第15話


「体育祭?ああ、そう言えば、恵梨は出し物をしたいと言っていたな」


恵梨からの話を聞いて、ふと思い出し方のように手をポンと叩いて莉菜は言う。


「うん…これから話すことは、どうしても姉さんじゃなぎゃダメなの……」


「そ、そうなのか……?」


(あれだけ、学校のことは自分でやると言ってた恵梨が私を頼ってきた??)


学校のことをあまり話さない恵梨がわざわざ相談してきたことに対して姉として頼られていると思った莉菜は、喜びを噛み締めていた。


「わ、私にできることならなんでも手伝おうっ!な、何しろ私は恵梨のお姉ちゃんなんだからな!」


普段、あまり甘えてくれない恵梨を甘やかす絶好のチャンス。


莉菜は、逃すまいと机に手をつき前のめりになる。


「う、うん、ありがとう。」


そう言って恵梨はにっこり笑った。


(あわわわわ、私の妹が尊い……なんて笑顔なんだ……今日は私の祝日かもしれん……)


莉菜が限界化していることなど、恵梨は知らない。


「それでね?本題に入るんだけど……」


そう言って恵梨が語り出したのは、今回の体育祭で家庭部が出し物としてジュースやフルーツを出す出店を出したいということだった。


「うーん。なるほど……出店か」


「仮にやるとして屋外では、難しいよね……?」


希望は屋外で販売することだ。客の絶対数が大幅に上昇するからである。だが、同時に難しいことも理解していた。


「そうだな……当日はお客さんもいっぱい来るし、機材も動かす。屋外に店があると長蛇の列が出来た時を想定すると通行の妨げになるかもしれないから、屋外での出店は許されない可能性が高い」


実現を完全には否定しないがが、仮に生徒会で許可しても職員会議を突破しない可能性が高い。


教師は体育祭が安全に行われることを重要視しているためだ。


もし事故が起きたら騒ぎごとで、それが原因で体育祭が円滑に行われなくなるのは、避けなければならない。


「と、すると……屋内でやるしかない………?そもそも、食べ物を売る出店はアリなの?」


恵梨としては、まず第一に食べ物を売る出店の許可が降りるかを心配していた。


もし、ダメならばまた一から考え直さないといけなくなるからだ。


「出店自体は問題ないと思う………保護者や地域住民も来校する体育祭だし、もちろん屋内だが、出店も何軒か依頼したしな。」


「え?そうなの!?」


「しまった……これは機密事項だった……」


家族を前にした途端口が軽くなる癖はどうも抜けきらないらしく、

やってしまった……と額に手を当て落ち込む莉菜を見た恵梨はクスクスと笑った。


「まあ、屋外は難しいかもしれないが、出店自体は許可する。先生たちの許可も私から取っておこう」


「え?やっていいの!?」


「ああ、もちろん」


「ありがとう姉さん!」


最悪、出店自体却下されると思っていた恵梨にとっては、出店を許可されることだけでも十分大きな成果だった。


それに、教師たちの説得を姉自ら買って出てくれたので恵梨自身が教師の説得をしなくてよくなったのだ。


これで、山永くんと一緒に出店ができると思った恵梨は自然に笑みが溢れてきた。


「なんだかすごく嬉しそうだな。そんなに、出し物をやりたかったのか??」


「うん!」


姉としては妹が笑顔でいてくれるのが一番だ。いつでも幸せを願っているし、できることがあるならばなんでもやってあげたいと思う。




だが、




(去年の体育祭は、出し物をしたいなど……一言も言わなかったのに……どういう心境の変化なんだ……?あ、も、もしかして……)


「えっと、その…恵梨?」


「な、なに?姉さん…?」


「よかったら、私も手伝おうか……?」


「えっ……!?……っ……いやぁ……手伝ってくれるのは、嬉しいし、姉さんが居れば心強いし……百人力だよ?でも、姉さんは、生徒会長なんだから当日忙しいと思う。ムリしない方がいいよ……うん、絶対にそう」


ものすごい早口で捲し立てる恵梨は、どうしても莉菜を出店仲間に入れたくないようだった。


(な、なるほどな……や、やっぱり……)


「え、恵梨?」


「さ、さっきから、ど、どうしたの?」


まっすぐ見つめれば気まずそうにゆっくりと視線を逸らす恵梨を見て、莉菜は確信した。


「もしかして一緒に店を開きたい人がいるのか!?」


「っ………な、なんのこと??」


まるで図星を突かれたように、びくりと肩を震わせる恵梨。


「そう言えば、最近新しく家庭部に新人が入ったと言ってたな…?も、もしや、恵梨……!?」


「なっ……なに言ってるの!?ね、姉さん……わ、私はただ興味本位でやってみたかっただけだよ……?そ、そんな、新しく入った人と一緒に出店やりたいなんて………あるわけないし……」


ここまで露骨に目を泳がせられると、恵梨の言葉を信じたくても信じられない。


「その人のどこがいいんだ……?」


「……ちょっとした気遣いができるところとか、約束の日は、必ずきてくれたり………何より優しいし………はっ!……えっと、そんなところがとして好感持てるかなぁ」


「もしかして、その人のこと好きなのか??」


「別に好きじゃない……」


「本当に??」


「……好きじゃないもん」


(恵梨のあんな顔初めて見た……私には今まで見せなかったのに……く、悔しい……)


本音を言ってしまった妹と妹の初めての顔に動揺する姉。

二人はどっちも恵梨が漏らした本音に気づけなかった。



――――――――――――

恵梨は家族だけにタメ語です。(本来はさみしがり屋で甘えん坊なので)

恵梨の「姉さん」呼びは幼少期に莉菜からのでそう呼ぶようになったとのこと。


明日はストックがあるので十七時代に更新時間を戻します。

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