後日談 海水浴 part4
「う〜ん!やっぱり、海辺で食べる焼きそばって最高ね!」
海の家で並んで買った焼きそばを啜る一同。
炎天下の中での長蛇の列は、体力的にもかなり応えたが、潮風に吹かれながらパラソルの下で食べる焼きそばは格別の味と言えよう。
食べ終えて、少し休んでから麻里奈が待ち望んでいた催しものをすることとなる。
途中の道の駅で一番大きいスイカを買い込んでクーラーボックスにいれておいた。
気温が高いため、保冷剤はかなり溶けているだろうがスイカは冷えているはずだ。
さっそく取り出してみる。
「おっ……これ、意外に重いよぉ……」
代表者の麻里奈が抱え込むようにして持つと本人から濁った声が出る。
そのまま落として割ってしまってもよくないので俺も一緒に持ったがやはり、通常のものよりも大きいため膝にずっしりとくるような感覚があった。
割った後に砂で汚れてしまわないようにタオルを砂浜に敷いて、そこに西瓜をおろす。
「よぉ〜し、じゃあさっそくやろうか?」
「ちょっと待ったぁ〜〜!」
「なんですか?」
「もう……お姉ちゃんったらまた変なこと考えてるでしょ?」
「ふふん、変なこととは失敬ね。せっかく、スイカ割りするんだから、ただ割るだけじゃつまらないでしょ?」
「そうかなぁ……」
「そうよね?ね?麻里奈ちゃん?」
「は、はいであります!」
おい、妹が敬礼しだしたんだが。
愛菜さん、麻里奈に何かやっただろ。
「ま、麻里奈ちゃん?だ、大丈夫?」
突然の変貌に星野も驚きを隠せない様子。
「だ、大丈夫。わ、わたしは愛菜お姉様とも仲いいし……」
「おい」
「ちょっとお姉ちゃん??」
「わ、わたし、別になにもやってないし〜?」
下手な誤魔化し方で吹けない口笛を必死に吹こうとしている。
こうなったら愛菜さんに何があったか聞いてみなければならない。
けど、うまく誤魔化す可能性もあるから先に麻里奈にどんなことされたか聞いてみる必要があるな。
俺に言いにくいことだとマズいので星野を介してという感じにはなるだろうが。
「まぁまぁ、おにぃ……愛菜お姉ちゃんのやりたいことやらせてあげようよ」
「さすが麻里奈ちゃん。この中で一番大人な対応よ」
今度はお姉ちゃんに変わってる。
もしかして、俺たちが買い出ししている間に復唱とかさせてたんじゃないよな……?
チラッと愛菜さんを見てみると露骨に目を逸らさせる。これは、黒確定だ。
後で話は聞かせてもらうことにして、せっかく冷えたスイカが温かくなってしまうので、さっそく愛菜さんがいうやつをやってみよう。
「で?お姉ちゃんは何をするつもりだったの?」
普通にやっても十分楽しめると思うのだが、愛菜さんにはそれ以上の名案があるらしい。
「目隠しをしてやるだけじゃ、一回で終わっちゃうでしょ?だから、2チームに分けて勝負するの!」
「勝負ですか?」
「スイカ割りなのに?」
「うんうん、ルールはこれから説明するね」
愛菜さんは、自分が考えてきた独自のルールを発表し始めた。
要約するとこんな感じだ。
まず、4人を2チームに分けて指示役と実行役を決める。指示役は、指示する際に本来と反対の指示を出さなければならない。
例を挙げるならば、前進させたいなら後ろと指示する必要がある。
そして、実行役は開始と同時に目隠しをしながらグルグルバットを10回行い終えて指示役から、指示を受け、どちらが先にスイカを割ることができるか競争する。
勝利チームには敗者チームになんでもひとつ言うことを聞かせられる権利が与えられるというものだ。
方向感覚と上下左右を瞬時に理解する頭の柔軟さが求められるが、確かにおもしろい。
だが、懸念点もある。
「あの……愛菜さん」
「ん?なにかな??」
「実行役って……指示役と比べて過酷すぎません…?」
どちらも工夫が必要なことは間違いないが、明らかに実行役の負担が大きい。グルグルバットで身体疲労、方向感覚が鈍っている中で指示を理解しバットを振り下ろす。
チーム分けにもよるが仮に麻里奈が実行役にでもなったらかわいそうだった。
「まぁ…確かにそうだけど、なんとかなるよ!」
おおらかというのか能天気というのか。
まあ、危なかったら指示役が止めに入るということで、さっそくチーム分けをすることになった。
スマホのアプリで、チーム分けを行い、俺と麻里奈ペア、星野姉妹ペアという綺麗なチーム分けとなった。
指示役と実践役を決めることになったが、ここで問題が。
麻里奈が実践役を買って出たのだ。
ずっと楽しみにしていたのはわかる……わかるけど……
「おにぃ……ダメ??」
「う…」
「おにぃ……」
「まぁ……いっか」
うん。麻里奈がこういうのなら仕方ない。
だってしたいんだもんな。
気をつけてやれば大丈夫だろう。
決して、麻里奈の可愛さに折れたわけじゃない。
