第36話 幕間とある星野家の休日 part2


○ side 満華



「ふぁ……やっとついたぁ〜……」


松田さんに送迎してもらうこと約15分。

私たちは、昔からよく来ていたショッピングモールにやってきた。


車から降りると昔とは異なる様変わりした風景が飛び込んでくる。


ショッピングモールの外装は私たちが通っていた数年前と比べると改修工事が施されたのか新しくなっている。

しかし、あたりを見回すと家族連れが多いのは昔と変わらぬまま。

懐かしい雰囲気に自然と頬が緩む。


「この感じ……懐かしいね」


そう思っていたのは私だけではなかったようでお姉ちゃんも背伸びをしながらここに来た感想を述べる。


「うん……懐かしい」


かつてお姉ちゃんと一緒に訪れた思い出が蘇る。

本当にこの場所は幼少期の私たちの遊び場だった。


「じゃあ、さっそくいこっか」


「うん」


お姉ちゃんが歩き出す。私もそれに着いていく。

お姉ちゃんの後ろを歩くのも懐かしい……

そう思いながらその背中を追っていた。


「さっそくだけど、今回の最優先事項はお父さんが喜ぶであろうプレゼントを渡すことね!満華ちゃん?何かいい案ない?」


ショッピングモールに入るや否やお姉ちゃんは、わたしに丸投げしてきた。


「そんなこと言われたって……」


今朝までお父さんの誕生日プレゼントのことなんて頭の片隅にもなかったのに急に何かいいのないの?と言われても正直なところ困ってしまう。


昔はよく似顔絵を描いたりしてあげたものだが、高校生にもなって手作りのものをプレゼントとして渡すのは、ちょっとだけ恥ずかしい。


だから、ショッピングモールで何か買おうということだろうが、家族とはいえ異性にプレゼントをしばらく贈ってない私は何を渡せば喜ぶのかなんてわからなかった。


「んん〜、どうしよっかなぁ……お父さんが喜びそうなものだしなぁ〜」


お姉ちゃんも一緒に考えてくれているが、なかなか良いものが見つかる様子はない。


「あっ!そうだ!異性が喜ぶプレゼントならやっぱり男の子に聞いた方が一番早いんじゃないかな??」


それは、確かに名案だ。

女の私たちには男が喜びそうなものなどわからない。

ならば、同性に聞いてしまえばい。


「誰に聞くの?大学のともだち?」


お姉ちゃんは、交友関係が広い。きっと適切なアドバイスをしてくれる男の子もたくさん知っているはずだ。


「大学のともだち?ううん?違うけど?」


どうやら、違ったらしい。なら、いったい誰に??


「たーくんに聞いてみようかなっ?って」


「そ、それは……」


すぐに賛成できなかったのには、二つの理由があった。


一つは彼の声を聞くのがちょっとまだ恥ずかしいのと、あの男にプレゼントのアドバイスを求めるのは間違っているということ。


あまり辛辣なことはいいたくないけど、アイツにプレゼントのアドバイスを求めたところで良いプレゼントを選べる未来が想像できない。


「う〜ん、ダメだった?…………それとも、私じゃなくて満華ちゃんが直接たーくんに電話したかったりってこと??」


「だだだ、だれもそんなこと言ってないでしょ!それに、アイツだって、昨日は体育祭だったんだからまだ寝てるかもしれないじゃない!そんななか起こしたら迷惑よ」


まだ残る恥ずかしさを堪えて口から出た言葉は説得力に欠けあまりにも苦しかった。


「寝てるっていうけど、もう結構な時間だよ??」


「うっ……」


ごもっともな指摘である。

もう10時は過ぎているだろう。流石にここまで寝ていることなどないはずだ。


「あのね……?満華ちゃん、別に、二人の関係が変わったわけじゃないんだから気にすることないでしょ?相手は、気にしてないと思うよ?」


「そ、そんなこと言われたって……わたしが気にしてるの……その……まだ心の整理だってついてないのに………」


「はぁ……かわいい」


「えっ…」


「ごめん、一回抱きしめてもいい?」


「それはダメっ、絶対ダメ。こんな人前でなんて絶対ヤダ!」


手を広げて向かってくるお姉ちゃんに対して必死に抵抗する。


「ちぇっ…あ〜あ」


お姉ちゃんは、唇を尖らせるがこっちからしたら冗談じゃない。私たちが幼かったら仲睦まじい姉妹だと思われるかもしれないがもう立派な大人と女子高生が公衆の面前でこんなことをやっていたら周囲の人から怪訝な目を向けられてしまう。


「ここは、インターネットに頼ってみない?一人の意見より大多数がやってるアンケートとかを参考にした方が絶対にいいって」


このまま話し続けたらどこまでも脱線していきそうだったので、わたしは無理やり話題を戻した。


「まぁ、それもそっか……!」


ということで早速「男性が喜ぶプレゼント」で検索をかけた。

すると、たくさんのものが出てくる。


ランキングとかの方が間違いないわよね?


一覧の中で一際目立つタイトルに思わず手が止まる。


タップしてサイトを閲覧する。


わっ……色々入力項目がある系のサイトなのね……

意外と本格的じゃない……


サイトにとんでみると、まず先に出てきたのはプレゼント相手の選択項目だ。

男か女か、どんな間柄か、年内層は?など事細かに分けられている。取り敢えず、性別は男、間柄は父親、年齢層は40代と打ち込んだ。


そうすると、二十個ほどオススメのプレゼントが表示される。


中でも一番のオススメは最上段にあるようで、、


「お酒とかって……どう?」


父親のプレゼントとして一番人気だったのは、ワインやビールなどのお酒類だった。

確かに父親世代には喜ばれそうなプレゼントではある。


「ううん……どうだろうね。消耗品かぁ……」


姉の表情がすっきりしてないのには、心当たりがある。


お父さんは私たちを過剰に溺愛している。消耗品でも喜んではくれるだろうけど、勿体無くてそのまま飲んで貰えず保管庫行きなのは、容易に想像できた。


なら、グルメギフトもダメね……

他にも食べ物系のものはあったが、これらは全て却下になった。

そうすると、次に人気なのは……


「タンブラーとかもオススメされてたけど……?」


これまた、容器としてお酒類などによく使われたりするものだ。

どうやら、この世代はお酒関係が好評らしい。


「タンブラーねぇ……確かにいいと思うけど……うちにいいグラスもタンブラーも結構あるからなぁ……」


そうだった、両親はお酒をけっこう嗜まれるほうだった。

酒豪とはいかなくても一般人と比較すると飲む量は多い。

だから、それに合うお酒の容器も揃えてあるのだ。


なら、タンブラーも却下と………


更に下にスクロールすると、オススメの商品はまだまだ紹介されていく。

スマホをそのまま眺めていると気になる商品を発見した。


「あ、コインケースと名刺入れ、それにキーケースとかどう?」


わたし的にはこのプレゼントは結構いいと思っている。

変に保存されなく使って貰えそうなところがいい。


「確かにこれならいいかも……一回見に行ってみようか?」


「うん、そうした方がいいわね」


プレゼントの内容は決まった。

私たちは、コインケースや名刺入れを探しに行くためショッピングモール内の雑貨店へと向かっていった。  


―――――――――――――

side星野家はあと1話です。(文量が多くならなければ)

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