第16話 お祭り2
ライラ様と屋台巡りをした。薄い生地にお肉がはいったパンみたいなのとか、煮込まれた根菜っぽい歯ごたえのいい何かとか、焼かれて串にさされたいいにおいのキノコも美味しかった。
ライラ様も食べるかな? と思ってちらっと聞いたけど、断られてしまったので自分で全部食べたので、お腹いっぱいで他にも美味しそうなのはあったけど食べられなかった。いやうん、残飯を食べさせようなんてつもりじゃないけど、でもお祭りってわりとそういうものじゃない?
「あ、これ可愛くないですか?」
「髪飾りか。いいんじゃないか」
食べ終わったので可愛らしい小物売りの屋台、というか出店みたいな地面に布一枚でお店をひろげている店を見るためおろしてもらった。ライラ様は私の後ろにいてはくれているけど、あまり興味がないのか顔を寄せることもなく一瞥だけでそういった。
まあ顔を寄せなくてもライラ様は目がいいか。それはともかく、マドル先輩にお土産、と思ったのだけど、微妙なのかなぁ。たまーに髪をいじったりしているけど、お休みがないから基本的に普段つけてないし。
それ考えたらとんでもないブラック企業だな。あ、でもマドル先輩は複数いるから交代で休んでる可能性もあるのか。それに地元でも貧乏暇なしが当たり前だったし、時代背景もあるか。
それにマドル先輩、髪飾りの中ではどれが好みとかよくわからないし。私向けにって買ってくれたのも結構色々あったけど、特にその中でお気に入りでよく使ってるのはないし。
うーん。
「ら、えっと、ライラ様、マドル先輩が好きなものとかって知ってますか?」
普通にしゃがんだまま振り向いて尋ねようとして、名前をだしたことでライラ様の存在がばれたら大騒ぎになってしまうので、立ち上がってライラ様にくっついて小さい声で聞いた。
そんな私にライラ様は不思議そうにして私の頭をぽんぽん叩きながらも答えてくれた。
「そうだな。あいつは予定をびっしり決めてその通りに完遂させるのが好きだぞ。そのせいで私が気まぐれに予定を変えようとすると怒る」
「えっ、そうなんですか!? え、私、マドル先輩にめっちゃあれこれお願いしたりして、余計な手間を増やしたりして予定変えさせまくってると思うんですけど、大丈夫ですかね」
「基本的に長期的に決めている予定だから、間に多少余分が挟まる分にはかまわんだろ。むしろ、お前のように読めない余計な手間が増える方が、ぎりぎりで間に合わせるのを楽しんでるところがある。前に犬を飼っていた時もそうだった。粗相をされて楽しんでいた節がある」
「あ、そうなんですね。じゃあよかった、です」
よかった、ととっさに思ったけど、あれ、私の行動が犬のおしっこみたいな扱いされてるような。いやまあ、手のかかるって意味ならその通りだし、奴隷だけど食料だから実質家畜だし、あってるっちゃあってるのか。
横やりがはいればはいるほど達成感があって燃える、みたいなことなのかな。よくわかんないけど、今大事なのはそこじゃない。今、ライラ様大事なこと言ったよね。
「犬を飼ってたことがあるんですか」
「ああ、あいつが拾ってきて世話をしていた。主人がわかるようで、私にも尻尾を振っていた。そうだな、マドルの好きなものというと、犬もそうだな」
どっちかというとそういうのを求めての質問だったので結果オーライだ。犬。可愛いよね。私も好き。こう、わかりやすく好き好きーって尻尾ふられると可愛いよね。ツンデレな猫ももちろん好きだけど。
大人になったら飼いたいと思ってたけど、結局大人になる前に、まあ、それはいいか。
とにかく犬! とてもいい情報だ。ちゃんと髪飾りにも犬モチーフはある。小さなヘアピンだけど、複数セットになっていて犬の横顔、肉球、尻尾などを形作っている飾りがついていて可愛らしい。
五本セットか。と考えて気がつく。マドル先輩は10人いるんだから十本のほうがいいのでは? と言うわけで、隣の猫のセットも買うことにした。犬派だとしても、犬が好きな人で猫は許さんなんて人聞いたことないしね。
「じゃあこれにします」
ライラ様に宣言して、私はピンを購入。あと、お土産いらないって言われたけど、結構どれも可愛いし、ナトリちゃんにも髪留めくらいあってもいいよね。いらないって言われたら私がつかってもいいし。待たせないよう手早く選んでそれも一緒に買って、財布が入っていたのと同じポケットに入れる。
「もしかして、あいつにやるつもりじゃないだろうな?」
「え? そうですけど。いつもお世話になっているので」
「……そうか」
「あ、だ、駄目でしたか?」
「別に、好きにすればいいだろ」
うっ。不機嫌そう。ライラ様には買ってないもんね。いや、ちゃんとライラ様にも考えてるよ? ただ髪型はライラ様興味ないって言ってたし、他に見つかったらと。えっと。でも今から買ったらとってつけたみたいにならないかな?
とりあえず、気づいてないふりをしておこう。ライラ様の態度関係なく最初からそのつもりってことで買うってことをアピールしないと。いや本当のことなんだけども。
「ライラ様、次あっち見てもいいですか?」
「よかろう」
手を引いてお願いすると、ライラ様は私の手を握って頷いてくれた。ほ、よかった。よーし、じゃあライラ様にいいもの選ぶぞ!
