第37話 幕間とある星野家の休日 part3
〇side 満華
「ここも久々に来たけど、全然変わってないね〜」
外装は変わっているというのに、ショッピングモールはほとんど昔と同じような店が並んでいた。
トレンドがこれだけ変わっていくのに、店が一つも廃業に追い込まれていないことは地味なことだがとても凄いことにである。
私たちがお父さんの誕生日プレゼントのためにやってきたこの雑貨屋さんも昔と同じままそこに残っていた。
数年前はよく通っていたこともあり、その頃はどこにどういったものが置いてあるか記憶していたが、数年の時が経っているため場所も移動されていて全然わからない。
「取り敢えず、他にもいろいろあるかもしれないし、ゆっくり探してみよっか」
時間はたっぷりとあるのだ。急ぐ必要はない。
お姉ちゃんとの久々のショッピングでもあるんだし、ここは私も純粋に楽しむことにしよう。
「ねえねえ!満華ちゃん!このお皿可愛くない??」
店内を歩き回っているとお姉ちゃんが興奮気味にあるものを指差した。その先には、私たちが小さい頃好きだったキャラクターが焼き写されている可愛らしいコップがある。
「うわぁ…懐かしい……昔はよく集めたっけ……」
マニアというほどではないかもしれないが、お気に入りだったのでよく集めていたのを思い出す。
「わたし、このコップ気に入っちゃった!満華ちゃんも一緒に買わな〜い?」
「私はいらないわよ。もう、このキャラクターが好きというわけじゃないし、お姉ちゃんだけ買いなよ」
「ええ〜せっかくなら、ペアルックにしたい〜」
「ペアルックはいいけど、別のやつにして」
もし、こんなのを買って家になんて置いておいたら大変なことになる。
アイツに見つかりでもしたら、また揶揄われそうだ。
「ええ〜、お揃いでいいと思ったんだけどなぁ〜」
お姉ちゃんは、残念そうな様子だっだが渋々自分用のコップを一つだけ買い物カゴに入れていた。
「もうっ……お姉ちゃん脱線しすぎ!確かにゆっくりと見て回るとは言ったけど一番の目的はお父さんのプレゼントなんだから」
「わかってるって〜、あ、満華ちゃん!これなんてどう?」
そう言ってお姉ちゃんが渡してきたのは、綺麗な縁付き皿だった。
返事はいいのにどうやら話は全く聞いていないらしい。
「綺麗だけど、お姉ちゃんの家には皿なんてたくさんあるでしょ?」
「違うよ、私の家じゃなくて満華ちゃんの家に!」
「わたしの家に?」
「うん、だってこれすごく綺麗だし、たーくんも気にいるんじゃない??」
「うん……確かに気にいるかも……って!別にアイツは関係ないでしょ!??」
「そんなことないよ?だって、たーくんが料理作ってくれてるんでしょ?新しいお皿があったら嬉しくなるんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!」
お姉ちゃんが店員のようにこのお皿をもうプッシュしてくるので買うことにした。
「え?1枚しか買わないの?」
割らないようにゆっくりとカゴに入れていると横からお姉ちゃんが口を出してくる。
「なに?1枚あれば充分でしょ??」
「いやいや、本来はお皿はペアであるべきなんだよ?どうするの?お皿が一枚寂しく泣いちゃったら」
「それはそれで、怖いわよ…」
ホラー以外の何物でもない。
「ならば、泣かせないようになおさらもう1枚買ってあげるべきだと思うな?ほら、2枚ならちょうどお買い得だしさ」
2枚でセットで値引きのふだを見つけたらしくセールスのようにグイグイと勧めてくるお姉ちゃんに根負けしてもう一枚同じお皿をカゴに入れた。
ま、まぁ……2枚あって困ることはないだろうし……
うん、それに……2枚ならちょうどいい……なんて……
「満華ちゃん?どうしたの?」
気付けばボーッとしていたらしい、心配そうにお姉ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「えっ……いやいや、なんでもない」
「あっ〜、もしかして、まだペアルックのこととか考えてた??」
「か、考えてるわけないでしょっ!?だいたい、なんでアイツとペアルックにする必要が――」
「だからさ、私は一度もたーくんと一緒のペアルックなんて言ってないんだけどなぁ〜。そのお皿は私が遊びに来た時に出してくれる私とのペアルックでしょ??」
「っ〜〜!!」
またそんなこと言って!
