第17話




最近、ふと視線を感じることがある。


視線を感じるようになったのは、恵梨さんと一緒に出店をどこに置くか決めた先週の木曜日(前の話の翌日)からだ。


その日、俺たちが普段部活動で使っているあの教室を出店の場所に決めた。

外が使えないならここしかないと思った。


閑散としていた部活棟を再び人で溢れ返させる。


それが俺たちの体育祭限定の小さな目標だと青春映画のような約束をした。


そのためにはたくさん人を呼ぶ必要があるし、商品もたくさん用意しなければならないのだが、何故か生徒会から特別予算が割り当てられ商品の確保は学校側が受け持ってくれるらしい。


これは、生徒会の決定で俺はその報告を恵梨さんから受けて、ただ頷くだけだった。


何故うちの部活にこんなに優しいんだろう……


特例措置とも取れる扱いを俺は不気味がっていた。




あ……また、視線を感じる。



火曜日、家庭部に出席した後、そのまま真っ直ぐ家に帰ろうとしていたのだが、後ろから誰かがついてきている気がするのだ。


しかし、俺が立ち止まり振り返るとそこには誰もいなく。ただ、閑静な住宅街に寂しく電柱がポツリとあるだけ。


人の気配がしたような……もしかしてストーカーか?

いや、でもこんな男をストーカーする意味ってなに!?

自分で言うのもなんだけど、こんなやつストーキングする価値ないだろ。


そう考えると、ストーキングされているなど、ただの勘違いで気のせいであったと思うしかなくなるのだ。


しかし、またしばらく歩くと、その気配もついてくる。


やっぱり、後をつけられてる……


どうしよう……振り返るべき?

このままスルーして帰宅することも考えたが住所バレはどうにかして阻止したい。


いや、話しかけてみるのはいいんじゃないか?


幸いなことに、近辺には俺とストーカーさん以外だれもいない。

もし、ストーカーが俺の気のせいだったとして、悲しい独り言をただ言ってるだけになったとしても周囲の人から

「なんなんだこいつ?」とか怪訝な視線を浴びることはないだろう。


と言うことでさっと振り返る。

やはりというか、案の定、誰もいなかった。

まあ、住宅街だし隠れようと思えば何処でも隠れられるんだけどね。


特にあのゴミ捨て場の陰とか怪しいし。


「誰かいますか??」


試しに話しかけてみる。

しかし、返答はない。

当たり前だ、こんなことで返事してたらストーカーの意味ないしな。


でも、これで気のせいと判断するのは違うだろう。

まだまだ怪しい障害物は沢山あるのだから。


まず先は、そこのゴミ捨て場の陰。ちょうど、人が一人くらいならすっぽり隠れられそうで非常に怪しい。


「そこのゴミ捨て場の陰にいるんでしょ……?わかってますよ?」


まあ、こんなにわかりやすいところいるわけ――


「な、何故バレたんだ??」


いるんかい!


ひょっこりと出てきた人に見覚えがあった。


「生徒会長……」


恵梨さんの姉で生徒会長を務める鮫島莉菜がそこにいた。


「くそっ……なぜ、バレたんだ。完璧だったはずなのに…」


そして、なんだかとても悔しそうだった。


「あの……生徒会長……もしかして、俺の後つけてましたか?」


「べ、べべべ、別に!つつつ、つけてなんかないぞ???」


誤魔化すの下手かよ。


「じゃあ、なんでここにいるんですか??」


「わわわ、私の家もこっちだったからね!!」


「は?生徒会長の家は逆の方向でしょ??」


「ギクッ……」


以前、星野宅の近所のスーパーで恵梨さんと出会したが、その時彼女は俺が現在進んでいる方向と逆の方へ帰って行った。


しかも、星野の家は学校からだいぶ離れているし、電車通学しないと通えない距離にある。

恵梨さんはそんなところのスーパーを使っていたのだから鮫島家も少なくとも電車通学をしないといけないところに家があるはずだ。


それなのに、自転車(今日は歩き)通学の俺と同じ方向に家があると言う。

矛盾点だらけだ。


「本当に生徒会長の家は、俺の家の方向にあるんですか?」


ジッと睨むと誤魔化すことができないと判断した莉菜は観念したのか「はぁ……」とため息を吐いてことの経緯を話し始めた。


「最近、恵梨から部活の話を聞くことが多くなってな……それでどんなやつか気になって……」


なるほど……それでその新人がどんなやつかってことか……?

もしや、妹に変な虫がついていないかの調査?


これは、過保護な姉が出たパターンだったり?


「けど、家庭部の新人が俺だってよくわかりましたね??」


個人的に面識はないはずだ。生徒会長は、学校で有名人なのでこちらが一方的に知っていることがあっても向こうが俺を知る術は無いはず。

……いったいどうやって??


「ああ…そのことなんだが、以前恵梨に写真で見せてもらってな」


「は??しゃしん??」


一緒に撮った覚えがないんだが??


「見るか?」と言われたので、見せていただくことに。


ああ……これ、先週の木曜日のやつだ。


見てみたら、家庭科教室で切り分けられたフルーツを真剣そうな面持ちで盛り付ける俺が映っていた。


実は先週、家庭科教室が使用できたので、出店の場所や商品を決めたりした後、ちょっとだけ料理したのだ。


料理といってもそんなたいそうなものではなく、体育祭で使う予定のフルーツを試しに切ったりしたりした程度。


その後に、お互いどれだけ綺麗に盛り付けられるか勝負もしたが本当にそれだけなのだ。


まさかその時、写真に撮られていたとは……


てっきり盛り付けられたお皿だけだと思っていたのに……


「他にもあるぞ……?」


と、さらにスマホをスクロールすると木曜日の写真が大量に……


ええ……なんでこんないっぱい……?