「うーん」
と意気込んだものの、マドル先輩は髪飾りっていう分かりやすい目安があった。髪飾りの場合は気分で毎日変えたりするのに多い方がいいし、安っぽくてもそれはそれで可愛いっていう感じなんだけど、ライラ様には難しい。小物入れとかいる? って感じだし。
「あ、これ綺麗ですね」
「そうか?」
さっきは適当な返事でも肯定だったのに、見て回って目についた綺麗な小石に声を上げた私に、今度はライラ様は懐疑的な返事をした。小さい石そのままの形だからなのか、それともさっきの不機嫌をひきずっているのか。これもライラ様じゃなくて、私だけど。
「見てください、ライラ様の瞳の色に似てませんか?」
見て回った別のお店で持ち上げて明かりに照らす様にしてライラ様に見せる。二センチないくらいの小石で磨かれている半分くらいが赤くてちょっと透明な綺麗な石だ。希望したらすぐに紐をつけてアクセサリーにしてくれるらしい。なんて小粋な出店。
「……そうか?」
「はいっ。これ買いま」
「駄目だ」
「えっ」
ライラ様は懐疑的だけど、まあ自分の目って自分でよくわからないからね。ベッド脇に飾って寝る前に見るようにしよっと思ったのだけど、手を抑えられてしまった。
振り向くと、怒っている感じはないけど真顔でそのまま手から石を回収され、お店に戻されてしまった。
「私の目はもっと美しい。今度買ってやるから、それは駄目だ」
「え、うー、はい。わかりました」
お店の人の前で品質の悪口みたいにもなってしまったし、せっかくだから今日の思い出にと思ったのに、却下されてしまった。でもライラ様としては自分の目って言われた以上こだわりたいと言われたらわからないでもない。
と思ってふと目についた。つやつやした茶色の塊だ。これは鉱石じゃない。
「あ、じゃあこれはどうですか?」
鉱石じゃないからか、さっきのより大きくて三センチくらいある茶色の塊。中に気泡がある。これは私でも何かわかる。琥珀だ。授業で見たことはあるけど、こうやって見ても綺麗だ。三角錐っぽい形で、上に金具がついているのでこれもアクセサリーにしてくれるんだろう。
「ん? 私と関係ない色ならいいが」
「じゃあ買います。ネックレスにしてもらっていいですか?」
ということで革ひもをつけてもらってネックレスにしてもらった。それも大事に懐にしまう。
んふふ。これはライラ様へのプレゼントだ。買っちゃダメっていうのは予想外だけど、でもこだわったってことは目の色っていうのに興味持ってくれているってことだもんね。
だから私の目は茶色だから……ん? いや、私が大好きなライラ様の目の色と同じのを素敵って思うのはいいけど、私の目の色を贈るのは違くない? え? なんか結構やばくない? 私の目の色だから大事にしてねって重くない?
「どうした? 店はもういいのか?」
「あ、は、はい。大丈夫です」
でももうこれで一周しちゃって全部のお店を見たしライラ様に買おうって思えるのなかったもん。仕方ないよね。私の目の色ってことを言わなければセーフ。
「そうか。じゃあ戻るか」
「えっ、踊らないんですか?」
お祭りに着て最初にお腹をいっぱいにして、腹ごなしにお店を見て回った。そうなればついに最後はメインディッシュ! 音楽にあわせて踊り狂う!
と思っていたのだけど、ライラ様は不思議そうにしている。
「踊り? お前は踊れるのか?」
「踊れませんけど、踊ります。こんなの適当で大丈夫ですよ!」
ライラ様の手をひいて踊れる場所へ。と言ってもね、やっぱり同じ踊りをそろえて踊ってたりするので、そのど真ん中でとんちんかんな踊りを踊るのは恥ずかしいので、ちょっと外れていて道につながるためお店も出ていないけど、明かりも音楽も十分、という辺りを選んで、そこで踊ることにする。
「適当な。まあ見ていてやるから踊ってみろ」
「はい。えーっと、ふふんふふふふん」
繰り返し流れる音楽がすっかり頭の中になじんだので、それを口ずさみながら適当に体を動かす。盆踊りのような、どじょうすくいのような、アイドルソングのような、そんな適当な踊り。
でも、音楽に合わせて体動かすのって気持ちいい! リズムがもっと速い方がいいけど、ゆっくりなのもいいよね。
「……ふ、ふふ。それで踊りのつもりか」
ゆっくりなのもあって、ライラ様には見覚えのない踊りはどうしても滑稽に見えるのか、笑われてしまったけど、でも不機嫌よりは全然いい。それに文化の違いがあるから、変に見えちゃうのも仕方ない。というか、本当にごちゃまぜだから、普通に前世の人が見ても変だしね!
「はい! 楽しいですよ!」
「くはは、そうか、よかったな」
ライラ様は笑ってそう言ってくれたので、私は余計にはしゃいでしまって、厚着をしてるので冬も近いのに汗だくになるくらい踊ってしまった。
「さっさと風呂にいれろ」
私が踊りに満足したとみると、ライラ様は私を抱っこして暗い路地に移動し、行きよりさらに早く帰ってくれてマドル先輩に私を渡してそう言った。
あの、もう歩けるんですけど、と思ったけどマドル先輩は了承するとめちゃくちゃ足早に運んでくれたので抵抗しなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます