第21話

早朝。


いつもなら、何もない日常だと気怠そうに起きるが今日は違った。


今日が本番かぁ……本当に大変だったなぁ……

感傷に浸り、朝日を浴び、背伸びする。

何気ない、いつものルーティンさえ、今日だけは特別に思えてしまう。

(感傷に浸るのはルーティンでも何でもない)


時刻は6時。

恵梨さんと事前準備の為に6時半に学校に集合することとなった。

体育祭に必要な持ち物をカバンに詰め込み部屋をでる。


「ふぁ〜〜、あれぇ……?もういくの??」


扉を開けて廊下に出るとちょうど麻里奈が自分の部屋から出てきたところだった。

眠たそうに目を擦りながら、欠伸をする様すら可愛いのは、きっと麻里奈だからだな。


「うん、朝準備があるんだ」


「そっかぁ……大変だね〜〜」


朝なのでいつもよりも頭が回っていないのか、麻里奈は気の抜けた声を出している。


「そういう、麻里奈は早く行かなくて大丈夫なのか??なんだろ?」


「あ〜、まだ拗ねてる〜」


応援団になったことを言っていなかった麻里奈は、俺が拗ねていると思っているらしい。

はぁ??ぜんぜん拗ねてないし!


「べ、別に、気にしてない」


「ポーカーフェイスに成り切ろうとして成りきれないのやめなよ……ほら、ハンカチいる?取ってこようか?」


涙を拭けってことだろうか。

いや、これは汗なんだ。そうに決まってる。


「冗談はさておき、お兄も頑張ってね。100m選抜期待してるから」


敵軍だけど応援してくれる妹……もう順位とか確定したも同然だろ?


「麻里奈こそ、100m選抜と選抜リレー頑張れよ」


そうです。ウチの妹、優秀すぎるんです。

運動神経抜群すぎてどっちも選ばれてるんです。

前回の中間考査も学年五位だったし、お兄ちゃんは鼻が高いよ。


「うん、ありがと!……あっ!ちょっと待って!」


「どうした?」


「大事なもの忘れてた!いま取ってくる!」


というと、急ぎ足で部屋に戻って何やらひも状の腕輪みたいなものを二本持ってきた。


「これは?」


「えっと……その、プレゼント。お兄にあげる」


「ありがとう…これ…なんなんだ?ミサンガ?」


「うん、必勝祈願のお守り。手作りだから…その…がんばってよね」


「まじか…ありがとう。でも、なぜ二本?」


「一つはお兄の分…もう一つは私の分…」


「…自分で持ってなくていいのか?」


「それは…その…私も二本つけるし……お揃い…」


「そうか、お揃いか」


「うん、お兄に…私の分も持っててほしくて」


「っ……」


「…それだけっ!じゃ、じゃあね!」


そう言って妹はリビングの方へ降りていった。


はぁ……尊い…


こうなったら、どう頑張ってでも妹の勇姿を見なければ……

出発前に新たな妹の観戦おしごとが生まれたのだった。





「あ!山永くん!おはよう御座います!!」


学校に到着すると、先に着いて待っていた恵梨さんが俺を見つけると手を振ってくれた。

いつも制服のイメージが強い恵梨さんだが、体育祭ということもあり朝から体操着。

服装が違うだけで印象が180度変わる。そのことを実感しながら恵梨さんの方に向かった。


「おはよう、もしかして待った?」


「あ、いえ、私も今来たところです」


デートの待ち合わせ文句のようになってしまったが、恵梨さんが特に気にする様子はなかった。


「じゃあ、さっそく行こうか」


まず、家庭科室に行って冷蔵庫で一晩冷やしたフルーツをカットする作業をしなければならない。

開会式まであと二時間。効率よく作業することが大事で料理スキルの見せどころだ。


「あらためて、見るとよくこんなに冷蔵庫に入りましたね…」


圧巻の光景とは正にこのこと。

冷蔵庫を開くと、ドリンクとフルーツが所狭しと並んでいた。

伊達に2台の冷蔵庫を使ってないしな。


「じゃあ、さっそく始めますか」


「そうだ…!いい考えがあります。私たちせっかく家庭部同士なのでスキル対決しません?」


「スキル対決??」


「どちらが、キレイにより多くのフルーツをカットできるか。これは、この二時間の間だけの勝負です」


「なるほど……それは、確かに効率作業するのに、効果的だな。なにか賭けたりするのか?」


勝負ごとなら賭けはあった方が面白い。


「少しありふれていて安直ですが……こういうのは、どうですか?」


「というと……?」


「勝った方がひとつだけなんでも命令できる権利」


朝日が燦々と輝く教室の中、彼女は頬を緩ませ、それでもどこか真剣な雰囲気でこの賭けを持ち出した。


―――――――――――――――――――――――

すみません。

時間なくて間に合いそうにないので一旦ここで切ります。

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