第28話
結論から言えば、俺たちの出店は大盛況で幕を下ろした。
星野に頭を下げて、一緒に宣伝を手伝ってもらったのだが、宣伝効果が俺の想像を遥かに超えていた。
スケッチボードにささっと出店のことを書いて、それを首からぶら下げて歩く。
隣の星野はさっき買った友人用のフルーツを目立つように頬張っていた。
友達用なのにいいのか……?いや、ああ言ってたけど、やっぱ自分用なんだろ??
みたいな余計なことは思っていても口出ししない。
コイツの機嫌を損ねるわけにはいかないからだ。
「ただいま部活棟で家庭部の出店やってまーす!スポドリとかキンキンに冷えたフルーツとか売っているのでよかったらいかがですか〜〜?」
「このスポーツドリンクも自動販売機で買うよりもお安くなっています。いかがですか〜?」
きっと一人なら効果なんてなかっただろう。
だけど、星野という学校で有名な生徒が宣伝に加わってくれるだけで注目度は一気に変わるのだ。
「あれって、もしかして星野さん?」
「えぇ……うそ?星野さんがフルーツ食べてる……かわいい」
「てか、家庭部の出店なんてあったんだな」
「俺も初めて知った!行ってみる?」
「星野推しとしては行かぬという選択肢はないな。今すぐに行こう」
などなど、声が聞こえると聴衆がチラホラ部活棟へ歩み出した。
「うわぁ……やっぱお前ってすごいな」
「別にわたしはただフルーツを食べて、ちょっと宣伝してるだけなんだけど……」
他人に聞こえないように小声でコソコソと話してきたが、どうやら謙遜しているらしい。
「いや、それだけで客の興味をひけるんだから大したもんだろ」
「それほどでもないけど……でも、アンタだって別に例外じゃないわよ?」
「は?」
「ほら、あっち見てみて」
星野が向いている方へ視線を移すと、女子の集団がいた。
「わっ……こっちみた//」
「あれって、さっきの黒軍の人でしょ?」
「よく見るとカッコいい……」
「聞けば、麻里奈ちゃんのお兄さんらしいよ?」
「確かにちょっと似てるかも……」
どうやら、俺のことを言ってるらしい。
おかしいな……なにか注目されるようなことしたか??
「どういうことだ?」
心当たりがないので星野に助けを求めるとため息を吐かれた。
「100m選抜であの先輩に勝ったからでしょ?」
確かに勝ったけど、そのくらいでこんな風に言われたりはしないはず。
大体かけっこで速いからモテるのは小学生までなのだ。
高校生にもなってそんなことが実際に起きるわけがない。
「あのレースは道隅先輩目当てで観てる人たくさんいたのよ?学校で一番人気な生徒を颯爽と抜き去ったんだから注目されるでしょそりゃ」
星野にとっては当然の反応だったらしい。
先輩のカッコいいレースを観に来たファンがその先輩に勝った俺に今度は注目しているという状況。
単純な興味というなら当たり前だし、仕方のない話かもしれないが、それ以外のものを向けられるのはあまり嬉しいことではない。
「これでアンタも有名人の仲間入りね、よかったじゃない」
「よくないし、断固拒否する。そもそも、こんな行事ひとつの盛り上がりなんて一週間が関の山だ。どうせ、来週にはみんな忘れてるよ」
ニヤニヤしながらそう言ってくる星野だが、こちらとしては冗談じゃない。
出来れば、元のように戻ってほしいし。
そうしてもらわないと困るのだ。
だいたい注目されるもの好きではないのに。
「妹さんが既に有名人なんだから、そう簡単に印象は薄れていかないかもね。むしろ色濃くなっていくかも……」
「はぁ……どうすればいいんだよ」
「まあ、憂鬱なことは後から考えるとして、今日のところは客寄せパンダとして自分が役に立っているってことにすれば良いじゃない?」
確かにポジティブに捉えればそう言えなくもない。
なによりこの調子なら、赤字にならなくてすみそうだ。
「いったん、忘れるか……」
「そうしなさい。たくさん人を呼び寄せるんでしょ?」
そう言って、星野は生徒の方へ自分から歩いていく。
星野がこんなに頑張ってくれてるんだから、俺だってちゃんとしなきゃダメだよな。
「よし……頑張るか」
そう覚悟を決め声を上げていく。
多くの人に聞こえるように。
それに釣られてたくさんの人がやってきて、出店は大盛況となったのだ。
誤算だったのは、人が来すぎて途中で完売してしまったこと。
店番の恵梨さんが大変なことになって急遽会長がヘルプに入ったこと。
なんか、知らないけど恵梨さんが俺を呼び戻そうとした時に運よく?たまたま?部室にきたらしい。
うん、ほんとにタイミングよくてタスカッタナ―。
それと、体育祭実行委員会に俺と星野が宣伝しているところを撮られてしまった。
後で学校公式アプリに投稿されるらしい。
まあ、別に投稿されることは個人的には構わないんだけど。
恵梨さんになんて言おう……
あれだけ、部員でやると息巻いていたのに悪いことしたかな?
ま、まぁ……別に投稿されるのは後日で記事と一緒に出るとか言ってたし、恵梨さんも会長に手伝ってもらってたし、これについて考えるのは後からでいいかな?
恵梨さんが二人でやりたいって言ったのも変に他の人に迷惑をかけたくないからだと思うし……
多分大丈夫だろ。
そんな楽観的な考えで、出店の後片付けを軽く済ませた後、午後の競技を観戦するために応援席に戻った。
どうやら、借り物競走が始まるらしい。
そう言えば、星野が出場するんだよな……
変なお題引かないといいけど……
視線の先にいる彼女を眺めながらふとそう思った。
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