ライラ様に食べさせられるマドル先輩は私にされる時よりちょっと恥ずかしそうだったけど、いつもより楽しそうで、マドル先輩よかったね! メイドマドル先輩がすごく見てきていたけど、前にライラ様にあーんした時は列をつくって結果怒られたので今回は遠慮しているみたいだ。また近いうちに、ライラ様にあーんしてもらう機会をつくれたらいいな。


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