第20話
体育祭前日になった。
競技も部活動の出し物も今のところ順調だ。
生徒会からの通達で、販売許可時間は12時半から午後の部が開始される14時までと指定された。
どうやら、本物の出店も出るらしくその出店たちと販売時間を合わせて一斉に売るらしい。
これらの出張出店と俺たちの出店の相違点で言えば販売場所が違うところだろう。
出張出店は、食堂を貸切にしてそこで販売を行うが家庭部の出店は、俺たちが普段使用している部室を利用する。
販売場所が異なるということもあり、来客数が減る可能性も鑑みて集客を見込むために色々な対策を行った。
あらかじめお昼の時間帯に、校内放送で宣伝したりポスターを校内に設置したりもした。
取り敢えず、当日前に出来ることはあらかた終わった。
残すことと言えば……
「山永くん!これをあっちに持っていってもらっていいですか??」
「あいよ。了解」
指示役の恵梨さんに従って大量のペットボトルが詰められているダンボールを持ち上げる。
販売用の飲料水類を冷蔵庫がある家庭科室に運び込む作業をしているのだが、本来ならこれは、明日の開会式後に行う予定のものだ。
何故前倒しでやっているか……いや、出来ているかというと。
100メートル選抜の前日練習が早く終わったからである。
前日になって負傷されても困るということで簡単な予行練習だけを行い解散になった。
これにより、中止にする予定だった前日準備を行なっているのだ。
「でも、よかったです……準備なんとか間に合いました」
本当に色々なハプニングがあった。
発注してた飲料水たちがギリギリまで到着しなかったり、誰かさんが100メートル選抜に選ばれて放課後準備が遅れたり。
その間、恵梨さんがなんとか出来る限りのことをやっていてくれていたのでなんとか間に合ったのだ。
「ホントに恵梨さんのおかげだ……俺は殆どなにも出来なくって……」
「それは、仕方ないことじゃないですか!そもそも選抜に選ばれることは名誉あることです。同じ部員として鼻が高いです」
「本当なら選ばれたくなかったんだけどな……」
「でも、正直なところ意外でした。こう言っては何ですが、あまり運動が得意そうには見えなかったので…」
「小学校の時に陸上クラブに入ってたものあるし……中高になっても割と走る場面はあったんだよな。特に朝とか……」
高校になって自転車が使えるようになってからはいくらか走る機会は減っていたが中学時代はほぼ毎日だったからな。
何とは言わないけど。
「なるほどなるほど……そうでしたか。なんとなく、察せてしまった自分が怖いです」
少し苦笑いをしている恵梨さん。
どうやら、勘の鋭い恵梨さんには筒抜けの様子だ。
ま、まあ……こんなことでイメージダウンにはならないし全然問題ないんだけどね。
「後はフルーツだけだけど、これどうする?あらかじめカットしておいた方がいいのか??」
「いえ、明日の午前することにしましょう?私は開会式のあとすぐに二種目やって終わりなので遅くとも10時には終わります」
「意外とすぐに終わるんだな……何に出るんだ?」
「玉入れと綱引きですね。目立たないですし」
「綱引きは俺も出るな。そっか、恵梨さんも出るのか」
「男女別ですから、直接相対することはありませんが我が軍は負けませんよ!」
男女別にトーナメント戦である。1〜3位までポイントがもらえる仕組みだ。
そっか……なら、女子のとき暇なのか。
大体の種目は女子から始まるのでその間男子は待機していなければならないのだ。
「じゃあ、俺は恵梨さんが頑張って綱を引っ張っているところ眺めてようかな」
「や、やめてぐださい!見ないでくださいっ!!」
「なんでだよ」
何も問題ないだろ。ただの観戦なんだから。
「見られたくないんです!思い切り綱を引いてるところを見られるなんて恥ずかしいじゃないですか!」
これは、女の子特有のやつなのか?
そこのところは、あまりよくわからん。
「ま、まあ…そこまで言うなら、まじまじと眺めるのはやめる」
「絶対しないでください」
だから何でそんなに圧が強いのよ……
「と、なると綱引きが二種目めだから、午前10時には戻ってこれると仮定して……俺そこから居ても、一時間半しか居られないけど…大丈夫か?」
8時半に開幕式。
一種目目が9時スタート。二種目目が9時半に開始される。
10時に帰ってきたとしても、11時45分から100メートル選抜が始まるのでどうしても居られる時間が限られてしまうのだ。
「別に開店時から全部カットしておく必要はないと思いますよ?だいたいどれくらいの人が来るのかまだ未知数ですし、開店時には50%くらいカット済みなら問題ないと思います」
「でも、一時間半で出来るか?ふたりだぞ?」
「確かにそこは、少し懸念点ですね……それでしたら、朝早くここに集まって作業しますか??」
どのくらい早くに集まるかにもよるがそれなら、なんとか負担を減らさそうである。
「じゃあ、そうしよう。細かいことは恵梨さんに任せるから決まったら教えてくれ。俺は残りのダンボールを運んでおく」
「わかりました。よろしくお願いします」
「はいよ」
そう言って、新たなダンボールを取りに行こうとした時だった。
「山永くん!」
彼女が声を掛けたのは。
振り返った俺に向けて、弾けるような笑顔で彼女は言った。
「出店もそうですけど、一番は目一杯楽しんで一生の思い出に残る体育祭にしましょうねっ!!」
―――――――――――――――
次回から体育祭です。
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