第38話 鮫島恵梨の放課後
○ side 恵梨
「あ〜、つかれたぁ〜、えーいっ!」
体育祭が終わり学校から帰宅した私は疲れた身体を癒すべく、ソファーに飛び込んだ。
バフッと揺れるソファーの反動を肌で感じながらそのまま顔を埋める。
「恵梨っ、ダメだろ?まだ手も洗ってないじゃないか」
あれから一緒に帰ってきた姉さんがソファーで横たわる私を見てまるで子供を叱りつけるように注意してきた。
「だって、楽しかったんだもん」
「それはそうかもしれないが、それとこれとは話が別だ。飛び込むのはいいが、その前にちゃんと着替えて手をしっかり洗ってきなさい」
「は〜い」
普段の私たちを見ている人ならいつも甘々な姉さんがらしくないと思う人もいるだろう。
しかし、姉さんはたとえどんな相手だったとしてもルールは平等にしっかりと守らせるそんな人だった。
小さい頃に散々言われた懐かしい記憶を思い出しながら洗面台に向かう。
洗面所に着いて蛇口を捻って手を洗いながら目の前の鏡に写る自分を見詰める。
その表情は、しばらく自分でも見ていなかった何かを達成した清々しさが見てとれた。
そっか……わたし、楽しかったんだ。
わかっていたし、言葉にもしていた。
けど、実際の自分の表情を見て改めて実感する。
本当に思い出に残るいい体育祭だったと。
家庭部の出店も最初は雲行きが怪しく思えたけど、山永くんのお陰でたくさん人も来てくれて大成功だった。
やっぱり、あの100m選抜はすごい影響力だったらしい。
タイミングよくヘルプで姉さんが来てくれなかったら彼を呼び戻していたところだった。
「あ、そうだ。後で、山永くんにメールを送ろうと思ってたんだった」
正直なところお昼から二人で充分な時間は取れなかった。
出店が始まってからは、客引きと店番。終わってからは、それぞれの軍団で応援。終わった後も、学校側がグラウンドや校舎を早く閉じるということもあって、彼とはゆっくりと話せなかった。
もっと、彼との時間が欲しかった。
本当は、彼といっしょに店番をしたかった。
けど、その私だけの密かな願いは叶わなかった。
悩んだ挙句私たちは売り上げを優先した。
これを達成できなければ来年もすることができなくなると思ったから。
私にとっては苦渋の決断だった。
せっかく二人なのに。私の目標が達成されかけたのに。
しかし、いいこともたくさんあった。
姉さんと久々に共同作業もできたし、結果的に売り上げも上々だったので後悔はあまりない。
だけど、ひとつ言うとしたら……頑なに、二人でやろうとしたから結果的に空回りしちゃったのかな……
手伝ってくれると申し出てくれた人もいた。
そこで素直にお願いしていたら、私の願いは叶ったのだろうか。
でも、充分楽しかったからこれ以上望むのはイケナイことなのだろうか。
もっと……彼といっしょに色々なことをしてみたい。
そんな想いを抱きながらスマホをタップする。
それがいつの間にか溢れていたからだろうか、気付いたら7行にも及ぶ長文が完成してしまっていた。
うわぁ……今回は軽いお礼だけで………後のことは改めて部活の時に言おうと思っていたのに。
これだけ、長文だと引かれちゃうかな。
数秒の間送るかどうか迷ったけど、決心して送信ボタンを押した。
そうすると、あっという間に既読が付き返信される。
『こちらこそ、ありがとう。俺も恵梨さんがいたから最高の思い出にできた。それと急いでいたから忘れてたけど、なんでもひとつお願いを聞く権利?だったっけ?あれ、忘れてた。別に今すぐってわけじゃないけど、もしもう決まっているなら今度の部活で聞くから』
あ、そういえばそんなのあった……
こっちもすっかり忘れてた。
そっか、なんでもお願いできるんだもんね……
どうしよっかな……
「りょうかいですっ!」とだけ返信して、画面を眺めながら考える。
あまり無茶なことはダメだよね……
雑用……とかは頼めば文句を言いつつなんでもやってくれるしそんなことで権利を使ってはもったいない気もしてくる。
あぁ……全然思い浮かばないよぉ……
その時、ピコンとスマホの通知音がなった。
「あっ……学校の広報からだ。今日の体育祭のやつかな?」
普段なら学校の記事なんて読んだりはしない。
だけど、私はこの時興味本位で学校の特設ページを開いた。
そして、私はあるものを目にした。
「え、、な、なにこれ……」
そこには、私がよく知る人物の2ショット写真が掲載されていた。
―――――――――――――――――
新章の導入です。
次から新章突入となります。
9月中は無理なので10月からですかね……
最終話まである程度構成は決まっているのであとはストックを作るだけです。
リアルが死ぬほど忙しいのでどうなるかわかりませんが取り敢えず頑張ります
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