第16話


「そう言えば、アンタって妹いたのね」


水曜日の放課後、いつものように星野の家に行き部屋を掃除していたら、ソファでゆったりくつろいでいた星野から突然そんなことを言われた。


「なんなんだ急に……」


俺は、星野に妹がいると言った覚えがない。


どこで聞きつけてきたのやら。


「今日、廊下でばったり会ったのよ。私を見つけるなり目を輝かせてズンズンやってくるものだったからかなり怖かったわ」


「あ~、それはなんか悪かったな」


悲しいことに容易に想像できてしまう。


麻里奈は、星野のことが大好きというか、ファン並みに推していたからな。


多分、近づきたい衝動を抑えられなかったんだろう。


「別にアンタが謝ることではないけど……」


「いいや、妹がしたことなら俺の責任でもあるからな。いや、麻里奈がしでかすことは、全部俺の監督責任で麻里奈は正しいまである」


「なんか特級シスコンの匂いがするわね……」


「気のせいだろ……」


これくらい当然のはずなんだ。

だって、愛しの妹なんだから。


「それは、そうとして妹さん体育祭の応援団に入ったらしいわよ?」


「ええ……?聞いてないんだが??」


「へー、私には話してくれたけど、お兄ちゃんには話さなかったのね」


「ぐはっ……」


過去一効いたかもしれない。


な、なぜなんだ。妹よ。


膝から崩れ落ちて頭を抱える俺を星野は呆れた目で見ていた。


「まあ、お姉ちゃんで慣れてるけど……麻里奈ちゃんも大変そう…」


俺の妹に同情しているのか。それとも、自分も同じように姉から扱われて疲れているのか。その声音には哀愁が漂っていた。


「お前は応援団とか入ったりしなかったのか……?」


妹ショックを克服し、掃除を再開しながら星野に聞いた。


コイツのことだから、また目立つようなことを……


「やってないわよ。応援団なんて…」


「そうなのか?意外だな」


「なんでよ?」


「目立ちたがりだったから、率先してやると思ってた」


「やるわけないでしょ。クラス委員はやったことがあったから受けただけで、応援団なんてするわけないじゃない。放課後残って練習?大声を出す?冗談じゃないわ。競技種目だって憂鬱なのに」


なるほど、星野は体育祭アンチなのか。


意外だな。


(いっしょに優勝目指して頑張りましょう??)


とか嘘臭く、気持ち悪い笑み浮かべて、男子を鼓舞してる姿が容易に想像できたんだけど。


「ちょっと?失礼なこと考えてない??」


「考えてるわけないだろ?」


「絶対ウソよ。どうせ、また心の中で悪口言ってるくせに」


「言ってないぞ?またあの気持ち悪い笑顔見せんのかな〜?とか思っただけ」


「それを悪口って言うの!!」


そう言って立ち上がるとずんずんと俺の方にやってきて、足先を思いっきり踏んで戻って行った。


なんてご無体な……


「もう、変なこと考えるの禁止!!」


「わかったよ。(極力)変なこと言わない」


「ふん、それでいいのよ」


返事に満足げな星野。リラックスして脚をバタバタさせていたところ星野がいつもと違うことに気付いた。


「お前、(いつもの)ズボン履かないのか?」


「たたた、短パン履いてるでしょ!!ばかっ!」


星野は今日から部屋着が短パンに変わっていた。素足を出すのはあまり好きじゃないらしく、学校でもまだタイツを履いているの言うのに。


珍しい格好をしてたから揶揄ってみたら、まさかこんなに大袈裟に反応されるとは……


「いや、それはわかるけど……あんなに素足出したがらなかったから不思議でな」


「別に私が部屋でどんな格好してもいいでしょ……それと、変な目で見たら殺すから」


「お前の下着で問題ないんだから生脚くらい意味ないことぐらいわかるだろ?」


「もうちょっとデリカシー持ちなさいよ!ばかッ!」


いや、変な目で見るなって言ってきたのはそっちだろ?

