後日談 海水浴 part3
「あんな、決め方理不尽だ……」
「もう、過ぎたことなんだから文句言っても仕方ないでしょ。ほら、売り切れる前に買わないと」
昼飯の買い出し勝負で砂浜ダッシュ競争を用いる人なんてはたしているのだろうか?
浅瀬で遊んだりビーチバレーをしたり、午前はとても有意義な時間だった。
それなのに、買い出し勝負は、何故か砂浜ダッシュ。
体育会系さながらの勝負は、僅差のところで俺の敗北となった。
ただでさえ脚に負担がかかるというのに、愛菜さんは俺を疲れさせてどうしたいのだろう。
男女のハンデで愛菜さんより二周多く走った俺はもう既に満身創痍だった。
「い~け、い~け」のコールがされるなか、流石に俺一人での買い出しを可哀想に思ったのか、星野がついてきてくれている。
麻里奈も同様について来ようとしていたが、愛菜さんが麻里奈の身体をギュッと掴んで離そうとしなかった。
助けてよぉ、おにぃ……と視線で訴えてきたが、ここは我慢してもらおう。
適材適所というやつだ。
よしよし、順調に愛でられているな。
これは、俺もお役御免の日が訪れるかもしれない。
話は逸れたが俺たちが並んでいるのは海の家だ。
焼きそばが有名らしく、テイクアウトも可能とのことで行列に並んでいる。
「海の家って初めて来たかも…」
隣で一緒に並んでいた星野が呟いた。
「そうなのか?」
確かに海の家などの商業施設がない海岸も存在するが大体の場所はシーズン中は何かしらの店がやっているイメージがある。
「ほら、わたしって……幼少期アレだったから、貸切プールとかしか行ったことなくて」
「あぁ……」
あれという指示語だけで伝わるのはもう関係が深くなったという証明でもあるのかもしれない。
つまり、星野のお父さんが連れてってくれなかったんだな。
海には男がたくさんいるから。
「だから、わたしは何気にシーズン中の海も初めてだったのよ。お姉ちゃんは、こっそり来たことあったらしいけど」
そりゃ、大学生にもならばある程度自由は効くかもしれないが俺たちはまだまだ高校生の身。
幼少期と比べると行動範囲は広がったがまだ自由にどこまでも行ける年齢ではなかった。
「よかったな。海にこれて」
「うん、これも拓実のおかげ」
今回は、しっかりと両親にも報告し許可を貰ってきたらしい。星野のお父さんは凄く苦い顔をしていたらしいが。
「そういえば、今度うちに遊びに来なさいって言ってたわよ」
「うちって……星野の本邸か?」
「本邸って、大袈裟ね。そんなに大きくないわよ」
そう言って呆れた様子で言う星野だが、こいつが昔住んでいた家はめちゃくちゃでかい。
写真で見せてもらった時は、昔の大名屋敷かよと思うほどだった。
「挨拶に来いってことだよな。たぶん」
「そうじゃないの?だって、一応は認めてくれてるらしいし…」
意外なことだが、星野の両親は俺たちの関係を否定しているわけではなかった。
大切な娘を取りやがってぶっ殺してやる!とか言われるかと思っていたが案外大人しくて驚いている。
「なら、今度行かないとだよな……」
「なんでそんなに嫌そうなのよ」
「だって、俺と星野のお父さんって最後があんな感じだったから、どうやって話せばいいかわかんないし」
気まずいのは言うまでもない。
どうやって話を進めればいいのか見当もつかないのが現状だ。
「まぁ…気持ちはわからなくもないけど」
「だろ……?」
「でも、わたしは紹介できるから、その……嬉しいわよ……?」
「っ………」
「な、何か言いなさいよ……」
「お、俺も紹介してもらえるのは嬉しい」
「そ、そう……」
「うん……」
「なら、今度一緒にいつ行くか決めないとね」
「そ、そうだな。今度決めよう」
お互い何処となく照れくさくなって視線を逸らしていると、後ろの人から「進んでますよ〜」とにこにこしながら声を掛けられた。
それで俺たちの頬が余計染まったのは言うまでもない。
――――――――――――
新作が一章分書きあがったので三連休ということもあり投稿することにしました。
タイトルは『義妹になったヤンデレストーカーがすべてを大義名分化してくる』です。
一章の間は毎日投稿しておりますので興味があれば是非ご覧ください。
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