「じゃあ、お互い配役が決まったということで早速やろうか」
相手チームは、愛菜さんが実戦役、星野が指示役だった。
「満華ちゃんが、合図をしたら私と麻里奈ちゃんがそれぞれグルグルバット開始だからね?麻里奈ちゃん準備はいい?」
「はい、いつでも大丈夫です!」
「てことで、満華ちゃん!よろしく!」
「二人ともいくよ?位置について、よーいどん!」
星野の合図で一斉にグルグルバットを始める両者。
砂浜で足がもつれるのか二人は苦戦しているようだった。
「み、満華ちゃん〜、お、終わったよぉ…!」
先にグルグルバットを終えたのは愛菜さんだった。
愛菜さんと麻里奈はそれぞれ別の場所から始めていた。愛菜さんから見て北東、麻里奈から見て北西の場所にスイカは置かれている。
距離は正確には測ってないが、ほぼ同じ。
ここからは、どれだけ正確に位置を割り出せるかが勝負の鍵だ。
「お、おにぃ……わ、わたしも終わったぁ…」
目隠しをしているから表情を捉えられていないが、きっとマスクの下は目がぐるぐるしているだろう。
「お姉ちゃん!まずは、南に……って!ちょっと!?なんで、反対の方にいくの!?」
愛菜さんがフラフラしながら、スイカとは反対の方向へ。
さっそく支障をきたしているようだった。
「麻里奈!いまがチャンス!!南に……って!どうした!?へたれ込んで!??」
「うぷっ……ちょ、ちょっと待って……目が……世界が回ってる」
目隠しをして視覚を遮断されているとはいるとはいえ、三半規管がやられるのは変わりない。
特に麻里奈は弱かったらしく口元を抑えて倒れていた。
まずい……麻里奈がダウンしている。
負けてしまうぞ…
「ちょ、ちょっと!?お姉ちゃん!?なんで、さっきから別の方向ばっか行ってるの!??逆だってルールでしょ?」
こっちもこっちで大変そうだった。
多分だけど、これ……
泥試合かも……
◯
「やったぁ〜〜!!勝った!勝ったぁああ!!」
かれこれ、10分くらいはやっていただろうか。
お互いが満身創痍ではぁはぁと肩で息をしながら、倒れている。
勝負の結果は、愛菜さん達の勝利。
麻里奈も頑張ったが本当に僅差のところだった。
「よしっ!じゃあ、どんなお願いをしようかな……」
「あ、愛菜さん、お手柔らかに……」
「う〜ん、善処するけどねぇ〜」
舌なめずりをしてこちらを眺める愛菜さんだったが、
「待って、お姉ちゃん。それよりも先に……スイカ食べない??」
「あ…」
すっかり忘れていたようで、そそくさとスイカの前に行くと一番大きい部位を掴み、「さぁ!スイカパーティーを始めよう!」とスイカパーティーが始まった。
◯
空は茜色に染まり、太陽が水平線の奥に消えようとしていた。
あれからスイカを食べたり、あそんだり、麻里奈が愛菜さんに遊ばれたり色々あった。
更衣室で着替え、荷物をトランクに詰め込んだ後、俺は堤防の上に腰を下ろし潮風を感じていた。
愛菜さんと麻里奈さんは近場にあるお土産屋さんに向かったとらしい。
「今日は、楽しかったわね…」
隣で同じように潮風を浴びる星野が呟いた。
「あぁ、楽しかったな」
こんな大変な一日になるとは思ってなかったが楽しかった。この夏の思い出として、刻み込まれた。
ザザーンと波が打ち付ける音が耳に馴染む。
お互いに無言で太陽を眺めていた。
「ね、ねぇ……」
「どうした?」
「手……繋いでもいい?」
「もちろん…」
どちらかともなく、お互いの手を握る。
初めてじゃないはずなのにいつになってもぎこちない。
「まだ慣れないもんだな…」
「そうね……もうちょっと優雅にしたいわね」
「まあ、回数重ねれば上手くなるだろ」
「そ、そうね…回数を重ねれば」
「それって飽きるくらい手を繋いでくれるってこと?」なんて野暮なことは言わない。
ただお互いに肩を寄せ合いこの一時を噛み締めるだけだ。
「ね、ねぇ……お姉ちゃんはさっき権利使ってたけど、わたしまだ使ってないの」
愛菜さんはさっき権利をつかい、麻里奈とお泊まりの約束を取り付けていた。
なんという手の速さだ。
「だから、わたしの権利残ってるんだけど、ここで使っていい?」
「いいけど、星野は俺に何を望むんだ?」
「それ…」
「ん?」
「だから、
「別にいいけど、そんなことでいいのか?もっと贅沢なやつでも……」
「ううん。わたしにとっては、
「ああ、わかった。約束だ」
こうして、俺たちのひと夏の思い出作りは終わった。
―――――――
これにて海水浴編は終了です。
まだ後日談は続きますが、ちょっと立て込んでいるので頻度は下がりそうです。
新作は毎日更新を続けておりますので、是非そちらもご覧ください。
よろしくお願い致します。
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