だから、俺も身の潔白を証明しようとしたに過ぎないのに。


「はぁ……機嫌直してくれよ」


「ばか……ヘンタイッ……」


こちらを見ることなく、スマホをいじり続ける星野。

拗ねているのは明らかだった。


「悪かったよ……今度からって言わないから」


「そうじゃないでしょ!?」


思いっきり振り返ってツッコむ星野。


「そうなのか?(すっとぼけ)」


わざと言っていることがバレたらしく、またもや反対を向いて拗ねられてしまった。

こうなるとしばらく話してくれないため再び掃除機を起動させたのだが。


「ムカつく……!せっかく、勇気出したのに……なんで無反応なのよ…」


「え?なんだって??」


「なんでもないっ!!!」


なにか呟いていたが、聞き取ることができなかった。

いや、聞かなくてよかったのかもしれない。

また、余計な逆鱗に触れることは避けたいからな。







晩飯にカレーライスとサラダを作って、帰ろうとしたら星野から「アンタも食べていきなさいよ」と言われたのでご相伴に預かることになった。


さっきまで、あんなに機嫌が悪かったのに今は全くと言っていいほど、そんな雰囲気は感じられなかった。


ほんとうにどうしたんだろうか。


カレーを盛り付け、椅子に着こうとしたら、俺のスマホが震えた。

こんな時間に連絡してくる人なんていないはず……

と思いながらスマホを確認すると、恵梨さんの名前が。


「ちょっと、電話に出てくる。先食べててくれ」


サラダをむしゃむしゃ食べながら頷く星野を確認し、少し移動して電話を繋げた。


『あ?もしもし?鮫島です。山永くん、今お時間大丈夫ですか?』


『ああ、問題ないけど。どうしたんだ?こんな時間に珍しいな』


彼女がこんな時間に電話をかけてくるなんて今まで無かったため少々驚いた。


『大事なことで急ぎ山永くんにお伝えしたくて電話しました』


『大事なこと?』


なんだろう……?

気になるな。


『あのですね!なんと、体育祭の件ですが、無事職員会議を通過して学校側から許可が降りたそうです!』


『おお!それは、スゴイ!でも、早くね?もしかして、恵梨さんが説得しに行ってたの??』


『いえ、生徒会長が説得してくれたらしく…』


『そっか、よかったな!』


『はい、よかったんですけど、問題点もあって……屋内でしか許可が降りなかったそうです』


『ああ〜、それは、仕方ないかもしれないな』


『だから、明日、店の場所を決めませんか?ちょうど部活の日ですし』


『そうだな!そうしよう』


『では、また明日。放課後に』


『りょうかい。じゃあ、おやすみ』


『お、オヤスミナサイ……』


そう言うと、ぷつりと電話が切れた。

よし、かなりいいペースで進んでいるんではなかろうか。


浮き足気分でテーブルに戻ると、星野がスマホを眺めながらカレーを口に運んでいた。


「悪い…時間かかった」


「ずいぶんとお喋りさんね。相手は恵梨さん?」


「ああ、体育祭での出し物の話をしてた……」


「ふーん。文化部なのに出し物するんだ…」


「あれ?お前ってなんか部活入ってたっけ?」


「入ってないわよ。一年からずっと無所属」


「そうなのか……」


これも意外なんだよな。星野のことだからバリバリの運動部でエースとかやってそうなのに。


「ところで、家庭部でなんの出し物するのよ?てか、家庭部ってすることある?」


「あるぞ?俺たちは、体育祭の日、出店をすることにした」


「出店って?あの?」


「ああ、飲み物が大半だと思うけど、他にもちょっと売るつもり」


「それ、許可降りるの?」


星野が不思議そうに 言うがそれは俺も思ってた。一応商売だしな。

しかし、こちらには最強のお方がいる。


「なんか、正式に降りたらしいな。なんでも、生徒会長が直談判してくれたらしいし」


「そっか……最強のカードがあったわね……」


恵梨さんが誰の妹なのか思い出したのだろう。

星野が納得していた。


「でも、そうすると二人で売ることになるのよね?」


「ああ、部活の勧誘は失敗して部員全く増えなかったし…」


家庭科担当の長期出張という最悪の事態により家庭科室が一回も開かずに体験期間を終了してしまったのだ。

「ふーん。」


「なんだよ。」


「なんでもないわよ」


「そうか」


これで会話が終わったはずなのに、終始星野は「二人なんだ…」とボソボソ呟いていた。

何が何だかまったくわからん。


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