フルーツならわかるけど、俺いらなくね?

せっかくフルーツは、キレイに盛り付けられたのに……

俺いるだけで、趣ないよこんなの……


「これで顔は知っていたからな。玄関でキミを待ち構えていたらまんまとやって来たから尾行した。で、今に至る……」


「なるほど……」


ことの経緯は理解できた。

でも、俺を獲物みたいにいうのやめない?

まんまと…ってまるで罠にかかったみたいにさ。

なんかこっちが情けない奴みたいじゃん…


それに、一番重要な俺を尾行する理由をまだ聞いていない。


やっぱり、変な虫だと思われたのかな??


「な、なんで俺をストーキングしたのか聞いても??」


「ひとつ、訂正する。ストーキングじゃない、尾行だ」


「どっちも同じだと思いますけど……」


あれだろうか。言葉の印象とかそういうやつなのだろうか……?


「同じではない。ストーキングは変態がすることだろう!私はただキミの背後うしろをひたすらつけ回していただけで邪な考えなんて全く持ってない!」


「世間一般では、人の背後をひたすらつけまわすようなことストーキングというんですよ」


「そ、それはそうかもしれないが、私は(思惑は)断じて違う!」


「仮にそうなら、つけ回すとか如何にも変態が使いそうな言い回しを控えた方がいいと思います……」


もちろん、俺だって生徒会長が邪な考えを持っているなんて思っていない。

だけど、その言葉は誤解されかねない。


「……つけ回すは、ダメなのか?」


「はい、やめた方がいいです。会長の名誉のためにも」


「わ、わかった……そこまで言うなら気をつけよう」


そして、妙に聞き分けがいい。

まあ、こんな男の話を聞いてくれるくらい心が広いから生徒会長になれたのだろう。

所謂、生徒会長たる所以というやつだな。


「で、かなり脱線しましたけど、ここまで尾行された理由を伺っても??」


「ああ、すまない。それが本題だったな」


ホントだよ、ツッコミどころ多すぎて全然話が進まなかった。


「ズバリ言うと、単純にキミに嫉妬してるんだ」


「ええ?なんで?」


会長が俺に嫉妬する意味がわからない。


頭脳明晰、文武両道、才色兼備。など、学校で彼女を褒め称える言葉は尽きることがない。


それが俺に嫉妬?

嫉妬する部分どこにもないだろ?


「キミの話をする時の恵梨の表情を私は今まで見たことがないんだ。あんなに、楽しそうに学校のことを喋る恵梨は初めてみるよ。だから、そんな顔をさせられるキミがちょっとだけ羨ましい」


ああ、きっとそれは、仲間ができて嬉しいからだ。

恵梨さんは、最初に言ってたしな。


部活にいるのは参加しない幽霊部員ばっかりで部活の時間はいつもひとりぼっちだって……

そこに、俺が加入したから話し相手ができた。


きっとそれで部活が楽しいと思えているのだろう。

最初は入ると言った時は不満顔されていたので、ここまで来ると俺も感慨深い。


よかったよ……一緒にいても不快な存在じゃなくなっていて。


「多分、恵梨さんは部員が増えて嬉しいんだと思いますよ。最初にひとりは嫌だって言ってましたし」


「そうなのか……?私には、それ以外もあるように思えたのだが?」


「きっとそれ、考えすぎですよ」


「そうか…?」


「そうです」


「そうなのか…」


会長は、なんだか納得し難い表情だったが、


「もうじき暗くなるので帰りませんか?俺でよければいつでもお話し相手になりますよ」


きっとシスコンのこの人は恵梨さん情報が欲しいのだろう。


「ああ、そうだな。今日はこのくらいにしておくか」


「ひとりは危険ですし、駅まで送りますよ」


「いやいや、尾行したのは私だしそんなことしなくていいぞ」


「会長は女性ですし、万が一ということもあります。俺と別れたあとすぐ襲われて後悔するのもイヤなんで……」


もう日が傾いているのだ。

それに会長は俺の後をついて来たからここにいるだけでこの地区に詳しいというわけではない。

もうじき日が暮れるというのに女子高生をこんな人気のない場所に置いていくわけにはいかない。


「そ、そうか……?そういうことなら。」


自分でも不安だったのか、会長はすんなり申し出を受けてくれた。


「でも、悪いな……」


「妹さんのことを心配する気持ちは妹を持つ身としてよくわかってます。どんな人か詮索したくなるのも仕方ないですよ」


「そうだろうか…妹のことになると、どうもお節介ばかり焼いてしまう性分でな」


「わかります。俺も同じですから。なんなら嫉妬なんて気を遣った言葉なんかじゃなくて、もっとはっきりと「変な奴じゃないか調べるためだ!」とか言ってくれても全然よかったですけど……」


「ははは……全部お見通しだったわけか……」


「俺も妹に変な男の存在がいたらそいつの事調べまくりますしね。兄妹で一番上の義務みたいなものです」


「わ、わかるか!?」


「それは、もちろん」



目を輝かせてくる会長になんかシンパシーを感じた。

もしかしたら、最高の理解者を手に入れたのかもしれない。


――――――――――――――

更新時間安定せずにすみません。

いつもの時間に投稿されなかったら夜ってことで…


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