第35話 幕間 とある星野家の休日 part1


○ side 満華  時系列は体育祭の翌日


「ねぇねぇ、満華ちゃん?」


「んんんぅ……」


「起きてよ?朝だよ〜?」


誰かが私に話しかけてくる。

せっかくの休日なんだし、昨日は体育祭で疲れたしもうちょっと休ませてよ……


身体に触れられる何かを感じながらそれを避けるように身体を捻る。


「もうっ……お寝坊なんだからっ!」



昔にこんなこと言われたことあったわね…

一人暮らしになってからされることもなくなったけど。

今となっては非日常的となっている懐かしい思い出だ。


「今日は朝から用事あるって言ったでしょ!はやく起きなさい!」


痺れを切らしたのか、まるでお母さんのように身体をゆさゆさと揺さぶられる。


はぁ……せっかく気持ちよく寝ていたのに……

なんで今日に限って起こすのよ……


昨日うちに泊まると言って散々駄々をこねた姉に向かって悪態を吐く。


それに用事なんて初耳だし……寝てるフリしていなくなるの待とっと……


そうやって狸寝入りをキメようとしていた時だった。


「ほほ〜ん。あくまでもわたしは寝ていると……なるほどなるほど……寝てるならナニされたってわからないし、大丈夫だよね??」


再びお姉ちゃんの手がそっと触れられる。

だけど、今度はさっきと違い優しく撫でまわすような妙に気持ち悪い触り方だった。


あ……これ、やられたことある。


蘇るのは昔の記憶。

そう、アレはまだわたしが一人暮らしを始める前。

お姉ちゃんやお母さんがねぼすけな私を毎朝起こしてくれていた中学性の時に植え付けられた一種のトラウマのようなもの。


あまりにも目覚めが悪い私を見かねて強制的に起こすための星野家が開発した技。


その名も「ねっとりこちょこちょ。」


名前だけ聞いてもピンとこないだろうから説明すると、


普通のこちょこちょは、スピード重視で激しいイメージがあるのだが、ウチのものは少し違う。


身体にゆっくりと指を当てて舐め回すようにこちょこちょと身体をくすぐる。

普通のものは、単にくすぐったいだけなのだが、我が家のものはくすぐったいの他になんとも言い表せない気持ち悪さを兼ね備えている。


当時の私はそれがイヤで指を構えられたらすぐに飛び起きたものだ。


何年経ってもその時のことは身体が覚えているらしく、お姉ちゃんが触れた瞬間にすぐさま身体を起こした。


「おっ!やっぱ、効果は健在のようだね〜〜」


本当に楽しそうに笑うお姉ちゃん。

絶対これ楽しんでるやつだ。


姉は知っている。私がコレをされるのを嫌がるのを。

姉は知っている。私がすぐさま飛び起きることを。


それを見越してのこの服装だろう。

瞼を開けると、お姉ちゃんは既に外行き用の服装に着替え化粧を済まし、完璧な状態でわたしのことを眺めていた。  


「おはよう……どっかいくの?」


イヤな予感しかしないけど、取り敢えずとぼけてみた。


「おはよう、満華ちゃん。今日はショッピングモールに行こうと思っててね?」


「ああ、そうなんだ。私は眠いからもうちょっと寝てるわね。気を付けていってらっ――」


「え?なにバカなこと言ってるの?当然だけど、満華ちゃんも来るんだよ?」


その顔は有無も言わせぬ顔だった。


「いやぁ……わたしはどうしても今日は……」


別に予定があるわけでは無いが疲れているのは本当なのでゆっくりと休暇を満喫する気でいた。

しかし、そんなことは許されなかった。


「あれ?もしかして、大事な先約あったりしたの?まさか、たーくんと何かあったりして………」


「あっ、アイツとぉ?なっ、ないない!」


いきなり名前を出されるものだったから、意図せず声が裏返ってっしまった。


「ほんとに?ウソはいいからね?お姉ちゃんは応援しているから」


「ほ、ほんとに何もないからっ!」


そう、ただ自分の気持ちに気づいてしまっただけで進展など何もないのだ。


「あれっ?そうなの?ムリしなくていいんだよ?」


「やっぱり今日は大丈夫だった!ヒマしてる!」


「そう?よかったぁ……それなら安心ね」


脅し方があまりにも大人気ない。

昨日の今日でこんな話題を出されたら従わざるを得なくなる。


「強引でごめんね?今日はどうしても外せない大事な用事なの」


「そんな用事なら予め言ってくれてたってよかったじゃない……」


そうしたら、こんな恥ずかしい寝顔姿だって晒さずに済んだのに。


「だって、私が予定空けておいてって言ったら、警戒して満華ちゃん他の予定入れちゃうじゃない」


「ま、まぁ……否定はしないけど」


突発的な行動が大半なお姉ちゃんが前もって日時を指定してくるなんて不気味過ぎてお姉ちゃんが言う通りそうしていたかもしれない。


「でしょ?それに、内容聞いたら尚更ムリにでも予定入れそうだったからナイショにしてたの」


「そんなに私が嫌がるような用事なの?」


「ううん……実は私もあまり気が進まないし……」


「ほんとうにどんな用事なの?」


寛容なお姉ちゃんがここまで嫌がるなんて…

とりあえず、面倒なことは間違いなさそうだ。


「ええとねぇ……そのぉ……誕プレを買おうかと思ってて……」


「誕プレ……?だれの?」


「この時期に一人いるでしょ?」


私とお姉ちゃんに共通する人物でこの時期に誕生日の人……


「あ………」


「わかった……?」


「まさか……?」


「そのまさかよ……」


分かりたくないけど、分かってしまった。


気づきたくないけど、気付いてしまった。


思い出したくないけど、思い出してしまった。


「去年忘れちゃったんだから今年はちゃんとしなきゃね……」


最早遠い目をしているお姉ちゃんを見て私と同じことを考えていると確信し、がっくりと肩を落とす。


「……満華ちゃん、行くよ。――お父さんの誕プレ探しに。」


そう言ってお姉ちゃんは私を無理やりベットから引きずり降ろしたのだ。


――――――――――――――――――――――――

これは、新章ではないです。

ちょっと新章の構成に時間がかかっているので幕間扱いで三話ほど投稿したいと思います。あと、二章で詳しく書けなかったところの補足の物語とかも書くかもです。

まあ、後々物語に関係してきますがほんのちょっとなので眺める感覚で読んでいただいて結構です。

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