いや、これは簡単に罠にかかる私のせいだ。
わざとらしくイジワルするお姉ちゃんも大概だけど、お姉ちゃんが用意した餌に簡単に飛びついてしまう私も悪い。
お姉ちゃんは満足そうにずっとニマニマしてるし。
ポカポカ叩いてやりたい気分だったけど、残念なことに私の手元には買い物カゴがある。お皿を割るわけにはいかないので今にも飛び出しそうな拳とこの気持ちをギュッと堪えた。
「も、もうっ…充分でしょ……ほら、いくから」
空いている片手で強引にお姉ちゃんの手を引きズンズンと進んでいく。
「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ〜、そんな強引に引っ張ったら危ないよ〜」
「だったら、これ以上揶揄ったりしないで」
「別に満華ちゃんが自分で墓穴を掘っているだけで別に私はなにもしてないよぉ〜」
残念だが、正論すぎる。
もうこれ以上の論争は不利だと感じて目当てのコインケース、名刺入れ、キーケースを探すことに注力した。
お姉ちゃんの手を引き店内を歩き回っていると、ようやくそれらしい場所を発見する。
「お姉ちゃん、もしかしてこれじゃない?」
用途は違えど、分類としてはこの三種は近しいものである。
一つ見つけたらその近辺に他のものもあると踏んで探していたがどうやら正しかったらしい。
コインケースとキーケースが同じ棚に並べられており向かい側の棚に名刺入れが置かれていた。
「ようやく見つかったね。いやぁ〜昔と置いてる場所が全然違っていたから見つけるの大変だったよ……」
お姉ちゃんの言葉通り、むかし通っていた頃に置かれた場所からは今のところはかなり離れていた。模様替えは必要だと思うがお客目線では迷ったりするしあまり良くないことに思える。
とはいえ、これも色々な事情があるため特になにも言わずにコインケースが置かれている場所に手を伸ばした。
「そういえば、お父さんって何色が好きだったっけ?」
どうせプレゼントするなら、適当に選ぶのではなくてこだわりたい。コインケースといっても様々な形や色があるのでお父さんの好みに合わせたいと思った。
「う〜ん、緑とか黄緑色とか?自然の色が好きだとか私は昔そう聞いたけど……」
「自然色……?」
「ん?どうかしたの……?」
「い、いや……偶然もあるんだなぁ……って」
「まさか……なの?」
「うん……」
お姉ちゃんは目を細めるが、私の反応を見てわかってしまったらしい。
「たーくんって意外とお父さんと似ていたりして……」
お姉ちゃんがポロリと言葉を溢した。
いやいやいや、ないないない!
お父さんとアイツが似たもの同士??どこが?
アイツは、あんなに私に執着してない………
待って……よくよく考えたら、案外似たもの同士かもしれない……
彼が異常な愛情を込めるある人物を思い出し、口が止まってしまった。
それに、色だって単なる偶然ではないかもしれない。
前にアイツが家事代行に来た時に部屋にある観葉植物を執拗に愛でていた。
それを見ていた私が尋ねたところアイツは観葉植物が結構好きだと言っていた。それで好きな色も緑系らしいけど……
絶対お父さんもおんなじような理由でしょ……
お父さんは趣味が登山だ。
ううっ……まさか、あのお父さんと所々似ているなんて……
性格は真反対、容姿もまったく似ていない。
なのに、特定の部分だけ異常なほどのシンクロを見せてくる。
聞くんじゃなかった……
安易に聞いてしまったことが想像以上のダメージとなって返ってきた。
「まぁまぁ……満華ちゃん。人間好きな色が被ることだってあるよ。偶然だから、別にお父さんと似ているとかないから」
もしかしたら、お姉ちゃんもわかって言ってるのかな?
慰めるなら、もうちょっと言葉を考えて言って欲しかった。
緑見てこれを思い出すようになったらどうすんの?
考えたくもない未来にため息を溢しながら、緑系のものをそれぞれカゴの中に入れていく。
名刺入れは黒に近いような濃い深緑。コインケースも人前に出すものだから比較的色の濃い老緑を選択した。
キーケースは、黄緑。これはお姉ちゃんが選んでくれた。
「よし、こんなもんかなぁ…?」
一応、目的のものは揃えた、後はレジに向かうだけ。
カゴを持って歩き出したらお姉ちゃんに呼び止められる。
「満華ちゃん、自分の欲しいもの何も買ってなくない??」
「お皿買ったけど……」
正しくは買わされたに近いのだが、家に置くので私のものとなる。
「それとは別に欲しいものとかないの?」
「特にないけど……」
「ほんと?カゴに集中しすぎてよく見れてないんじゃないの?」
「そんなことは――」
「それお姉ちゃんが持ってあげるからちょっと見てきなさい」
そう言ってお姉ちゃんは私からカゴを取り上げた。
「ちょ、そんなに雑にしたら割れるからっ」
「だいじょうぶ!こう見えてちゃんとしてるから」
「ほんと?」
「ホントだって、ほらほらっ!はやくしないと逃げちゃうよ?」
「もう……雑貨は逃げないわよ…」
お姉ちゃんに背中を押されて、私は自分の欲しいものを探すことになった。
そんな、突然欲しいものなんて言われても……別に雑貨で欲しいものなんて……
キョロキョロと辺りを見回していると、自然とある場所に戻ってきた。
そして、あるものが目に留まる。
あ、さっきは気付かなかったけどこんな色もあったんだ………
アイツ……これ、渡したら……どんな反応するのかな……
変に思われないかな……
私が欲しいものを買うはずだったのに気付いたら、無意識のうちにアイツのことを考えていた。
また、自然と鼓動が早くなる。
買うか買わないかの葛藤の末、私はそれに手を伸ばした。
「おかえり〜いいのは見つかった?」
お姉ちゃんは、レジ付近で待っていた。
お姉ちゃんの問いかけに対して私は一回頷いて、それをカゴの中に入れる。
「……いつ渡すとか決めたの?」
「ううん……まだ、決めてない」
「そっか……まだ決めてないんだ」
「うん……」
「喜んでくれるといいね」
「うん…」
小さく頷きながら、キュッと服の裾を握って私はそれを見つめていた。
○
後日、久しぶりに実家に帰って誕生日会をした。
サプライズという形でプレゼントを渡したけど、お父さんがあまりにも号泣してしまったため、フローリングが涙と鼻水でべちゃべちゃになるカオスな誕生日会となった。
出来れば来年は回避したい。
その惨状を見ながらわたしは強くそう思ったのだ。
―――――――――――――――――――
取り敢えず、side星野家はこれで終わりです。
新章の導入のためにもう一話他の人物の話を書くつもりです。
よろしくお願いします。
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